【LESSON 1】
夫婦の悩みのカウンセラー役となったシュガー。
今日のお昼も、ソファーで彼の膝の上にちょこんと乗って、他愛も無い話をしている。
彼は、若い頃から、冒険的で、シュガーに色んな話をしてくれる。サーカス、ボクサー、プロモーター業の数々。
どれも、シュガーが知らない世界で、楽しそうな彼の話を聞くのが、彼女はとても好きだった。。
今は、慈善事業といくつか会社を持っているぐらいで、半隠居な生活をしているが、そのうち彼はまた何かやるかもしれない。
そんな彼をずっと見守っていきたいと、思った。
二人の距離もずいぶんと縮まってきたけれど、それは「親子」としてだ。彼を「誘惑する」なんて話は抵抗がある。
だが、夫人の頼みだ。夫には悪いかもしれないが、拒むわけにはいかなかった。
「昨日のことですけれど。奥様に、『なにかしたい』と思わないのですか?」
シュガーは、子供のよくするような、大胆な質問で切り込んでいった。
「その・・・それは・・・なんだな・・・」
とたんに、彼は、冒険的な話をしていた時の意気揚々さはどこへやら、トーンを落とし、自信無さげになるのだった。
「シュガー、君になら言えるが、『そういったこと』は苦手なんだ」
彼は、シュガーの前で、初々しい、”ひとりの男の子”の面を露わにした。
「16歳のころに、初恋の女性に死なれてから、ずっと色恋とは無縁で生きてきた。
ずっと、恋なんてしないと誓いさえしていた。
だから・・・その・・・女の子の扱いというのが、まるで分からないんだ。
信じられないかもしれないが、女の子には指一本、触れたこともない。」
彼の恋愛観と経験は、シュガーと同世代の男の子にも、劣るのだった。
彼の齢で、女を知らない“童貞”は、珍しい。商売女を買ったことも無いなんて。誰かにそんなことを言ったら、馬鹿にされるだけだろう。
こんなことを話せるのは、彼の話す事を何でも笑ったりせず、ちゃんと聞いてくれるシュガーだけだった。
「笑うかい?」
「いいえ」
彼は、シュガーになら、恥ずかしい話も打ち明けられた。なんて、ウブな人なんでしょう。シュガーは嬉しくなってしまう。
「そんなことで、奥様が旦那様を、嫌いになることはありません」
「そうかな・・・?」
シュガーは、旦那様のゴツゴツした手を握り締めた。
「もっと、自信をもっていいんですよ」
そして、彼のおデコに、コツンと自分のおデコを押し付けた。
「分・か・り・ま・ち・た・か♥」
まるで、母親が子どもにするような口調と、仕草だ。どっちが、年上か分からない。
彼は、ホッとしたような、ママに甘えるような声で言った。
「ありがとう、シュガー。少し自信がついたよ」
少年のような瞳をするんだから。この人にもっと、「甘えて」もらいたい。
「これから、少しずつ学んでいけばいいんですから」
「そ、そうだな・・・」
「女の子のことなら、私がいろいろ『教えて』さしあげますわ」
「それは、助かるよ。良い『アドバイス』がほしいんだ」
シュガーは、彼の恋愛指南役、”先生”としての立場を築いていった。
「わたしを『使って』ほしいんです」
「?・・・それは、どういう意味だ?」
「私を、奥様の代わりの『練習相手』にしたら、どうでしょう?」
「な、なんだって!」
彼は、突然の提案に驚いて、声をあげた。
「LESSON 0(ゼロ)、ムード作り。女の子は褒められるのが好きです。さぁ、私を褒めてください。」
シュガーは、有無を言わさず、『レッスン』への”流れ”を作っていった。自分のペースに巻き込んでいく。
『泉の番人』の経験で身に着いた、やり方だった。
「なるほど、褒める練習か。」
シュガーを相手に、言葉で「女性を口説く」練習か。それぐらいなら、抵抗も少なく、良いアイディアに思えた。
