ジョースター家因縁の宿敵DIOを倒し、熱砂の国から日本へ帰国した承太郎を待っていたのは、すっかり元気を取り戻した母と  
50日余りの休学のせいでギリギリの出席日数だった。  
あの旅で失ったものはあまりにも多かったが、承太郎は再び平穏な生活へと戻った……はずだった。  
出席日数を補うため一応まじめに授業を受け、下校する途中の承太郎のそばに黒塗りの外車が近づいてきた。  
承太郎に並んで徐行する車のウィンドウが開き、運転席から女が顔を出した。  
どこの国のものともつかないエキゾチックな雰囲気を醸す美貌を、艶っぽいメイクが彩っている。  
ウェーブのかかった黒髪をポニーテールに結い、ゆったりした衣服の上からでもわかるほど胸が張り出していた。  
何者かと警戒する承太郎に、女は親しげに声をかけてきた。  
 
「久しぶりね承太郎、あたしよ」  
「……? テメーなんか知らん」  
 
承太郎は一瞬不審そうな顔をしただけで、さっさと歩きだしてしまった。  
その反応に、車のドアを蹴り開けて女が飛び出してきた。  
 
「待てーーーッ! あたしだよッ!『女教皇』のミドラーッ! あの時はよくもやってくれたわねぇ! 承太郎!」  
「!! ミドラーだと……? テメーだったのか」  
 
その名を聞いて、承太郎はようやく思い当たった。  
DIOを倒す旅の途中、海中で襲ってきて承太郎に一杯食わせたが破れ去ったスタンド使いの女。  
ジョースター一行は当然知らぬ事だが、あの後ミドラーは這々の体でスタンド使いの闇医者に治療を受け、  
無惨に砕かれた歯と美貌は元通りになった。  
その代わり治療費をずいぶんボッたくられたものだが、もちろんミドラーはそんな事が言いたくてわざわざ現れたのではない。  
 
「わざわざお礼参りに日本まで追いかけてくるたあ、歯をへし折られただけじゃあ懲りねーとみえるな……」  
 
承太郎の傍らに『星の白金』が現れた。 相手が妙な動きをすれば即座にラッシュを繰り出せるよう、闘志満々で拳を固めている。  
しかしミドラーはスタンドを出す事はしなかった。 呆れたように両掌を上に向ける。  
 
「早とちりしないでよ、あたしはあんたに『忠告』しに来ただけよ」  
「『忠告』だと?」  
「あんた、DIO様だけでなくスタンド使いの刺客を山ほど倒してきたでしょ?   
そいつらのほとんどは一匹狼を気取ってたし、もともと金目当てだったんだから復讐に来る根性なんてありゃしないわ。  
でも、短い間に何人も凄腕の殺し屋を再起不能にしたあんたやポルナレフは、すでに裏社会のスタンド使いの間じゃ  
けっこうな有名人なのよ……」  
「……やれやれだぜ」  
 
承太郎はミドラーの言いたい事を察した。  
DIOを倒しはしたがそれで終わりではなく、自分の意思に関わらず厄介な事になるというわけだ。  
「ポルナレフの方は天涯孤独だからいいとしても、あんたには家族がいるでしょ、SPW財団がバックについてるとはいえ、  
もし人質にとられでもしたら面倒な事になるかもね」  
ミドラーの人質という言葉に、承太郎の目元が険しくなった。  
あの旅でも、卑劣な刺客に仲間や無関係の者を人質にされたことはあるが、承太郎が気を許せる数少ない身内である  
ホリィにもし手を出されたら、そいつを骨も残らないほどにブチのめすだろう。  
 
「それで、おめーは何が目的だ」  
「え?」  
「ただそれだけの事を言うためにわざわざご親切にやって来たとは思えねえ、何のつもりだ」  
 
承太郎に核心を突かれ、ミドラーはいきなり両手を擦り合わせてもじもじし始めた。  
さっきまでの嬌慢な表情は消え失せ、ほんのり顔を赤らめてうつむいている。  
 
「だ、だから……あたししばらく日本で骨休めするから、その間あんたのボディガードになってやってもいいかなって……  
いくらスタープラチナが強いっていっても、いつ襲ってくるか分からない新手のスタンド使い相手に一人で戦うのは危険じゃない?」  
 
ちら、とミドラーは上目遣いで反応をうかがったが、承太郎の返事は簡潔だった。  
 
「断る」  
 
ミドラーが承太郎の命を狙わない保証はどこにもない。  
刺客が身辺をうろついているほど危険な事はないだろうし、言っている事が嘘でないとしても  
こんな油断ならない女に借りなど作りたくない。  
 
「あ~ん、待ちなさいよッ!」  
 
わめくミドラーを無視して、承太郎はさっさと自宅の門をくぐった。  
 
しかしミドラーが現れたのはそれで終わりではなく、翌日から承太郎が行く先々に待ち伏せしていた。  
登校途中にまたミドラーの車と出くわし「送ってあげるわ」と声をかけられ、間の悪いことにその場面を  
同級生に見られて騒ぎになり、あれこれ詮索されて承太郎は朝から非常に鬱陶しい思いをした。  
逃れようと保健室に入ったら、白衣を着て保険医の格好をしたミドラーが何食わぬ顔でベッドに座っていたので、  
承太郎はそのまま教室へ戻ってまじめに授業を受けた。  
いいかげん神経をすり減らされ、一服しようとして煙草を切らしたのに気付き、帰りがけに行きつけのさびれた煙草屋で  
いつもの銘柄を求めたところ、煙草の箱を差し出したのはネイルを施した優美な手だった。  
 
