「はぁ…あ」
トリッシュは部屋で一人、オナニーにふけっていた。
この間、イタリアンヴォーグを買いに行ったついでに、気まぐれにティーン雑誌を買ってみた。
その内容にトリッシュは驚いたが、動じに興味津々になり、ためしに「オナニー」をしてみたのだ。
(唾液で指をぬらして…アソコに…)
トリッシュはまだ何もしていないのに、すでに体が火照ってきていて、恐る恐る、そこに触れた。
「……!」
唾液でぬるぬるになっていた指が包皮のむけたクリトリスに触れた瞬間、トリッシュの体がビクンと反応した。
初潮を迎えたとき、体の中に残るどろどろした感じがいやで、膣の中に指を入れて、中の血の塊を洗い流していたものだが、
そのときはクリトリスは一体なんのためにあるのか、さっぱりわからなかった。
もともとトリッシュはそういったことに対してあまり知識がない。
気の強い性格で、服装も露出の高いものだから周りから見れば、今どきのすすんでいそうな子に見えるが、
実際は母の影響を受けてファッションにばかり興味を持っていて、色事など今まで考えたこともなかったのだ。
だからこそ、今ふつふつと興味が湧いてきて、オナニーをしようとしているのだ。
(何…?なんか電気が走ったような……)
もう一度触ってみると、また同じような感覚。トリッシュはそのままクリトリスを愛撫し続けた。
「はぁ…はぁ…」
高鳴る鼓動を抑えようと声をあげ、大きく息を吐くトリッシュだったが、遠慮がちに濡らした自分の指先が乾いてきて、途端小さな痛みが走った。
「…っ…も、もっと指を濡らさないとだめなのかしら…」
トリッシュが知っているのは、男性器の形や避妊具、性病について、初めて「する」と
血が出ること(血が出ない人いる、などは知らない)と、妊娠から出産までのプロセス程度だ。
学校の保健体育程度の知識しかない。
おそらく「オナニー」というこの自慰行為が存在しているということすら、彼女は初めて知ったのだろう。
他にも道具があることや、体位にもさまざまなバリエーションがあることなど、トリッシュは知らない。
(胸も触ってみようかな……)
ゆっくり、自分の胸を揉みしだく。でもあまり気持ちよくはない。
(そういえば、雑誌には…女の人って恋人とのえっちを思い出したり、ビデオ見たりするって書いてあったわね…)
トリッシュはキスもしたことがないし、ビデオを見たこともない。今日雑誌を見たのがはじめてなので、
彼女の場合は「ただ触っているだけ」なのだ。
(雑誌を見ながらなら出来るのかしら…)
女性は男性と違って、ダイレクトに欲情できない。いろいろと妄想してからだ。
トリッシュはそんなことも知らないので、結局あまり気持ちよくないまま、それを終えた。
雑誌を本棚の奥にしまって。
(異性経験がないとだめなのかしら…)
あのあと、雑誌をしまうまえに、読んだ内容。
雑誌には道具も使うと書いてあって、トリッシュははじめてみたそれに驚いていた。
(あんなものがあったなんて知らなかった…洋服に関することなら、詳しいけど…)
トリッシュは現在、ジョルノ、ミスタとともにパッショーネのアジトに住んでいる。
夕食は一階の食事室で、三人で食べている。
「…どうした?トリッシュ」
「うぅん、なんでもない」
ミスタがピッツァマルガリータを皿から分けながら訊いた。
(なんか気まずい…今なにかしてるわけじゃないけど…)
隣のミスタをちらりと見やると。
(あんなとこ舐めるなんて…男の人ってよくわかんないわ…あ、でも女の人もするって言ってたわよね…)
ついついさっきの雑誌のことが頭に浮かんでしまう。
「ん、俺の顔になんかついてるか?」
「え、あっ…なんでもないわ!あ、あたし食欲ないから…ミスタ、残り食べていいわよ」
「マジで!?サンキュー、トリッシュ。でもお前まだ一切れしか食ってねーだろ」
「い、いいわよ。あたしもうお風呂入って寝るわ」
「そか」
トリッシュは足早に食事室を出た。
「どーしたんだろーな。トリッシュのヤツ」
自分の分を食べ終えたミスタはトリッシュの皿のピッツァに手を伸ばしながら言った。
「さぁ…」
不思議がるミスタとは対照的に、ジョルノは何か確信を得たかのように妖しく唇の端を吊り上げていた。
トリッシュはその後、そのまま風呂に入った。自分の体すら見れない。
「はぁ〜!!」
空気が抜けたように、ベッドに寝転がって大きくため息をついたトリッシュ。まだ体がドキドキしている。
(どうしよ…こんなんじゃ、もう二人と食事できないじゃない…)
そう思ったものの、トリッシュはまたベッドの中で下着をずらし、今度は十分に指を唾液で濡らした後、クリトリスに触れた。
そのまま乾いてきたら再び指を濡らしたり、自分の中からあふれてくるのがわかる、愛液をすくったりした。
怖くてあまり奥まで指を入れることが出来なかったが、それでも指を抜いたとき、透明のキラキラした粘膜は確実にトリッシュの指に絡み付いてきていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
『声の出し方』がよくわからないトリッシュはただ息を吐くばかりだったが、雑誌のことを思い出して、「声」を出してみたりした。
(出さなくてもいいのかな…よくわかんないわ……)
結局その日は「気持ちいい」と思えたものの、雑誌に書いてあった「イク」という感覚は味わえなかった。
(こ…こんなことまでするの…?)
