たっのしかったーッ!! という歓声と共に、徐倫はベッドに倒れこんだ。
でも、良かったの? と、部屋でコートやら何やらを片付けているジョルノを見る。
「式を挙げてすぐ、ハネムーンで。お仕事とか色々、あったんじゃない?」
「大丈夫ですよ。あの闘いの後、直ぐに必要だと思える事はやっておきましたから。
徐倫こそ、良かったんですか? 新婚旅行の場所がイタリアで。別に僕のことなんて
配慮しなくても、行きたいところを言ってくれてば良かったんですよ?」
「平気よ。あたし、イタリア来た事無かったし、ジョルノの居る国を少しでも知って
おきたかったしねッ!」
そう告げると、徐倫は仰向けになって、四肢をゆっくりと伸ばした。たっぷり
としたキングサイズのベッドは、ふわふわしていて夢見心地に誘ってくれる。
それにしても、凄いホテルよね。と徐倫は呟く。
「最上階が一室で、ワンフロア丸々貸切状態なんでしょ? 凄くない?
っていうか、良かったの? そりゃあ、あたしは嬉しいけれど、もっと普通でも
全然構わなかったのよ?」
こきゅ、と首を傾げながら徐倫が告げると、お金と権力は、とジョルノが言
った。
「使いたい時に使う。そういうものです。昔なら兎も角、今では僕は余り使い
ませんからね、こういう時しか使えないんですよ」
んーまぁ、ジョルノの性格からして、そうだろうけれど……。と、上半身を
持ち上げて、背を枕壁にもたれさせた。ベッドの上にあったクッションを抱き
抱える。
「式、楽しかったわねッ! 色々な人が来ていたわッ!!」
「呼んだのは一応、身内とごく親しい人々だけだったんですけどね……いやはや、
ジョースターの家系の凄さと言いますか……」
父さん、ずっと苦虫を噛み潰したような顔をしていたわね。と言う徐倫に、
一人娘ですからね、とジョルノは苦笑しながら応え、徐倫の側に腰掛けた。
ベッドがひとり分追加した重さに、沈む。
「そりゃあ、苦い顔にもなるでしょう。なんせ、あの後直ぐに結婚、ですしね。
承太郎さんとしては、家族水入らずの時間をもう少し味わいたかったんじゃなんい
ですかね」
父さんが? と、徐倫は目をぱちくりさせた。身を乗り出し、そうかしら?
と、どこか期待するように、問う。
「そうですよ。まぁ、ひょっとしたら僕の事が気に食わないのかもしれませんけどね。
徐倫にプロポーズした時も唖然とした顔をしていましたしね」
「そりゃあ神父との戦闘が終わって直ぐだもの。あたしだってビックリしたわよッ!
おまけに『今は婚約指輪が無いのでこれで……』って、花を生み出して薬指に結ぶとかッ!
普通、ありえないわよ」
「嫌でしたか?」
いや、そんな事はなかったけど……と、笑顔で訊いて来るジョルノに、口の中でモゴ
モゴと徐倫は答えた。嬉しかったけれど、恥ずかしかったわ、と。
「プロポーズを受け入れてくれて、今でもほっとしています。急だったから、
信用してくれないかと思いました」
「まぁ、確かに急だったわよね。『繭』の中でもしきりにプロポーズしていたしね、
ジョルノ。
……んー、そうね。ご飯を上げちゃった以上、責任取らなくっちゃなー、なんて思ったのよ」
「『ご飯を上げたら、懐いちゃった獣』だから?」
隣に座したまま、耳元でそう問いかけると、うん、まぁ、そんなトコロ、と徐倫は
可笑しそうにクスクス笑った。
ジョルノはそんな徐倫の、耳障りの良い笑い声に微笑みながら、責任とって飼って
下さいね、と軽く頬にキスをした。
-----------『 Mebius 』-----------
(下)
▼--- Chapter 1 ---▼
外で食事と観光を済ませると、ジョルノが先に風呂に入った。徐倫は夜が近づくにつれ、
段々身を硬くして行った。ジョルノが風呂から上がった瞬間など、
飛び上がらん程の勢いで、首を傾げるジョルノに、慌てて何でもないッ! と告げると、
自分の着替えを手にそそくさとバスルームへと入る。服を脱ぎ、ぶくぶくとバスタブに
沈む。バスオイルを使用しているらしい湯船からは、花の良い香りがした。
ここから上がったら、と、徐倫はひとり、思う。
(あたし、ジョルノに『食われちゃう』わけだわ……)
どうしよう、と思った。いや、思ったところでどうしようも無いわけだし、
結婚したのは合意であるし、まさか結婚とセックスは別のものだなんて、
思っているわけでも当然無い。そういうものであることは、承知の上だ。ただ……。
「すンげェー、怖い……。ど、どうしよう……」
初体験は誰しも痛いと聞く。よく少女漫画ではキラキラとした背景と共に、
涙ながらに男と結ばれて歓喜しているのを見掛けるが、あれは脚色だと
クラスメイトから聞いたことがある。実際はあんなモンじゃない。メチャクチャ痛い。
喩えるなら口内炎をグリグリと広げていってソコにレモンジュースを注ぎ込むようなものだと。
敢えて喜びを挙げるならば、と、クラスメイトは言った。
”『食べられる』っていう喜びかしらね。相手が喜んでくれるっていう事を
喜ばないと、とてもじゃないけれど初体験って楽しめないわ”
相手の喜び……と思ったところで、ちらり、と徐倫は己の胸を見下ろした。
両の手で、覆ってみる。サイズは多分、そんなに小さい方じゃないし、両の手
の平から余るというくらいだから、それなりにある方だと、思う。
「あ、でも……ジョルノの方が手が大きいから、小さく感じるかも……」
呟くと、何だかちょっと気落ちした。ふに、と自分の胸を押してみる。当た
り前だけど柔らかい。腕を見る。刑務所に入れられて以来、しっかりと筋肉が
ついてしまっていた。腹が平たいのは嬉しいが、あんまり女の子らしい華奢な
感じはしないかも知れない……と落胆する。
「とりあえず……綺麗にしておこう……」
ボディーソープで丹念に泡立てると、乳首や秘所、菊座をいつも以上に丹念
に洗った。脇とか腕とかの毛は処理済だったが、一応念の為、と、
剃刀を当てておく。