「あんまり吸うと体に悪いわよ、承太郎」  
「!!」  
 
なんと店番の老婆とミドラーが入れ替わっていた。  
動揺を隠して煙草に火をつけようとした承太郎だったが、煙草を逆さにくわえていた。  
(しつこいアマだ……これでは四六時中つけ狙われているも同じ事だぜ……)  
しかし、相手から何もしてこない以上、スタンド使いとはいえか弱い女を力ずくで叩きのめすわけにもいかない。  
承太郎は苦りきった表情をしていたが、ミドラー本人にはつけ狙っているつもりはなく、この自分を倒したほどの男を  
つまらない連中に殺させるわけにはいかないというプライドで承太郎を護衛しているつもりなのであった。  
 
「そういえば明日は日曜日よね、承太郎は何か予定あるの?」  
 
ミドラーの言葉に、承太郎の脳裏に閃くものがあった。  
ジョースター家伝統の戦法「逃げる」が通用しないと考えた承太郎は思考を切り替え、「逆に考える」ことにした。  
相手が自分につきまとって来るなら、逃げるのではなくあえて相手の誘いに乗ってやり、観察して対策を立てるのだ。  
少なくとも、ミドラーの言動に裏があるのかどうかぐらいははっきりさせたい。  
 
「ああ、あるぜ……オメーと過ごす予定がな」  
「えッ!!」  
 
冷たくあしらわれると思っていただけに、あまりに意外な返事にミドラーはうろたえた。  
 
「ゆっくり話がしたいと思っていたところだ、付き合ってもらうぜ」  
「明日、あたしと……そ、それってデートってやつかしら?」  
「……やれやれだぜ」  
 
デートどころか決闘でもするようなドスの効いた口調での誘いだったが、花が咲くような満面の笑みで浮かれている  
ミドラーを横目に、承太郎は煙草を靴底で踏み消した。  
 
 
翌日、承太郎は約束した場所でミドラーを待っていた。  
いつもと同じ一張羅の改造学ランに学帽姿だが、ただ立っているだけでも絵になっている。  
高校生にはあるまじきことだが、煙草をくゆらす仕草に目を奪われる通行人の女もいた。  
やがて時間ぴったりにミドラーがやって来た。スタープラチナの視力なしでも、その目立つ姿はすぐに雑踏の中に見つけられた。  
 
「あっ、承太郎♪ 待った?」  
 
今日のミドラーは胸元が大きく開いた鮮やかな色のニットワンピースの上に、裾が優美なフリル状になった細身のコートを羽織っていた。  
街にいる普通の女の子と変わらない格好だったが、大輪の華のような美貌と抜群のスタイルは男の目を引かずにおかない。  
隣にいる承太郎も長身でハンサムなだけに、二人は嫌でも目立っていた。  
周りの通行人の視線を心地よさそうに受け止め、悠々と歩くミドラーの胸元でプラチナのネックレスが揺れてきらめいた。  
 
「ねえ、これからどこに行く? 映画でも観に行こうかしら? それともお買い物?」  
 
デート気分ではしゃぐミドラーの言う事など聞いていないように、承太郎は余所を向いている。  
恋人同士だと周りに思われるのさえ嫌なようだ。  
(何よ、冷たい奴……)  
そこらの男ならミドラーがちょっと甘い声を出せば言いなりになったが、承太郎はあくまでも冷淡な態度を崩さない。  
自分の魅力に絶対の自信を持っているミドラーだったが、承太郎にはそんな態度を取られても不快ではないのが不思議だった。  
 
二人は人混みを離れ、港のそばの大きな公園にたどり着いた。  
海風は冷たいが陽射しは暖かく、波の音やウミネコの鳴き声も心地よい。  
尾行者がいないことを確認した承太郎は、万一騒ぎになっても無関係の者に被害が及ばないと判断し、  
ひと気の少ないこの公園で一休みする事にした。  
 
「ふーん、たまにはこういう所でのんびりするのもいいわね……」  
 
ミドラーは柵に手をつき、陽光に輝く海を眺める。  
潮風にワンピースの裾が揺れ、すんなりした脚が覗いた。  
承太郎は隣にいるミドラーよりも港に停泊している船や、出港する大小さまざまな船に目を奪われていた。  
 
「あんた、船が好きなの?」  
「嫌いじゃねえ」  
 
素っ気ない返事ではあったが、嘘ではないらしく、飽きずに船を見つめている。  
その中には外国に行くような大きな客船もあった。  
 
「二人で船に乗ってどこか遠くまで旅行に行けたら素敵よね」  
「オメーと……誰がだ?」  
「もう!」  
「潜水艦にも一度だけ乗った事があるが、その時はすぐ沈められちまったからな」  
「あぁ! 紅海での事ね。 承太郎、覚えててくれたのねッ」  
「いちいち感動してくっつくな、ウットーしい」  
 
