(注意)  
●ティッツァーノが女装してトリッシュと同じ女子校に通ってます  
 (ボスの娘の身辺調査のため)  
 そのうえお姉さまとか呼ばれています  
●百合っぽいけどノーマルです しかし最後まではやっていません  
 
受け付けられない方は涼しい顔でスルーして下さい。  
 
 
「トリッシュ?」  
 
『お姉さま』の声にトリッシュは顔を上げた。  
いつもの美術室、夕陽に染まる室内。目の前にはお姉さまがいる。  
アーモンド型の眼がぱちぱちと瞬き、碧い瞳が見え隠れする。  
長い脚を揃えて品よく座っている様はエジプトの高貴な猫みたい。  
ティッツァーノ…いえ、お姉さまは本当にきれいだと思う。  
背が高くてモデルみたいにスタイルがよくて、あたしなんかよりずっと大人に見える。  
トリッシュはふと『お姉さま』と出会った日のことを思い出した。  
 
母親が仕事先で倒れ、病状が悪く入院することになった日  
トリッシュは誰もいない旧美術室でひとり泣いていた。  
気がつくと側に知らない先輩がいて、可愛い顔が台無しですよと  
トリッシュにハンカチをすすめてくれた。  
それがティッツァーノ―先輩はそう名乗った―との出会いだった。  
それ以来ティッツァーノは度々トリッシュの前に現れ、母の病や将来への不安に  
ともすればくじけそうになる心の支えとなってくれた。  
いつしか、ずっと姉が欲しかったトリッシュは敬愛を込めて  
ティッツァーノを『お姉さま』と呼ぶようになっていた。  
ここのところ毎日のように放課後になると夕日の差す旧美術室で落ち合い、  
二人はたわいのないお喋りに花を咲かせるのだった。  
だが今日のトリッシュは何か変だ。  
微熱でもあるように頬を火照らせ、何やらぼんやりしている。  
どうしたんですかと訊くと、はっとしたように顔を上げ、すぐにまた視線をそらしてしまう。  
 
「何か心配事でも? 言ってみて下さい」  
「……あの…変な事訊いてもいい…?」  
 
どうぞ、とティッツァーノは先を促す。  
トリッシュは恥ずかしげにぽつりぽつりと言葉を発した。  
 
「お姉さま…男の人に抱かれた事って……ある?」  
 
予想外の角度から来た質問だった。  
内心の動揺を隠し、つとめて冷静に言葉を返す。  
 
「どうしてまたそんな事を」  
 
随分おませな質問ですね、と苦笑するとトリッシュはますます赤くなって「ごめんなさい」と  
小さな声で謝った。  
話の顛末はこうだ。  
クラスの友達が彼氏と初体験を済ませたという話で盛り上がっており、  
トリッシュも驚き半分興味半分でそれを聞いていたのだが、内容がエスカレートするにつれ  
信じられない思いで頬を赤らめるトリッシュに「あなたはどうなの?」と友達が話を振った。  
当然経験はないと答えたが、好奇心旺盛な女子中学生がそれだけで済ませるはずがなく  
根掘り葉掘り訊かれ、キスもまだだという事まで白状させられてしまい  
恥ずかしいやら情けないやらで居たたまれなかった、という事だった。  
 
「それはまた大変でしたね」  
「なんだか、自分がすごく子供に思えて…いやだったの  
それで…お姉さまはあたしなんかよりずっと大人だから、知っているんじゃないかって…」  
「焦らなくていいんですよ、遅かれ早かれ誰だってすることなんですから」  
「でも…、その時になってどうすればいいか分からなかったら  
それこそみじめな思いをすることになるわ!知りたいの、どういう事か」  
「…誰とでもするような事じゃあないんですよ、もっと自分を大事になさい」  
「好きな人とする事だっていうぐらい分かってるわ…」  
 