翌日トリッシュは本屋に再び雑誌を買いに出かけた。今度は別のティーン雑誌だ。小さく本を
開いて中を見てみると、トリッシュの想像を超えた世界が広がっていた。
(……どうしよう…体が熱くなってきちゃった…)
トリッシュは雑誌を置いて、足早に本屋を出ようとした。しかし―――。
「トリッシュ?」
「ジョ、ジョルノ!?」
ドアのところでちょうどジョルノとぶつかってしまった、赤くなった頬がさらに紅潮する。
「どうしたんですか?トリッシュ、顔真っ赤ですよ」
「あ、あの…あたし」
「本を買いに来るつもりでしたが、帰りましょう。大丈夫ですか?」
「え、いや…その、平気よ。別に気分が悪いとかじゃないから!」
「そうですか?でも…」
「あ、あたし帰るわ!」
トリッシュはそのまま本屋を出て走り去った。ジョルノはまた、くすりと笑った。
(ほんと…かわいいですね、トリッシュ……)
オナニーやセックスのことなど、考えないようにすればするほど、頭から離れなくなり、
トリッシュは風呂に入っているときや、
夜寝る前など、暇さえあればオナニーするようになっていた。
ある日、トリッシュが一人オナニーにふけっていると、「コン・コン」とノックの音がした。
「トリッシュ、入りますよ」
ジョルノだった。
「!!だめ、ジョルノ!!」
ブランケットで体を隠す前に、ジョルノは入ってきてしまった。
「あ、ジョルノ…これは…その」
「………………」
ジョルノは唖然とした表情だったが、それは演技に過ぎなかった。
(やっぱり……)
太ももの真ん中あたりまで下着をずらし、脚の間に両手を挟んでその場で正座して、
自分の濡れた脚の根元を隠したトリッシュだったが、
それはジョルノを奮い立たせる以外の何物でもなかった。
上気した頬に、おろおろと所在なく動く大きな瞳。小さな唇は恥ずかしさにぷるぷると震えていた。
(ミスタに先を越される前に…早いとこ、頂いておきたいものですね…)
「トリッシュ、一人でしていたんですか?」
「………ッ」
ジョルノの質問にトリッシュはさらに頬を赤らめ、大声で叫んだ。
「あ、あたしが自分の部屋で何をしようと勝手でしょ!?早く出て行って!!」
(恥ずかしい…ジョルノに見られただなんて…)
「そうですね…」
ジョルノはぼそっと言った。
「え?」
「確かにそれはトリッシュの勝手です。でも、あまり満足していないんじゃないですか…?」
「え…!!」
トリッシュは驚いた。終始ジョルノに見られていたわけではないのに、
実際そうであるかのように、ジョルノがそれを見破ったのだ。
「やっぱりそうなんですね、僕がイカせてあげましょうか?」
「な、何言ってるのよ」
ジョルノはドアに鍵をかけ、トリッシュの唇に口付けた。
「えっ」
突然の出来事にトリッシュはしばらく動けなかった。
自分のファーストキスがこんなにも簡単に奪われてしまったのだから。
「な、何すんのよ!!やめて!」
引き離そうにも、濡れた指先でジョルノの服に触れるのがはばまれたトリッシュは
ただ体をずらし、ジョルノから逃れるだけだった。
ジョルノはトリッシュの愛液と唾液とに濡れた指先に興奮し、
トリッシュの手を取ると、ちゅ、と口付け、トリッシュの粘膜を舐め取った。
「きゃ…!」
驚いたトリッシュは蚊の鳴くような悲鳴をあげた。
その隙にジョルノはトリッシュを押し倒し、ずらされた下着を完全に下ろした。
見ると、股の部分がうっすらと濡れていた。ベッドの近くにある一人がけのソファーに
「イタリアンヴォーグ」がおいてあるのを見て、ジョルノはトリッシュに顔を近づけて言った。
「どうしても我慢できなくなってしまったんですね、トリッシュ」
おそらく、考えないようにしようとイタリアンヴォーグを読んで気を紛らわしていたのだろうが、体がチリチリと熱を帯びていくあの感覚が忘れられず、
そのままベッドのブランケットの上でしていたのだろう。
ジョルノの言葉にトリッシュは目を潤ませた。
そして、トリッシュの普段とは違う初々しい反応を十分に愉しんだジョルノはそのままトリッシュに口付けた。
今度は深く。