「女の子は、どう褒められるのがいいんだい?」
「どう言ってもかまいません。相手を、”大切に思っていること”が伝われば、十分なんです」
彼は、暫く考えてから、たどたどしく言葉を紡いだ。
「シュガー、君が来てから、家がとても明るくなった。君は、もうかけがえの無い、私の娘だ。
・・・そう、それに、とても可愛い」
彼が、正直で嘘のつけない人だと分かっている。拙い表現でも、本当にそう思っている事が、伝わってくる。
「旦那様に、そう言っていただけて、嬉しいです」
所詮は、おママごとだと分かっていても、嬉しくなってしまう。
「一番良いのは、愛していることを”行動”で示すことです」
「どうすればいいんだ?」
シュガーは、少しずつ慎重にステップを進めていく。
「次は、わたしと『キス』の練習をしましょう」
スティールは、ハッと気付いたように顔をしかめた。そして、いつもやるように、彼女がよく見えるよう顔を近づけて言った。
「冗談でもそういうことを言ってはいけないよ。君には、本当に『好きな人』を作ってほしいんだ」
それは、彼の本心からの想いだった。シュガーの境遇は知っている。
それだけに、心から好きな人を作って、お嫁に行って欲しかった。
シュガーのことを本当に思って、そう言ってくれているのは分かっている。だが、ここで引き下がるわけにはいかなかった。
「パパと娘だって、キスぐらいするものでしょう?」
「パパと娘か。そう言われてみれば・・・だが・・・」
「いいんですか、キスが下手で、奥様に嫌われても?」
「それは困る」
普段しているキスに妻が、不満を持っているのだとしたら、困る。彼女を怒らせたくない、満足させたい。
妻とのそっち方面での「関係」をどうにしかしたいと、ずっと、思っていた。それが、シュガーとのレッスンで、なんとかなるなら・・・。
「これは、“おままごと”なんです」
シュガーは、”おままごと”の体裁を保って、彼の心理的なハードルを下げていく。
そう、これは、親子だったら、誰でもするような”おままごと”。シュガーとキスをしたって、浮気になるはずもない。
「ほーら、わたしを奥様だと思って、練習です。」
シュガーは、うるうると何かを期待するような眼で彼を見上げる。もちろん、彼にも、
彼女が美少女だということはよく分かっていた。今までは、「娘」扱いすることで、そういう目で見る事を防いでいたが。
毅然とした態度で接したいのに、こんなふうに、迫られたら、今にも間違いが起こってしまいそうだ。
「・・・」
彼から、答えはない。一歩踏み出す勇気がないのだ。シュガーは焚き付けるように言った。
「男の子なら自分からするものですよ」
遥か年下の娘に、「男の子」呼ばわりされるなんて。それでも、恋愛に奥手なのは、事実だ。彼は、押し黙っている。
「今日、キスしてくれないなら、二度としませんよ」
これを逃したら、二度とできないという言葉に人は弱い。彼は、目を泳がせた。
「・・・旦那様、私はキスをして欲しいんです」
シュガーは、演技を越えて、思わず、思いつめたような声で、言った。
本心が悟られてしまったかもしれない。練習ではなく、ただ、彼にキスしてほしいという本心が。
もう、女の子から、できることはなにもない。後は、”流れ”に任せよう。
シュガーは、彼の方を向くと、目を閉じて、押し黙った。
・・・彼は、シュガーを見つめた。
膝の上に乗る、少女は羽毛のように軽く、儚げだ。
ぱっつんとした前髪、おでこ、その下では、目を閉じている。やはり、整った顔立ちだ。
こうして、お人形さんのようにしている彼女をあらためて見ると、相当な美少女だ。
そして、透き通るような白い頬を赤く上気させ、肩を震わせている。
緊張し、彼に身を委ねようとしているのを感じる。少女も、精一杯の気持ちで、キスをねだっているのだろう。
