2月の初旬。岡崎にも雪が舞い散る冬の夜・・・。  
松井夫婦の寝室からは薄明かりが漏れていた・・・。  
火鉢にかけた鉄瓶からは、しゅんしゅんと湯気が立ち上る。  
 
布団の上に横たわる達彦。  
顔には苦渋が浮かび、「・・・ああ」と時折声をあげ悶える。  
「・・・桜子っ・・・そこ・・・」  
達彦の視線の先・・・肌蹴た浴衣・・・下腹部には、剛直を咥え、懸命に舐め上げる桜子の姿があった。  
この日『月の物』があり、達彦に応えられない桜子は、いつものように達彦に尺八を施していた。  
咥えた剛直は限界にまで膨張し、ピクピクと震え、達彦の快感の高まりが桜子の口の中に伝わる。  
「うううっ・・・!」達彦が低くうめき、身をよじる。  
桜子はしごく指の動きを早め、達彦を強く吸い上げる。  
「・・・桜子っ・・もうっ・・ああっ・・!」達彦は声をあげ、ビクビクッと体を痙攣させた。  
桜子は達彦を少し浅く咥え、白濁を口内で受け止めた・・・。  
 
「・・・桜子・・・ごめんな・・・」桜子に目をやり、絞るような声で謝る達彦。  
ううん、と首を振りながら微笑み、用意していた懐紙で口を押さえる桜子。  
水の入った桶に鉄瓶のお湯を移し、絞った手拭いで達彦自身を優しく拭う。  
ふうっ・・・と息をつき、心地よさに目を閉じる達彦。  
桜子は微笑み、ぐったりと横たわる達彦を愛おしそうに見つめながら、太ももや下腹部まで丁寧に拭きあげた。  
が・・・ふと手を止め、もの思いに耽る。  
「桜子・・・どした?」そんな桜子に気付き、達彦が心配そうに訊ねた。  
「・・・ううん」首を振った桜子だが、悲しげな表情だ。  
「おいで・・・」  
達彦が呼びかけ、桜子は達彦の胸に体を預けた。優しく肩を擦る達彦。  
 
結婚してから10ヶ月。正月に姪や甥に会い、賑やかなひと時を過ごした桜子。  
教師をしていたほど子供好きであったし、店の客からも「お子さんは?」などど聞かれることもあり、そろそろ子供が欲しい・・・と強く思い始めていたのだ。  
達彦とは結婚当初に『授かったらいいな・・・』と話したくらいで、妊娠の事は自然に任せていた。  
店の仕事も忙しかったし、今までは深く気にしていなかったが、今月は月の物も遅れていたし、胸の張りも強く、桜子は(もしかして・・・)と期待していただけに、少しショックを受けていた。  
 
「どうかしたのか?」優しく訊ねる達彦。  
「達彦さん・・・私達・・・なかなか子供が授からんね・・・どうしてかな」呟く桜子。  
「ほだなぁ・・・。お前、それで・・・?ずっと気にしとったのかん?」  
達彦は元気がない桜子を心配そうに見つめた。  
「ううん・・今までは、店も忙しかったし・・でももう結婚して一年近くになるでね・・。  
 それに『跡継ぎ』を産むのは女将としての務めだで・・達彦さんも・・欲しいだら?」  
達彦の胸に顔を寄せる桜子。  
「ほりゃぁ・・でも桜子、『跡継ぎ』を産めなんて・・俺はお前にそんな事望んどらんよ」  
言い聞かせるようにぎゅっと桜子を抱きしめる達彦。  
「ほいでも・・・私は達彦さんの子供が欲しいよ。  
 達彦さん・・・兄弟もおらんし、お義父さんもお義母さんも亡くなって・・・  
 私・・・達彦さんに家族を作ってあげたいんだ・・・」  
「お前・・・そんな事を・・・」達彦は、桜子の自分を思う切ない女心に胸を打たれた。  
「なぁ桜子。俺は、お前がおってくれたら、寂しくなんかないぞ。  
 それに、お前と一緒んなって、俺には家族がいっぱい増えたじゃんか。  
 有森の姉さん達や、勇太郎くん。冬吾さんも磯おばさんも、姪っ子や甥っ子も。  
 ・・・店のみんなだってそうだよ。だから、俺の事なら気にするな。  
 それに・・・こんなに愛し合っとるんだ・・・きっと授かるよ。」  
桜子に微笑み、髪を撫でながら優しく語りかける達彦。  
「ほうかなぁ・・・」桜子も微笑み返す。「ああ」と言って達彦は桜子に軽く口付けた。  
 
「俺達の子供かぁ・・・。」達彦は天井を見つめ呟いたが、口をきゅっと結び  
「ほりゃぁ、ますます頑張らんといかんな。うん。」  
と自分に気合いを入れるように言い、頷いた。そんな達彦の横顔を見て、  
「これ以上、どう頑張るの?」あきれたように、ふふっと笑う桜子。  
「どうって・・・ほいだから、もっともっとだよ。」  
桜子に笑われて達彦は口を尖らせたが、さらに頷く。  
桜子はそんな真っ直ぐな達彦が愛しくて堪らず、達彦の首に手を回し頬に口付けた・・。  
 