ミドラーにとっては刺客として初めての敗北を喫した苦い思い出のはずだが、それさえも今となっては  
出会いのきっかけとしてすり替わっている。  
 
「あ、JOJO!」  
「ほんとだ、JOJOだわ! 何してるのー?」  
 
いきなり耳に飛び込んできた黄色い声に承太郎が振り向くと、連れ立ってどこかへ遊びに行く途中なのか、  
同じクラスの女生徒たちがいた。  
承太郎の大ファンである彼女らは「偶然JOJOと出くわすなんて超ラッキーだわ!」とはしゃいでいたが、  
隣にいるミドラーの存在に気付き、はっとした顔になった。  
 
「JOJO……隣の人は誰? もしかして……彼女?」  
「ま、まさか! あの硬派なJOJOが彼女なんてつくるわけないわッ!」  
 
普段から人を寄せ付けず一匹狼の承太郎が女連れという珍しいものを見れば誤解するのも無理もないことだが  
勝手に騒ぎ出すクラスメイトに、承太郎は苦虫を噛み潰したような顔になる。  
「てめーらには関係のねーことだ」  
と一喝する前に、ミドラーは承太郎の腕に抱きつき、服ごしでも分かるたわわな胸を押しつけながら  
 
「はじめまして、わたくし、承太郎の婚約者ですの」  
 
と、今までの蓮っ葉な言葉遣いからはかけ離れたお上品な台詞を吐いた。  
 
瞬間、その場の時間が凍り付いた。  
 
「あァんまりだぁぁぁ~~~!!」  
「あーん! JOJO様が婚約した!!」  
 
あまりの爆弾発言に放心する者、号泣する者、ショックで失神する者と、平和な公園は混乱の坩堝となった。  
……その修羅場からどうやって逃れたか、承太郎自身もよく覚えていない。  
 
「きゃははは! あの子たち月までぶっ飛ぶほど驚いてたわね、見た?」  
 
心底愉快そうに笑うミドラーを睨みながら、承太郎は明日学校に行きたくないという気持ちでいっぱいだった。  
 
「テメーの歯でなくて舌の方を引き抜いておくべきだったぜ」  
「ふふん」  
 
承太郎に一泡吹かせてやり、してやったりという表情のミドラーだったが、本心ではそれが目的ではなかった。  
普通の女の子として、平凡だが幸せな暮らしをしている彼女らが少し羨ましくなってあんな意地悪をしたのだった。  
(承太郎と同じ学校に毎日通ってるなんて、ほんと恵まれてるわよねー……フン)  
彼女らぐらいの年にはもう自分は裏の世界に足を踏み入れていた、と懐かしく思っていた時、どこからかいい匂いがしてきた。  
それがオリーブオイルの香りで、いま横切ったイタリア料理店から漂ってきたものだと気付いたミドラーは急に空腹を覚え、承太郎に声をかけた。  
 
「もうお昼なのね、承太郎、何食べたい? 中華? フランス料理? 奢るわよ」  
「勝手にしな」  
「何でもイイの? じゃあケーキバイキングにしようかしら、女の子に人気で行列ができる店知ってるのよ」  
「…………」  
 
結局、数ある有名店の中から承太郎が選んだのは懐石料理だった。  
料金以下の食事を出すレストランには代金を払わない事もしょっちゅうの承太郎だったが、今回は味に満足したようできっちり支払った。  
ミドラーが「はい、あーん♪」と箸を差し出してくるのにはさすがに閉口したが。  
その後も承太郎をあちこち連れ回し、締めくくりにホテルのラウンジで優雅にお茶を飲みながら、ミドラーは顔を寄せて囁いてきた。  
 
「ねえ承太郎……ここに部屋をとってるんだけど、よかったらこの後来ない?」  
「部屋だと? お前ここに滞在してるのか」  
「そうよ、でも同じところじゃ飽きるから明後日には別のホテルに移ろうと思ってるの」  
 
全く優雅なご身分だが、居場所を転々と変えるのは予期せぬ襲撃を防ぐための対策でもあった。  
 
「いいでしょう?」  
 
ミドラーが誘ったのはもちろん下心からだったが、相手が身持ちの堅そうな男なので、明日の朝まで、とはあえて言わなかった。  
 
「…………」  
 
毒を食らわば皿までだと思い、承太郎は黙って席を立ち、ミドラーについて行った。  
 
ミドラーが滞在している部屋は、夜景が一望できる高級スイートだった。  
部屋に入る時、承太郎は一応用心して身構えていたが、罠らしい気配は何もない。  
もっともきょう一日の間に攻撃のチャンスは何度もあったのに、襲われる事は結局なかったのだからミドラーに敵意がない事はほぼ確定したと言っていいだろう。  
その時、するっ、と衣擦れの音がした。  
なんとミドラーは承太郎が同じ部屋にいるにも関わらず、平気で服を脱ぎだしたのだ。  
コートを脱ぐだけならまだしも、その下の衣服まで。  
(なんだこの女、服なんか脱ぎだして……露出癖でもあるのか?)  
一枚ずつ脱いでいき、ついに紐のような下着に手がかかり最後の一枚が床に落ちた。  
 
