地平線が見渡せる乾いた大地に、すうと風が吹き抜け、土ぼこりが舞い視界を奪う。
立ちすくみ、ぼろぼろの服をまとい、唇の端の血をぬぐう女がいる。その女は、自分の体が、ここにあることを確かめるように、両手をじいっと見つめ、拳を強く握り締めた。
「くッ・・・、プッチのヤツは・・・?」
徐倫は、動かせば刺すような痛みが走る体をさすり、周囲をぐるりと見渡した。だだっぴろい荒野だ。少し離れたところに道があり、ガソリンスタンドが見えた。その場所へと、ひきずるように足を進めた。
── なぜ、あたしが生きている?ここはどこなの・・・。父さんは・・・アナスイはどこへ消えたの?エルメェスは無事なのか?!
新しい運命を切り開く『希望』のすべてを、エンポリオに託した。だから、自分は死ぬのだと覚悟を決めた。しかし、こうして、生きている。この体の痛みが、それを証明している。
徐倫にはわからないことだらけだ。ただ、プッチ神父の気配は消えていた。空を見上げると、漂い流れる雲の早さが、時の流れが正常に戻ったことを徐倫に伝えていた。
荒野の一本道にある無人のガソリンスタンドに、埃をかぶった車が一台止まっていた。その車の脇に、誰かがうつむきぐったりとした様子で座っている。そばによった徐倫は、あっと小さな声を上げた。
「アナスイ!?」
車の横のボディに背中をもたれて座り、片方のひざを立てるアナスイが、徐倫に視線を向けた。ひととき微笑んだが、やや苦しげに胸を手で押さえ、小さく呻いた。慌てて徐倫はアナスイのそばへと駆け寄った。
「徐倫・・・無事だったのか。プッチ神父はどうなったんだ!?・・・くそッ・・・なぜ、俺たちはここにいるんだ?」
あたしにもわからない、と、徐倫は横に首を振った。
「おそらく、プッチ神父は死んだ。エンポリオが・・・あの子が、ウェザーやあたしの、神父との『宿命』を断ち切ったんだと思う」
ひざまずいた徐倫は、胸を押さえたアナスイの手の上に、自分の手をそっと重ねた。そのしっとりとした手は、柔らかく暖かい。とても戦う女とは思えないほど、相手をいたわるような穏やかなしぐさだった。
「父さんも、エルメェスも、エンポリオも、きっと無事だわ・・・!アナスイ、あんたが生きててよかった」
アナスイは慕うように細める徐倫の瞳を、まじまじと見た。清らかな正義の意思を宿す燐とした強い瞳、俺はこの眼に惹かれたのだ・・・そう思った。
徐倫が生きていると感じるのなら安心だ、と、アナスイは空を仰ぎ、ふうと息を吐いた。歩けるなら皆を探しに行こう、そう呟いた徐倫は、その言葉とは裏腹に、アナスイの膝と膝の間を割るように、自分の体を差し向けた。
「生き残ったけど・・・申し込まないの?」
何をだ?と目を丸くさせたアナスイは、ほんの少し前のとき、自分自身が徐倫に言ったプロポーズの言葉であることを思い出し、はっと息を飲んだ。
「気が変わったなら、いいけどさ。アナスイ、あんたには本当に感謝している・・・ありがとう」
徐倫は照れたように、ものやわらかに微笑んでいる。こんな風に落ち着いた彼女の表情を見るのは、アナスイは初めてだった。
見つめるほうが駆り立てられるような、焔が燃えるような情熱の瞳、徐倫のそれも好きではあるが、ねだるように甘える眼で、ぷるんとつやのある唇を誘うように向けられると、断る理由はどこにも見当たらない。
「オレは待っていた。この時をずっと」
アナスイは、徐倫の腕をぐいと引き寄せると、そのまま均整のとれた女の体をかき抱いた。戦うことでたくましくなった徐倫の体は、抱きしめると、思っていたよりもずっと細く、小さく感じた。
徐倫とアナスイの目がひとつの線で結ばれた。そのまま、糸でたぐりよせるように、唇と唇が吸い付くように重なった。半開きにした徐倫の唇の隙間から、アナスイの舌が滑り込む。お互いを激しく求めるように、舌が絡み合い、だんだんと熱を増してゆく。
アナスイが、はじけるように膨らむ胸に触れると、徐倫はぴくんと体を振るわせた。服の間から手を侵入させ、じかに肌に触れ、乳首を軽くつまみ、豊かな胸を揉みしだくと、小さな反応の後に、徐倫の体の力が抜けた。そして、離すまいと胸に抱く男の腕の力が強くなる。
ふと、本能に従うはずの動きを、アナスイは止めた。徐倫の唇が小刻みに震えていた。たずねるように徐倫の顎に手をそえ、その唇の動きを眼で追った。
「久しぶりだから、あたしは今、緊張してる。しばらく男とはやってないしさ」
「男とは・・・って。おい、徐倫、まさか・・・エルメェスやFFとヤッてたのかッ!?」
天国から地獄へ突き落とされたようだ。徐倫は両刀使いだったのか?だから自分の誘いになかなか乗らなかったのだろうか・・・?