「ん……んむ、んっ」
ジョルノの力強い腕に手首をつかまれたトリッシュは、顔をずらして逃れようと必死だったが、それを阻むように
ジョルノの舌が絡まってきて、トリッシュはいやらしい声を出す。
(自分の出している声がどれだけ僕の雄を狂い立たせているか…わかっていないんでしょうね、トリッシュは…)
唇が触れ合うたび、ちゅ…ちゅ…と音がして、トリッシュの瞳からは一筋の涙が零れ落ち、頬を伝っていった。
(あたし…すごく変な声を出しちゃってる…恥ずかしい…でも…)
トリッシュの体は確実に濡れてきていて、トリッシュの脚が勝手にもじもじと動いてしまっている。
こんなにも十分に濡れていたら普段なら自分で触っているからだ。
だが今はジョルノに腕を押さえられていてそれが出来ない。
何よりジョルノの前でなんて考えられない。トリッシュの我慢も限界に近づいてきていた。
やっと唇が離れ、濃厚なキスが終わったところで、トリッシュは言った。
「お願い…ジョルノ、し…下の方、触って…あたし…」
「それじゃ、脚を持ち上げて広げて。どこを触って欲しいのか、ちゃんと言って下さい」
「え…!?」
脚を広げるなんて―――。
トリッシュはジョルノの言葉に耳を疑った。
「イヤならいいんですよ?僕の前でオナニーを続けてもらっても。でも…どっちにしろ、イクことは出来ないでしょうね」
目の前に男がいたところで、雑誌は文字だらけだったため、トリッシュには「セックスのイメージ」というものがない。
一体どうすればいいのかなんて何も知らないのだ。
(確かに雑誌では、女の人が…脚を広げてたけど…どれくらい開けばいいの?)
「どうするんですか?トリッシュ」
「………っ」
トリッシュはとうとう我慢ができなくなり、そっと脚を広げた。
「……こ、これで…いい?」
斜めから見たらなんとか見える程度だ。ベッドに小さな大の字を描いて寝転がって
いるだけというか―――。
「僕は脚を持ち上げてって言ったんですよ。手で太ももを持って…
よく見えるようにしてください」
「………こ、こう?」
マット運動で後転をするように、トリッシュは脚を持ち上げた。すると、トリッシュの
白い太ももの間からは、愛液のあふれだす性器がのぞいていた。
ジョルノは今すぐにでもしゃぶりつきたい衝動に襲われたが、
それをなんとか押さえ、トリッシュに言った。
「そのまま脚を広げて…太ももを離してください」
「………………ふ…ふぇ…見ないで…」
ジョルノの言いようのない威圧感におされてしまっているトリッシュは
そのままジョルノの命令におとなしく従った。
照明に照らされたトリッシュの性器は、形容しがたい色気を放っていた。だが、それはまだ不完全なものだった。
「よくできました…それじゃあ、お望みどおり…」
ジョルノは余裕の表情だったが、実際はパンツがはちきれそうなほどだった。
食らいつくように、トリッシュの脚の間に頭を埋める。
「あっ、あっ!」
突然感じた舌の感触に、トリッシュは驚いて、声を上げた。
(か…かっこ悪い…)
自分の出した間の抜けた声に、トリッシュは口をつぐんだが、ジョルノは体勢を変えないまま、トリッシュに言った。
「声を出してください、トリッシュ。出し方くらいはしっているでしょう?」
「あ…でも、そんな…」
「言うとおりにしないと、続きしませんよ?」
「あ…やだぁ…」
ジョルノはわざと「ぢゅるるるっ」と音を出してトリッシュの愛液を吸った。
「ひぁ…あ、ジョルノォ…ん…は…」
ジョルノの舌がトリッシュの膣内を探るように動いた。
「きゃぁっ…」
舌でクリトリスを刺激されたトリッシュは驚いてまた悲鳴のような声を上げた。
「可愛いですよ、トリッシュ…」
「だめぇ…あ、あ…」
指はトリッシュの中をかき回し、ぐちゅぐちゅといやらしい音を発している。
自分も普段両方を愛撫しているが、ジョルノのそれは比較にできないほどのものだった。
(自分でしてるときとは全然違う…なんなの、この感覚…)
トリッシュはそろそろイキそうになっていた。何度も自慰を重ねていたトリッシュには、
