※注意※
・5部の時点でDIOがジョルノの父として普通に生きてる
・本番なし寸止め
DIOは寝ぼけ眼をこすりながら階段を降りていた。
まだ夕方前だというのに階下の物音で目覚めてしまい、棺桶から起きてきたのだった。
客でも来ているのか?とジョルノの部屋を覗くと、そこには息子の他にもう一人少女がいた。
「ンンン? 何だあの娘は?」
DIOには見覚えがあった。確かジョルノの部屋で見つけた写真の少女だ。
ギャングのボスの一人娘で、組織を乗っ取るため彼女に取り入っていると息子は言っていたが
付き合っているのは満更それだけが理由でもないようだった。
しかしDIOにとってそんな事はどうでもよかった。
ここしばらく息子がスタンドで作った人工血液しか口にしていない中、目の前に新鮮な『食料
』を連れて来てくれたのだ。
今のままでも不都合はないが、やはり血は生きた人間から直に摂取するのが最もなじむ。
みすみす指をくわえて食い逃す手はない。
それにはまず、どうにかして口うるさい息子を追い出さなくては……
トリッシュにコーヒーを出そうとキッチンに立ったジョルノは、戸棚を開けて怪訝な顔をした
。
常備してあるはずのコーヒーフィルターがどこにもない。
探してみたが見つからず、あいにく代わりの茶葉も置いていなかった。
「すみません、ちょっとフィルターを切らしたみたいで……
すぐに買ってくるので、退屈だったら本でも読んでいてくれませんか」
「まあ、そんなに気を遣わなくてもいいのに」
じゃあコーヒーを楽しみに待ってるわ、とトリッシュはジョルノを見送った。
もしこの時、彼女が何気なく視線を上に向けていれば
指の力だけで天井に張り付いた金髪の男に気づいていた事だろう。
時間を止めてその僅かな時間に部屋に侵入するのは造作もないことだった。
無論フィルターを隠したのもDIOの仕業だ。
首尾よく息子を追い出したDIOは音もなくトリッシュの背後に回り、何気なく声をかけた。
「もし」
「!?」
いつの間にかそこにいた金髪の偉丈夫にトリッシュは飛び上がるほど驚いた。
誰なのこの男は!? もしかして不審者?
普通なら大声を出すところだが、圧倒的な威圧感に身動きさえできず、ただ震える事しかでき
なかった。
「ゲロを吐くくらい怖がらなくてもいいじゃあないか……恐れることはない……
君はジョルノの友達だろう? ぜひ話がしたい……」
「ジョルノ……!? あなたは……?」
「わたしは ジョルノの 父 親 だ」
いつも息子が世話になっている、という後半の言葉はすでに耳に入ってはいなかった。
トリッシュはあまりの衝撃に口を開けたまま唖然としていた。
自分の父も相当若作りをしている方だと思うが、目の前の彼はどーみても間違いなく20代だ。
その若々しい外見とは裏腹に態度や物腰には威厳が感じられる。
(でも……たしかにこの人ジョルノと似ているわ)
陽の光そのもののような豪奢な金髪もそうだが、落ち着いた話し方もどことなく優雅なしぐさも瓜二つだ。
しかし彼とジョルノは何かが決定的に違っていた。
その『何か』――物語の中にだけ存在するはずの『吸血鬼』が目の前にいる事に、トリッシュは気付いていなかった。
DIOは『食料』を冷静な目で検分していた。
容姿も合格点、肌の色艶も良く、何より健康そうだ。
すぐに吸い尽くしてしまうのは勿体無いと考え、DIOはソファに腰掛け隣に彼女を招いた。
「ジョルノが帰るまでの間、話でもしないか? 君のことも知りたい」
「あ……」
ごく自然な動作で大きな手が頬に添えられた。
顔を引き寄せられ、息がかかるほど至近距離で見詰められる。
強烈なカリスマに当てられ、まして男に免疫のないトリッシュに逃れる術はなかった。
(どうしたの? あたし…… ジョルノのお父さんに……こんな気持ち……)
葛藤しながらも、トリッシュはDIOの顔から目が離せない。