その呟きを聞いてティッツァーノは少し考えてから、口を開いた。  
 
「トリッシュは…わたしのことを好きですか?」  
「えっ」  
 
唐突な問いにトリッシュは驚き、伏目がちに答えた。  
 
「それは…もちろん好きよ。とても綺麗だし、優しくしてくれるし…」  
「そうですか では練習がてらひとつ試してみましょうか」  
「試す?」  
「ええ」  
 
ティッツァーノの長い指が頬に触れ、やさしく顔を引き寄せられた。  
お互いの息がかかるほどの距離で二人の視線が絡み合う。  
 
「眼を閉じて…じっとしていて」  
 
ティッツァーノの囁きは催眠術のような効果をもってトリッシュの眼を閉じさせた。  
そっと唇が合わさる。トリッシュの瞼がかすかに震えた。  
ティッツァーノは緊張に強張った唇をノックするように何度も自らのそれと触れ合わせ、軽く吸った。  
やがてトリッシュの体がほぐれてきたのを見計らい、一旦唇を離して、今度は深く口付けた。  
トリッシュは驚いて身を引こうとしたが、既に細い腰をしっかりと捕まえられており  
自分より背の高いティッツァーノに抱きしめられる形になっていたので叶わなかった。  
誰もいない教室で夕陽を浴びながら抱き合いキスをする二人の女生徒の姿は  
一枚の絵のように美しく、ひどく倒錯的だった。  
制服越しに触れるティッツァーノの体は引き締まっていて、自分と比べると  
随分柔らかさを欠いているようだったが  
そんな事は気にならないほどトリッシュは初めての感覚に翻弄されていた。  
胸が爆発しそうに苦しく、ティッツァーノの舌が自分のそれに触れるたびに頬が熱くなっていく。  
やめてほしいのか、もっとしてほしいのか自分でもわからない。  
睫毛が触れ合うくすぐったささえもそれを煽った。  
長い口付けが終わり、甘い余韻を惜しむように離れる互いの唇を透明な糸がつたった。  
トリッシュの頬や耳朶は夕陽の色に染まり、初めての口付けに殆ど放心状態のようだった。  
 
「びっくりしました?ごめんなさい」  
 
トリッシュの反応にティッツァーノは苦笑して、落ち着くよう髪を撫でてやった。  
 
「嫌でしたか」  
「……ええ……良くなかったわ……」  
 
トリッシュは首をかしげた。今あたしは何て言ったの?  
嫌じゃあなかったって言ったはずなのに、口から出てきたのは反対の言葉だった。  
 
「それじゃあ…もっと先の事も試しましょうか?」  
「お願いします、待ちきれないわ」  
 
ちょっと待って、と言うはずがやはり逆の意味になってしまう。  
その上にティッツァーノの行動がトリッシュをますます混乱させた。  
ティッツァーノの器用な指がボタンを外し、ブラウスの中に忍びこんでくる。  
重たげな果実を確かめるように掌に収め、発育の良い事、と笑った。  
 
「もったいないですね、こんなに綺麗なのに」  
 
やめて…!  
トリッシュはティッツァーノの手首を掴んで止めようとしたが、逆により深くへ導いていた。  
もはや言葉も行動も思い通りにはならず、自分の体ではないようだった。  
さっきのキスで魔法をかけられたんだわ、だからこんな風になったんだわ―――  
 
「受身のままではいけませんよ、自分からねだる位でないと」  
 
内腿を撫でられ、スカートの奥に指が入り込んできた時トリッシュは思わず声を上げてしまった。  
衣擦れの音と一緒にショーツが脚を滑り落ち、足首のところで引っかかって留まった。  
布切れ一枚取り去られただけとはいえ、腰周りの感覚はひどく心もとなく  
何か自分たちが大それた事をしでかしているような気分になって、いきなり怖くなった。  
ティッツァーノはそこがよく見えるよう、トリッシュに片膝を立てさせた。  
 