シャワーを浴びながら、バスタブの湯を抜く。神父との闘い以上に怯えを
感じている自分に、ファイト! と励ます。
「ファイトよ、徐倫! あの泣き虫のママだって、オヤジにキチっと
食われたんだッ!!」
よし、と立ち上がったところで、ガチャリとドアが開いた。
「大丈夫ですか? 徐倫? 何だか随分長いですが、湯あたりしてや……」
「きゃァあーーッツ!?」
心配して顔を出したらしいジョルノに、徐倫は慌ててバスタブに身を沈めた。
が、湯は既に抜けている。風呂場とトイレは別々になっているため、シャワー
カーテンが無く。隠すものが無い。大丈夫だからッ! と、徐倫は耳まで
真っ赤に染めながら、首だけねじって、ジョルノに応えた。
「もう、上がるからッ!! ま、待っててッ!!」
そうですか。と、ジョルノはやや戸惑っていた様子だったが、パタリとドア
を閉めてくれた。徐倫はバスタブの中で崩れ落ちながら、自分の言葉に
ツッコミを入れていた。
「『待ってて』って、何だよ、クソッ!! これじゃあ『貴方の為に準備し
ていました』って言ったも同然じゃんッ! あたしの馬鹿ッ!!
チクショウ……超、飛びてェ……」
溜息を吐きながらも、上がった。身体を拭き、下着を、身に纏う。
純白のレースと、フリルで彩られたブラとショーツ。一応、今日の為に
買ってみた。「そういう下着」は、どういったのが良いのか、正直徐倫には
分からなかった。下着店で色々見たが、やたら赤いのやらスケスケなのを見て、
いや、脱がしてみたらソレってどうよ、と頭を抱えた。初体験でそれってどうよ。
それともやっぱり、男って喜ぶモンなの? と。
結局、羞恥心とそれまでの常識が勝った。オーソドックスな白の、上品な物
を徐倫は選んだ。普段着ている物の露出が高いので意外に思われそうだが、
下着の類は女の子らしい、可愛らしいのが好きなのだ。
身に纏い、鏡に映った自分を見る。ストラップの無い、細かく刺繍が施された
ブラと、ショーツ。多分、そんな変じゃないし、それなりに似合ってる。と思った。
すっと息を吸うと、徐倫はバスローブに、腕を通した。
▼--- Chapter 2 ---▼
お待たせ、という言葉と共に、徐倫はベッドに居るジョルノの隣に、並んだ。
ついつい、身が固くなる。はい、と、徐倫の隣に居たジョルノが、
グラスを差し出した。カラン、と氷の涼しやかな音がする。
「何? これ……?」
「桃の果実酒です。後口が良く、アルコール濃度も低いので、お風呂上りには
良いと思いますよ」
言われ、こきゅん、と飲み込む。口に入れると爽やかな桃の香りが広がった。
確かに飲み易く、風呂上りであった事も手伝って、こきゅこきゅと飲み干した。
飲み物を飲んで緊張が解れたのか、或いは、僅かに含まれているという
アルコールのせいなのかは知らないが、ほんの少しだけ、心が解れた。
枕元に空いたグラスを置き、横たわる。
「緊張していますか?」
くすくす、とジョルノが横目で見て、笑った。先に指摘してくれて、
ほっとしたのか、分かる? と、徐倫は笑いながら、応えた。
「すっごい緊張。笑わないでね、あたし、初めてなのよ。
なんていうか、さ、上手く出来なかったら、ごめんね」
くすくすと笑いながら答える徐倫に、優しくしますね、とジョルノは
耳元で囁き、ゆっくりと、圧し掛かった。
バスローブの紐が解かれて、静かに襟を広げられる。ジョルノの唇が徐倫の
白い喉へとすべり落ち、ゆっくりと胸元へと降り、バスローブは広げられる。
下着姿が露わとなり、ジョルノの視線に、恥じ入るように、徐倫は身を捩った。
あ、あの、と徐倫が呟いた。この下着、変かな、と。
「変、ですか……?」
「いや、あの、あたし、普段シンプルな奴ばっかりだから……。
こ、こういうの良く分からなくて……。ジョルノの好みじゃなかったら、
悪いなって……」
僕の感想を言うのなら、と、ジョルノは前置きして言った。
「100点満点ですよ、徐倫」
そうして、再度、胸元へと顔を沈めた。
徐倫の白い下着は、彼女の白い肌によく似合っていた。清楚で、可憐で、
彼女の中にある「少女」が、その下着に現れていた。これからその「少女」を
剥ぎ取り、自分が「女」にしてやるのだと思うと、知らずに心が昂ぶった。
ブラジャーの上から、ゆるゆると乳首を撫ぜる。徐倫は切なそうな吐息を立て、
自分は背中へと手を伸ばし、ホックを外す。ゆっくりと剥ぎ取ると、
綺麗な桃色に染まった、頂が見えた。指でそっと撫ぜ、摘み、舌で、味わう。
ふぁん、と声がした。いつもよりも高い甘い声に、心が躍った。
暫くぺちゃぺちゃとそうやって弄っていると、ぴん、と乳首が立ってゆく。
立ってますよ、徐倫。と悪戯声でそう囁くと、かぁっと彼女は頬を染めた。
そのさまが本当に可愛らしくて、ちゅ、とジョルノは彼女の額に、
小鳥のようなキスを落とした。
ゆっくりと、触れる指は下へと動かす。下腹部から大腿部へ。
秘所へと手を伸ばそうとしたところで、ぎゅっと、徐倫の足が反射的に閉まった。
徐倫、とジョルノは囁く。
「徐倫、両足を、開いて。……やってくれますね……?」
徐倫の目を見ながら、優しくそう告げると、徐倫はやや、不安の色を
目に滲ませながらも、おずおずとその両足を己の意志で開いた。ジョルノの手が
股の内へと滑り込む。する、と上から撫ぜると、ぴくん、と徐倫は身を震わせた。
そのまま、強く押したり、撫ぜたりを繰り返す。徐倫の吐息が強くなる。
どうやら、陰核への刺激は慣れているようだ。スムーズに興奮していって
いるところをみると、自分でやったこともあるのかも知れないな、
とジョルノは思った。ひょっとしたら、元々感じやすい体質なのかも知れないが、
これからより様々な所を開発して行こうと言う立場からすれば好都合だった。
性に興味は、無いよりあった方が、こちらとしてもやりやすい。
すっとショーツの中に手を滑り込ませ、指で、内壁を弄った。ひゃうっ!!
