「兄貴!?本気ですかい!?こんな所でスタンドを出すなんて!」
目の前を漂う煙に気がつき、ペッシは慌てて仰け反る。
振りかえった先ではプロシュート兄貴が冷たい目をして立っていた。
その後ろに見えるビジョンは、おぞましい触手を生やした兄貴のスタンド。
「いいか、ペッシ俺達はヤル時はやるんだよ!」
「オレのスタンドは人間の本能を刺激するスタンド!
仲間はこの能力をクソにも役に立たないと言ってるが物は使いようだ!
聞けば護衛チームは十代のクソガキだらけと言うじゃねぇか!
必ず限界は来る筈だ!
理性を保てなりトイレに駆け込む所を奇襲する!
行くぞペッシ!氷だ!お前が持て!」
そう言うと、兄貴は踵を返し車掌室から出て行った。
さすが、兄貴。
言ってる事がイカレてるけど、兄貴は誰よりもカッコ良かった。
変化が最初に現れたのがナランチャだった。
ポンペイでの戦いで負傷した仲間の周りで
武勇伝を聞こうとキャンキャン騒いでいたのが……
段々と大人しくなり、ソファーに腰をかけ俯いてしまったのだ。
傍で
「おいおい大人しくなっちゃたのか?」
と軽口を叩いていたミスタもやがて黙り込んだ。
誰も何も言わない。亀の中の部屋は一気に静まり返った。
鼻に脂汗を浮かべ、ある者は貧乏ゆすりをしながら、ある者は瞑想をしながら迫る何かに耐えていた。
そんな全員に共通する事は、誰もが前かがみ状態だと言う事だ。
同時にそんな状態になってしまった己を激しく叱咤していた。
(何考えてるんだ……こんな状況で……)
(疲れているんだ……きっと……)
(静まれ……静まれ……)
耐え切れなくなったナランチャが片目に涙を浮かべながら
隣で苦悩しているフーゴに助けを求める。
「ねぇ……どうしよう……オレ……何も疾しい事考えてないんだぜ
なのにさ……その……」
「1…2…3…5…7…11…」
彼は素数を数えるのに必死みたいだ。
「この状況……何かおかしい……」
全員が全員、興奮状態になるだなんて、普通に考えたらあり得ない事だ。
ブチャラティの独り言に、ジョルノが付き合う。
「ええ……きっと追手のスタンド攻撃でしょう…くだらない能力ですが……効果的です」
えらく度胸の据わった新人も流石にこの状況は辛いのか?
額に汗を浮かべ、苦しそうに喋る。
「ならば問題は……この状況をどうするか……だ……」
もし、敵がこの亀の事を熟知していて、彼らを襲いにかかったら……
正直この状態でまともに戦えるかどうかは解らない。
「ブ……ブチャラティ〜〜」
涙目のナランチャが今度は此方に助けを求める。
彼の息は荒く、限界まで来ているのは誰の目から見ても明らかだ。
ブチャラティは、一つため息をつくとクローゼットを開き
「クローゼットの中にジッパーで穴を開けた……済ませたら次の奴と交代だ」
ナランチャはブチャラティの言葉を待つ前にありがとう!と言いながらクローゼットへ駆け込んだ。
ふいに、袖を引張られ振りかえる。
「どうした?トリッシュ?」
女子の前で聊か無神経だったか?と思ったが彼女は別の事を気にしているみたいだ。
「アタシ……」
どうやら、この攻撃は男性限定ではなく女性にも効くみたいだ。
トリッシュはスカートを押えながら、か細い声で何か呟いている。
熱にやられた彼女は酷く官能的だ。
長いまつ毛は柔らかく震え、エメラルドを彷彿させる瞳はうっすらと濡れている。
羞恥心に染まった頬は赤くそれだけで男を惑わせるのに充分と言える。
そんな彼女を全員が見ている。視線を気にしながら彼女はゆっくりと喋りだした。
「その……アタシ……こんな事……男に絶対話したくないんだけれど……」
恥をすて、そっと呟く。
「どうしたら……いいのか……もう解らないの……」
「お願い……何とか……してほしいの……」
プライドの高い高飛車なお嬢さんかと思っていた少女が
今や下っ端に見ていたギャング達に向かい
もじもじと、恥じらいながらお願いをしている。
そんな姿に全員の視線が釘つけとなった。
ゴクリ……と、誰かの喉を鳴らす音が聞こえる。
そろそろ限界かもしれない。
誰もがそう思い始めていた。