淡いピンクの唇を控えめに突き出し、ただ、彼を待っている。
( 可愛い )
彼女に、吸い込まれそうな錯覚を抱きながら、彼は、少女を抱き寄せた、そして――
沈黙が続く。(やはり、強引だったかしら。拒否されるのかもしれない)とシュガーは思った。
すると、唇に、体温を感じた。
「ちゅっ」
彼とシュガーは初めてキスをした。
シュガーに恥をかかせなくなかったのか、あるいは彼女に、魅力に勝てなかった、衝動か、気の迷いのか。
ほんの一瞬だったけれど、シュガーは、頭がとろけそうになった。
「これで、いいかい?」
彼は、うろたえながら聞いた。シュガーの気分を害してしまったことを恐れながら。妻以外とのキスは初めてだ。
上手かったのか、彼女がどう感じたか、自信が無かった。
「優しいキスでした。」
とシュガーは感想を漏らした。ぎこちないキス。不器用な会話。
それからしばらくの時間、恥ずかしくて、彼の顔が見られなかった。
それは、彼も一緒で、シュガーとまともに目を合わすこともできないようだった。
そのまま、シュガーは、自分の部屋に戻り、
(これは、練習。おままごと。「勘違い」してはダメよ。)
そう、自分に言い聞かせたけれど、まだ、微かに残る唇の感触を思い出して、その晩は、寝られなかった。
翌日、シュガーは、隠さず何があったのか、ルーシーに報告した。
「ふーん、そうなの」
ルーシーは、驚いたような、それとも期待通りだったのか、表情では読めない反応を示した。怒ってはいないようだった。
「彼が、他の女の子とキス・・・ねぇ・・・」
「申し訳ございません!」
やはり、奥様が聞いて面白い話ではないだろう。奥様に言われて、誘惑したとはいえ。シュガーとしては、謝るしかなかった。
「いえ、いいのよ。それより、どんな感じでしたのか。教えて」
ルーシーは興味津津といった風で、シュガーに聞いた。
「こんなふうに?」
ルーシーはシュガーの唇に己の唇を重ねた。また・・・この時代の女の子同士なら、当り前の事なのかしら。
「その・・・恥ずかしいですけれど・・・」
シュガーは、戸惑いながらも、それに応えるように、ルーシーに、ちゅっとキスをした。
「こう・・・です」
「あら、カワいいキス。あら、貴方からするようになったわね」
ルーシーは、スカーレット大統領夫人で目覚めたのか、あれ以来、「女の子同士」の事の知識を蓄えていた。
シュガーのような可愛い子は、大好物だった。夫のことはさておき、シュガーにその素質があるのを認めると嬉しくなったようだった。
ルーシーは、ソファーの隣のシュガーを抱き寄せた。
「可愛いわねー、ほっぺすりすりしていい?」
ルーシーはシュガーに頬を合わせてすりすりする。それで、終わりではなかった。
「貴方、“小さいこと”を気にしてるようだけど。そんなこと無いと思うわ。」
さも、当然のように、手を伸ばすと、ルーシーは、シュガーの胸を触った。
「奥様、そんな・・・」どうしていいか分からなかった。
抵抗出来ず、顔を赤らめるばかりのシュガーを、彼女は、するすると脱がしていく。
「あーら、良い形してるじゃない。着やせする方なのかしら」
ルーシーは、シュガーの小ぶりのおっぱいを優しく撫で回し、乳首を摘まんだ。
「おやめください・・・あん♥」
女の子同士だからなのか。痛くも無く、ツボを押さえた愛撫だった。
シュガーの乳首がツンと立っていく。。。
「あん、あん♥」
手足がピンと震える。感じてしまっていることをもはや、隠せなかった。
それを見て、ほくそ笑むと「夫も気に入ると思うわぁ」と、ルーシーは太鼓判を押した。
お世辞なのだろうか。けれど、「彼が気に入る」と言われて、嬉しかった。
ルーシーも、いつの間にか裸になっていた。自分の身体に自信があるのか、