いや、FFはプランクトンだ、人間にはできないような、女を悦ばせるための妙技が使えるのかもしれない、アナスイはほんの一瞬の間に、最大限に自分の左脳が働くのを感じた。
言葉のアヤよ、女とするわけがねーよッ!、と顎を突き出し唇を尖らせる徐倫が、ピンク色に頬を上気させ、拗ねたようにアナスイを見つめている。そんな彼女をアナスイは素直にかわいいと思った。そしてほっと胸を撫で下ろした。
徐倫の太ももへと手を伸ばしてパンツのボタンをはずし、ファスナーをおろすと、そのまま、なだらかな丘へと手を這わせた。
奥へと誘う裂け目は、ショーツの上から触れてもはっきりわかるほど、湿り気を帯びていた。その場所をすうと撫でるように指を這わせると、徐倫は胸から甘い息を漏らす。
その反応に、突き上げられるかのように、今度は直接、茂みの中へと指を滑らせた。
小さな突起を指でつつくと、徐倫の体が強く反応した。敏感になったそこを指の腹で転がすと、ああっと大きな声を上げる女の蒸気を肌で感じた。
さらに指を湿気と熱の中心へと進めると、とろとろになった生暖かい液体がアナスイの指に絡みつく。指の動きにあわせ腰をくねくねと動かし、あふれ出るねっとりとした液体を放つ肉襞が、早くあんたが欲しい、と、誘ってくるようだ。
「もう、あふれ出てる・・・徐倫はいやらしいな」
アナスイはそれに応えた。きつめの肉壁を指で割り押し進み、ずぶずぶと掻きまわした。
「はあッ・・・んっ!!」
徐倫のしなやかな背中が、弓なりにのけぞった。液体がぬちゃぬちゃと音を立て、反応を楽しむように指で弄ぶ男の息遣いも荒ぶり、高まっていく。
アナスイは、徐倫の手を自分の股の間へと誘った。すでに硬くなったものがある。その間も、アナスイの指は容赦なく徐倫を攻め動く。
そのたびに突き上げてくる快感に朦朧としながらも、徐倫はアナスイのパンツのファスナーを下ろし、いきり立ち赤黒く変色したそれを器用に取り出した。
「アナスイ、あんたにもしてあげたい・・・」
少し驚いた様子のアナスイをよそに、徐倫はすっと体を動かすと、にっと口の端で笑った。そのままアナスイのモノを口に含み、いとおしむように舌を動かし始めた。指を沿え、上下に動かし、筋張った肉の部分を、傘のはった敏感な場所を、ざらざらの舌で何度も吸い上げる。
「うぅッ」
アナスイの喉から嗚咽が漏れた。徐倫はどこでこんなことを覚えたのか、ふとアナスイの脳裏に疑問が浮かんだが、見下ろす徐倫の長いまつげと、じゅぷじゅぷと音を立てながら吸い上げる真っ赤な舌が自分自身に這うのを見た瞬間に、そんな考えは吹っ飛んだ。
徐倫の腰と尻に手を沿え、軽く力を入れると、女の体は簡単に向きを変え、アナスイは徐倫の尻を正面から捕らえた。
「アナスイ・・・?」
後ろを振り返ろうと首をまわした徐倫は、ぼおっとした瞳でアナスイを見つめ、頬を赤くしていた。突き出した尻から、邪魔な布を剥ぎ取るように下ろし、襞の裂け目に触れ、まじまじと見ると、ぬらりと光る液体が女の匂いを放っていた。
徐倫の体がゆらりと揺れた。充分すぎるほど濡れたそこが早く欲しいとねだるように、腰を突き出してくる。アナスイはそのまま、いきり立ったアナスイ自身を、徐倫に当てると、柔らかな襞を分け入り、一気にねじこむように押し込め、ずずっと挿入した。
「ああーッ! ・・・んんっ」
徐倫の声が鞭打たれたように大きくなった。その声が合図になり、アナスイは男を誘う腰をつかみ、奥へと突き上げた。
「ア・・・ナスイ・・・!いいッ・・・あっ・・・」