と、徐倫が声を上げる。ぐち、ぐち、と指をゆっくりと掻き回す。や、ぁ、イイ
っ! と、徐倫から微かな声が洩れた。
「あんっ! 自分でするのと、違っ! ずっとぉ……イイッ!」
……これは良い事を聞いたな、とジョルノは思った。今は止めておくが、
おいおい楽しめそうだ。と、先程の徐倫の呟きを聞こえなかったフリをして、
行為に戻る。ショーツを脱がし、頭を両足の間に入れ、ちろり、と舌を伸ばす。
びくっ! と徐倫の背が、跳ねた。
指で両壁を広げ、ぺしゃ、ぺしゃ、と初めは控えめに、舌を動かす。
徐倫の手が伸び、ジョルノの頭を掴む。手が震えている。止めさせようとしている
ようだが、手に力が入っていない。くしゃくしゃ! とジョルノの髪を、混ぜた。
指で陰核を押し、舌で内壁を弄り、じゅっ! と力強く吸ったところで、徐
倫の身体がびくんと震え、弛緩、した。
くたりと徐倫が横たわっているのを見ながら、ジョルノは手早くバスローブを
脱ぎ捨てる。下着は、つけていない。帯を解くと、すぐに張り詰めた自身が姿を現した。
ぎしり、と、再度徐倫に圧し掛かる。気配を察したのか、物憂げな様子で徐倫は
ジョルノの方へと顔を向けると、ぎょっと眼を見開いて、思わず後ずさりした。
「ああ、ひょっとして、男性器を間近で見るのは初めてですか?」
問いかけるジョルノに、こくこくッ!! と、勢い良く徐倫は頷いた。
そ、ソレ……と、声を絞り出す。
「それを、挿れるわけなのよね……その、あたしの、中に……。
入るかしら? っていうか、裂けちゃわない、かな……」
怯える徐倫に、ジョルノは手を取って、触ってみて下さい、と、
己の男性器を徐倫に触れさせた。徐倫は触れた瞬間、ビクっと驚いて
手を離したものの、おそるおそる、ジョルノに触れた。
「すごい、熱い……。びくびく、してる……」
「徐倫の、ここもね」
言い、ジョルノは徐倫の女性器のうちに指を沈める。
ぁん! と徐倫が可愛らしい声を上げた。
「すごく熱くて、びくびくしています。僕らのものが、互いに、互いを欲し
ているんです。だから、徐倫、怯えないで下さい……」
そう、語りかけるジョルノに、徐倫は暫し彼を見つめ、分かったわ。
と、頷いた。その代わり、と、己の手を、彼に差し出した。
「……?」
「繋いでいて。離さないで。あたしのことを。
ジョルノ、あなたの血と、魂で、あたしの魂を結び、
繋ぎ止めていてくれる……?」
徐倫の言葉に、勿論です。とジョルノは答え、互いの両手を絡ませたまま、
二人はくちづけ、そうしてジョルノはゆっくりとうちに、押し入った。
徐倫の中は、ぎちぎちに狭かった。自慰に耽ったことはあっても、
中に挿れた事までは無かったらしい。徐倫の大腿部を掴み、ぎりぎりと
身体を押し進めて行く。きっと、想像を絶する痛みなのだろう。
十分に潤っていたとはいえ、徐倫の顔は辛そうだった。呼吸は荒く、渇き、
痛みからか、一筋の涙がほろり、と彼女の頬を伝っていた。
これに対し、貫いているジョルノは、狭く、締め付けてくるものの、
内壁からの温かさと、刺激に、肉欲と理性との狭間にあった。
がむしゃらに徐倫の子宮を突きたい。だが、苦悶の表情で呻く彼女に
無理はさせられない。
牙を立てる獣は牙を立てる獣なりの、食われる獣は、食われる獣なりの、
分かち合いながら、じわ、じわ、と。互いがひとつになるまで、
酷く不器用に、時間をかけて、溶け合っていった。
やがて、全部、入りましたよ。と、汗を滴らせながらジョルノが告げると、
ほんとう? と、涙声となった徐倫の声が響いた。本当ですよ、と。繋いでい
た徐倫の手を、繋がる下身へと導き、触れさせる。
……本当だ。と、子どものような声が響いた。繋がってる、と。
「愛してますよ、徐倫」
そう囁きかけると、あたし、もッ……!! と、感極まったように、
徐倫はジョルノの首筋に両腕を回し、ぴたり、と身体を密着させた。
「あたしもッ! ジョル、ジョルノの、コトっ……!!」
ぽろぽろ、と、徐倫の両目から涙が零れた。耳元で、蚊の鳴くような声で、
愛していると密やかに告げられ、ジョルノはゆっくりと、動き、やがてそれは
緩急をつけ、早まり、二人は互いの背に両腕を回し、肉体を繋がらせたまま、
互いに、弾けた。
▼--- Chapter 3 ---▼
朝ですよ、徐倫、と声を掛けられた。重い眼を開けると、
カーテンから緩やかな陽の光が満ちていた。ん……と、身を起こすと、
そこには既に服を着替えたジョルノが居た。
「Buon giorno!(おはよう)徐倫。朝食はどうしますか? ルーム・サービ
スをお願いして、もう少し寝ていても良いですが……」
ジョルノの言葉に、ううん、良く寝たし、起きるわ! と答え、はた、
と自分がシーツを巻き付けただけの姿であることに気が付いた。やや、
頬を紅潮させながらも、必死に平常心を装い、シーツを巻きつけたまま、
ベッドから降りようと足を伸ばす。
「――ィッ!!?」
ぺたん、とベッドの下に蹲る。なんじゃこりゃあああああ!!?
