8月の初旬。夕方に降った雨のお陰で、真夏にしては涼しい夜だった。  
桜子は居間で一人、時計を見つめていた。  
「達彦さん、遅いな・・・。」時計の針は午前零時を過ぎている。  
達彦はこの日、味噌組合の会合で、昼過ぎに出かけて行ったのだ。  
(きっと呑みに誘われたんだろう・・・)と思いながらも桜子の心が波立つ。  
「こんな時間まで連絡せんなんて・・・。もうお風呂に入って先に休ませてもらうで」  
桜子は苛立っていた・・・。  
 
風呂から上がっても、達彦は戻っていなかった。  
一人きりの夜。寂しさがこみ上げ、心に不安がよぎる。  
がらんとした寝室で、桜子は小さく体を丸め、横になって達彦の帰りを待っていた。  
 
いつのまにか眠っていた桜子は、人の気配を感じて目を覚ました。  
寝室に続く隣の部屋の襖をそっと開けると・・・達彦が風呂に入るため浴衣を出そうと、箪笥の引き出しを開けていた。  
「!桜子・・・ごめん、起こしちゃったな。」少し驚いて、達彦が謝る。  
桜子は達彦が戻り、安心したが、時計に目をやり、ムッとして達彦を問いただす。  
「もう2時だよ。こんな時間まで連絡も無しに何しとったの?話してみん!」  
達彦は(やっぱりそうきたか)という風にため息をつき答える。  
「味噌組合の会合の後、森山味噌の旦那に誘われてな・・・ちょっと呑みに・・・。  
 こういう付き合いも仕事のうちだで。今まで何べんも断わっとったんだぞ。  
 今日はもう、申し訳なくて断れんかったんだ。これでも中座してきたし・・・  
 それに店に2回電話もしたが繋がらんかった。・・・心配かけて悪かったな」  
「心配なんて、しとらんよ。」すねたように強がる桜子。浴衣を出してやろうと達彦の傍によると、強いおしろいの匂いがする。  
桜子の心が波立ち、カッと熱くなる。  
「これ、早く脱いで!」達彦の帯を解き、着物を脱がせると、達彦の胸元から小さくたたんだ紙切れが落ちた。拾い上げる桜子。そして紙を開き目を通す。  
 《今日は旦那さんのお陰で楽しい時間が過ごせました     
  ありがとうございました  これからもどうぞご贔屓に》  
芸者の名前と連絡先が書いてある。・・・桜子は手紙をクシャっと握りしめた・・・。  
 
若い頃から女性にもてる事は桜子も解っていた。  
達彦が女学生時代も、東京にいた時も。達彦と接した女性の多くは、その容姿の美しさや、気品のある立ち振る舞い、家柄の良さなどに惹かれた。  
だからといって桜子は、達彦への気持ちに気付いてからも、こんな風に心が波立つことは無かった。  
店で接客する達彦にうっとりとする女性客。二人で道を歩いていると、すれ違う若い女性が達彦に目をやる。  
(達彦さんは素敵だで・・・)  
自分自身そう思いながらも、その度に桜子の心は小さく波立った。  
結婚して、達彦と長い時間一緒にいるようになって、初めて感じる感覚だった。  
 
「これは何。なんで着物にこんな手紙が入っとるの。」桜子は怒っていた。  
「手紙?・・・知らんよ。」桜子の手から紙切れを取り、達彦も目を通す。  
「知らんって!なんで着物の胸元に入っとるのに知らんの!」達彦を責め立てる。  
達彦は思いをめぐらせる。  
(今日は何人もの芸者に取り囲まれて・・帰り際にしつこく引き止めてきた女もおったな)達彦はお座敷での事をうんざりした気持ちで思い返していた。  
「こんなん、ただの店の営業だら?誰にでも渡すもんだよ。」桜子をなだめる達彦。  
「どうだか!」嫉妬に燃えた桜子の心に、もはやその言葉は届かなかった。  
「達彦さんだって男だで、芸者さんたちに囲まれて鼻の下伸ばしとったんでしょ!」  
達彦を責める言葉が桜子の口からどんどん出てくる。  
「なに言っとるんだ・・・」困った顔でため息をつく達彦。  
「それに・・・そう、亡くなったお義父さんにだって贔屓の芸者さんがおったもんね。  
 梅奴さんだったっけ・・・こそこそ合っとったみたいじゃん!  
 達彦さんだって親子だで・・・同じようにきっと・・・」  
心から思っている訳では無いのに・・・達彦はそんな人では無いと解っているのに、桜子は自分の口から出る嫌な言葉を止めることが出来なかった。  
「俺は親父とは違うよ。」これにはさすがにムッとした達彦だったが、気持ちを抑え  
「なぁ桜子・・・もうよそう。今日は俺が悪かった。これからはちゃんと連絡するし  
 付き合いもなるべく断るから、機嫌を直してくれよ。」謝り、桜子の肩に手を伸ばす。  
「触らんで!!」桜子はその手を払う。払った桜子の手が達彦の頬をはつった。  
達彦の心もカッと熱くなり、抑えていた気持ちが切れた・・・。  
 