打ち付ける腰の動きに合わせるように、徐倫の細い声が途切れ途切れに、喉から漏れる。突けば豊かな胸が揺れた。その胸を逃さないように、手でぎゅっとつかむと、反応し締め上げる壁の強さに男根が痺れ、アナスイは我を忘れそうになった。
「くっ・・・徐倫・・・!!」
女の高まる熱に反応し荒くなる息で、噴出す蜜を掻き出そうとも、泉の中心からは湧き溢れ出てくる。
4つんばいになった徐倫の自分自身を支える腕が、もろく崩れた。力なく息も絶え絶えになった女は、暴れるように膨張する肉の棒を力強く押し込むたびに、のけぞり、もっと突いてと腰を振り続けた。
ときおり望める徐倫の苦しさに耐え歪むような表情に、アナスイは異様な興奮を覚えた。求めていた体が、あれほど欲しいと思った徐倫がこの俺の中で、よがり狂っているのだ・・・そう思うと雷で撃たれたような強い刺激が、全身を突き抜けた。
徐倫の子宮の奥がぎゅっと伸縮し、熱い襞がアナスイ自身を締め上げる。喘ぐ女の声がひときわ大きくなり、ピンと伸ばした背中が緊張した。
「い・・・いくーッ・・・あぁっ」
徐倫を自分でいっぱいにしたい、その思いが、徐倫の体内の奥深いところで、アナスイの動きを止めた。オレも・・・と小さく呻き、ぶるっと体を震わせると、うちから迸る全てを徐倫の中へ放出した。
ひととき肩で息をしていた徐倫が、満たされ呆ける男、アナスイの腕の中に戻ってきた。
「胸、まだ痛む?」
様子をうかがう彼女の表情には、しまりがまるでない。とろんと蕩けるような瞳を、アナスイに向けている。アナスイは首を横に振り、ようやく手に入れた宝物を大事にしまうように、徐倫を優しく抱きしめた。
「承太郎さんは、徐倫とオレの結婚を、『許す』と言ってくれるだろうか」
アナスイはぽそりと呟いた。あのとき・・・徐倫への想いを徐倫の父・承太郎にぶつけたとき、無言で拒否されたことは、はっきりと覚えている。のっぴきならない、まさに絶対絶命のあの状況だったから、返事が『NO』だった、単純にそうとも思いがたいものがある。
徐倫は、不思議そうにアナスイを覗き込んだ。父さんが反対なんてするかなあ?と呟き、眉間に皺を寄せている。オレは殺人鬼だからな、と頬をひきつらせ苦笑いするアナスイは、ふうと息を吐いて肩の力を落とした。とたんに徐倫は、けらけらと笑い出した。
「あたしだって刑期15年に、脱獄未遂で追加5年、合計20年よ。結局、脱獄したから・・・何年だろう?あたしたち、お似合いじゃあないの?」
おどけて茶化す徐倫に、陰や暗さは全く感じられなかった。罪はふたりで償っていこう、それに、後ろめたいことなんてないわ、と笑う。そして、こうも続けた。
「あたしから父さんに言っとくわ。もうやっちゃったんだから、諦めなッて」
アナスイは慌てた。いやオレから言うから、と、徐倫を諭した。もしそんなことを言ったら承太郎さんは・・・と徐倫のあけっぴろげな態度に、堅物ともいえる父の娘婿になる男は頭を抱えた。
突然、徐倫は何かに憑かれたように、立ち上がった。
「あれは・・・父さん!エルメェスもいるッ」
遠くを歩くいくつかの人の形がはっきりと見えた。アナスイも喜び立ち上がり、大きく手を振った。
「おーーいッ!!ここだッ!!エンポリオ〜!!」
徐倫の体を避けるように、しかしその周囲に水の飛沫がいくつも跳ね上がり、小さな虹ができた。この場所だけに雨が降る・・・それは・・・
「ああ、ウェザーもいるのね!」
駆け出すふたりの足が、さらりと砂の舞う乾いた大地にしるしをつける。
アナスイが徐倫に手を差し伸べた。その手を、徐倫はしっかりと握った。これから先、この手が離れても、ふたりを繋ぐ見えない糸が消えることはない・・・そう徐倫とアナスイは感じていた。