家々の灯りもおち、静寂が支配し始めた深夜。人通りも絶えた町を横切る影がひとつ。  
こんな時間にスケッチブックを小脇に抱え、すたすたと足早に歩いているのは誰あろう 漫画家 岸部露伴であった。  
「まったく、ミネラルウォーターを切らすなんてぼくとした事が迂闊だったな。この間、康一くんとカメユー  
 デパートに行った時ついでに買っておくんだった。 …ふん、まあいい今日は原稿も上がって機嫌がいいし  
 散歩ついでに夜の街を観察しておこう」  
鼻歌交じりで歩き回り 急に立ち止まったかと思うといきなりスケッチをしはじめる。傍からみれば不審者にしか  
見えない。幸運にも誰からも見咎められる事はなかったが、通報されてもしかたない怪しさだ。  
 
 
ふらふらと寄り道をしながら それでも目的のコンビニ『オーソン』へと辿りついた。  
暗い夜道に煌々と灯りを照らす。こういうところは得てして 誘蛾灯に誘われた虫が集まるが如く 素行の良くない  
ものどもが集まってきたりするものだが、今この時間 客は誰もいない。いや・・・  
(…あれは…)  
露伴は店内に見知った顔を見つけた。ドアを押し開け店内に入る。ちょっと寒いほどに冷房が効いている。  
店員はあんな半袖で寒くないのか?まあいいぼくには関係ないからな…それよりも…  
雑誌コーナーに佇む『そいつ』の背後にそっと立つ。立ち読みに集中していて露伴の存在に気付いていない。  
後ろから覗き込むとどうやら少女漫画を熟読しているようだ。  
「おい、こんな所で何してるんだ?」  
「きゃああぁぁあぁぁ!!」  
もの凄い叫び声だ。さすがに焦った露伴は『そいつ』の口を慌てて押さえた。  
「静かにしろよ!ぼくが何したって言うんだ」  
「…あ 露伴ちゃん 脅かさないでよ」  
杉本鈴美は大きな目を見開いてそう言った。  
 
それはこっちの台詞だ、と眉をしかめレジの方を気にする。しかしアルバイトの店員はレジの前で前髪を弄りながら  
つまらなそうな顔で立っているだけだ。  
店員には聞こえなかったのか…?  
「大丈夫よ あの子にはあたしは見えてないから」  
そういって露伴の顔を覗きこむように見上げる。なんだかちょっと得意げな所が癪に障る。  
杉本鈴美は所謂『幽霊』というヤツだ。15年前に殺され、それ以来この辺りに留まっている。  
露伴の命の恩人でもあるのだが、露伴本人に当時の記憶がぽっかりと抜けている為 なんだか実感が湧かない。  
その恩人の幽霊と、こうしてコンビニで立ち話をしているというのも間抜けな話だ。  
 
「なんだよ じゃあぼくは誰もいない所で一人で慌てたり、話しかけたりしてるように見えてるって事か?」  
「そうね そういう事になるわ」  
冗談じゃない、変人扱いされたらどうする。  
そう憤ってはいるが、自分がすでに相当な変人である事にはたぶん一生気付かない。  
気付いた所でどうもしないだろうが。  
 
とりあえず変人扱いされない為に口をつぐみ、目的であるミネラルウォーターを買う。鈴美は露伴の後を  
付いてくる。そのまま店の外へ出た。  
「こんな時間にこんな所で いったい何をしているんだきみは?幽霊がコンビニで立ち読みなんて聞いたことないぜ」  
「あら いいじゃない立ち読みぐらい 幽霊って案外ヒマなのよ どこにもいけないし」  
「だからって何もこんな夜中にすることないだろう」  
「露伴ちゃんこそこんな時間になにしてるの?ただの買い物?スケッチブック持って?」  
「うるさいな ぼくの事はどうでもいいだろ」  
そう言って鈴美に背を向け歩き出す。その向かう先はいつの間にか現れた『振り向いてはいけない小道』  
「…露伴ちゃん?」  
「送ってってやるから早くしろよ ぼくだって暇じゃないんだ」  
…幽霊とはいえ一応女の子だからな。  
 