「あたし、汗かいちゃったからシャワー浴びてくるわね。 喉がかわいてたら勝手にルームサービスで何か頼んでいいから」  
 
それだけ言って、ミドラーの裸の後ろ姿がバスルームに消えた後には、脱ぎ捨てられた衣服だけが山になっていた。  
その頂上のまだ体温の残る小さな下着には目もくれず、承太郎はソファに腰掛けた。  
 
「承太郎、いっしょに浴びる?」  
「!! 出てくるなーッ一人で浴びてろーッ!!」  
 
ドアから顔だけのぞかせたミドラーに、承太郎が一喝するとくすくす笑いながらまたバスルームに引っ込んだ。  
・  
・  
・  
「ああ、さっぱりしたわ」  
 
やがてシャワーから上がってきたミドラーは、備え付けのバスローブなどは羽織っておらず、素肌にバスタオル一枚巻いただけの格好だった。  
ほかほかと上気した肌からはシャボンの香りが匂い立つようで、隠しきれないほどの量感のバストがタオルの下できゅうくつそうに押さえつけられていた。  
すっかりくつろいだ無防備な姿は、とても凄腕の女刺客とは思えない。  
ソファに座って煙草をくゆらせている承太郎の腿を跨ぐようにして、バスタオル一枚の肢体が覆い被さってくる。  
室内でもとらない学帽の鍔を少し持ち上げて、ミドラーは承太郎の肉厚な唇から煙草を奪い、代わりに自分の唇を合わせた。  
ちょっとした悪戯のつもりで、すぐ離れるはずだったが、意外にも承太郎はミドラーの腰に手を回し、より深く重なるよう自分からも顔を寄せてきた。  
(うわぁ、やる気なのね……やっぱり男だわねぇ)  
相手がその気になってくれて嬉しく、ミドラーが舌を差し出すと、向こうからも熱い舌を絡ませてきた。  
煙草の味がしたが嫌ではなく、ミドラーはその甘美な苦味さえもうっとりと味わった。  
こんなに情熱的なキスを交わしたのはどのくらい前だったろうか。  
短いがこの上なく充実したひと時に、いつのまにかバスタオルの前がはだけていた事にも気付かなかった。  
未練げに唇を離したミドラーは甘い息を弾ませながら、承太郎に言った。  
 
「あんた巧いのね……全然女の子に興味ないように思えたけど、意外にやる事やってんのね」  
 
正直な感想だった。 もし経験がないならそれをいい事に弄んでやろうと思っていたが、これでは自分の方が翻弄されてしまいそうだ。  
でも、たまには一方的に責められたりするのもいいかもしれない。  
 
「まさか、門限があるからもう帰るなんて言わないわよね? これからもっと楽しい事をするんだから、ふふ」  
 
これから承太郎と過ごす時間を想像し、ミドラーは艶めかしい仕草で舌なめずりした。  
もうすっかりやる気のミドラーを前にして、どう扱っていいものかと承太郎は呆れたような表情になった。  
 
「やれやれ、風邪引くぜ」  
「いいわよ、あんたにすぐあったかくしてもらうから」  
 
実際、ミドラーの体は湯冷めして冷えるどころか火照って仕方ないぐらいだった。  
その熱が衣服越しに分かり、承太郎は嘆息した。  
(さてと……きもっ玉ってやつをすえてかからねーといけねーようだな)  
正直な話、承太郎はミドラーが自分を罠にはめようと近づいてきたならただブチのめせば済む事で、まだ分かりやすいと思っていた。  
しかし、今日一日行動を共にして彼女の好意に裏がないと分かり、かえって扱いに困っていたのだった。  
(わけのわからん騒がしい女だが……救いようのねー悪党というわけでもなさそうだ)  
今のミドラーは情欲に潤んだ眼でこちらを見つめ、唇は先程のキスの余韻でつやつやと濡れている。  
化粧を落とすと少女のようなあどけなさの残る顔になるのを、承太郎は間近で見て初めて気付いた。  
はだけたタオルの間からは深い谷間と淡い陰りが見え、桜色に上気した裸身は眩しいばかりだ。  
並の男なら思考停止しかねない媚態だったが、承太郎はなお冷静さを保っていた。  
こんな時ポルナレフなら「男は度胸! 何でも試してみるのさーッ」とあからさまな罠と分かっていてもホイホイ誘いに乗るのだろうが。  
 
「ウブな学生をあまりからかうもんじゃあねーぜ」  
 
ふてぶてしい面構えでそんな事を言うのがミドラーにはおかしく、逆にもっとからかってやりたくなった。  
第一、こんな土壇場で獲物を逃がすなど女としてのプライドに関わる。  
 
「ふん、それじゃあイヤでもその気にさせてやろうじゃない」  
 
言うやいなやミドラーは再び唇を合わせ、発情した猫のようにすりすりと柔らかい身体を擦り付けてきた。  
頭の芯が蕩けそうな甘い香りが髪や肌から立ち上るのが至近距離で感じられた。  
承太郎が動かないのをいいことにミドラーは勝手にシャツを捲り上げ、筋肉の線に沿って細い指を這わせる。  
身体のあちこちをくすぐりながら、指が艶めかしく下降していく。  
しかし指が下半身にたどり着いてもすぐにベルトを外すような事はせず、ズボンの布地越しに優しく撫でるだけだった。  
初めは赤ん坊をあやすような手つきが、徐々に形を成すものの輪郭をなぞる淫らなものに変化していく。  
この絶妙な愛撫に、承太郎は恍惚とするどころか不快そうに眉をひそめただけだった。  
 