「この、解らず屋!」  
達彦は桜子を強引に抱き上げ、寝室の布団の上に投げ出すように寝かせた。  
「いやっ!!」桜子は起き上がろうとするが達彦は強い力で抑え込む。  
そして桜子の浴衣の胸元を強引に開き、鎖骨の辺りに強く吸い付いた。  
「!痛いっ、やめて!」  
桜子は達彦の長襦袢の肩のあたりを掴み、なんとか体を離そうとする。達彦は桜子の右手を自分の左手でしっかりと握り、布団に押さえつけ、桜子に荒々しく口付けた。  
桜子は顔を背けるが、達彦はひるまず耳や首筋にも吸い付く。  
桜子が拒絶するたびに、達彦はさらに強い力で桜子を求めた・・・。  
 
達彦を避けながら、桜子心は混乱していた。  
達彦に強く求められたい・・・。むしろ達彦の腕の中で壊れてしまいたい・・・。  
そんな感覚に捕らわれながら抵抗し続ける桜子。  
達彦の心も体も、桜子に拒絶されながらもどんどんと熱く高ぶっていった。  
達彦は桜子の膝の間に自分の膝を割り込ませ、肌蹴た浴衣の裾から手を這わせる。  
桜子の下着の中に手を入れ、指で秘所をなぞると、既に濡れている。  
「・・・やめて!」桜子は体を固くしたが、言葉とは裏腹に花びらからは蜜が溢れた。  
達彦は桜子の下着を取り、固くなった自分自身をあてがうと、一気に桜子を貫いた。  
「いやぁっ!!」桜子が叫ぶ。  
「桜子!」達彦は吼えるように名前を呼び、一度腰を大きく突き上げた。  
「ああっ!・・・」桜子の体から観念したように力が抜けていく・・・。  
目を閉じると涙がこぼれた・・・。  
達彦は険しい目で桜子を見つめていた。  
が、桜子がもう抵抗していないことに気づき、切ない声で訊ねた。  
「桜子・・・俺が信じられんのか?・・・そんなにおれが嫌か?」  
泣きながら首を横に振る桜子。  
「桜子・・・目を開けてくれ。泣いてたら解らんよ・・・いったいどうしたんだ?」  
困惑する達彦。 「わからん・・・わからんよ」桜子は泣きじゃくる。  
「・・・どうして?どうしてこんな気持ちになるの・・・?  
 達彦さんを誰にも触られたくない。・・・他の女の人に優しくせんで。  
 ・・・一人でおるのが怖いよ。もう・・・達彦さんが好きで・・・好きで・・・」  
堰を切ったように桜子の気持ちが溢れた。  
「桜子・・・」(そうだったのか・・・)達彦は切なく深い息をつき、愛しくてたまらない・・・という風に桜子の頬に顔を寄せる。  
「何言っとるんだ・・・。お前はほんとにわからんのか?俺の気持ちを・・・  
 俺がお前をこんなに愛しとるのに・・・!」  
達彦は桜子を強く抱きしめ、熱く口付けた。そして大きく腰を突き上げた・・・。  
 
「達彦さん・・・達彦さん・・・!」  
達彦に体を貫かれながら、うわごとのように名前を呼ぶ桜子。  
「桜子・・・桜子!」達彦も激しく腰を動かしながら、しがみつく桜子に呼びかける。  
(相手を自分の中に溶かしてしまいたい・・・)  
二人は激しく揺れながら一気に昇りつめ・・・熱く溶け合った・・・。  
 
達彦はゆっくりと体を離し、桜子を見つめ優しく髪を撫でた・・・。  
濡れた瞼に口付け、涙を吸いとる。そして桜子の体を擦った。  
「桜子・・・ごめんな・・・乱暴な事して・・・痛かったか?」  
達彦が吸い付き、赤くうっ血した胸の印に触れる。  
「ううん・・・私の方こそごめんね・・・酷い事言って・・・。」大きく首を振る桜子に  
「いや、俺がお前を不安にさせたからだよ。本当にすまなかった」達彦がさらに謝る。  
「達彦さんのせいじゃないよ・・・。」桜子は穏やかな口調で話した。  
「私、達彦さんと結婚して、夜こん家に一人でおると、戦争中お義母さんも亡くなって  
 一人で過ごしとった時のこと、ふっと思い出すんだ。  
 あん時感じた寂しさ・・・いつもは忘れとるのにね・・・。  
 達彦さんと一緒になって、優しくしてもらって、毎晩抱いてもらって・・・  
 すごく幸せで・・・なのに一人でおると前よりも寂しくなる。おかしいね・・・  
 私・・・もう達彦さん無しではおられん体になったんだね・・・。」  
「桜子・・・俺、どうしたらいいんだ?お前を不安にさせたくない。守りたいよ・・・」  
達彦は切ない表情で桜子に額を合わせた。  
「達彦さんは充分に守ってくれとるよ。・・・私が悪いの。  
 こんなんじゃ、達彦さんの奥さんとしても、山長の女将としてもダメだね。  
 もっとしっかりしとらんと・・・。」  
さっきまで意地を張っていたのが嘘のように話続ける桜子。  
「達彦さんは頭首としても、夫としても立派だよ。達彦さんを見とると  
 女の人が達彦さんを素敵だって、ぽーっとなる気持ちがわかるよ。  
 ほんとに・・・素敵だで・・・。  
 自信に満ちとって、なんか・・・キラキラ輝いて見える・・・」  
素直な、普段は口にしないような桜子の言葉を、少し驚いて聞いていた達彦だったが  
真っ直ぐに桜子を見つめ優しく語りかけた。  
「なぁ桜子。お前は俺を立派だ、輝いとるって言うが  
 それはお前が俺を支えてくれて、体全部で俺を愛してくれとるからだよ。  
 いつもお前の愛を感じとるからだ。  
 お前だっていつも輝いとるよ。眩しいくらいだ。  
 俺は、お前が思っとる以上に、お前を愛しとるんだぞ。」  
・・・桜子の目が潤んだ。  
「俺の前では強がらんでいい・・・もっと甘えていいんだぞ」優しく髪をなでる達彦。  
「今日みたいに怒ってもいいの?」桜子が甘えるように笑いかける。  
「ああ、お前に怒られるのは昔っから慣れとる」笑い返す達彦。  
二人は微笑みながら、満たされた気持ちで抱き合った。  
熱く甘い口付けを交わす二人・・・。  
 