十分な「下地」が出来上がっていたのだ。ジョルノの舌と指で、トリッシュはついに絶頂を迎えた。
「あっ…あ…!」
体がビクン、と反り、一気に力が抜ける。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
横になるトリッシュに、ジョルノは唯々淫猥な考えをめぐらせているだけだった。
「トリッシュ…」
「え?」
「今度は…僕のほうをしてくれませんか?」
トリッシュの手を取り、股間に押し付ける。パンツの中で勃起したペニスは
すでに服の上からでも熱が伝わってくるほどだった。
「え…でも、あたし…どうすればいいのかなんて……」
「別にトリッシュがする必要はありません、わかるでしょう?」
ぐちゃぐちゃに濡れたトリッシュの性器に、そっと手を伸ばす。
「…あ、あたし」
「ゴムならちゃんと持ってますよ」
トリッシュには、ここまでして「もらって」おいて、自分は何もしないわけにはいかない、と考えていた。
そう、最初にさっさと追い出せばよかったのだ。
(怖い…でも、あたし……)
怖い――。しかし、一方で興味があるのは確かだ。初めて知った新しい世界に、トリッシュは夢中だった。
「い…いいよ、ジョルノ。しても…いいわ」
「……それじゃ、力抜いてくださいね。余計痛くなりますよ」
トリッシュの返事に、ジョルノは喜びのあまりか、声が興奮気味だった。自然と舌なめずりをしてしまう。
「体が緊張しています。リラックスして……」
ジョルノは額、きつく閉じられたまぶたの上、頬、耳、首筋、そして胸元……トリッシュの体中にキスをした。
「ん……」
ゴムをつけたジョルノは、トリッシュの脚を開き、入り口に押し当てた。
「…………ッ」
体がこわばる。死ぬほど痛いと聞いていたからだ。
「……挿入れますよ?トリッシュ…」
「はぁ…ん…いいよ」
自分の鼓動がうるさくて、ジョルノの声すらよく聞こえない。クチュ…と音がしたかと思うと、すぐに刺すような痛みが走った。
「い…っ!」
ジョルノはその反応すら愉しんでいるかのように、何も言わずに入り込んでくる。
「ひぁあぁあぁぁああッ!!」
あえぎ声というよりは、悲鳴といったほうが正しいだろう。トリッシュは痛みのあまり同意の上だというのに、
ジョルノから逃れようと必死になった。
「だめ、ジョルノ…抜いて…ッ、おなか裂けちゃうぅ…!」
男性器くらいで腹が裂けていたら、人類は数を増やすことすら不可能だろう。しかしトリッシュには本当にそう思えたのだ。
「トリッシュ…力抜いてください。僕もキツイ…」
ジョルノは本当はそのトリッシュのキツささえも愉しんでいたが、すぐに奥に入りたがって、トリッシュの体を揉むように撫で始めた。
「…はぁ…はぁ…」
「ゆっくり…呼吸を整えてください」
「ふぅー…ふぅー…」
「そう…ゆっくり……」
ゆっくりと、ゆっくりと、ジョルノのペニスがトリッシュのなかに埋まっていく。
「ぅああぁあっ!」
奥まで―――。
「あぁ…やっと奥まで入りましたね…気持ちいいですよ、トリッシュのなか…」
「ぃぁ…あっ…あっ」
ジョルノの突き上げにトリッシュは感じているわけでもないのに、無意識に声をあげる。
痛みのせいで動けないのだが、まるで人形のようにただされるがままになっているように見える。
「あたたかくて…内側がからみついてきてます…」
「ゃあぁん…言わないで…そんな」
ジョルノは、トリッシュの反応にそろそろ我慢の限界に近づいてきていた。
「初めて」の痛み、そのせいでまるで人形のように無抵抗、そして男を興奮させるだけの言葉による抵抗。
ぽろぽろと、痛みと羞恥に耐えかねた涙を流しながら言ったところで、
それは何の効果もない。
「も、もっと…ゆっくり……して…ゆっくりぃ…」
「わかりました…ゆっくりですね」
ジョルノは突き上げのスピードを緩めた。ついで、動きも単調なものに変えた。
「ぅ…ふぅ……っく…」
それでもトリッシュのなかはジョルノを満足させるには十分だった。
むしろ、ベッドが激しく軋むことでかき消されていた粘膜のこすれる音が部屋中に響き渡り始めたのだ。