と内心、絶叫する。
(何これ、ナニこれッツ!? ま、股の間が合わせられないッ!!
ち、力が入らないぃいいいいい!!)
冷や汗が、だらだら流れる。しかも痛い。じんじんする。嘘だ、
痛いのは最中だけなんじゃなかったのかッ!? と半泣きになる。
「――ひょっとして――立てませんか?」
すっと、ジョルノが心配そうに腰を降ろして目線を同じくする。
すみません。僕のせいですね、としおらしく謝る態度に一層焦る。
ヤバい。超、恥ずかしい。
大丈夫だからッ!! と、わたわた徐倫は手で制し、
ベッドサイドに手を伸ばした。
「き、きちんと自分で立てるわッ!! そ、それよりもジョルノ、
ルーム・サービスで朝食をお願いッ!」
「本当に大丈夫ですか……? じゃあ、僕は向こうの部屋頼んでいますね。
あ、後、徐倫。備え付けのクローゼットにある衣服は好きに来ても良いので、
良かったから来て下さい。ホテルの方に頼んだものだから、
好みかどうかは分かりませんが……確か、下着もあった筈ですよ。
買い取り式だから、好みのがあったら、付いているタグを置いといて下さい」
そう、一通り説明を終えると、ジョルノは寝室から出て行った。
残された徐倫はベッドサイドに掴まって、震える足を叱咤し、どうにか立ち上がり、
クローゼットまで動いた。
「……信じ、られねェ……世の女の子って、みんなこーゆー痛みに
耐えているモンなの? そーいうモンなの? っていうか、
良くあんな大きいモノが入ったわ……」
そう、ブツブツと文句を垂れながらクローゼットを開いた。
何と言っても全裸である。独房の中ならともかく、この場で、
下着を付けないというわけにはいかない。引き出しの中かな? と、引き出しを開け、
中に敷き詰められた下着を一枚手に取り、固まった。
紐である。スケスケである。しかもなんていうか真ん中に割れ目とか
入ってたりする。ちなみに引き出しひとつがまるまるショーツだ。見ると、
他にも真ん中にでっかいパールのビーズだとか、何かもう、「そういう下着」の見本市
みたいになっている。まさか、と思った。嫌な汗が、背中を伝った。
がらっと、二段目を開いた。ブラである。赤とか青とか黄色とか白とか黒と
かそれはもう色とりどりである。それはいい。だが、何故か乳首の部分が
空いていたりスケていたり何か突起物がついていたりする。
(フザけんなぁあああああああ!! ラブホかッ!? ココはッ!!?)
叫びたい衝動をぐっと抑える。隣にはジョルノが居る。叫びを聞きつけて、
この状況を見られるわけにはいかない。
……ジョルノが取ってくれたこのホテルは、実に有名な一流ホテルだ。
それは、間違いない。徐倫だってガイドブックで見たことあるのだから、違いない。
だのにこれは何だというのだ。確かにそりゃあ、新婚夫婦のみが貸切と言ったら、
想像されるのは一つだろう。それは分かる。分かるが……!!
