桜子との甘い口付け・・・。
遠慮がちではあるが、桜子の唇も舌も・・・応えるように達彦に絡んでくる。
桜子の心をほぐしてやれた・・・そんな気持ちでホッとしたのもつかの間・・・
達彦の脳裏には初夜の桜子の白い肌が浮かんできて・・・体中の血液がざわざわと騒ぎ出す。
目を閉じたまま・・・そっと桜子の頬に触れてみる。
でもその手はじっとしていることが出来なかった。
指が鍵盤の上をすべる様に、静かに桜子の体を這っていく。
白い首筋・・・産毛が柔らかなうなじ・・・そして・・・あの胸・・・
桜子の唇からフッと息が漏れ、それを呑み込む。
鼓動が早まり、熱い血はどんどんと下半身に集まってくる。
(落ち着け・・・)
今夜はそれをするためにここに泊まったんじゃない。
桜子の気持ちも、体も、きっととても疲れているだろう。
ゆっくり休ませてやりたい。
それにここは有森の家だし、今日徳治郎さんの葬儀が終わったばかりだ。
皆の気持ちに甘えた上に、この場所でそんな事をする訳にはいかない。
もう結婚したのだから、桜子が家に戻って来ればもっと落ち着いて愛し合える。
達彦は山盛りの未練を残しつつ、唇を離した。
「何も・・せんよ・・・」
ありったけの理性を総動員して、自分に言い聞かせるように言ってみる。
「こうして傍におりたいだけなんだ・・・」
本当にそれが正直な気持ちだった。
桜子は戸惑いの表情を浮かべながらも、何も言えずに達彦を見つめていた。
ゆっくりと体を離し、起き上がる桜子。
達彦は気持ちと息を整えるように深呼吸をする。
(これでいい・・)そう思って桜子に目をやると・・・
肩で大きく息をした桜子が・・・浴衣の帯を解き始めた・・・。
(!?・・・え・・・!)
それは予想していなかった。
あわてて起き上がり「ダメだよ」と言って桜子の手を止める。
(前にもこんな事があったな・・・)ふとそんな思いが頭をよぎった。
そうだ・・・桜子はいつも自分の為なら・・・という想いでいてくれる・・・。
(俺のことなんて・・・)
「いいんだ・・・そんなつもりでここに泊まったんじゃないんだ。
お前も疲れとるだら?今日はもう寝たほうがいいよ・・・」
桜子の気持ちは嬉しくて堪らないが、自分の為に無理はさせたくない。
なのに・・・緊張した顔で俯いている桜子は首を振り「平気・・・」と囁く。
驚いた。心臓は暴れ狂うように高鳴り、本能の声も達彦に囁き出す。
{桜子がそう言うなら・・・}
そんな声に耳を塞ぐように
「それに・・・上で皆さんも休んどるし、お前も・・・気を使うだら・・・?」
さらに自分を抑えるように言い、桜子の顔を覗き込む。
「大丈夫・・・ここの音・・・二階には聞こえんから・・・」
そう言って自分を見上げた瞳に・・・引き込まれそうになって・・・
目をそらすように桜子を抱き寄せた。
(桜子・・・お前の気持ちは嬉しいが・・・ほいでも・・・)
ためらっている達彦に、本能の声がまた囁きだす。
{抱きたいんだら?・・・初夜の晩のように・・・
腕の中におる桜子は・・・もう妻なんだ・・・
妻である桜子もこう言ってくれとるんだし・・・何も問題ないじゃないか・・・}
そんな声の後ろから桜子の声も聞こえてくる・・・。
「達彦さんがそうしたいっち思うなら・・・私は応えたい・・・いいよ・・・そうして・・・」
達彦のかろうじて繋ぎとめていた理性の細い糸は、ぷっつり切れた・・・。
「・・・桜子っ・・・」
グッと腕に力を入れると、のしかかるように桜子を押し倒す。
噛み付くようにして・・・夢中になって唇を重ねる。
乳房に手をやり思い切り掴むと、桜子は小さく叫んだ。