この唇から発せられる声をもっと聞きたい、この手にもっと触れられたいと思い
あたしったら一体何を考えているの――と恥ずかしくなる。
その思いを見透かされたように髪を撫でられ、トリッシュの頬がさっと紅潮した。
「いい子だ」
「ん……」
潔癖症で知らない人に触れられるのを嫌がるトリッシュだったが、今はされるがままになっている。
DIOの唇が秘密でも囁くように耳に近づき、触れるか触れないかの所で敏感なトリッシュが声を上げた。
「いやぁ……!」
嫌悪ではない甘い声は、続きをねだるような響きを帯びていた。
桜色の耳に口付け、牙でごく軽く甘噛みしてやると息を詰めて堪える。
DIOはその耳の内側までも犯すように舌を這わせ、巧みに攻め立てた。
「ひっ……あぁ…… やめてぇ……」
「嘘は良くないな」
反応を愉しみながら言葉でも嬲ってやると、耐えられないように眼に涙が浮かんだ。
しかしトリッシュは執拗な愛撫を受けながらも、DIOの力強い腕から逃れようとはしない。
愛撫とは言っても愛情からの行為ではなく、DIOは『食事』がより美味しくなるように手間をかけているだけの事だったが。
いつの間にかはだけられた胸元に冷たい手が這い、子猫にするように喉の下を撫で上げられる頃には
トリッシュは彼氏の父にこんな事をされている異常さも疑問に思わないほど昂ぶっていた。
すっかり上気したその肌の下に息づく血の脈動を想像してDIOは舌なめずりする。
どうなっているか確認してやる――とでも言うように、あろう事かスカートの中に滑り込んできた手の感触にトリッシュは身震いした。
「んんっ……!!」
ジョルノに操立てしているつもりなのか、それとも蕩けてしまった事を悟られたくないのか
腿を閉じ合わせてDIOの指を必死に拒もうとするが、いずれ自分から求めだすのも時間の問題だった。
(ふん……ジョルノの奴め、この様子だとまだ手を付けていないのか)
恥らう反応と先ほど味わった肌から間違いなく生娘だとDIOは判断した。
これは期待できそうだと柔肌に牙を突き立てようとした、まさにその時
ボッゴォ
黒光りするクワガタムシがDIOの頭を突き破って這い出してきた。
「危なかった…… まさか昼間に起きてくるとは……」
扉を開けて現れた人物は先ほど戻ってきたジョルノだった。
さすがに不死身に近い吸血鬼と言えど頭部へのダメージは深刻だったようで、
床に倒れ伏したDIOは震えながらもなんとか起き上がろうとする。
「頭痛がする……吐き気もだ…… こ……このDIOが頭を破壊されて立つことができないだと!?」
苦しみ悶える父を無視して、ジョルノはソファでぐったりしているトリッシュの服を整えてやった。
「100歳以上も年の離れた女の子をたぶらかさないで下さい」
「何を言うか、お前が目を離したのがいけないのだろうが」
正気づいたトリッシュがジョルノに気付き、まだかすれた声で名前を呼んだ。
ジョルノも彼女の無事に安心してか、そっとトリッシュの手を握る。
ゴールドエクスペリエンスも発動していないのに背景には花びらが舞っていた。
吸血鬼に襲われる乙女を救う王子様、というベタなシチュエーションそのままに二人は見詰め合う。
結果的にDIOはとんだピエロを演じてしまったらしい。
「やれやれだ、邪魔者は退散するか」
ジョースターの末裔の台詞を真似、DIOはつまらなさそうに部屋を後にする。
常人なら死ぬような頭の損傷はいつのまにかふさがっていた。
襲われかけた事について、トリッシュは意識が朦朧としていてよく覚えていないようだったので
貧血で倒れたのを見つけた父が介抱していたとジョルノは説明しておいた。
それでも淫靡な記憶は無意識下に残っているらしく、トリッシュは別れ際にこう呟いた。
「ジョルノのお父さんって……素敵な方ね」
ジョルノが屋敷の全部屋に日当たりのいい大きな窓をつけるリフォームを決意したのは、その時だった。
(終わり)