「あたし……どれ着よう……」
徐倫は下着の前に項垂れた。まさか生まれてこのかた、下着を前に泣きそうになる
日が来るとは思ってもみなかった。
結局、徐倫が選んだのは、ジョルノが普段着ている色に似た、ローズのベビードール
と、どうやらセットになっているらしい。両サイドが紐のショーツだった。
「……これ着て、スカートとか絶対無理だわ。まぁ、どっちにしろ今日は
出歩けなさそうだけど……」
そう呟きながら、両サイドを蝶々結びにする。紐を引いたらあっさり取れて
しまうなぁと思いながらも、固結びをして取れなくなるよりはマシだ。
と自分を納得させる。
ショーツと、ベビードールを身に着ける。スースーする。当たり前だ。
もうちょっと身を覆いたいなと、三番目の引き出しを開けた。ストッキングだ。
ほっとして手に取り、広げる。そして、脱力した。
ガーターストッキングである。今時、ガーターベルト無しでも、
落ちないようなストッキングが当たり前だというのにこの始末。
何ていうか意図してやっているとしか思えない。
溜息を吐きながらも、下着の色にあったものを選び、足に纏う。
ガーターベルトで繋ぐ。鏡でもって、己を見ると、何ていうか
「お召し上がり下さいv」な自分が居た。凄く鏡を叩き割りたい衝動に襲われた。
とにかく服を着ようとクローゼットから比較的自分に似合いそうなワンピースを
引きずり出す。どれも背中のファスナーを下ろせばあっさり脱がせられる作りなの
が気になったが、最早ツッコむ気力も失せた。首筋が良く見える、ワインレッドの
ワンピースを着て、ジョルノの元に向かった。
きゃあ! 豪華っ! と、部屋のテーブルに並んだ朝食を見て、徐倫は眼を
輝かせた。ジョルノは椅子を引いて徐倫を席に着かせると、徐倫の服を見、
良く似合っていますよ、と目を細めて褒めた。
徐倫はぱっと、頬を染めた。そうして遠慮がちに、あ、有難う。と照れなが
ら礼を言った。
徐倫はどうも、ストレートな表現を恥らう傾向にあるな、とジョルノは思っ
た。褒められたり、レディとして扱われると、異様なまでに照れるのだ。
そこがジョルノからしてみれば面白いし、可愛いのだが、
異性慣れしていないのかな? と時々不安にさせられる。
「徐倫、体調はどうです? 今日の観光は止めておきますか?」
食事を摂りながらのジョルノの言葉に、うん。と、やや、影を落として、
徐倫は応えた。
「御免なさい。でも、その……なんていう、か。
今日はちょっと無理っぽいの」
言い難そうに、そう答える。昨晩、あれだけ強く貫かれたのだから、
それも無理はないだろうな、と、貫いた張本人であるジョルノは思った。
気にしなくて良いですよ、と。優しい口調で、徐倫を宥める。
「徐倫は昨晩、僕と頑張って付き合ってくれたんです。僕はとても嬉しかった。
謝る必要なんて、無いんですよ……?」
言いながら、柔らかく微笑む。そう告げると、徐倫は少しほっとした様子で、
やはり、はにかんでから、どういたしまして、と答えた。ジョルノも笑顔で頷
きながら、昨晩は、とカプチーノを片手に、思った。
昨晩は本当に良かったなぁ。と、そう思う。
恐らく徐倫はその後の事は記憶に無いだろうが、ジョルノはその後もしっかり
意識を保っていて、事後の始末を彼はした。くったりとした徐倫のうちから
自分のものを引き抜くと、とろり、と、処女の証である破瓜の血が零れ、
ジョルノはそれを人差し指で僅かに掬い取り、舐めた。それから彼女の身体を、
股をそっと拭き清めると、自分はシャワーを浴び、上がった後は徐倫の横で、
ずっと彼女を眺めていた。
そうして、明日は多分立てないだろうなぁ。悪いことしたなぁ。
止める気なんてなかったけど。明日はドコも行かないだろうから、
二人で何をしようかな、そうそう、わざわざ、この部屋にその手の下着やら
何やらも運び込ませているから明日は徐倫にはそれを選んで貰わなきゃ。
徐倫は見たらどうするかな驚くかなどんなのを選ぶかな、どれを選んでも嬉しいから
別に良いけれど……等と、不届きなことを、ずっと、考えていた。
徐倫はそんな事を思い返しているとは露とも知らずに、朝食のサラダを頬張っている。 「あ、徐倫。頬にサラダのカスが付いていますよ?」
「え? ドコ?」
言い、唇の周りに触れる。勿論、そんなものは付いていやしないが、
この部屋に居るのはジョルノと徐倫、二人だけだ。他に知る者など、居やしない。
「ここです」
と、身を乗り出して、ジョルノはペロ、と徐倫の唇を舐めた。
「〜〜〜〜ッ!!!!?」
「もう良いですよ、徐倫。取れました」
にこりとそう微笑み掛けると、徐倫は口をぱくぱくとさせて、ジョルノ、
あんたって……呟いた。
「何ですか?」
と笑顔で問い返す。徐倫は何でもない、力なく首を振った。
朝食の後は、二人でソファで横たわりながら、話をした。
「徐倫は、この後、やりたい事って無いですか? ああ、観光という意味ではなく、
大学に行きたいとか、そういうことです」
大学って言っても……と、徐倫は困ったように、言った。
「あたし、ジョルノと結婚したし、そりゃあ、大学には行きたいけれど……
子供も、欲しいなッて思っているのよ。
……ジョルノは子供って、嫌い?」
「まさか! 好きですよ? 徐倫の子供なら、尚更です」
それでね、と、徐倫は言った。
「あたし、生まれる子は、沢山一緒に居て、愛してやりたいなー、って思うの。
だから、さ、大学行っちゃうと、自分のことで一杯になっちゃうじゃない?
それって、やだなーって思うの」
それは違いますよ、徐倫。と、ここで始めて、ジョルノが徐倫の言葉を否定
した。
「程度問題ではありますが、子供ために頑張るのと、己を犠牲にする事とは
違います。徐倫がそうしたいのなら、そうするべきです」
「で、でも、さッ! 子供は悲しむかもしれないじゃないッ!?」
何のために、両親が居ると思っているのですか。とジョルノが応えた。
「愛情は、母親だけじゃあない、父親だって注げるものだ。
……違いますか?」
ジョルノが言うと、説得力あるわね、と、笑いながら徐倫は言った。
「……それじゃあ、サポートの程は、よろしくね、『生命を生み出す、お
かあさん?』」
「人の子供は、産めませんよ? 産ませることは出来ますけれど」
そう囁くと、ジョルノは徐倫にちゅ、とキスをした。
始めは軽く、数度。次に深く。交わされる二人の唇から、ちらちらと互いの
舌が除き、つ……と、唾液が、落ちた。
ジョルノの手はするすると動き、徐倫の背中にあるファスナーを、下ろした。
ジョ、ジョルノッ!! と、徐倫が慌てて、制す。
「あ、あのね。本ッ当〜〜〜ッ! に悪いんだけど、あたし、今日は無理なのッ!