唇が少し開かれ、その中に舌を挿し入れる。
桜子の体が固く強張っているのが伝わる。
(だめだ・・・乱暴すぎる・・・)
解っているのに・・・止められない。
もっと強く抱きしめたい。もっとこの手に触れたい。
もっと乳房を揉んで・・・体中を舐め尽くして・・・
もっともっと奥深くまで入っていって・・・乾ききった喉を潤すように・・・
めちゃくちゃに桜子の中を駆け抜けたい。
自分の体の中を邪悪な何かが暴れ狂っているようで、もうどうしようもない。
こんなに愛しくて大切にしたいのに・・・どうしてこんな凶暴な気持ちにもなるんだろう・・・。
たまらなく息苦しくなって唇を離す。
急かされるように強引に浴衣の前を開く。
白い胸元に目がくらみそうになって、突き動かされるように首筋に強く吸い付く。
その時「まっ、待って・・・」桜子の声が遠くで聞こえた。
「・・・ちょっと待って、達彦さんっ!」
救いを求めるようなその声にハッとして顔を上げ・・・桜子を見つめると・・・
肩をすくめ小さく震えながら、怯えた目で自分を見つめている。
それは・・・達彦が一番見たくない桜子の表情だった。
そしてそんな顔をさせたのは・・・その怯えた瞳の中に映る自分自身なんだ・・・。
達彦の全身を覆ったさっきまでの熱が・・・みるみるうちに引いていった・・・。
「ごめん・・・俺・・お前が欲しくて・・・堪らなくて・・・ごめんな・・・」
どんな言葉も足りなくて、薄っぺらで、自分が情けなくてたまらない。
ずっとずっと好きで堪らなかった桜子・・・
マロニエ荘に一緒に居た時も、母の目を盗んで逢引を重ねていた時も
入営前・・・お堀端で別れを惜しんだあの時も・・・
何度も何度も・・・狂おしいほどその体を抱きたい衝動を堪えてきた。
それが愛する娘への、男のけじめだと決めていた。
出征して、戦況が悪化する前・・・女を知る機会が無かった訳ではない。
でも、どうしてもそんな気持ちにはなれなかった。
何度か抱きしめた細い肩・・・手に触れた柔らかな頬・・・そしてたった一度重なった唇・・・
わずかに残るその感覚が・・・遠く離れた桜子と自分を繋いでいるような気がした。
必ず生きて帰って、妻となった桜子と一つに結ばれる・・・それが生きる支えだった。
他の女を抱いてしまえば、そんな想いもすべて薄汚れた欲望の中に消えてしまうように思った。
・・・薄汚れた欲望・・・
今自分が桜子にぶつけたものは、そんな男の生理を満たそうとする行為と同じではないのか。
妻になって、一度一つに結ばれたからといって
まだ体も慣れていない桜子に、そんな事を求めるなんて・・・
(たった今・・・『お前を守ると』と言ったくせに・・・俺は・・・)
そんな想いを巡らせるうちに・・・達彦はそのまま先へ進めなくなってしまった・・・。
「達彦さん・・・」桜子が達彦に優しく呼びかける。
達彦の・・まだ短い髪の間をそっと細い指がかき分ける。
「違うよ・・・嫌じゃないで・・・ごめんね、ちょっとビックリして・・・」
その言葉と手の動きの優しさに、達彦の胸は切なく締め付けられた。
達彦が恐る恐る顔を上げると、桜子はぎこちなく微笑み返した。
桜子の瞳の奥を覗き込むと達彦。
そこにはもう恐れは無く・・・自分を赦し、抱きとめて慰めるような優しさを湛えていた。
(桜子・・・お前は・・・なんでそんなに優しいんだ・・・?)
『お互いがどんなに相手に与えられるか、相手を受け入れ、赦せるか・・・』
桜子の優しい指先を感じながら・・・達彦の心には冬吾の言葉が響いていた。
(俺を・・・赦してくれるのか・・・?)