「もうそこらへんにしとけ……くすぐったいのは嫌いなんでな」  
「『くすぐったい』? ほんとにそれだけ? ここまでしてピクリともしないなんて17にして枯れ過ぎよ~?」  
 
ミドラーが悪戯っぽく承太郎の下腹部に手を伸ばすと、彼女の努力の成果である確かな手応えがあった。  
 
「あまりなめた態度とるんじゃあねーぜ おれはやるといったらやる男だぜ」  
「きゃー☆承太郎に襲われるぅー!!」  
 
わざとらしく黄色い声を上げるミドラーを『星の白金』に持ち上げさせ、ベッドに放り投げた。  
クイーンサイズのベッドは承太郎が上がっても十分に広く、糊のきいたシーツの手触りが心地よかった。  
トレードマークの帽子はそのままに学ランを脱いだ承太郎の肩の星形のアザを目にした途端、ミドラーははっとした顔になった。  
まるで以前別のところで見た事があるような反応だったが、当然承太郎には覚えがない。  
 
「どうした」  
「な……何でもないわ」  
 
取り繕うさまを不審に思いながらも、承太郎はミドラーの首すじに唇を落とした。  
ミドラーは愛撫を受けながら、おずおずと相手の逞しい首に腕を回し、星形のアザにその美しい指先で触れた。  
 
「あんっ」  
 
視線を下にやると、承太郎はミドラーご自慢の豊満な胸に顔を埋め、その大きな手で包み込んでいる。  
(やっぱり男ってみんなおっぱいが好きなのねぇ……)  
そう思いながらも、承太郎が興味を示してくれたのが嬉しく、ミドラーは承太郎の手に自分の手を重ね、愛撫を催促した。  
湯上がりでしっとりしたもち肌は男の掌に吸い付くようで、むにゅ、と手の中で柔らかく変形してはまたすぐ元の形に戻った。  
もちろん承太郎の手はただ単調に揉みしだくだけではなく、先程までバスタオルに隠れていた頂点も指先で捉える。  
 
「きゃ……!」  
 
いつも胸を見せびらかしているくせに、そこがミドラーの特に弱いところだった。  
承太郎の指に触れられる前からつんと固くなっており、ずっと弄られたくてたまらなかったのだ。  
指の腹で軽く押しつぶすようにされ、ミドラーは承太郎の身体の下で裸身をよじらせた。  
ミドラーの肌が汗ばんで情欲の色に染まっていくのにつれて、色の薄いやや大きめの乳輪も花が色づくようにうっすらと染まり始めた。  
特に言葉で嬲るような事はせず無言のままの承太郎は、手つきの淫靡さに比べて表情は心臓マッサージで救命処置を行う時のように、  
この上なく真剣だった。  
 
「だめっ、そこばっかり……!」  
 
今日一日承太郎を振り回していた態度とはうってかわって、ミドラーは相手にされるがままになっていた。  
仕事の都合で、身体を使って標的に接近するときは内心の退屈を堪えて媚態を作る事もあるが、本当に好いた男とベッドにいて  
演技などできるはずもない。  
ミドラーが承太郎の指戯に悶えて首を振るたびにシーツに広がった黒髪が波打ち、曲線模様を描いた。  
ミルクがたっぷり詰まっているような乳房は絶えずぷるぷると揺れて弾み、執拗に責められている乳首の先までじんじんと熱い。  
 
「はぁ……あ……」  
「辛いか」  
「あんたこそ、おっぱいだけで満足しちゃったの?」  
 
責められながらも、ミドラーは挑発的に微笑み、承太郎の指をむっちりした腿の間へと誘導する。  
指先に濡れた感触が伝わり、承太郎はミドラーの意図を察して温かく潤った奥へと指を進ませた。  
初めのうちは遠慮がちな指づかいでもぞもぞと輪郭をなぞっていたが、次第に指の動きは大胆になり、  
ミドラーが自分で慰めるとき以上に的確にポイントを刺激してきた。  
 
「ん、うふっ……上手よ」  
 
特に、花園の中の固い小さな蕾を探り当ててからはそこばかりを嬲り、ミドラーがもう少しでイきそうになるとそれを勘付いたように  
意地悪く指を止めてしまう。  
 
「やぁ、もっと……じらさないで……」  
 
全身に玉の汗を浮かばせ、腰を捩っておねだりをするミドラーを、承太郎は自分も欲情しているとは思えない冷静さで責め続けていた。  
秘部から滴るほどの蜜はそのままミドラーの淫蕩さを示しており、承太郎にとっては汁気の多い果実の中をかき回しているようなもので、  
探っている指がふやけてしまうほどだった。  
 
「指、だめっ、ふあぁっーーー!!」  
 
ミドラーは何も考えられなくなるほどの快感を堪えながら、真っ赤に茹だった顔を承太郎の裸の肩に埋め、すがりついてきた。  
容赦のない指使いに美しい女刺客はあっけなく絶頂へ追い上げられ、小さく震えてベッドにくずおれた。  
なおも続く余韻に悩ましく息をつきながら、自分にこんな痴態を演じさせた憎い男を潤んだ眼で見上げる。  
 
