4月の初旬。桜の花も見ごろを迎えた春。  
柔らかな朝日が射し込む寝室で、すやすやと眠る桜子。  
ふと頬に触れる気配を感じ、ゆっくりと目を開けた・・・。  
そこには優しく自分を見つめる達彦の姿があった。  
「おはよう・・・桜子」微笑む達彦。  
桜子も少し伸びをしながら「おはよう・・」と微笑み返す。  
「桜子・・今日・・何の日だかわかるか?」頬に唇を寄せ、達彦が囁く。  
「・・・わかっとるよ・・・」桜子は嬉しそうに達彦に頬ずりをする。  
微笑み合い、見つめあう二人・・・。  
「この一年、本当にいろいろありがとう。よく・・・頑張ったな。」  
桜子の髪を優しく撫でる達彦。  
「どうしたの?あらたまって・・・」桜子も達彦の頬に手を伸ばす。  
「いや・・・ただ、今日一番に、お前に伝えたかったんだ・・・。」  
達彦は笑みを浮かべながら、桜子に唇を重ねた。  
桜子も達彦の首に手を回し、二人は甘い口付けを交わす・・・。  
 
達彦の手は桜子の肩を擦り、そして・・・浴衣の胸元から忍び込み乳房に触れる。  
「ん・・・ダメ・・もう起きんと・・」桜子は唇を離すが、達彦は首筋にも口付ける。  
「・・お前が・・あんまりかわいい顔して寝とるから・・」そう言ってまた唇を重ねた。  
「・・・んん・・」唇を塞がれながら乳房を揉まれる桜子。  
達彦の指が、乳首をつまむように愛撫し始めた所で  
「・・・うんっ」と桜子は唇を放し達彦の手を抑えた。  
「達彦さん・・ダメだよ。もう・・お清さんも来る時間だで。」なだめるように達彦を見つめる。  
達彦は、少しすねたように笑い返し、あきらめて体を離す。  
桜子は達彦の頬に優しく口付け、起き上がり、部屋を出ようと障子を開けた。  
と、「なぁ桜子」達彦が呼び止める。振り返る桜子。  
「今日の夕方、二人で出掛けるから・・・そのつもりでおってくれ」  
「出掛けるって・・・どこに?」訊ねる桜子。  
「まだ・・・内緒だよ」意味深な笑みを浮かべる達彦に、今度は桜子がすねたように笑ったが、達彦を残し、そのまま部屋を後にする・・・。  
 
その日の夕方、仕事を早めに切り上げた二人は、野木山に見送られ山長を後にする。  
「いったいどこに行くの?」と訊ねる桜子の背中に「いいから」と言って手を添える達彦。  
達彦は喫茶マルセイユの前で足を止める。  
「こんばんは」笑顔でドアを開ける達彦。「いらっしゃい」ヒロが暖かく迎える。  
「ヒロさん・・・今日はありがとう。お世話になります。」礼を言う達彦。  
桜子も挨拶をし、店の中を見渡すと、蝋燭が灯ったテーブルの上に食事が用意されていた。  
「どうしたの?・・・これ」驚いて訊ねる桜子に  
「ヒロさんに頼んで、用意してもらったんだ。」嬉しそうに答える達彦。  
「いやいや、僕は達彦君に頼まれた通ーりにしただけだよ・・結婚一周年、おめでとう!」  
桜子に花束を渡すヒロ。  
「ありがとう・・・ヒロさん・・・達彦さん・・・」桜子に笑みがこぼれた・・・。  
 
「それじゃあ・・・ごゆっくりね。」と言って、店を後にするヒロ。  
二人はテーブルに腰掛け、達彦はグラスにワインを注ぐ。  
「桜子・・・これからもよろしくな。・・・乾杯」グラスの音がカチンと鳴る。  
店の中には二人の好きな音楽が流れた。モーツアルト、ベートーベン・・・そしてジャズ。  
二人は食事をしながら、昔を振り返り、楽しそうに語り合った。  
達彦の始めての演奏会、かねの目を盗んで逢引をしていた頃、達彦に抱きしめられた夜・・・。  
店には、二人の遠い日の思い出が溢れていた・・・。  
 