こんなに綺麗で・・・愛おしくて・・・大切な妻を汚すような事をした自分を・・・
「桜子・・・いいのか・・・?(こんな俺でも・・・)」桜子に額を合わせ呟く達彦。
桜子は、耳に聞こえた言葉だけに答えた。
「いいよ・・・私は達彦さんの奥さんだで。・・・ほいでも・・まちっとだけ優しくして下さい・・・」
そう囁くと、自分の言葉に照れたように笑って、達彦の鼻先に軽く口付けた。
「桜子・・・ありがとう・・・ごめんな・・・」
達彦は苦しくなるほどの想いとともに、低く唸りながら桜子をギュッと抱きしめた・・・。
「あのね、えっと・・・そこの棚に懐紙があるし、その引き出しに手拭いとか入っとるから・・・」
桜子は達彦の気持ちを解そうと、照れながらも明るく話しかける。
「え?・・・ああ・・・うん・・・」
達彦は言われるままに棚に手を伸ばし、懐紙を床の傍に用意する。
このまま何もせずに、一晩を過ごすことだってできる・・・
もう体の熱はそれくらい引いていたが、健気な桜子の想いを無にするような事は出来ないと思った。
体を起こし、少し気まずそうな顔をしながらも自分の浴衣を脱いでいく達彦。
そうして手順を踏んでいくうちに、気持ちも少しずつ落ち着いていった。
桜子も横になったまま、恥ずかしそうに自分の浴衣を脱いでいく。
胸を隠すようにしながら、緊張した顔で目を閉じる桜子。
その姿があまりに可愛らしくて、達彦は思わずフッと笑った。
桜子は薄目を開けて「何?」と少し不安そうな・・・それでいて拗ねたような顔で訊ねた。
「いや・・・」達彦は首を振り、優しく微笑みながら・・・ゆっくりと桜子に体を重ねた。
ピッタリと肌を合わせていると・・・達彦の心にまた冬吾の言葉が響いてくる・・・。
『・・・体で会話するようにやってみるんだな・・・』
桜子の肩を撫でながら、頬を摺り寄せる達彦。
桜子も達彦の背中に手を回し、背骨の一つ一つを指でなぞった。
肌と肌の触れ合った所から・・・お互いの気持ちが沁み込んでくるようで・・・
本当にもう言葉は要らない様な気がした。
目を閉じたまま・・・探るように相手の顔に唇を這わせる二人。
そして・・・探し当てたようにそこが重なると・・・想いを伝えるような熱い口付けを交わした・・・。
達彦のぬくもりと重みを受けながら、口付けを交わす桜子。
達彦の広い背中・・・引き締まった二の腕・・・優しく動くしなやかな指・・・
桜子は確かめるように、そっと手を這わせる。
(この人は・・・私の夫なんだ・・・)
解りきったことなのに、そう想うだけで泣きたいくらい切なくなる。
愛しくて・・・達彦の頬に手を添える。
自分の唇を愛撫する顎の動きに、胸の鼓動が早まる。
唇を重ねていると、目を閉じているのに明るい光に包まれている様で・・・本当に心地いい・・・
そんな今までで一番長い口付けの後・・・達彦は唇は桜子の唇から離れていった。
首筋に・・・鎖骨に・・・乳房に・・・這っていく達彦の唇。
初夜の晩に触れられ・・・口付けられた、桜子の体中のそこかしこが・・・
記憶を呼び覚まし火照ってくる。
あの時と同じように心臓がドキドキして、息苦しいくらいで、体は強張ってしまうのに・・・
達彦の動きに合わせて湧き上がる、静かにさざめくような・・・時に電流のように震える感覚が・・・
自分の体の中心の・・・あの夜達彦と繋がった部分に集まっていって・・・
どんどん熱さを増しているのが解る。
何かを待っているような・・・そんな熱い疼きを、桜子は感じていた・・・。
達彦は・・・桜子の体の声に耳を澄ませた。
乳房を揉み上げると、桜子は「んっ・・・」とこらえるように喘いだ。
その声に身震いがするほどの悦びを感じながら、さらに乳首に吸い付いてみる。
転がすように舌を動かし、吸い立てる。
桜子の口からは絶えず小さな吐息と震えるような声が漏れた。
桜子から、もっともっと深い吐息と・・・抑え切れなくて溢れるような声を導き出したい・・・。
達彦は思いつく限りの方法で、桜子の体を愛撫していく。
甘い声と息遣いが、達彦の耳をくすぐり欲情を高めていく。
「・・・あっ・・・達彦さ・・んっ・・・」