「あたし、あんたの指だけでイかされちゃったわ……やってくれるわね」  
 
年下の男の手ですっかり発情させられたミドラーは、気怠い身体に鞭打ってベッドに横たわった半身を起こした。  
 
「あんた、誰にこんな技術教わったの……? 誰か年上の女? ひょっとして同じ学校の女教師とか?」  
 
承太郎の手で同じように愛撫された女が他にいると思うと悔しくて、ミドラーはわざと無粋な質問を投げかけた。  
 
「今やりながら覚えてる最中だ、一回でも経験があるんならこんなに手間取ったりしてねーよ」  
「……なんですって?」  
「二度言う必要はないぜ」  
 
一瞬耳を疑ったミドラーだったが、承太郎の淡々とした口調からは嘘やごまかしは感じられず、まだ女を知らないのを  
特に恥じる事でもないと考えているようだった。  
ミドラーはしばし戸惑ったような顔で相手の顔を見つめていたが、やがて押し倒すような勢いで承太郎の胸に飛び込み、  
顔中にキスの雨を降らせた。  
 
「承太郎ーーーッ! 好き好き好きっ! もう大好きッ!」  
「おいおい、一体なんなんだ」  
 
ミドラーは承太郎の初めての相手が自分だという喜びに有頂天になっていたが、承太郎はミドラーがいきなりハイになったわけが  
わからなかった。  
(それにしても、童貞って呼び方がこれほど似合わない男もいないわよね……まあもうすぐ失くなるんだけどね)  
処女に拘る男を馬鹿みたいだと思っていたミドラーだが、今はそういう気持ちも分からないこともない。  
常にクールで高潔な精神を持ち、どんな相手にも決して屈しないこの承太郎の最初の女になるのだと思うと、余計に目の前の男が  
愛しく思えてきた。  
 
「あたしが上に乗ってもいい? あんた重いから潰されそうだわ」  
「勝手にしな」  
「うふふっ、そうだ、せっかくだからここ、じっくり見てみる?」  
 
ミドラーは承太郎の腹の上に膝立ちになって腰を突き出し、ヘアの薄い恥丘の下の性器が奥までよく見えるよう、  
自分の指で拡げてみせた。  
 
「ほら、こうなってるのよ。 あんたがさっきたっぷり弄った大事なところ、よーく拝みなさい」  
 
甘い蜜をたっぷり含んで桃色に濡れた花襞も、弄られて一回り育った蕾もあからさまに露出された、この上なく扇情的な姿に  
流石の承太郎も目を見張った。  
承太郎自身は焦らされていっそう角度が鋭くなり、まるで催促するように上に跨ったミドラーの尻を小突いた。  
 
「あらっ、もう我慢できないのね……いいわよ」  
 
この無言の訴えを聞いてやり、ミドラーは承太郎と合わせた視線を外さないまま、ゆっくりと真下にある直立した肉棒へと腰を沈めていった。  
かなり立派なもので、熟練のミドラーでも少し圧迫感を覚えるほどだったが、抵抗なく収まった。  
これ以上入らないところまで突き当たり、承太郎は呑み込まれていく間中ずっと詰めていた息をようやく吐いた。  
 
「…………」  
「どう? ご感想は」  
 
面白そうに訊いてくるミドラーだったが、承太郎は何も言わなかった。  
弾力ある肉の器に丸ごと根本まで包まれ、承太郎は初めて味わう感覚に、意志の強さを示す濃い眉をしかめ、唇を噛み締めている。  
その表情に征服欲のようなものさえ感じ、淫奔なミドラーはいっそう情欲を燃やした。  
 
「承太郎の、すごく硬いわ……初体験で緊張してるせいかしらね?」  
 
口ではそう言ってからかいながらも、いかにもこの男らしいと思いながら、ミドラーは亀頭が抜け落ちる寸前まで腰をゆっくり上げて、  
硬質な肉の根をもう一度奥までくわえ込んだ。  
それだけの動作だったが、女体の奥に備わった細かな襞々に男根をくまなく舐め上げられるような感覚が走り、承太郎は低く呻いた。  
 
「んんっ……んっ……」  
 
ミドラーも硬い肉に奥を突かれ、軽く息をつめる。  
熱い血の通った肉棒が滑るように出入りする感触に黒い瞳を潤ませ、耳まで桜色に染めて夢中で腰を使うミドラーの姿態を、  
貪られながら承太郎は見上げていた。  
小玉メロンのように張り切った二つの乳白色の膨らみが、身体の動きに合わせて魅惑的に揺れ、頂に色づく乳首は触られてもいないのに  
さっきから勃ちっぱなしになっている。  
承太郎のやや緑がかった澄んだ眼にその艶めかしい姿が映り、普段の明晰な思考を追いやっていく。  
 
「はぁっ……ねえ、気持ちいい? もう出ちゃいそう?」  
 
言葉でも煽られ、本能に火が点いたのか承太郎はおもむろにミドラーの腰を両手でがっしりと掴んで固定した。  
自分のものでいっぱいに拡げられている結合部をまじまじと眺める。  
すぐに見つけた蕾を指で捉え、あくまで優しい動きで、小さく円を描くように指の腹で転がした。  
 