見せつけるように胸だとかを突き出していた。良いプロポーションだと、言わざるをえない。
「やっぱり、奥様はステキです。私なんて・・・」
目の当たりにすると、自分の貧相な身体と比べてしまう。こんなステキな方が、夫を誘惑できないなんて、おかしい。
やはり、自分などが出る幕は無いのだわ。
「キスをしてもらったんでしょう。貴方こそ自信を持つべきだわ」
夫にキスされて、怒って当然なのに。夫人が懐が深いのだろうか。
「よく見れば貴方と、そんなに『大きさ』は変わらないのよぉ、ほら、触って。私にもするのよぉ」
シュガーは、訳も分からず、言われるまま、夫人の胸を愛撫した。
見よう見まねで、ぺろぺろと夫人の胸を舐めて差し上げる。
「良いわよぉ。貴方って、とっても素直ね。素質あるわ」それで満足はしなかったようだけれど、
シュガーが、必死で愛撫してくれているだけで、愉しいようだった。
「お返しよ?」
ルーシーは、シュガーの大事なところに口付けると、優しく、それを愛撫した。
「ああっ、奥様、そんなところを!」どうやったのか分からない。
その日、シュガーは、初めて、夫人にイカされた。
「これからもお願いね」
それはもちろん、夫の事も含んでのことだった。
こうして、一週間ほど、毎日、彼とキスの「練習」を続けた。習慣とは恐ろしいものだ。
最初は躊躇っていたのに、彼は、妻でも恋人同士でもないはずの少女とキスをすることに、
だんだんと抵抗を感じなくなっていた。とはいえ、まだ、それ以上の事はしてこなかった。
このレッスンはルーシーの差し金とはいえ、シュガーは、夫婦との間の亀裂にはなりたくなかった。
一方で、ルーシーと夫が毎朝、キスをしている様子を見ると、明らかに彼は上手くなっているし、
夫の方から積極的にするようになっていた。夫婦仲は、順調に進展しているようだった。
だが、二人がキスをしているのを見ると、なんだか「胸」が締め付けられるような痛みを感じるのだ。どうしてなんだろう。
こんな気持ち、以前には無かった。
シュガーに彼が向ける目の変化にも気付いた。シュガーが、部屋の掃除をしたり、お洗濯をする普通の時間にも、
彼女を見る視線が違ってきていた。太ももや、お尻に視線が這ってきたりしている。
そして、それがバレそうになるとあわてて目を逸らす。これも以前には考えられない。どういうことなのだろう。
かくいうシュガーも、彼と目が合いそうになると、思わず目を逸らしてしまうほど、意識するようになっていた。
ルーシーに報告する際、“実演”してみせることも続いていた。その後、女の子同士ですることも。
シュガーも女の子同士の「関係」に、段々と抵抗を感じなくなってきた。嫌いなわけではない、むしろ、
こんなステキな人とこういう「関係」になって、嬉しいとすら思えた。
ルーシーは、彼が、キス以上を求めないことを残念がっていた。
シュガーとの仲が、進展しなければ、いつまでも彼は気後れして、ルーシーとも進展しない、と考えているのだった。
「きっと、奥様を傷つけたくないんだと思います。」シュガーは、旦那様をフォローした。
「貴方が、もっと積極的になるしかないようね」
「私から、ですか・・・」
「そうよ、彼を『その気』にさせるのよ。頑張ってね」
シュガーも、もっと彼との関係を進めたかった。人の旦那様だけれど、毎日、キスされていれば、もっと、してほしくなる。
レッスンとは関係なく。その事を内心、欲してしまっていた。
でも、彼は、結局、キスをしても私を子ども扱いしていて、女として、見てはくれないのかもしれない。
彼はただでさえ、奥様にも手を付けない”潔癖”の人。自分なんか相手にされるはずもない。
旦那様の自信を付けると言っているけれど、彼女にもまた、自信など無かった。愛される自信が。
To Be Continued