自分の名を呼ぶ声に顔を上げ、桜子を見つめると・・・
それに気付いた桜子の表情はふっと緩んだ。
愛しくて・・・ぎゅっと抱きしめる。
「桜子・・・綺麗だよ・・・大好きだ・・・」
何度も何度も囁く。でもそんな言葉では、この想い伝えられないと思った。
それほど愛しくて愛しくて堪らなかった。
桜子の体を愛しながら、熱くなった体から突き上げてくる欲情に、何度も流されそうになる。
でもそれを堪えることは苦痛であり、同時にもう苦痛では無かった。
快感を貪ることだけが、この行為の目的ではなく・・・
自分だけに見せる桜子の表情を・・・この声を・・・この震えを感じていること・・・
その悦びが、たまらなく達彦の心を満たしていった・・・。
達彦の手が、熱くなった桜子の秘所に伸びる。
目を瞑り、固くなる桜子。
達彦の指は力を入れず・・・ゆっくりと花芽をなぞる。
刺激に堪えられなくなって、達彦の腕をギュッと掴む。
「・・・大丈夫だから・・・」達彦は優しく囁いた。
「うん・・・解っとるけど・・・こうやって掴まっとらんと・・・なんか怖くて・・・」
桜子はフウッと息をつく。
「・・・怖いのか?」達彦は桜子の顔を覗き込む。
「わからん・・・なんだか・・・気が遠くなりそうで・・・自分じゃなくなりそうで・・・」
桜子は困惑した顔で、恥ずかしそうに見つめ返した。
達彦はそんな桜子に優しく口付け
「・・・感じとるんだら?」と言って微笑んだ。
「ほんなこと言わんでっ」桜子は恥ずかしさに顔をゆがめ横を向く。
「ほいだって・・・もうこんなに濡れとるから・・・」達彦の指がまた動き出す。
「んっ・・・やっ・・・」
桜子は身をよじりながら達彦にしがみ付く。
「どんなお前でも・・・俺は知りたい。怖くないよ・・・絶対に掴まえててやるから・・・」
指の動きを早めていく達彦。
桜子は達彦にきつくしがみ付きながら身をよじる。
浅く指を入れても、痛みを感じないほど、桜子は潤っていた。
達彦の指の強弱に合わせて、桜子の声が高く・・・細く・・・途切れるように震える。
くちゅくちゅと湿った音が聞こえ、蜜が指に絡みつく。
「達彦さん・・・達彦さん・・・」うわ言のように自分を呼ぶ。
「感じてくれ・・・桜子・・・桜子・・・」応えながらその唇に吸い付く。
逃れようともがく桜子を抱きしめながら、夢中で指を動かす。
尖ったような叫びの後・・・桜子の、しがみ付いていた手の力が抜けていく。
「・・・桜子・・・?」
桜子を見つめる達彦。唇を震わせながら桜子がゆっくり目を開けた。
達彦の指にも、熱く襞の震えが伝わる。
潤んだ瞳はゆらゆらと光り、うっとりと自分を見つめている・・・。
「達彦さん・・・私・・・」
「桜子・・・解るよ・・・いいんだ、それでいいんだよ・・・俺・・嬉しいよ・・」
桜子を包むように抱きしめる達彦。
「ビックリした・・・こん・・なん・・・初めてで・・・おかしく・・なりそうだった・・・」
途切れ途切れに呟く桜子。
艶を帯びたその甘い声に、なんとも言えない悦びが湧き上がる達彦・・・。
ザーッと音を立てて頭に血が上っていく。
嬉しくて、たった今快感に震えた桜子のその場所が見たくて、体を起こす。
脚を開き、湿った茂みを掻き分ける。
熱く潤って、ヒクついているそこに・・・吸い寄せられるように口付ける。
舌を花びらに挿し込む様にしながら・・・夢中で舐め、吸い上げる。
「はぁっ・・んっ!・・・もう・・・ダメ・・・達彦さん・・・」桜子はすすり泣くように喘いだ。
もう自分も我慢が出来なかった。
体を起こし、桜子の膝を抱える。
桜子を見つめて・・・やっとの思いで大きく一呼吸する。
「入れるよ・・・」
桜子が頷くのを待って、息を詰めて自分を沈めていく。
「うっ・・・」と桜子から呻くような声が漏れた。
「痛いか?」と訊ねると、桜子は小さく首を振り「大丈夫・・・前よりもきつくない・・・」とか細く答えた。
桜子の中は・・・前よりももっと熱くて柔らかくて・・・そして震えていた・・・
歯を食い縛って奥へ進む達彦。
最後にグッと根元まで挿し込むと・・・桜子は叫び声を上げて体を仰け反らせた・・・。