「きゃあんっ!?」  
「なるほど、ここを弄られてヒイヒイ言ってたわけか」  
「こ、こんな時にそんなところ……ひあぁんっ!!」  
 
不良のレッテルを貼られているが、知らない事を学ぶのは嫌いではない承太郎はこの機会を逃さず、先ほどの前戯で学習した内容を  
ミドラーの肉体できっちりと復習していた。  
ベッドに肘を突いて上体を起こし、繋がったままミドラーと向かい合った承太郎は女体を載せたままの腰をぐっと突き上げた。  
 
「あっ! あ、んんっ!」  
 
強靱な腰の突き上げは二度、三度と続き、ロデオのように上下に激しく揺らされてミドラーは舌を噛みそうになった。  
ついさっきまで童貞だったとは思えない凶暴な肉根が、ミドラーの肉襞を奥の奥までこじ開け、子宮口に頭を擦り付けている。  
体勢においても場数においてもミドラーの方が優位なはずだが、承太郎に圧倒され、まるで逆に犯されているようだった。  
こんなに短時間で女の扱いを学習し、反撃に移る承太郎を改めて侮れない奴だと思ったが、それも一瞬だけで、ミドラーにとっては  
今感じるものだけが全てだった。  
激しい情交に全身を汗で光らせたミドラーの、真珠色の光沢を帯びた双乳が承太郎の身体に挟まれて柔らかくつぶれている。  
貪欲な女刺客はさらに快感を得ようとその先端を承太郎の胸に擦り付け、小さいくせに敏感な突起から伝わる性感に濡れた声を上げ続けた。  
 
「あ、あぁ、だめぇっ、奥にきてるぅっ……!」  
 
もう昇り詰めつつあるミドラーは、承太郎にすがりついて甘く熟れた唇を押し付けた。  
承太郎も拒まず、唇を受け入れて最後の一突きを送り込む。  
上でも下でも深く重なったまま、ミドラーの締め付けに、若い肉は堪えきれないようにびくっ、びく、と大きく震え、  
新鮮な精を惜しげもなく吐き出した。  
胎内で熱い奔流が迸る感覚にミドラーは悩ましく眉を寄せた。  
 
「はぁっ……すごい、いっぱいになっちゃう……」  
 
射精が終わっても、しばらく二人は抱き合ったままで離れなかった。  
身体から熱が引いても、承太郎と繋がったところだけがいつまでも熱く、ミドラーは満たされた表情でなんとも色っぽく溜め息をついた。  
 
「承太郎、熱いのいっぱい出したわね……そんなに気持ちよかった?」  
 
女の殺し屋にとって妊娠は最も避けたい事態であるが、ミドラーがあえてゴムの類を使わなかったのは、せっかくの初体験なのだから  
承太郎に直接感じさせてやりたいと気遣ったからだった。  
まったく余計なお節介だが、この悪女には珍しい事だった。  
 
「だいぶ汗をかいたな」  
「洗ってほしいの? バスルーム行く?」  
 
ミドラーが思いついた悪戯を知る由もなく、承太郎は頷いた。  
 
「あ……ふあぁ……」  
 
広々としたバスルームに、ほとんど吐息のような艶めかしい声が響いていた。  
生まれたてのヴィーナスのように、裸身に泡だけをまとったミドラーは膝立ちで壁に寄りかかり、尻だけを突き出した  
なんとも卑猥な格好で年下の男に後ろから責められていた。  
膝の下にはバスマットが敷かれて痛くはないが、前に張り出した形のいい乳房はタイル壁にむにゅっと押し付けられ、窮屈そうに歪んでいる。  
しかし全身が火照って仕方ないミドラーにはタイルの冷たさが心地よく、陶酔した表情をしていた。  
暖色の灯りに照らされて艶々している桃尻を押さえつけ、承太郎の肉根が長いストロークで出入りしている。  
抜ける寸前まで腰を引き、また深くまで突き込んでミドラーの複雑な内部を繰り返し味わっていた。  
 
「あはぁっ」  
 
ずんっ、と奥に突き当たったのを感じ、耳まで真っ赤に紅潮させたミドラーが蕩けた声を上げる。  
全身に泡をまとって承太郎に抱きつき、直接身体を洗ってやろうとしたのだが気付けばこんな状況になっていた。  
泡まみれの手で愛撫して、またその気にさせてしまったのが不味かったのかもしれない。  
初めてのくせにすぐ二回戦だなんてさすが若いわね、と言う余裕ももうなかった。  
感じ過ぎてとめどなく溢れるミドラーの蜜で濡れ、一層滑りが良くなった太い肉根が何の引っかかりもなくぬるぬると潜り込んでいく。  
女の部分を残らず暴かれている事に我を忘れ、ミドラーは自分が童貞を頂いた相手に懇願した。  
 
「承太郎っ、あんたのすごくいいわ……壊れちゃうぐらいに突いてぇ……!」  
「やれやれ、こき使いやがって」  
 
ミドラーの乱れぶりに呆れたような口調とは裏腹に、承太郎は貪欲な肉体へと力強く腰を打ち付け続けた。  
 
「はんっ、あぁ、あんっ!」  
 
貫かれるたびにミドラーは黒髪を振り乱し、海から上がった人魚のような肢体をのた打たせて淫らな踊りを演じた。  
シャボンの香りの湯気に混じって漂う、むせ返りそうに甘ったるい女の匂いがいっそう濃くなったようだった。  
一番感じるところを何度も擦り上げられ、たまらなくなったミドラーは訴えるように承太郎の名を呼んだ。  
 
