ヌアラはゆっくりとジョカの顔を見下ろした。少女の瞳は挑むように、  
こちらを強く睨み付けている。激しい目だ。戦うことを決意した者の目だ。  
この娘は、俺を打ち倒すことに、微塵の躊躇も感じていない。  
ヌアラは唇の端で薄く笑った。  
「ふん・・・忌々しいほどあの女に似てきたものだな・・・。」  
「何・・・。」  
ヌアラは腰を屈めると、ジョカと同じ目線になった。  
「お前の母親は、誰とも知れない男の子供を産んだ、汚らわしい娼婦だよ。  
 アス=ラン14世の妃であったというのにな。」  
ヌアラは瞼裏で記憶を反芻する。ヌアラがアス=ラン14世の身体に乗り移った時から、  
14世の記憶を通して、カルディアで起こった様々な事件をヌアラは知っていた。  
ジョカの母親の一件も、そのひとつだ。  
「可哀相に、王の怒りに触れて牢の中に入れられてしまった。  
 殺されなかっただけマシかもしれんが・・・・・最後には気がふれて、  
 何も分からなくなってしまっていたよ。哀れな女だ。」  
ジョカは鋭い声を上げた。  
「あんたは何を言ってるの、ヌアラ王!」  
 あたしの父親? あたしの母親? それは一体、誰の事だ?!  
ヌアラは淡々と事実を告げた。  
「お前は狂った女の腹から生まれた子供だという事だよ。お前と、フーギはな。」  
少女の顔は、強い驚きと戸惑いに支配されていた。ジョカは震える唇で呟いた。  
 
「うそ、フーギが・・・・・・?」  
「知らなかったのか? お前とフーギは双子の姉弟だったのだよ。」  
少女は微かに目を伏せて、ヌアラから視線を外した。自身の動揺を鎮めるように、小さく息を吐く。  
「ううん、そんな気は・・・してた。だって、あいつ、なんか憎めなかったから・・・・。」  
ヌアラはジョカの頬に触れた。顔をこちらに向かせる。  
少女の表情は硬い。ヌアラは笑いと嘲りの言葉が込み上げて来るのを感じた。  
「―お前、フーギと寝たのか?」  
「な、っ・・・・!」  
「お前、女になってないのか? ふうん。てっきりフーギと・・・・。」  
「ふざけないで!!」  
ヌアラは直前までジョカに顔を近づけてくる。濃い緑の双眸がジョカの目の前にあった。  
ほんの数日前まで、ナタクであった者の顔だ。  
ナタクの姿をしたものが、今、笑いながら、あたしにひどい言葉を投げかけてくる。  
 ヌアラはジョカの髪を強く掴み、顔を仰け反らせると、唸るように言葉を続けた。  
「あまり生意気な口を聞くなよ。俺は今、お前を殺したくて仕方が無いんだ。」  
ヌアラは瞳に凶暴な光を宿らせる。激しい憎しみをに露にした。  
「首をねじ切ってやろうか? 腹を捌いて、臓物をあふれさせるか?  
 手足を切り落として、生きながら犬に喰わせようか?」  
ヌアラはジョカの髪の毛を掴んだまま、強く揺さぶった。頭皮がちぎれそうな痛みがジョカを襲う。  
「お前という存在が、二度とこの現世に現れないように、幾重にも封じてやる。  
 体も魂もバラバラに切り刻んだ後でな。」  
ジョカは痛みに耐えながら、ヌアラに向かって叫んだ。  
「だれが・・あんたなんかに殺されてやるもんかっ!」  
「ほう?」  
 