すたすたと先に立って歩く露伴の背中を鈴美は小走りになりながら追いかける。  
「露伴ちゃん ちょっと待って!速いわよ」  
(…振り向いちゃいけないのは帰るときだけだったな…)  
『ルール』を確認してから振り向く。  
「幽霊なんだから こうスーッと滑るように移動するとかできないのか?」  
憎まれ口を叩きながらもちゃんと立ち止まって鈴美が追いつくのを待つ。  
「そんなのできないわよ 幽霊だからって一括りにしないで!」  
ぷりぷりと怒りながら露伴の目の前に立つ。  
「最初にここで会ったときだって人を怨霊みたいに言って…」  
唇を尖らせてぶつぶつと文句を言っている。  
「しかたないだろ いきなり幽霊が目の前に現れたら誰だってビックリするさ」  
…沈黙。不満はあるようだが納得したようだ。  
 
鈴美が急に露伴の腕を取って歩き出した。幽霊の癖に触れた感触は人間そのものだ。  
「お、おい!なんだよ!」  
「送ってってくれるんでしょう?はやく行きましょ」  
そう言ってぐいぐいと引っ張っていく。露伴の腕は鈴美の胸にちょうど押し付けられるような形になっていた。  
ちょ ちょっと待ってくれ…!鈴美からは見えないが露伴の顔は真っ赤になっている。  
ポストが見え、鈴美の家の前についた。  
「さあ着いた ありがとう露伴ちゃ…」  
言って振り向こうとした時、いきなり抱きしめられた。  
「ろ 露伴ちゃん!?」  
露伴は一瞬固まっていた。赤面しているのを見られたくなかったからと言って咄嗟に抱きしめてしまった自分が  
信じられなかった。  
(何をしてるんだぼくは!これじゃ余計ゴマカせないじゃないか!!)  
真っ赤だった顔がさらに紅く染まる。  
 
胸の中の鈴美がもぞもぞと動いたかと思うと きゅっと抱きしめてきた。  
「…露伴ちゃん ほんとにおっきくなったね…」  
小さな子供に語りかけるようなその声音に すっと冷静さを取り戻す。  
自分があの時の小さな子供から大人になって、こうしていられるのも鈴美のおかげだ。  
そして同じ年月を鈴美はここで一人、愛犬のアーノルドと共に戦ってきた。殺人鬼を止めるために。  
それはいったいどれほどの孤独だろうか。  
それを思うと切なく胸が詰まる。  
胸元を見下ろすと鈴美と目が合った。  
全てを包み込むような暖かい眼差し。少女の姿でありながら完璧な母性を併せ持った聖母のようだ。  
 
ふわりと微笑み少女は露伴の頬に手を差し伸べる。  
「…泣いてるの? もう 泣き虫はあいかわらずなのね」  
知らず、涙が零れ落ちていた。  
「…べつに 泣いてなんかないさ」  
「ふふ 嘘ばっかり」  
涙を拭う指はこんなにも暖かいのに。  
両腕でしっかりと抱きしめた。失いたくないと思った。もう二度と  
 
頬に当てられた手に自分の掌を重ねた。柔らかい手が微かに唇の端に触れる。  
そしてその手をぐっと引き、彼女に深く口付けた。  
抵抗もなくその舌を受け入れる。舌を絡ませると不器用ながら鈴美も舌を伸ばしてくる。  
舌を吸い 唇をはむ。甘く密やかな吐息が漏れた。  
「…露伴ちゃん…こんなとこで 恥ずかしいわ…」  
言われて気が付く。  
そういえばここは屋外だ。いくら人がいないからとはいえ道路の真ん中で、というのは憚られた。  
「じゃあどうする?家の中には這入れるのかい?」  
ふるふると鈴美は首を振る。這入れないって事か。それじゃあどうするかな…  
思案していると、鈴美は露伴の手をとり 門を開け庭を囲む塀の中へと進んでいった。  
「家の中には入れないけど」  
そう言って道路からは死角になる場所へ導く。  
 
