死闘の末にボス・ディアボロの暗殺は成功した。
しかし組織の中で騒ぎが大きくなってイタリア国内にいづらくなったため
リゾットはトリッシュを連れてほとぼりが冷めるまで国外に高飛びすることになった。
色々あったがそれから半年が経ち、二人は一応平穏に暮らしていた。
その晩、リゾットはベッドに入ってもなかなか眠れずにいた。
数日前にトリッシュが「今アレだから終わるまでできないの」と言ってきた。
もちろんアレというのが夜なべして手袋を編むのではない事くらいリゾットも承知している。
そんなわけでもう3日…いや4日か、「お楽しみ」はお預け状態にある。
リゾットもその間は無理強いしたりせず穏やかに過ごすのだが
今回に限ってどういうわけか、妙に情欲を持て余してしまっている。
おまけにトリッシュがすぐ隣で寝ており、いい匂いのする体を密着させてきたりするのだ。
自分を騙し騙し寝ようと努力したのだが、正直それも限界だった。
このままでは眠れないし、かといってトリッシュを叩き起こして無理にさせるわけにもいかない。
自分で処理するのが最善策のようだ。
物音さえたてなければトリッシュが目覚める心配はないだろう。
さっさと済ませて寝てしまおう。そう思って静かに行為に及んだ。
トリッシュがうっとりした表情で肉棒を頬張っている姿や
精液で豊満な胸を汚され放心している姿や
騎乗位で恥じらいながらも腰を使っている姿などを頭の中で再生する。
徐々に荒くなる息を抑え、手を動かす。
もう限界だ―――と思ったその時だった。
「………!!!」
リゾットはケツの穴にツララを突っ込まれたような衝撃に凍りついた。
ボスのスタンド能力を初めて体験した時以上の驚愕だった。
隣で寝息を立てていたはずのトリッシュが、頭を起こして興味深そうにこちらを見ていたのだ。
その眼は暗い部屋の中で二つの星のように光っている。
(ば…馬鹿な…なぜトリッシュが起きているんだ? こっちを見ている…
いつからだ? いつからこの「行為」を見られていた!? 何て事だ……)
暗くて見えていなかったり、もしくは寝ぼけているなどの可能性を願ったが
リゾットの儚い期待はトリッシュの無邪気な一言で消し飛んだ。
「続けないの? 気にしないでいいのよ、あたしこのまま見てるから…」
やっぱり見られていた。
リゾットは弁解も逆ギレもしなかった。
黙ってベッドから出ると壁に頭を何度も何度も打ちつけ始めた。
ゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴスゴス
「きゃあああああリゾット何してるのよォォォーーー!!?」
トリッシュはあわてて止めさせようとしたが力でかなうはずもなく、そうこうしている間にも
リゾットの頭から噴き出た血とメタリカで壁が毒々しい色に染まっていく。
スタンドを出してやっとの事で羽交い絞めにしても、リゾットはスパイス・ガールで柔らかくなった壁にぷよぷよと頭突きをし続けていた。
「あああああもうレにたい…! クソッ! クソッ!」
「それを言うなら死にたいでしょ! どうしたっていうの本当に」
「飛びてぇ…崖から飛び降りてぇ………死なせてくれ……」
トリッシュからしてみれば、いつも自分ともっと凄い事をしているのだから
リゾットが自分でどうこうする位そんなに恥ずかしい事でもないのだろうと思い、
初めて見る男の自慰をせっかくだからと観察していたのだったが
リゾットにとってはもういい年をして自慰に耽っている様を
よりによって13も年下の小娘に見られてしまっただけで軽く死ねるほど恥ずかしいのだった。
(恥ってのは…人が死ぬのに充分な理由だ…)
床にへたり込み、死人のような顔色で俯くリゾットの顔をトリッシュは心配そうに覗き込む。
「あたし…何かいけない事した? 本当に大丈夫?」
「このオレにこんな思いを味あわせたのは…お前が初めてだ…やってくれるぜ…」
「血が止まらないわ…お水持ってきましょうか?」
「何もいらない…お願いだから一人にしてくれ…」
「いつもあたしにもっと色んな事してるのに、なんで自分でしてるのを見られただけで恥ずかしがるの?