ヌアラは残忍な笑みを浮かべたまま、ジョカの頬を平手打ちした。小気味良い音が響いた。  
「お前に俺を倒せるのか? ひとつの聖痕も持たないお前に。」  
ヌアラは更にジョカを追い詰める。  
「何の力も持たないお前が、俺を倒すと言うのか?   
 俺を倒せば、ナタクを助けることもできなくなるぞ。」  
ジョカはギリギリと奥歯を噛み締めた。怒りに震えながら、ヌアラに呪いの言葉を吐く。  
「許さない・・・・いつかあんたを殺してやるわ。  
 いつか絶対、あんたの息の根を止めてやるわ・・・・!」  
ジョカは力の限りに叫んだ。  
「あたしに出来なくても、いつかあたしの子孫が、あたしの血を引いた者が、  
 あんたを打ち倒すわ、ヌアラ王!」  
ヌアラは容赦なく、ジョカの腹に膝を打ち込んだ。  
「面白い、出来るものならやって見るが良い。」  
ジョカは呼吸が止まるかのような衝撃を受けた。息を吸おうと懸命に口を開く。  
が、その口は、ヌアラの唇によってあっけなく塞がれた。じっとりと唾液を含んだ舌が、  
口中に侵入してくる。ジョカは身を離そうともがいた。  
ヌアラはゆっくりと舌を絡めた。  
「ふ・・・っ!」  
ヌアラは髪の毛を掴む手の力に強弱を加えながら、片手で軽々とジョカの頭を押さえた。  
もう片方の手は下に伸び、ジョカの下着に手をかけた。  
「いやっ・・・・!」  
ヌアラはジョカの首筋を舐め上げた。柔らかな肌に何度も歯を立てる。  
幾筋もの唾液の跡が、ジョカの身体を濡らした。  
 
「お前、ナタクの事を好いていたのか?」  
耳をかじり、ヌアラは低く囁いた。軽くジョカの下腹をなぜると、  
指を秘所に潜り込ませる。痛い!  
「・・・・こうして、俺に抱かれたいと思っていたのか?」  
そう、耳元で問いかける声は、まぎれも無いナタクのものだ。  
ジョカは涙で視界が滲んでいくのを感じた。  
ナタクの事を好きだと、はっきり意識していた訳ではない。ただ、どうしてか、気になって。  
ナタクがあたしたちを避けるように行動していても、不思議と悪い人だとは思わなかった。  
――それなのに。  
ヌアラは更に、もうひとつの指を秘所に入れる。ジョカの体が大きく跳ねた。  
「・・・っ!」  
膣壁をこすられる度に、腹の奥底から、異様な感覚がせり上がって来るのをジョカは感じた。  
それは、決して快感などと名前のつくものでは無かった。  
自分自身がどうなってしまうか分からないという、根源的な恐怖。  
 ヌアラはジョカを壁に押し付けると、腰を掴み、片足を高く持上げた。  
硬いものが入り口に触れる感触。次に予想される痛みにジョカは震えた。  
優しい愛撫など一切無く、ヌアラはジョカの中に一気に押し込んだ。  
細い悲鳴がもれた。  
 ジョカは両目をぎゅっと閉じていた。ヌアラの体が身動きした。  
次の瞬間、猛烈な吐き気が襲ってくるのをジョカは感じた。  
気持ち悪い・・・気持ち悪い! これはきっと、悪い夢だ!  
飛びそうな意識は、しかし、高圧的な男の声によって現実に引き戻される。  
 
「もっと声を出せよ。」  
背中にあたる、冷たい石の感触も、今あたしを犯しているこの男も、  
全てが変え様の無い現実そのものだ。  
ジョカは必死に歯を食い縛った。低く嘲笑う声がかすかに聞こえた気がした。  
「もっと声を出せよ、俺をもっと楽しませてみろ。」  
ヌアラは容赦無く腰を打ちつけた。  
体を引き裂かれる痛みに、涙が止めどなく溢れていった。  
ジョカは思わずヌアラの肩を掴んだ。爪を強く食い込ませる。  
「俺の子供を産むか? ジョカ・・・・。」  
ヌアラは笑いながら告げた。少女の瞳が驚愕に見開かれる。  
「お前は言ったな。お前の血を引いた者が俺を打ち倒すと。」  
「・・・やめて。」  
ジョカは弱々しく呟いた。  
これ以上、この男の喋ることなんて、何ひとつ聞きたくない!  
「俺とお前の子供は、お前の憎しみと呪いを聞いて、さぞかし俺を憎む事だろうな。」  
ヌアラの動きは激しさを増した。  
「・・・・お前は、我が子に呪われた祝福を与えることになるだろうよ。  
 女神ダーナが、祝福の槍を渡したように。」  
ジョカの中に大量の精が解き放たれた。  
「いや・・や・・・いやぁああああっ!!」  
身体の中に、生温かな熱がじんわりと広がっていった。  
ジョカはゆっくりと意識を手放していった。  
 
 BAD END  
 
 

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