「…こんな所でいいのか?周りからは見えないが…」  
庭木を見上げながら問いかけた。  
「しかたないわ どこにも居場所なんてないんだもの」  
笑うがその瞳には悲しさがつきまとう。  
まったくぼくはなんて馬鹿なんだ 彼女にそんなことを言わせるなんて。  
強く抱きしめ 口付ける。身体をぴったりと密着させる。ほんの少しの隙間も作らないように。  
唇から首筋へ 移動しながらたくさんのキス。くすぐったいのか身を捩じらせる。  
耳たぶを甘噛みすると微かに身体を震わせた。  
ボタンを外し胸元をはだけさせる。月明かりに白い膨らみが影を作った。  
陶器のように滑らかなその曲線を下から包み込むように持ち上げた。  
柔らかいその胸に鼓動は感じられない。  
――やはり彼女は死んでいるのだな――  冷たいものが背筋を走る。ぞくりと髪が逆立つような感覚。  
悟られぬように彼女の胸へと顔を埋めた。  
胸の先端へゆっくりと舌先を這わす。掬い取るように舐めるとビクリと身体を揺らした。  
唇で柔らかく噛み 舌先で刺激する。軽く吸い付くと甘い声が漏れた。  
 
鈴美は庭の隅に生える木に背中を預け、体重をもたせかけた。フラフラとしてまともに立っていられない。  
すると露伴の手が膝元まで伸び、スカートの中に侵入してきた。  
内腿をゆっくりと撫でられ、その指先が下着に触れた。思わず腰が引ける。  
「…怖いか?」  
「…怖くなんかないわ 露伴ちゃんなら怖くない」  
いつの間にか大人になっていた幼馴染の少年は目元で優しく笑った。  
下着に指先がかかり、少しずつ降ろされていく。  
片足を上げ、下着から足先を抜く。するともう片方の膝に引っかかって完全に脱がされる前に止まった。  
指が茂みにさわさわと触れる。そしてするりと中心に滑り込んできた。  
粘膜にその繊細な指先が触れると、身体が熱く熱を持ち何かが溶け出した。  
 
「…あ…あぁ…」  
目を瞑り与えられる快感に身を任せる。熱く火照る身体に心地よく風が吹いた。  
蕾を抓むように刺激されまるで電気が走ったようにがくんと身体が揺れる。  
「…鈴美…」  
耳元で名前を呼ばれただけ。それさえも快感に変わる。  
露伴の首に腕を回し、必死でしがみつく。  
「ぁ…露伴ちゃ…あん……んん」  
ぬるり と身体に這入ってきた指に切ない声を上げた。ぬるぬると指は自在に動き、その度に腰が浮き上がる。  
溢れ出す蜜は太腿にたれ、脚を伝っていく。  
愛撫を続けながら露伴は片手で自分のベルトをはずした。そしてすでに膨張した自分のモノを外気に晒す。  
初めて目にする男性自身に鈴美は震えた。それは想像していたよりずっと大きくて肉感的だった。  
(あんなものが入るの?私の中に)  
不安から露伴の首に回した腕に不自然にちからが入る。  
それに気付いて露伴は鈴美の目を覗き込んだ。  
 
「やめたいならそう言えよ 乗り気じゃない相手を無理やり、なんてぼくの趣味じゃない」  
「ううん そうじゃないのよ ただちょっと…ちょっと怖かっただけ… もう大丈夫」  
そう言って鈴美は笑顔を見せる。が、それが作られた笑顔だと露伴は見抜いていた。  
「無理するなよ 初めてなんだろ?心の準備ができてからした方がいいと思うぜ」  
すると鈴美は困ったような顔でほんの少し逡巡した後、露伴のモノに手を伸ばし握った。  
「うッ!!」  
不意打ちで敏感になっているモノをいきなり握られ、露伴は声を漏らした。  
「お、おい…」  
「いいの やらせて」  
鈴美は握った手をそのまま上下に動かしはじめた。  
 
他人に触れられるのはどれくらいぶりだろうか。  
岸部露伴には今現在、特定の恋人はいない。過去に付き合ってみた事はあるが、ただただイライラさせられる  
ばかりだった。  
プライベートにずかずかと上がりこみ、人の予定をことごとく狂わせようとする。そしてそれが当然という顔を  
するのだ。そんな暴挙をこの岸部露伴が許すと思うのか?  
結局『仕事と私、どっちが大事なの!?』といういかにもありがちな台詞を吐く女達に  
『仕事に決まってるだろ 自分がどれほどのものだと思ってるんだ?ぼくが漫画以上に大切に思っているものなど  
 ない!!』と言い切って背を向ける。  
それが常だった。  
精神的に他人に依存したりしない性質なのでそれで寂しいと思う事もなかった。困るのは性欲処理ぐらいか。  
そんなものは自分で何とかすればいいだけの話で、それと引き換えに面倒な人間関係を築くなどもっての外だった。  
 
