「大きくなったね、露伴ちゃん。昔はあんなに小さかったのに」  
 
陽光のような、その朗らかな笑みが  
煤に埋もれていた過去の記憶を そっと撫でて  
浮かび上がる・・・眩しくて柔らかな、あの頃の景色  
 
「思い出してくれた?フフ、泣き虫露伴ちゃんが今では立派なマンガ家さんか・・・」  
 
そう、あの頃のぼくは。とても無力だった。  
 
 
―――――”あの時”だって  
 
 
「・・・気にしてるの?」  
「なんでぼくが気を病まなくちゃならないんだ。あいつの狙いは初めから君だった。当然、無関係のぼくは逃がしてもらうのが筋ってもんだろう」  
「あらあら、ひねくれ屋さんなのは今も同じなのね」  
 
そう言って、くすくすと小さく笑う。  
どうやら彼女の前では、ぼくの心は見透かされてしまうらしい。  
 
(気に食わない・・・スタンド使いでもないくせに)  
「あ、そのむくれた顔も面影あるなっ」  
「・・・・そろそろ失礼するよ」  
 
彼女の言葉をさらりと受け流すと、スケッチブックを畳みすっくと立ち上がった。  
 
「いい参考になった?出口まで送ってくわ」  
「フン」  
 
顔もまともに見ないまま、ぼくは早足で歩き出す。  
 
「待ってよ、露伴ちゃん」  
 
背後からぱたぱたと駆け寄ってくる小さな足音。  
その音から逃げ切ろうと、ぼくは構わず歩き続ける。  
 
「あっ」  
 
すると、リズミカルな足音が急に途切れ、小刻みに音を刻んだかと思うと。  
 
ぼくの肩に。そして背中に。  
彼女の体が舞い降りた。  
 
「・・・・・・」  
 
思わず、足を止める。  
 
「ごめんね、小石が引っかかっちゃって・・・・」  
 
耳の後ろから彼女が申し訳なさそうに謝った。  
そして―――ゆったりと、ぼくに身を預ける。  
 
「背中・・・・広いんだね」  
 
両肩から背中へ手を滑らせると、彼女は自分の頬をぴったりとぼくに寄せた。  
彼女の感触が、背中越しに伝わってくる。  
まるで体温を宿しているかのように。  
 
 
「ほんと、頼もしくなったね。露伴ちゃん・・・」  
 
 
今では年下となってしまった、ぼくの憧れの人  
 
苦い思い出を消し去ろうと、大切なものまで一緒に埋めていた  
 
弱いのは相変わらずだ  
 
けれど  
 
 
昔とは違う  
力と、そして気持ちがある  
 
 
 
「・・・・・・鈴美」  
 
 
 
 
 
今のぼくなら  
 
貴方を 守れますか  
 
 
「なぁに?露伴ちゃん」  
 
振り向けない為、彼女の無事を直接確認したわけではないが、怪我をした様子もなくどうやら大丈夫なようだ。  
ぼくは安心して再び歩き始める。  
 
「ちょっと!何よ露伴ちゃん」  
「何って?ぼくは君なんか呼んでいないぞ」  
「うそ。あたし、聞こえたわ」  
「空耳じゃあないのか?それかそこにいる奴等が呼んだんだろ」  
「もう、いくつになっても頑固なんだから」  
 
手に取るようにわかる、彼女の感情と表情。  
その明るい笑顔を・・・二度と、涙で濡らしたくない。  
 
「守るよ」  
 
「え・・・・?」  
 
ぽつりと呟くと、聞き返されないよう早足のまま小道を抜け颯爽とその場を立ち去った。  
たとえ、ぼくが何て言ったのか聞き取れなかったとしても。  
きっとあの人には、伝わってしまったと思うから。  
 
 
 
 
 
 
守ってみせるさ  
 
あの時果たせなかった、約束と共に・・・・  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
―――大きくなったら、ぼくが鈴美おねえちゃんを守るからね  
 
 
 
 
 
 
 
 

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