そんな事があった次の月も、桜子には月の物があった。  
この日、桜子は思い切って杏子に相談しようと有森家を訪ねていた。  
「何?桜ちゃん、話って。」優しく微笑みかける杏子。  
「うん・・・実は、子供が欲しいって思っとるんだけど、なかなかで・・・。  
 どうしてかなぁ・・・って思って・・・。」  
桜子は自分の体調や、少し月の物が乱れがちである事などを話した。  
「ほうかぁ・・ほいでもそん位の乱れがあっても、妊娠しとる人はいっぱいおるよ。  
 体を冷やさんようにして、滋養のあるもん食べて、あんまり気にせん事だよ。」  
桜子を元気付けるように話す杏子。  
「ほだね・・・。気にしても始まらんもんね。」頷く桜子。  
「ほいでもねぇ・・・桜ちゃん・・・あの、達彦さんとの・・・  
 夫婦の夜のことなんだけど・・・どれくらいの間隔で・・・?」  
正月の一件を笛子から聞いていた杏子が遠慮気味に訊ねる。  
「・・・え!?・・・どれくらいって・・・」桜子は少し驚き、口ごもる。  
そんな桜子を気遣って「週に・・・2、3回・・・くらい・・・かな?」と杏子が訊ね直す。  
「ほっほだねぇ・・・」桜子は作り笑いをしたが、内心  
(ほとんど毎日・・休みの前の日は2回も3回も・・なんて言えないなぁ・・)と焦っていた。  
桜子の様子にすべてを察した杏子は  
「あのね・・桜ちゃん。参考に聞いてもらいたいんだけど・・妊娠を望んどるんだったら  
 男ん人の方に、ちいっと禁欲してもらった方がいいっていうよ。  
 あの・・・子種が濃くなるっちゅう事みたいで・・・。」と意見する。  
「昔っから、仲の良すぎる夫婦に、なかなか子供が出来んっちゅう話があるし。」  
笑いかける杏子。  
「ほうなん・・・」神妙に聞いていた桜子だったが、我に返り  
「さっ参考にするね!ありがとう、杏姉ちゃん。」杏子に笑い返した。  
 
その夜、月の物が終わった桜子を、待ちかねたように達彦が求めた。  
「桜子・・・お前が欲しかったよ・・・」  
そんな達彦の濃厚な愛撫に酔いしれながら、桜子は頭の中で  
(こんなに一生懸命愛してくれとる達彦さんに、杏姉ちゃんの話・・・言いずらいな)  
と思っていた。  
 
事が終わって、達彦の腕の中で余韻にひたっていた桜子だったが、思い切って達彦に話しかけた。  
「ねぇ・・・達彦さん。今日・・・子供のこと・・・杏姉ちゃんに聞いてきたんだ・・・」  
そして、自分の体調のこと、禁欲の話を、達彦を気遣いながら話した。  
「ほうかぁ・・・」と達彦も神妙に話を聞いていたが  
「ごめんな・・・。店の仕事が忙しくて、お前の体に負担がかかっとるんだな。」  
と桜子の体調を気遣った。  
「ううん、違うよ。達彦さんのせいじゃないよ。私も・・店のことは頑張りたいでね」  
否定する桜子。  
「禁欲かぁ・・・」またも天井を見上げ呟く達彦。  
「わかった。ほいじゃぁ姉さんの言う通りにしてみよう。」と言って頷く。  
「達彦さん・・・大丈夫?」心配そうに訊ねる桜子。  
「だっ大丈夫だよ。俺、頑張るから。」  
少し強がっている様子の達彦に、桜子はまた愛しさがこみ上げる。  
「・・・ほいじゃぁ、明日から・・・ね・・。」  
桜子は体を起こし、達彦の顔の上から口付けた。  
桜子の甘い口付けに酔いしれる達彦。また体が熱くなってくる・・・。  
くるりと体制を変え、桜子を組み敷き、乳房に唇を這わせた・・・。  
 
それから、達彦と桜子はお互いその話題には特に触れず、毎晩のように愛し合う事は無くなったが、体を重ねない日は二人で手をつないで眠った。  
桜子の体調を気遣い、達彦は以前よりもっと優しくなり、  
そして、愛し合う日にはよりいっそう激しく、2度3度とお互いを求め合った。  
それでも月の物が来た夜は、達彦は黙って桜子の体を擦り、桜子が眠りに就くまで優しく抱きしめた。  
そんな達彦の愛情を一身に受けて、桜子の心は満たされ、不安は消えて  
子供のことは 『いつかきっと授かる・・・』と前向きに思えるようになった。  
 
そして・・・その年の夏・・・二人は最高の喜びを噛み締めることになる・・・。  
 
(おわり)  
 

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