 
男根の先は濡れていた。鈴美はそれを広げるように先端を掌で擦る。  
「うッ…く…」  
露伴の声が聞こえる。  
(気持ちいいのかな 露伴ちゃん…)  
溢れ出た自分の蜜を掬い取り、露伴の男根にぬりつけた。ぬるぬると滑らかにすべる。その感触がまた卑猥だった。  
ぐっと腕を握られる。露伴は少々荒くなった息を整えて言った。  
「…これで最後だ 止めるならいまのうちだぞ」  
鈴美はその言葉にふわりと微笑み、返事の代わりに深く口づけた。  
強く抱きしめ、舌を絡めあう。引き裂かれた恋人たちがその愛を確かめるように。  
片方の膝を持ち上げられ、鈴美の秘所に男根の先端があてがわれる。  
そしてゆっくりとそれは侵入してきた。  
「んッ…くぁッ……はッあ…」  
自分の中身が押し広げられる感覚。痛みもあったがそれよりもその圧迫感のほうが怖かった。  
「力を抜いて…そうだ 辛かったら言えよ 努力はするから」  
その言い方に緊張が解ける。するとさらに奥まで熱いもので満たされた。  
 
「…ぁ…これで全部…入った…?んん…」  
浅く呼吸を繰り返しながら鈴美が言う。  
「いいや これで…」  
ぐっと腰を入れる。  
「んあッ!あ…はぁ…」  
「…全部だ」  
露伴は鈴美が落ち着くまで待った。そしてそれを見て取るとゆっくりと動き出した。  
 
最初こそ苦しそうな表情をしていたものの、だんだんと慣れてきたのか甘い声が混じるようになった。  
「…大丈夫か…?」  
「んッ…あッ……ん だいじょ…んッは 大丈夫…ッ」  
少しずつ速度を速める。焦らずに、ほんのちょっぴり。  
「あぁ…ぅんんッ…はぁッ」  
鈴美の膝がくがくと揺れる。立ったまま、しかも片足だけではいくら樹に寄りかかっているとはいえ辛い体勢だ。  
それに気づいた露伴はいったん身体を離す。  
鈴美の身体を樹の方に向かせ、後ろから抱きしめる。そしてそのまま挿入した。  
 
「ぁあッ!あッあッ はッんんッ」  
激しく喘ぐ声が誰もいない路地に響く。  
鈴美は樹に抱きつくように腕を絡ませ、崩れ落ちそうになる身体をなんとか保たせていた。  
揺れる腰は突かれているためか それとも自ら動かしているのか。  
とろとろと溢れだす蜜はしろい脚を流れ落ち、膝に留まる下着に染みを作った。  
鈴美の膣内はきつく、痛いほどに締まる。その圧迫感に露伴は耐え切れず言った。  
「…そろそろいいかい?ぼくはもう限界なんだが…ッ」  
「ッいいわ 露伴ちゃん 出してあたしの膣内に…ッ」  
涙を浮かべてそう叫ぶ。  
腰の動きが早くなった。打ち付けられる肉は歓喜に沸く。全てが溶け出して一つになってしまったかのような感覚。  
それが錯覚だとわかっていても喜びに胸が打ち震えた。  
「…ッ露伴ちゃん ろはんちゃ…ッああッあ はッあぁああぁぁ―――!!」  
強く強く締め付けられ、露伴はその暗い孔へと自らの精を放った。  
 
「…露伴ちゃん 泣いてるの…?」  
後ろから抱きしめられたまま、鈴美は問いかける。  
その涙は『何もない』ことへの涙。いくら精を放とうと適う事のない『生命の誕生』。  
失われたものはもう戻らない。いま腕の中にいるきみはこんなにも暖かいのに。  
 
「…泣いてなんかいないさ」  
 
「うそつきね 露伴ちゃん」  
 
 
そういって笑う彼女はまるで聖母のように美しかった。  
 
 
 

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