食事が終わると、桜子はピアノに向かい、ジャズを奏でた。  
カウンターの中でコーヒーを入れながら、桜子の姿を眩しく見つめる達彦。  
「ねぇ達彦さん。連弾しよっか。」桜子が振り向き笑いかける。  
達彦もニッコリと笑い、桜子の隣に腰掛けた。  
『きらきら星変奏曲』『愛の夢』・・・。  
結婚以来、ピアノに向かう機会か少なかった二人は、さすがに指がまわらず  
何度か曲は中断されたが、その度にお互いに見つめあい、じゃれるように笑いあって  
ピアノの演奏を楽しんだ。・・・あの頃を思い出しながら・・・。  
「もうだめだ・・・指がまわらん」声をあげて笑い、グーパーとひらく手を見つめる桜子を  
達彦は隣から包み込むように抱きしめた。  
ピアノの前で、二人は甘く熱い口付けを交わした・・・。  
 
仲良く食事の後片付けをし、二人は喫茶マルセイユを後にした・・・。  
山長に戻り、風呂から上がった桜子は店へと向かう。  
帳場には、達彦が座っていた。仕事を早めに切り上げたため、残務処理をしていたのだ。  
帳簿を見る達彦の横に座り、甘えるように肩にもたれかかる桜子。  
「もう・・・終わるよ。」達彦は微笑み、優しく囁いた。  
書類を片付け、寝室へ向かう二人・・・。  
 
部屋に入り、障子を閉めるやいなや、達彦は桜子を後ろから強く抱きすくめた。  
「あっ・・・達彦さん・・・」振り返る桜子。  
達彦は桜子を見つめ、頬を手で包み込み荒々しく唇を重ねた。  
「んっ・・・」舌を絡め、息も出来ないほど桜子の唇を包み込み、熱く口付ける達彦。  
その唇が頬や首筋に移り、桜子は「はぁぁ・・・」と息をつく。  
桜子の帯を解き、浴衣を脱がせる達彦。畳の上に桜子の浴衣がはらりと落ちる。  
達彦は桜子を抱き上げ、そっと布団の上に寝かせた・・・。  
 
達彦も浴衣を脱ぎ、桜子に覆いかぶさる。  
二人は相手の存在を確かめるように、お互いの顔に手を伸ばし、見つめ合った。  
桜子は達彦の頬を撫で、うっとりと優しく・・・達彦を見つめた。  
達彦は桜子の唇に触れ、愛しくてたまらない・・・という風に熱く切なく見つめ返す。  
「桜子・・・ずっと一緒だよ・・・」  
肌をぴったりと合わせ、桜子を強く抱きしめる達彦。  
桜子も背中に手を回し、ぎゅっとしがみついた・・・。  
 
熱い息をかけながら、達彦の唇は首筋から肩へと移っていった・・・。  
そして桜子の乳房を揉みながら、唇を這わせる。  
舌を尖らせ、乳首の周りを円を画くように舐めまわす。熱い吐息を漏らす桜子。  
達彦はさらに、隆起した乳首を強く吸いながら、舌先を震わせ転がした。  
「ああんっ・・・うんっ」体をよじり、悶える桜子。  
「桜子・・・気持ちいいか?」達彦が囁きかける。  
「うん・・・」桜子はうっとりと達彦を見つめた。  
「お前の胸・・・好きだよ・・・」  
笑みをたたえ、その滑らかさを味わうように乳房に頬を寄せる達彦。  
「・・・ほんと?・・・私・・・自信無いんだけどな・・・」恥ずかしそうに呟く桜子。  
「どうして?・・・綺麗だよ。大好きだ・・・」桜子に微笑み返す達彦。  
ふと乳房を揉み上げる手を止め、体を起こし  
「それに・・・ちいっと大きくなったか?」と呟いて、まじまじと胸を見つめる。  
「・・・もうっ・・・やだ・・達彦さん・・・」  
桜子は起き上がり、達彦の首に手を回し、強く抱きつく。  
達彦は桜子を抱きとめながらよろけ、仰向けに布団の上に倒れこんだ・・・。  
 
二人は笑いながら見つめ合い、何度も口付けを交わす。  
そしてこの一年、毎晩のように肌を重ね、知り尽くしたお互いの体に、手や唇を這わせ愛を伝える。  
・・・波に揺られるように、絡み合う二人・・・。  
 