あの、股の、間がねッ!?」
大丈夫ですよ。と爽やかに微笑を浮かべながら、ジョルノは実に鮮やかな
手つきで徐倫の衣服を脱がして行く。元々脱がしやすい服だからか、ジョルノが
上手いのか、或いは惚れた弱みかは分からないが、徐倫はあっさりと剥かれ、
あれだけ恥らっていた下着のみ、となってしまった。
ゴク、と、ジョルノの喉が上下するのが見えた。
「Di molto bene(すッげェ、イイッ)……!!」
言われた徐倫からしてみれば、気が気ではない。何と言っても、
まだ腰やら股やらは痛いのだ。またアレを挿れられるのかと思うと、正直、
耐えられるかどうかは自信が無い。戦々恐々として、圧し掛かっているジョルノの
出方を待っていると、ジョルノは徐倫の手を取って、己の物に触れさせた。
布越しでも分かった。ジョルノのモノは、はっきりと、勃起……していた。
そうして混乱する徐倫をよそに、ジョルノはこんな事を告げて来た。
「君に無理強いさせるのは、僕の本意でもない。ただ、徐倫……。
君さえ良ければ……手伝って、貰えますか……?」
言葉を受けて、徐倫は本日何度目かの、思考停止をしてしまった。
(手伝うって手伝うってソレってソレって、あの、何ていうか『性欲』
をよねッ!? でもその、あたしの中に挿れるってわけじゃないわけだから、
その、あの、つまり手とかそのなんていうかをあたしはあたしはあたしぁああああ!?)
「……ああ、嫌なら良いんです。自分ひとりでも、済ませられますから。
良かったら徐倫、そこに座って、こっちを向いていてくれますか? 目は、
閉じていても良いですし、嫌なら耳を塞いでいてくれても良いですよ?」
「爽やかにトンでもない事を言うんじゃねェえええええええッ!!!」
新婚初日。初めて徐倫は口汚くジョルノに向かい叫んだ。しかしジョルノは
さらり、とどこ吹く風といった様子で、徐倫の叫びを受け止めた。
「仕方無いじゃないですか。僕は徐倫じゃ無いと抜けないんですから」
「『抜けない』とか言うなッ! アンタ、本人を前にして何て事言いやがるッ!
もっとこぉッ!! 羞恥心っていうモノをね……ッ!!」
じゃあ、どうすれば良いって言うんです。と、ジョルノにしては珍しく憤慨
した様子で、徐倫に言った。
「目の前に欲しくて欲しくて堪らない相手が居たら、こうなるのは当たり前ですッ!
僕だって、こんな事は初めてなんですよッ!!」
え? と、再度、徐倫は固まった。
「……初めてなの? あたしが?
……それって、『初体験』的な意味で?」
「『初体験』的な意味で」
「聞くけど、ジョルノって、童貞捨てたの、いつ?」
「昨日ですね。相手は僕の目の前の人物です」
ど、と徐倫はぷるぷる震えながら、叫んだ。
「どぉおおおしてソレを早く言わなかったのよぉおおおおおお!!?」
「女の『処女』と、男の『童貞』との間には、大きな違いがあるんですよッ!!
昨晩の固まっている君に対して、そんな事、言えるわけないでしょうッ!!」
言っておくけれど、纏わり付いて来る女は山のように居ましたよッ!! と、
どこか言い訳がましく、若干早口に、ジョルノは言った。
「でも、肉体的な関係を持ちたいという女性は居なかったんですッ!
そりゃあ僕だって、男だから、人並みに肉欲はありますよッ!?
でも、欲を満たすリスクを犯すよりも、抑えたほうが何かと都合が良かったんですッ!!」
ぜぇ、ぜぇ、と、ジョルノは肩で呼吸をしている。徐倫は力が抜けたように、
なぁんだ。と、声を上げて、ふわり、と笑った。
「すッげェー緊張して、損しちゃったわ。あたし、ジョルノって色んな女性と
経験しているのかなーって、あたし、上手くやれるかなーって思ってた。勝手に。
でも、そっか。あたしたち、お互い様だったのね」
そう告げると、こつん、と徐倫はジョルノの額に、己の額をぶつけた。
「いいわ、『お手伝い』してあげる、ジョルノ。でも、あたしやり方なんて
良く分からないから、きちんと、良いってところを、教えてね?」
そうして額から顔を離した後、ちゅ、と、徐倫の方から、キスをした。
▼--- Chapter 4 ---▼
ソファからは、水音が響いていた。音に混じり、男の荒い呼吸があった。
ソファに居るのは一人の青年。その下には、蹲り、青年の陽物を愛撫する娘
の姿あった。娘は、その赤い舌をちろりと伸ばして、男の指示に従い、緩急を
つけて、筋からてっぺんへと、凛々と立つ青年のものに舌を這わす。
時折、指で玉を刺激する。
青年のものは、娘の唾液と、青年自身の、先走ったものでぬらぬらと
濡れていた。青年に言われて、娘はやや、苦しそうに、青年のものを口に咥えた。
口内でぺちゃぺちゃと弄っていたが、やはり、息苦しいのか、ぷは、と、
思わず口から、離した。
「徐、倫……」
「ん、ちょっと、タンマッ……!!」
切なそうな眼差しを寄越すジョルノに、徐倫はハァ、ハァと、呼吸を整え、
再度、陽物に向かった。ん、んっ! と、懸命に、青年を愛撫する。突然、
ジョルノがぐ、と、徐倫の肩を掴み、引き抜こうとした。
「も、駄目です、徐倫ッ! どいッ……!」
ジョルノがそう言って、徐倫をどけようとしたところで、べしゃり! と、
ジョルノから出たものは徐倫を顔を、髪を、しとどに汚した。
けほっつ、けほっつ、と、咳をする徐倫に、すみません……徐倫……と、ジョ
ルノは詫びた。顔を持ち上げ、汚した己の精液を、拭き取ってやる。大丈夫よ、
と徐倫は応える。
「んっと……それより、落ち着いた?」
「ええ。まぁ……お陰様で」
そッ! と、徐倫はニコっと笑って見せる。なら、良かったわ。と告げ、
くるりと背を向けたところで、ぐ、と肩を、掴まれた。
「じょ、ジョルノッ……!?」
「『僕は』、良いですよ? でも『君は』まだなんじゃないないですか?