体を仰け反らせた桜子の白い喉元が・・・眩しくて・・・
大波のように押し寄せる快感に足をすくわれそうになって・・・達彦は桜子から顔をそむけた。
踏み留まりたいのに苦しくて・・・気を紛らわせようと部屋の中を見渡してみる。
「達彦さん・・・どしたの?」桜子が、そんな達彦に呼びかけると
「・・えっ?・・・ごめん・・・桜子、痛くないか?」桜子に向き直り、息を整えるように達彦が訊ねる。
「うん・・・少しだけ・・・ほでももう大丈夫・・・」
桜子も達彦の苦しげな表情が心配になって「達彦さん・・・きついの?」と訊ね返す。
「ん・・・いや・・・違うんだ・・・お前の中が・・その・・・えらく良くて・・・」呻くように答える達彦。
そして「桜子・・・もうちっとだけ、力を抜いてくれんか?」と言って苦笑いをした。
桜子は力を抜こうとフーッと息を吐いた。
繋がった部分は、始めは強い圧迫感で痺れたようだったが
だんだんと達彦の大きさに慣れていくようで、痛みは殆ど感じなくなっていった。
「・・・桜子ぉ・・・ずっとこうしていたいよ・・・」達彦は溜息をつき、桜子に体を重ねた。
「ほんと・・・?」その切ない囁きに胸がキュンとする桜子。
「いいよ・・・きつくないで・・・」達彦の背中をそっと撫でた。
大きく息をついた達彦が、また体を起こす。
「ほいでもなぁ・・・もう俺・・・我慢が出来ん・・・動いても・・いいか?」
初めて聞いた・・・達彦の甘えるような声・・・。
コクンと頷くと、達彦はゆっくりと腰を動かし始めた。
また少し痛みを感じたが、身を任せるように体の力を抜いてみる。
達彦は目を閉じ・・・低く呻きながら、腰を振り続ける。
時折「桜子・・・」と呼びながら・・・すがるような目で自分を見つめる。
(達彦さん・・・こんな顔するんだ・・・)
なんだか苦しくなるくらい愛おしくて、達彦の頬に手を伸ばす。
瞳を閉じて・・・達彦を感じる。
擦られている部分から・・・体中に熱が伝わっていく・・・。
またギュッと達彦の腕にしがみ付く。
達彦の息遣いと腰の動きが荒くなり・・・そして・・・声にならないような呻きの後、桜子に倒れこんだ。
繋がった部分がドクン・・ドクンと脈打つ・・・同じリズムで達彦が震える・・・。
その震えは桜子にも伝わり・・・愛しさで胸が締め付けられるのと同じように・・・
精を注ぎ込む達彦自身を締め付けていた・・・。
「・・・大丈夫か?」達彦がゆっくり体を起こす。頷く桜子。
「抜くよ・・」と言って達彦の体が離れた。
熱い白濁が花びらから溢れ出し、桜子は「あっ・・・」と声をあげる。
達彦は懐紙を桜子にあてがった。
「出血はしとらんみたいだ・・・良かった・・・」桜子に微笑む。
桜子は恥ずかしくて「見んでっ」と怒ったように言いながら背中を向ける。
達彦は微笑みながら、そんな桜子の頭を一撫でして、それから自分自身を拭った。
そしてまた・・・桜子を背中から抱きしめる・・・。
「桜子・・・ありがとう・・・嬉しかったよ・・・」優しく囁く。
「・・・私も・・・」桜子が小さく呟く。
「ほんとか?」達彦は少し驚いたような弾んだ声で聞き返す。
「・・・ほうか・・・ほうだよな・・・お前も・・・」と達彦が言い掛けたのをさえぎるように
「もういいよぉ・・・それ以上言わんで」照れくさくて逃げるように達彦から体を離す。
それから桜子は浴衣を簡単に着付けると「水・・・飲んでくる」と言って部屋を後にした。
達彦は優しい笑顔でそれを見送る・・・。
桜子が顔を洗い、水を飲んでいると「俺も貰えるかな・・」着替えを済ませた達彦も台所に入ってくる。
「・・・はい」水を汲んでやると、達彦は美味しそうに飲み干した。
すると桜子が急に吹き出したように笑う。
「ん?」不思議そうな達彦。
「ほいだって・・・その浴衣・・・」達彦の足元を指差す。
急に泊まる事になった達彦は、鈴村の浴衣を借りたのだが、達彦には丈が短すぎたのだ。
「ああ・・・」達彦も納得したように頷いて、桜子に笑い返した。
「あ・・・」また桜子の表情が変わる。戸惑うような顔で下腹を抑える。
「どした?・・・痛くなったかん?」心配そうに顔を覗き込む達彦。
