DIOの夜伽を務めた翌朝は、寝室のすぐ横にある浴室で体を洗い流すのが習慣となっており
この日の朝も二人分の衣服ときわどい下着が籠に投げ込まれていた。
広い窓からきつい陽射しが差し込み、濡れた白黒のタイルに反射して眩しいほどだ。
豪奢な浴室の中、真っ白な泡で満たされた猫足のバスタブに浸かる二人の女がいる。
湯の中で互い違いに長い脚を伸ばし、向かい合ってくつろいでいた。
身体が湯に溶け出すような事後の気怠さに身を任せながら、マライヤとミドラーは
昨夜の情事の痕跡を洗い流していた。
ふと、マライヤが傍らのテーブルに手を伸ばし、おもむろに煙草の箱から一本取って火を点けた。
副煙流がバスタブの湯気にまぎれてかき消え、紫煙が心地よく彼女の肺を満たす。
「煙たいわ、こんな所で煙草吸わなくてもいいじゃあない」
「昨夜から吸ってないから……ああ、天国みたい、最高」
「あんたDIO様の前では吸わないのよね、カマトトぶって」
「別のモノは吸ってるけどね」
軽いジャブを交わしながらも、マライヤが美味そうに煙を愉しむ様子が気になったのか
ミドラーは彼女の口元とテーブルの上の煙草をちらちらと交互に見ている。
試してみる? と自分の煙草を咥えさせてやると、案の定ミドラーは煙をまともに吸い込んでしまい
涙目になって咳き込んだ。
してやったり、とマライヤがチェシャ猫のように唇を歪めて笑う。
「……こ、このアマ……! 何してくれてるのよッ!!」
「あらぁ? ゴメンなさいね、子供にはまだ早かったかしら?」
毒づきながらもまだ苦しそうにしているミドラーに、お詫び代わりに口付けると
抗議するように下唇を噛まれ、煙草の味を消そうとするように舌を絡ませてきた。
唇を離した後に見たミドラーの顔は、意外にも怒りではなくきょとんとした表情だった。
「どうかしたの?」
「なんでかしら、マライヤの唇、煙草吸ってるのに苦い味がしないわ」
「……じゃあ、どんな味?」
「どんなって言われても……」
いつもは主を巡る憎らしい恋敵のミドラーだが、不思議そうにしている無防備な姿が
今は妙に可愛らしく思える。
泡に隠れていない上半球から鎖骨、首筋に主が刻んだ印がいくつも散らばっていた。
桜色に上気していてもなお白い肌に残された痕が目を引く。
いくら強く吸い付いても痕が目立たない褐色の肌では、こうはいかない。
憎らしい反面、羨ましく思ってマライヤはその上から口付けた。
昨夜愛された箇所に再び触れるその唇に、ミドラーが生娘のように身を固くする。
「ねえ、まだいけるでしょ?」
「……ほんとに淫乱ね、あんたって」
ミドラーの返事とは裏腹に、彼女の吐息はすでに官能の色を帯びていた。
「マライヤのここ、ふわふわで猫みたいね……」
タオルを敷いた床の上に裸のまま寝そべるマライヤの上で、同じ姿のミドラーが四つん這いになっている。
ちょうど互いの目の前に相手の性器が見える体勢だった。
肌とは対照的な薄い色の茂みを指先で梳き、子猫の背のようなそれに頬擦りする。
白い指先をあてがってそっと左右に開くと、褐色の奥に鮮やかな珊瑚の色が見えた。
先程まで十分に愛撫し合っていたので、そこは自分と同じく熟れて蜜を含んでいた。
ミドラーはためらいなく、甘い汁の滴る果実にでもしゃぶりつくように唇を寄せ
雌芯にキスをしてその肉感的な唇で挟み込んだ。
「あっ、ちょっと……やだっ」
気持ち良いけれど好き勝手にされるのもしゃくなので、どうしてやろうかと考えながら
覗き込んだミドラーの性器は、どちらかと言うと小ぢんまりしていて毛もごく薄く
昨夜あれほど荒淫して、後ろの穴までさんざん使われたのが信じられない慎ましさだった。
「もう少し腰下ろしてちょうだい……」
「……ひぁ、ぁっ!」
いきなり剥き出しの粘膜を舐められて、ミドラーは思わず声を上げた。
マライヤは白桃のような尻を掴み、達者な舌で襞を舐め上げ、ぷっくりした雌芯を弄った。
その舌は猫のものと違ってビロードのような滑らかさで敏感な箇所を這い回る。
技巧でも締まりでも負けていないつもりだが、自分が男だったら直接具合を確かめることも出来るのに、と思いながら
マライヤは昨夜ここを堪能した主の名残りまでも舐め取ろうとした。
「あんたのここ、お上品ぶってるけど淫乱の味がするわ…… んっ、はぁんっ」
「ぁあっ、何よっ、マライヤだって後ろもいじめて欲しそうにしてるくせにっ」
舐め合いながらも言葉の剣を交わす器用さに、二人の技巧の程が窺い知れる。
ふやけるほど舐められて唾液と愛液に蕩けた性器だけでなく、尻の谷間の小さな窄まりも
一度刺激されると疼いてどうしようもなくなった。
前も後ろも太いもので埋めてもらえないのがもどかしくてたまらない。
舌と唇のみの生殺しのような愛撫が、マライヤを余計に燃え上がらせる。
途中で止めたら許さない、とでも言うように張りのある腿でミドラーの頭を挟み込んだ。
朝の光に何もかもを晒して、濡れた二つの肢体が絡み合いながら蠢いている。
二人は主に奉仕するのと同じくらいの熱心さで舌を使い、互いを追い上げていった。
やがてどちらのものとも分からない、喘ぐような悲鳴が一際高く浴室に響いた。
情欲の熱が冷めるまで二人は身を寄せ合って荒い息をついていた。
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「……口直しにまた煙草が吸いたくなったわ」
冷たい床に寝そべったまま、いつにも増して気怠そうにつぶやいたマライヤだったが
先にあがるわね、とバスローブを羽織るミドラーの声にはっと我に返った。
起き上がってふと見ると、煙草が箱ごとバスタブの泡に浮いていた。
これでは水浸しになってもう吸えないだろう。
マライヤの罵声はドアに遮られてミドラーには届かなかった。
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