神学生の頃、親友の館にて半ば無理やり筆を下ろされた私は、
それ以来、性欲に対して非常に素直になっていた。
しかし神に仕える身として、むやみやたらと性交を行うのは、良いとは言い難い。
つまりは性欲がひたすら溜まっていく一方であり、ジョースターへの鬱憤と同様に
上手く昇華できずにいるのが現状だ。
いくら聖書を音読しようと、聖歌を唄おうと、画集を眺めようと、
私の体は私の煩悩に、実に忠実なのである……。
「神父様、聞いてください……」
いつものように、懺悔室には迷える子羊がやってくる。
両手を合わせ、まるで目の前にいる私が神であるかのように。
「どうしましたか」
私がこのような優しい声で語りかけなくとも、囚人たちは勝手に語り出す。
今回の迷える子羊は、声からサンダー・マックイイーンという男囚と思われる。
「神父様……、ああ……どうすればいいのでしょうか。
女性の下着を手に入れてしまいました……」
女性の下着という言葉に、思わず反応してしまう。
「女性の下着を?
……一体、どうやって?」
それは『神父として』ではなく、『男として』の質問であった。
しかしそのような事を、囚人が気にするわけもない。
なぜなら彼らは、神父の意見を聞きに来たのではなく、自身の不安を吐き出しにきたようなものだから。
「はい……。私が自殺しようとした時のことです。
その場にいた女性が、突然パンティーをくれました……。しかも脱ぎたてを。
そのお陰で、生きる希望が見えたのです」
「つまりその女性が下着を譲ってくれたことで、あなたの命が救われた。
……という解釈で、合っていますか?」
サンダー・マックイイーンは肯定した。
無償で、しかも温もりのある下着を入手するとは……。
私は眼前の男囚に、羨望の眼差しを向けた。見えていないだろうが。
「……しかもあろうことか、その貰ったパンティーでその……、
先程、自分を慰めてしまったのです」
私に電撃が走った。
入手するばかりか、それで自慰とは!
これだからリアルが充実している奴は……!
羨望はもはや、妬みへ変化していた。
「実は今、そのパンティーを持ってきているのですが……」
黙っている私を気にせず、サンダー・マックイイーンは続ける。
「手元にあると、また自分を慰めてしまいそうなので、
神父様、よろしければ受け取ってくださいませんか」
私に、もう一度電撃が走った。
「私は構いませんが、……本当にいいのですか?」
「はい、もちろんです。
二度と過ちを起こさぬよう、お願いします」
それからサンダー・マックイイーンは、黒い下着を私に手渡し、
実に爽やかな表情で去っていった。
射精したばかりで、妙に聖人や賢者のような気持ちなのだろう。
だが、今晩辺りに後悔が襲い掛かってくるはずだ。
所詮えせ聖人なぞ、そんなものだ。私のような本物の聖人に敵うはずもない。
私は十字を切った後、黒い下着を懐へ入れた。