桜子の手が達彦の襦袢の襟から忍び込み、達彦の背中を擦った。そして唇を首筋や肩に這わせる。  
達彦は笑みを浮かべながら、桜子の耳元で囁く。  
「桜子・・・もう一度・・・抱いていいか?」  
「抱いて・・・お願い・・・」桜子は達彦にしがみついた。  
達彦は襦袢を脱ぎ、桜子の浴衣の帯を解き、合わせを開いた。  
そして桜子の乳房を優しく揉み、唇を這わせた・・・。  
 
「・・・ああっ!・・・んんっ・・・」達彦の濃厚な愛撫に喘ぐ桜子。  
達彦は花びらの中を指でかき回しながら、敏感な花芽を舌で擦る。指に粘膜の震えが伝わる・・・。  
達彦は秘所を弄りながら、桜子に体を重ね耳元で囁いた。  
「桜子・・・俺の上に乗るか?」ううんと首を振る桜子。  
「ほいじゃ・・・後ろからか?」耳に舌を這わせる達彦。  
「・・・このまま・・・またきつく抱きしめて・・・」うっとりと目を閉じる桜子。  
「わかった・・・」達彦は桜子の中に自分自身を埋めた。  
「桜子・・俺は、お前のもんだよ・・・」優しく囁き、桜子を強く・・強く抱きしめた・・・。  
 
次の日の午後、達彦は店の前で配達する味噌樽を荷車に載せ、数量を確かめていた。  
店の中に座って帳簿を見ていた桜子は、顔を上げ、ふと達彦に目をやる。  
 
【桜子心の声】  
 達彦さん・・・今日も素敵だな・・・。あっ、でもあくびを噛みころしとる。  
 昨日は寝たのが遅かったで・・疲れとるんだね。今日は早く休んでもらわんと・・  
 ほいでも、また抱きしめられたら・・・私・・・  
 
うっとりしていると、客が店に入ってくる。  
「いらっしゃいませ!」桜子は我に帰り、接客するために立ち上がった。  
達彦もまた、笑顔で接客する桜子を眩しく見つめていた。  
 
【達彦心の声】  
 桜子・・・今日もかわいいな・・・。でも、ちいと目が腫れとるな。  
 ・・・泣かせてしまったからな。ほいでも夕べはいろんな話が出来て良かった。  
 久々にえらい剣幕で怒られて、参ったけどな。  
 桜子があんなに俺に惚れとるなんて・・・なんかまだ夢みたいだな・・・。  
 ああ・・・さすがに今日は眠いな。・・・あの後風呂に入ってまた・・・。  
 結局寝たのは4時過ぎとったはず・・・。今日は早く休まんとな。  
 でも・・・桜子に触れたら、俺また・・・。  
 
「ありがとうございました!」客を見送りに来た桜子と目が合う達彦。微笑みあう・・。  
 
【かねの声】  
 まぁまぁまぁ・・・二人ともっ! 仕事中にデレデレとっ!何を考えとるのっ!  
 来週はお盆だで、ちいっと早めに様子を見に来たら・・夕べのあれはなんだん?!  
 好きだ〜嫌いだ〜、俺が悪い〜私が悪い〜って・・・まぁー見てられんわねっ!  
 私が生きとったら、嫌味の一つも言ってやる所だわっ!まったく!  
 ・・・まぁねぇ・・・辛い思いして、ようやく一緒になれて、店の仕事も頑張っとるし  
 夫婦仲睦まじいのはええことだけど・・・。  
 ほいでも達彦!桜子さん!仕事中はシャキッとしいっ!  
 しっかりやっておくれんよぉぉー!!  
 
遠くで雷鳴が聞こえ、桜子と達彦は空を見上げた。  
「今日も夕立がくるかもしれんな。配達を急がんと・・・」  
二人は仕事の顔に戻った・・・。  
 
(おわり)  
 

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