「あぁ…っいやぁ…」
ゆっくりと、何かがせまるように、クチュ…クチュ…と音が鳴る。
「いやらしい音がしてますね…トリッシュ」
「やだぁぁ…」
普段の強気なトリッシュはもう、どこにもいなかった。完全にジョルノのペースに圧されている。
「…もう…僕のほうも、持ちそうにありません…最後だけ、一気にいきますよ」
「えっ!あ、ぁ」
ジョルノはまた突き上げを強くした。このまま一気に抜けるつもりだ。
「ひぁ…あぁ…っあ…」
「トリッシュ…トリッシュ……」
名前をいとおしそうに呼ばれたトリッシュは驚き、内側がまたキツさを増した。
「くぅぅうううッ」
「あ…ぁ…ああ…」
ジョルノは後処理を済ませると、トリッシュをシーツで包み、お姫様だっこでバスルームまで連れて行った。
「ジョルノ…?別に、あたし…一人で出来るから…」
「疲れているでしょう?僕がやりますから、トリッシュは座っていてください」
ちょうど良い温度のお湯で、トリッシュの体を洗う。左手でシャワーのお湯をかけながら、
右手でやさしくマッサージするように、髪の毛の汗を流した。
「……気持ちいいですか?トリッシュ」
「うん……」
シャンプーを適量取り、まるで美容院のシャンプーのように、たっぷりの泡でトリッシュの髪を洗う。
素人とは思えないほど、丹念で、気持ちのいいシャンプーだった。
「次は体ですね」
手にボディーソープをつけ、首筋の辺りから撫でる。
「ジョルノ?…ブラシか…スポンジがあるじゃない」
「手のほうが気持ちいいでしょう?大丈夫です、キレイにしますから…」
しっかりと洗えるように力を込め、しかしトリッシュの体に痛みを感じさせないように、丁寧に…。
トリッシュの手を取り、すべらかなトリッシュの細腕を泡で包む。脇あたりも先ほどの情事の「跡」を
消そうとするかのように、適度な力で撫でた。
「……服、濡れて気持ち悪くない?」
トリッシュは裸だったが、ジョルノはまだ服を着ていた。ジーンズや白のシャツに湯が染み込み、動きにくくなる。
時間がたてば湯が冷め、体の熱が奪われるこの上ない不快感が襲うものだ。
「別に平気です」
ジョルノは―これが初めてではあるが―女性の体を洗うのが好きなのだ。特にトリッシュのように
美しい肌を持った女性の体を―――。
それは、ジョルノがまだ日本にいたときのことだ。
母から与えられた―男の子なのに―女の子の人形。ちょうどトリッシュくらいの髪の長さで、おしゃれな服を着ていた。
物心ついたころに与えられたそれに、ジョルノは毎日夢中になって遊んだ。
母親はろくにジョルノを外には連れて行かず、昼間は眠って、夜の街に出かけていくのだ。ジョルノには
家の中だけが世界の全てだった。
母親がどういうつもりでその人形を買ってきたのか。それは人形を元にさっさと
ジョルノに風呂の入り方や体の拭き方、着替えの方法を教え、楽をしようとしていたからだ。
覚えればほめてくれる母の愛を期待した幼いジョルノは、いつしかその人形と一緒に風呂に入るようになった。
その人形は髪も本物みたいにさらさらで、ジョルノは風呂場で人形の髪を洗い、
体も手で丁寧に洗い、上がったら、自分の髪はそこそこに、人形の髪をとかし、
乾かすのに夢中になっていた。
その後、イタリアに行き、義父に人形を捨てられるまで、ジョルノはずっとその人形と一緒だった。
「………人形…名前は…」
「え?何?何か言った?」
「あ、いえ。なんでもありません」
ジョルノは足の指の間も丁寧に洗い、肩から湯を流し、最後に首筋から髪にかけてついた泡を落とした。
「そういえば、なんであたしの部屋に来たの?」
トリッシュが訊くと。
「…トリッシュに特別任務をと思いまして」
「え!本当?」
「えぇ」
「何!?一体どんな内容なの!?」
組織に残る決意をしたものの、ジョルノが全く仕事をくれないので、不満を抱いていたところだった。
それは、ジョルノがトリッシュの肌が傷つくのを嫌ったためではあるが。
「今日よりももっと…楽しくて、気持ちいいことです…」
ジョルノは静かに言った。
<終>