「ううん・・・あの・・・笑ったら・・・さっきの達彦さんのが・・・」困った顔で俯く。
「え?・・・・ああ・・・ごめんっ。拭いてやるよ」達彦は慌ててしゃがみ、桜子の浴衣を捲くろうとする。
「いやぁ〜やめりん!・・・いいよぉ・・・お便所に行って来るからっ」
桜子は浴衣の裾を押さえ、恥ずかしさと怒りの混ざったような顔をしてバタバタと走り去る。
「なんだん・・・ほんなに怒る事ないじゃんか・・・」
達彦はあっけにとられたような顔をして桜子を見送った・・・。
部屋で横になっていると、桜子が戻ってくる。
「大丈夫?」達彦が声をかけると「うん」と頷き自分の布団に入ろうとする桜子。
「一緒の布団で寝んか?」と達彦が誘うと
また「うん」と照れたように頷いて、枕を手に達彦の布団に潜り込んだ。
「夫婦なんだで・・・あんなに嫌がることないじゃんか・・・」ちょっと根に持っている達彦。
「ごめん・・・ほでも恥ずかしいもん・・・」膨れながら謝る桜子。
「さっきまで裸で抱き合っとったのにかん?」達彦の問いかけに怒って
「それとこれとはまた別だで!」と言って達彦を睨む。
少しひるんだ達彦だったが、思い出したように笑い出す。
「なんだか懐かしいよ・・・お前にそうやって怒らるの」
桜子は少し反省したように溜息をついて、苦笑いをした。
そんな桜子が可愛くて・・・達彦は桜子に軽く口付けた・・・。
「本当にここの音・・・二階には聞こえんのか?」少し心配になって訊ねる達彦。
「うん・・・たぶん・・・私は聞こえた事ないで・・」首をかしげながら答える桜子。
「え!?・・・たぶんって・・・聞こえとったらどうする?」困り顔の達彦。
「うーん・・・家族なんだで・・・その時は仕方無いじゃん」開き直ったように言う桜子。
「なんだん、桜子・・・俺には色々恥ずかしいのに、家族には平気なのかん?」
不思議そうに訊ねる達彦に「そうみたい・・・」桜子も不思議だなぁと思いながら答えた。
「ほでも・・・みんないい人達だよなぁ。賑やかで・・・楽しいよ」
気を取り直すように話しかける達彦。桜子は嬉しそうに微笑む。
「杏子姉さんと鈴村さんと、幸ちゃん・・・仲が良くて・・・本当の親子みたいだもんな。
加寿ちゃんと亭くんも可愛いし・・・幸せだな、笛子姉さんと冬吾さんは・・・」
そんな達彦の横顔を見ながら桜子が耳元で囁いた。
「達彦さんも・・・欲しい?」
「え?・・・そうか・・・そうだよな・・・俺達もそのうち・・・」
達彦は噛み締めるようにそう言って、桜子を抱き寄せた。
二人の間にやがて生れるだろう子供のこと・・・正直そこまでは実感が湧かなかったが
「授かったらいいな・・・」桜子をギュッと抱きしめる。
桜子は胸の中でフフッと笑い
「達彦さんは、やっぱり・・・男ん子がいい?」と訊ねた。
「ん?・・・ほうだなぁ・・・どうだろう・・・元気だったらどっちでもいいけど・・・
男ん子かなぁ・・・ほいでも・・・やっぱりお前にそっくりな・・・」
と言いながら桜子の顔を覗き込んむと・・・
桜子は・・・うっすらと笑みを浮かべながら・・・もう眠っていた。
(寝ちゃったのか・・・)
その穏やかな寝顔に、安心したように微笑み・・・そっと額に口付ける達彦。
こんな風に二人の将来の話が出来る事が夢のようで・・・それは少し怖くなるくらいだった。
桜子と一緒になれたこと・・・それだけで今は充分すぎるくらい幸せだと・・・達彦は心から思った・・・。
天井を見上げ・・・フーーッと大きく息をつく達彦。全身の力が抜けていく・・・。
本当に長い一日だった。
桜子との情事を振り返る達彦。
(俺・・・まだまだ駄目だな・・・もっとしっかりせんといかん・・・
今日なんとかうまくいったのは・・・桜子と・・・冬吾さんのお陰だな・・・
やっぱり実際は、頭で考えとるようにはいかんもんだな・・・
ほいでも・・・桜子が感じてくれて・・・嬉しかったな・・・綺麗だった・・・
これから・・・ずっと桜子を抱けるのか・・・本当に・・夢のようだな・・・
桜子の為にも頑張らんとな・・・冬吾さんの意見を参考にして・・・
それにしても冬吾さんは、なんであんなに女の体に詳しいんだ?