「承太郎っ、承太郎……あたし、また、いっちゃうっ……!」  
 
ただ名前が口をついて出てくるだけで、それ以上の意味はなかったが、承太郎は呼びかけに応えるように、後ろから繋がったまま  
ミドラーの華奢な身体が折れるほど強く抱き締めた。  
その腕の中でミドラーの肢体が跳ね、淫蕩な器官が男の精を吸い尽くそうと締め上げてくる。  
幾重にも重なった襞々に嬲られ、いかに強い意思をもってしても堪えようのない衝動が走り、熱くたぎっていた精を噴き上げた。  
 
 
翌朝、同ホテルのラウンジでミドラーと承太郎は朝食を摂っていた。  
豊かな黒髪を結い上げたいつもの髪型に、今日は黒いドレスの深いスリットからガーターを覗かせ、まるでギャングの情婦のような格好で  
ミドラーはコーヒーカップを口に運んでいる。  
 
「ゆうべはわざわざベッドまで運んでくれたなんて……承太郎、優しいのね」  
「風呂場に放っておくわけにもいかねーだろ」  
 
朝から上機嫌で肌を艶々させているミドラーとは対照的に、承太郎はいつもと変わらない仏頂面だった。  
こんな美女相手に童貞を捨てた翌朝ともなればもう少し舞い上がりそうなものだが、感情を表に出さない承太郎が  
内心どう思っているかはミドラーにも分からなかった。  
 
「しかし、寝言でDIOの名前を呼ばれるとは思わなかったぜ、あの野郎と間違われるとはな」  
「えッ!? う、嘘よ!! そんなつもりじゃ……」  
「ああ嘘だぜ」  
「!!」  
 
承太郎に一杯食わされたと知ったミドラーは、顔を真っ赤にして怒りだした。  
 
「何よッもう! 乙女の純情を何だと思ってるの!! 承太郎のバカ! ドサンピン!」  
「悪かったな」  
「もっとまじめに謝れッ! クキィーッ!!」  
 
憎らしいほど落ち着いた承太郎の顔を見て、こうなったら本当にあたしの手でぶっ殺してやろうかしら、とミドラーは思った。  
昨夜ホテルに入る前と比べてずっと打ち解けた二人のやりとりは、周りからは(かなり風変わりな)カップルの痴話喧嘩と  
思われているに違いない。  
 
「……っていうか、あたしはDIO様を愛してはいたけど、死んだ男の事をいつまでも引きずったりしないわよ。  
今更あんたに復讐して何になるって感じよね」  
 
刺客として、というより女として徹底した現実主義のミドラーらしい考え方だった。  
 
「むしろ危ないのは、DIO様に心底忠誠を誓っていたような奴らね……こんな風な」  
 
何気なくカップを下げに来たウェイターの手に、ミドラーのスタンド『女教皇』が食らいついていた。  
ウェイターが懐から出そうとして、取り落とした拳銃が音を立てて足下に落ちた。  
弾丸を空中で摘み取る『星の白金』の前には銃など役には立たないが、不意打ちでの暗殺を狙ったのだろう。  
ミドラーは悠々と脚を組み、椅子から立ち上がりもせずにその男を視線だけで射抜いた。  
 
「ミドラー、貴様……標的に寝返る気か!?」  
「うるさいわね! あたしはいつもいい男のほうに付くのよ!」  
 
清々しいほど自分勝手な言い分と共に、ウェイターに扮した刺客を『女教皇』の鋭い爪で血祭りに上げる。  
日常から一気に修羅場へ変貌した店内を後にし、二人は『女教皇』が変化した黒塗りの車に飛び乗った。  
 
「まったく、野暮な連中ばっかりで困るわ」  
 
ミドラーは勢い良くアクセルを踏み、発車させた。  
車に揺られながら、承太郎はゆうべ、ホリィに外泊すると連絡していなかった事を今になって思い出した。  
 
「ああそうだ、忘れてたわ、はい承太郎……」  
 
車を運転、もといスタンドを操縦しながらミドラーがこちらを向き、唇を突き出してきた。  
その不可解な仕草に承太郎の思考は中断された。  
 
「何のまねだ、ちゃんと前見て運転しろよ」  
「おはようのキスよ、まだしてなかったでしょ?」  
「…………やれやれだぜ」  
 
どうやら彼女はジョースター一族が乗った乗り物は必ず大破するジンクスをDIOに聞かされていなかったらしい。  
そうでなければ自分と同じ車に乗っていてこんなに注意散漫でいられるものか。  
承太郎は運転手の甘い唇を味わう代わりに、煙草を一本くわえてスタープラチナに火をつけさせた。  
朝一番の心地よい紫煙が肺に染み渡る。  
それが気に入らない様子で、ミドラーは承太郎の唇を占領する煙草を強引に奪い取り、わき見運転も構わず今日はじめての口付けをした。  
 
(End)  
 
 
 

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