達彦は思い返す。  
初夜の晩、桜子の体中に口付け、強く抱きしめ、一つに結ばれたときの感動。  
緊張して目を閉じ、愛撫を受けるのが精一杯だった桜子が、初めて自分を求め快感に震えた夜。  
自分の腕の中で、桜子はどんどんと女らしさを増し、たおやかに、輝きながら花開いていった。  
今、自分のすべてを受け入れ、心まで柔らかく包むように、愛を伝える桜子の体。  
「綺麗だよ・・・桜子・・・本当に綺麗だ・・・」  
どんなに愛しても愛し足りない・・・いつもそんな気持ちにさせる桜子。  
達彦は目を細め、嬌声をあげる桜子の顔を、眩しくに見つめていた・・・。  
 
桜子もまた、達彦の真っ直ぐな瞳を見つめ返す。  
この澄んだ瞳に映る自分は、きっと一番輝いている。私の人生はここにある。  
達彦の純粋な心に寄り添いたい。繊細な心を支えたい。  
そして自分のすべてを受け入れる、大きな愛に包まれて生きていきたい。  
「達彦さん・・・私を感じて・・・離さんで・・・」  
桜子は達彦の胸に顔をうずめ、強く抱きついた・・・。  
 
「はぁぁっ!・・・んんっ・・」達彦の秘所への濃厚な愛撫に喘ぐ桜子。  
達彦の愛を全身に受け、満たされた心が、桜子の体をより熱く高ぶらせる。  
達彦の指に、熱さを増し、震える粘膜が吸い付く・・・。  
「ああっ・・・達彦さんっ・・・!」熱に潤んだ桜子の瞳から涙がこぼれる。  
「どした?・・・桜子・・・きついか?」体を起こし、優しく訊ねる達彦。  
「ううん・・・嬉しいの・・・嬉しい・・・」桜子は達彦に両手を伸ばす。  
達彦は微笑み、桜子を強く抱きしめ、熱く口付けた。  
桜子の手は達彦の背中を這い・・・そして達彦自身へと伸びる。  
「・・・欲しいか?」耳元で優しく囁く達彦。  
「・・・欲しい・・・達彦さんの全部が・・・」うっとりと目を閉じる桜子。  
「・・・俺もだよ・・桜子・・」桜子の花びらに自分自身を沈める達彦。  
そして深く、強く、桜子を突き続けた・・・。  
 
達彦の腰の動きは激しさを増し、桜子はその体に強くしがみついた。  
お互いを近くに感じたい。自分のすべてを与えたい。  
もっと・・・もっと・・・これからもずっと・・・。  
(愛してる・・・こんなに・・・)心の中で叫びながら、激しく揺れ続ける二人。  
やがて・・・繋がった部分の熱さが、二人の体全体を包み込み  
達彦と桜子は、どこからが自分の体か、相手の体か、解らないような一体感に包まれた。  
・・・二人は熱く・・・熱く、一つに溶け合った・・・。  
 
布団の中で余韻の波に揺られる二人・・・。  
「私・・・達彦さんと出逢って・・達彦さんの奥さんになれて・・  
 本当に良かった・・。・・すごく・・・幸せだよ・・・。」達彦の胸の中で桜子が囁く。  
そんな桜子の髪を撫でながら、達彦も優しく囁いた。  
「俺・・お前の笑顔が・・一番好きなんだ・・。  
 俺の傍で・・幸せそうに笑っとるお前を・・・ずっと見つめていたいんだ・・・」  
桜子の肩をぎゅっと抱きしめる達彦。  
「達彦さん・・・今日は本当にありがとう。・・・嬉しかった・・・。  
 すごく・・・素敵な一日だったよ・・・」  
桜子は顔を上げ、こぼれるような笑顔で達彦を見つめた。  
「うん・・」と頷いて、嬉しそうに微笑み返す達彦。  
が・・・その表情が少し変わり、意味深な笑みで桜子を見つめ、囁く。  
「ほいでも・・まだ・・今日は終わっとらんぞ・・」そして・・ゆっくり桜子に覆いかぶさった。  
桜子の耳を舐め、首筋にも舌を這わす達彦・・・。  
「・・・んっ・・・もう・・・達彦さん・・・」  
桜子は少し呆れたように微笑んだが、達彦の頭を抱え、うっとりと目を閉じた・・・。  
 
・・・穏やかな・・・春の夜だった・・・。  
愛し合う二人の平穏が・・・いつまでも続きますように・・・。  
 
(おわり)  
 

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