いったい何人の女性と交わした事があるんだろう・・・
俺は桜子だけだけどな・・・俺は・・桜子がおればいいんだ・・・
・・・桜子がいいんだ・・・桜子が・・・桜子・・・・・・・・)
布団の上で向かい合い、寄り添って眠る二人・・・。
窓から射し込む月の光が・・・淡く二人を包んでいた・・・。
翌朝。桜子は姉達と共に台所で朝食の用意をしていた。
達彦は一人、そんな三姉妹の様子を伺いながら、どこか所在無さげに居間に座っていた。
ふと気配を感じて振り向くと、縁側から幸、加寿子、亭の三人が、こちらを覗いている。
「おはよう」と声をかけると、恥ずかしそうに挨拶をしながらも、三人は障子の影に隠れた。
その時「おはようございます」と言いながら、顔を洗った鈴村が居間に入ってくる。
その後に勇太郎と冬吾も続いて、配膳がされた自分達の席に座った。
「おはようございます。お兄さんすみません・・・僕が泊まったせいで昨日の晩・・・
窮屈でよくお休みになれなかったんじゃないですか?」
達彦が申し訳なさそうに鈴村に話しかけた。
「いや〜!そんなことはありませんよ。僕も疲れてたのかなぁ・・・
夕べは物音一つ聞こえないくらい、朝までグッスリ眠ってました!ハハハハッ!」
鈴村はそう答えて、白々しいくらいの高笑いをした。
「え?・・・ほう・・ですか・・・良かった・・ハハ・・・(鈴村さんそれって・・・)」
苦笑いをしながら瞬きを繰り返す達彦。
「僕も・・聞こえませんでしたよ。・・・よく寝たなぁ〜!」
達彦の隣に座った勇太郎が耳打ちするように囁き、(うーん)と伸びをした。
「へ・・・!?(勇太郎くんまで・・・君・・昨日はとぼけてあんな事言ったのかん!?)」
そんな勇太郎を、少し驚いたように目を見開き見つめる達彦。
なんだか急に恥ずかしくなって俯く。耳の後ろが熱くなり、じんわりと汗が滲んでくる。
向かいの席から視線を感じ顔を上げると、ニッと笑った冬吾が自分を見つめている。
(冬吾さぁ〜〜ん・・・またそんな目で見る・・・)
含み笑いを浮かべる男三人に囲まれ、肩をすくめながら引きつった笑みを浮かべる達彦・・・。
「おまたせ〜!さぁ〜、みんなで食べまい!」
味噌汁の椀の乗ったお盆を手に、皆に呼びかける笛子。
杏子は子供達を席に着かせ、桜子はおひつからご飯をよそう。
冬吾・・鈴村・・の順によそっていき、達彦に「はい、達彦さんっ」と満面の笑みで茶碗を差し出す。
そのご飯がてんこ盛りの茶碗を見て、呆れたように顔を見合わせる一同。
その空気に気付いた桜子は
「ごめんっ!みんなの分・・無くなっちゃうね・・・」あわててご飯をおひつに戻す。
「もーっ!姉ちゃんは、わかりやすいなぁ〜!」
勇太郎の一言で、皆はドッと笑った。
達彦と桜子は、恥ずかしそうに苦笑いをしながら見つめ合う・・・。
有森家の食卓に、明るい笑い声が戻っていた。
そんな様子に目を細めながら、徳治郎が草葉の陰で囁く・・・。
「みんな・・・みんな幸せになったなぁ・・・」
隣にいるマサに嬉しそうに微笑みかけると、スウ・・・っと透けて・・・消えていった・・・。
初七日の法要を済ませた笛子家族と勇太郎は、その日の昼過ぎに東京へ向けて帰って行った。
桜子は、杏子と共に徳治郎の遺品の片付けなどを済ませ、その二日後に達彦が待つ山長へ戻った。
そしてその日から・・・山長を舞台に、二人の幸せな結婚生活の幕が上がった・・・。
(終わり)