それに、こんなになってて途中で止めるなんてもったいないわ」
トリッシュがリゾットの下腹部に手を伸ばす。
あれほどのショックを受け、時間も経っているのというのに
皮肉な事にリゾット自身はしっかり硬度を保ったままだった。
「自分でするのが恥ずかしいなら、あたしが口でしてあげる」
「止めろ、トリッシュ…」
「いいの、あたしも欲しかったから」
両手で巨根を包み込んでちゅっ、と先端にキスをする。
普段リゾットの唇や頬にするのと変わらない動作だったが、場所が場所なので思わず刺激に息を詰めてしまう。
幹を綺麗な指でなぞり、括れを執拗に責めてくる絶妙な愛撫。
元はといえば自分が仕込んだ事なのだが、最近また一段と上達したらしい。
そこはリゾットの思考とは裏腹に、凶悪なほどの勢いで勃ち上がってしまう。
「どう?」とでも言いたげな、悪戯を楽しむ小悪魔の表情で見上げてくる。
局部に血が流れ込んだせいか、頭の出血はいつのまにか止まっていた。
「ねえ、あたしのこと考えながらしてたの?」
「………!」
図星を突かれ、一瞬リゾットの眼が泳いだのをトリッシュは見逃さなかった。
「やっぱり! どんな事考えてたの? あたしがいやらしい事されてるのとか?」
トリッシュの無邪気な質問に、リゾットは再び天国から地獄に突き落とされる気分だった。
いっその事、汚らわしいと罵られた方がまだましな程だ。
何を考えていたかなど言える訳がない。
リゾットが黙っていると、またトリッシュは股間のものを口や手で弄び始めた。
ふわふわした髪が下腹に触れてくすぐったい。
グロテスクな男根にあどけない唇が寄り添う様はひどく淫靡な眺めだった。
一生懸命頬張るものの口に入りきらず、もどかしそうな様に我慢が効かなくなり
リゾットはどうにでもなれと半ばやけくそになって、トリッシュの頭を押さえつけた。
「ああ、その通りだ」
「……ん! ……っぐぅ……」
「途中で邪魔してくれたんだから……責任を取ってもらうぞ……」
トリッシュは視線だけを動かしてリゾットを見上げたが、すぐに口淫を再開した。
さっきまでの弄ぶような舌使いではなく、明らかに射精させるのを目的とした
口腔全体で吸い上げてくるようなやり方にリゾットは息を詰まらせる。
トリッシュが先端に軽く歯を立てた瞬間、硬直した肉が大きく震えて口の中に熱い精が迸った。
「んううっ…」
「美味いか?」
思わずむせ返りそうになったが、小さく音を立ててリゾットが出したものを飲み下す。
濃い雄の匂いと、自分の頭を撫でる手の感触にトリッシュは目を細めた。
「はあっ……なんか、いつもよりいっぱい出たわね」
リゾットはもう何も言えずすっかり脱力していた。
精気を吸い取られたような表情で、黒い瞳からはいつもの鋭さが消えている。
トリッシュはそんなことにはお構いなしで可愛らしく頬にキスをした。
「終わったらいっぱいしましょうね、リゾットが考えてたような事とか」
「な………」
「おやすみなさい」
絶句するリゾットを放って、ころころ笑いながらベッドに寝転んだ。
挿入どころか愛撫さえしていないが、精神的に満足感を得たのかトリッシュはそのまますぐに寝入ってしまった。
残されたリゾットはしばらくぼんやりしていたが、やがて密かに再戦を誓い目を閉じた。
(……覚悟していろ)
今度はすぐに眠れた。
<終>