「随分可愛らしいですね。小作りだけどもういっぱい濡れてて」  
 
そういうとティッツァーノは自分の指を舐め始めた。  
自分を見ている眼や舌の動きはひどく淫らで、トリッシュは今まで知らなかった彼女の一面を垣間見た気がした。  
『お姉さま』にこんな所を見られているというだけでも恥ずかしくて  
トリッシュは今にも泣き出しそうだったが、ティッツァーノはさらに追い討ちをかける。  
唾液で根元まで濡れた中指と人差し指を揃えてトリッシュの中に挿入した。  
 
「あ……!!」  
 
逃げようとするトリッシュの腰を押しとどめ、「息を吐いて力を抜いて下さい」と囁く。  
抵抗はあったが指は徐々に進み、やがて根元までおさまってしまった。  
 
「はぁ……はぁ……あ、あぁ……」  
「動かしますね」  
 
お姉さまの指が中で別の生き物みたいに動いているのが分かる。  
焦らすみたいに浅く抜かれたかと思えば、自分でも知らなかった場所に触れられ高い声を上げてしまう。  
あたし、すごくいやらしくなってしまったみたい……  
脚に何か、硬いものが押し付けられている。  
そのうちにひどく切羽詰った感じが下腹に来て、堪らなくなってお姉さまの肩にしがみついた。  
制服が皺になってしまうと心配する余裕はなかった。  
 
「んっ………!!」  
 
その前後のことはよく覚えていない。  
ただ、互いの熱い体温とお姉さまの髪の匂いと、自分が息をする音だけがやけに響く気がした。  
 
 
 
それ以来、『お姉さま』は二度と美術室に現れなかった。  
 
 
 
それから数ヵ月後、トリッシュは看病の甲斐なく亡くなった母親の葬儀に参列していた。  
周りの大人たちが帰った後もトリッシュは墓石の前に立ち、母が眠る所を見つめていた。  
やがて小雨が降りだし、喪服の肩を濡らしてもトリッシュはいつまでもそこに立ち続けていた。  
しばらくすると背後で草を踏む音がして、肩越しに傘が差しかけられた。  
 
「風邪を引きますよ」  
「…………」  
「トリッシュ」  
「!!」  
 
振り向くと、よく見知った人がそこにいた。  
今まで制服姿しか見たことはなかったが、今日はタイトな黒いスーツを着ている。  
お姉さま、と呼んだはずが言葉にはならなかった。  
 
「つらかったでしょう…」  
 
その言葉に、堪えていた涙が瞳から溢れ出した。  
ティッツァーノは泣き出したトリッシュの背に優しく手を回した。  
墓地の外に停めてある車の運転席から、鋭い目をした男がその様子を見ていたが  
相棒の素振りにに何かを察して見ない振りをした。  
自分の背を支える細いが強い芯のある腕は、女性のそれではなかった。  
どうして今まで気づかなかったのだろう。  
お姉さまがお姉さまでなかったことに。  
騙されていたはずなのに、トリッシュは腹立ちもしなかったし滑稽にも思わなかった。  
ただそのことを、事実として受け入れるだけだった。  
やがてトリッシュはティッツァーノに促されるままに車に向かった。  
 
「ティッツァーノ…あたしこれからどこへ行くの?」  
「……あなたの、お父様の所ですよ」  
「父さん………」  
 
何故ティッツァーノが自分の父の居場所を知っているのか、という疑問よりも  
トリッシュには今すぐ確認したい事があった。  
ティッツァーノの眼を真っ直ぐに見る。優しい眼差しがトリッシュを見つめ返した。  
 
「……ティッツァーノ」  
「何ですか」  
「そばに、いてくれる?」  
「……はい」  
 
その一言だけで充分だった。  
眼差しも、言葉も、優しさも嘘だったとしても。  
いえ、嘘かどうかなんて問題じゃあない。  
彼ほどに見事な詐欺師なら、きっと最後まであたしを騙し通して嘘を真実にしてくれるはずだわ。  
 

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