徐倫?」
問われる。くん、と身体を引き寄せられ、ベビードールの上からきゅ!
と乳首を摘まれた。
「『立って』ますよ……徐倫……。興奮しているんでしょう……?」
言い、ちゅっと、うなじを吸われる。するりと下身へと手を伸ばそうとする
ジョルノの手を抑えながら、あ、あたしは平気よッ! と言い繕う。
「あたしはちゃんと、ひとりで出来るからッ!! ご心配無くッツ!」
「ふゥん……。じゃあ、それを僕に、見せて下さい、徐倫」
へ? と、徐倫は間抜けな声を出して、固まる。聞こえませんでしたか?
と、再度ジョルノは、言い募る。
「徐倫がマスターベーションをしてイクところが見たい、と言っているんです」
さらり、とジョルノは告げると、ひょいと徐倫の身を抱え。ドアを開け、
ベッドに運ぶ。そうしてぼすん、と、徐倫をベッドの上に置くと、シャ! シャ!
と遮光カーテンを閉めた。室内は、僅かに洩れる光の他に、薄暗さで覆われる。
ぱち、とジョルノが枕元の電気を付けた。オレンジ色の、妙に淫靡な、光が灯った。
「ほら、何をしているんです? 徐倫。ひとりで出来るんでしょう?
僕は居ないものと思ってくれて結構です。やってみせて下さい」
言いながら、ジョルノはベッドに椅子を向け、悠然と腰掛けた。尚もベッド
に放り出されたまま、呆然としている徐倫に、やり方が分からないなら、
例をお見せしましょうか? と立ち上がる。そうして、ぺろ、と己の指先に
唾液をつけると、自分の首筋から胸元へと、ゆっくり、見せ付けるように、
肌に触れながら指を下ろして行った。
「や、やるからッ! やるからジョルノっ!」
頬を紅潮させて、徐倫はジョルノを制止した。そうですか、と、ジョルノは
平然として再度、椅子に腰掛ける。徐倫は一度、すぅっと呼吸をすると、
覚悟を決めたのか、ベッドの上に立ち上がり、結わえていた三つ編みを、解いた。
さらさらと解かれた髪が波を描きながら流れた。それらを両手でゆったりと
掻き上げる。ゆるり、と腰をくねらせる。指を、咥え、ゆっくりと、
己の唇から胸元へと下ろしてゆく。ふに、と、両手で、ベビードールの上から、
己の両胸を持ち上げる。するり、と片手を臍へ、もう片手の、薬指と中指とで、
乳首を摘む。
ほんの少しだけ身を反らし、やや、背中を見せるようにして、ベビードール
を脱ぎ捨てる。白い素肌が、露わとなる。
両膝をベッドに着く。片手で胸を揉みしだきながら、片手で、ゆるゆると、
秘所を撫ぜる。下着は、既に濡れていた。くち、という僅かな音を聴きながら、
弄る。ぐち、ぐちぐちと、音は次第に、高くなる。
「徐倫、仰向けになって、足をこちら側に開いて下さい」
ジョルノの声が響く、徐倫はこくん、と頷くと、ベッドに仰向けに横たわり、
Mの字に足を広げて見せた。そこは、じっとりと、物のかたちが分かるほどに、
滲んでいた。
「紐を解いて」
両サイドの紐を、静かに解いた。まずは右側。続いて、左……。
下着は両の支えを失い、どうにか徐倫の股間に乗っている状態にあった。徐倫、
と、声が響いた。
「下着をゆっくり、外してください」
徐倫の腹は緊張からか、興奮からか、びくびくと脈打っているのが、
遠目からでも分かった。すっと、震える徐倫の手が、下着に伸びる。そろ、
そろと、上に乗った下着を捲り上げ、ゆっくりと……手を、離した。
そこは、酷く充血し、ぴくぴくと蠢き、物欲しそうに、涎が垂れていた。
ぐ、と、思わず駆け寄りたくなる己を抑え、何をやっているんです? と、
わざと平静さを装って、次の指示を出した。
「それで、マスターベーションは終わりですか? 違うでしょう、徐倫。
指で、自分のそこを、触って下さい」
ひゅっと、息を飲む音が聞こえた。やがて、ぎこちなく徐倫のタトゥーが
施された手が、秘所に伸び、ひどく、ぎこちなく……秘所への愛撫が始まった。
仰向けになったまま。徐倫は秘所を、そして乳房を、弄っていた。無論、
足は開き、秘所はジョルノの方へと見せ付けたままである。秘所からは次から
次へと愛液が滴っているというのに、全く、イけない。
ただただ、腰の、股の、ずっと奥が、きゅんきゅんと切ないばかりである。
ジョル、ノぉ……! と、伴侶の名を呼んだ。ぽろぽろ、と涙が零れてくる。
「じょる、のッ!! お願い、手伝ってッ!! 変なのッ! イけないのッ!!
あたし、ひとりじゃ、イけないっ……!!」
ひっく、ぐすっと肩を震わせて居ると、溜息と共に、ぎぃっと椅子の軋む音が
聞こえた。仕方のないひとですね、と、ジョルノの腕が、抱き起こす。
「ひとりで出来るんじゃなかったんですか?」
「だ、だッて……! 感じ方が違うのッ! ぜんぜんッ! 今までは、
これで、良かった筈なのに」
言い、ぐず、ぐず、と鼻をすする。
「痛みは、どうなんですか? まだ、痛い?」
「分かんない……。それよりも、何だか奥が、きゅんきゅんするの」
「……『きゅんきゅん』?」
そう。と、徐倫は言った。そしてジョルノの手を取ると、そっと己の……子
宮の辺りに手を当てさせた。
「ココが、何だか、凄くッ……切ないの……」
告げると、突然がばり! とジョルノが徐倫の身を抱き締めた。
じょ、ジョルノ? と徐倫が声を上げる。
「ああ、もぉッ! 僕の負けですッ! 負けですよ徐倫ッ!!」
そう言うと、ジョルノは荒々しく徐倫の唇にくちづけ、
徐倫の上に覆い被さると、肉棒を取り出し、ぐちりッ! と挿れた。
ぐちゃ! ぐちりッ! ぐちゃ、ぐちりッ!!
ひやァん!! という徐倫の甲高い声が、響いた。それは確実に、
甘いものが、混じっていた。
「ァんっ! ぁんッ! ぁッ! ぁッ! ぁあん! や、ぁあんッ!」
徐倫の手が伸び、ジョルノの髪を、クシャクシャッ! と掻き乱す。
ジョルノは熱く、甘い吐息を洩らしている徐倫の呼吸さえも全て飲み込むほど、
熱く熱く唇を交わすと、はち切れんばかりの己の精を、放った。
「とりあえず、僕は自分で思っている以上に、君に首ったけのようです。
驚きました」
妙に憮然とした表情で、まるで不本意この上無い、という様子でジョルノは
徐倫に告げた。そんな事を言われても……と、徐倫は戸惑う。
「あたし、思ったことを言っただけなんだけど……」
徐倫は天然だから困りますッ!! そう、憤然した空気を持って告げられる。
身を抱き寄せられ、占有でもするように、腕の中に封じ込められていた。
「初めてですよ、もう、こうも気持ちがコントロール出来ない事は……」
「コントロール?」
「余り感情をストレートに出す事は好きじゃないんです」
ぎゅっと、抱き締められ、ジョルノの胸に頭を入れられた。
要望はストレートの癖に、変ね。と、徐倫は、笑う。分かった! と、徐倫は言った。
「ジョルノって格好つけでしょう? それはそれで素敵だけど、あたしは
そんなしなくっても、ジョルノの事、好きよ? もっと自然体でいて、良いわ」
言い、くつくつと胸の中で徐倫は笑う。だって、と、ジョルノは言う。
子供の様に唇を尖らせて、ちょっと、照れ臭そうに。
「……恥ずかしいじゃないですか、子供みたいで……。僕はもう、
とっくに成人男子なんですよ?」
「良いじゃない、別に。それも含めて、ジョルノなんでしょ?
あたしは別に構わないわ。あたしも何ていうか、ちょっと泣き虫なトコあって
子供っぽいし。……少しずつ、ふたりで本当の大人になれたら良いわ」
「徐倫が泣いちゃうのは良いんですッ! 可愛いから」
不服そうに言うジョルノに、あたしは嫌なのッ! と、両手を伸ばし、
ぐにぐに、とジョルノの両頬を引っ張った。
その後に、互いに顔を見合わせて、笑った。
▼--- Chapter 5 ---▼
それから、数週間が過ぎた。大学で生物学を学び始めた徐倫も忙しい日々を
送り、ジョルノはそれまでと同じの、しかし、少し変わった生活を送り始めた。
仕事はそれまでと変わらない。部下を統制し、別のルートから大麻が流れ込んで
いないか、裏の世界での情報収集と提供。暗殺を請け負うことは無いが、状況と
情報を整理した上で、鉄槌代役を受けることはあった。
イタリア全土を掌握することはまだまだ力不足だが、確実に勢力は伸び、
統制も取れていった。勢力地域では寧ろ治安が良くなったくらいだと、
住民からの評判も良かった。
ただ、他国からの「裏の」旅行客とのトラブルと、売春婦問題は頭の痛い
問題だった。
麻薬の撤廃はブチャラティの意志を継ぎ、市井にこれらが回る事はほぼ無くなった。
代わりに利益を占めたのが賭博であり、これは成功を収めたと言っても良かった。
スリやコソドロに関しては、今までと大差ない。ただ、互いに互いの持ち場を
荒らさない事、相手を選ぶこと、が遵守されるようになった。
これらの犯罪は、行う者たちも比較的容易にジョルノの方針に同意してくれた。
彼らとて、互いの足は引っ張り合いたくは無く、きちんと(この場合の「きちんと」
は一般的な「きちんと」とは大分意味が異なるが)稼げるなら、
そっちの方が単純に良かったのだ。
だが、売春婦と他国からのトラブルは実にやっかいな問題だった。
まず、彼等は自分たちの観念とは全く違う。そこから衝突し、なかなか互いに
妥協出来ない。妥協出来ないものだから、抗争が起きる。
血の気の荒い者は大騒動を起こしたりする。
ジョルノ達からしてみれば、余りおおごとにするのは反対なのだ。
賭博を一部の金持ち連中に対する娯楽とするならば問題無いが、
それでは地域によって大きく偏りが出る。規模の差はあるものの、
賭博場を広げるならば、市井の人々の収入や生活は安定し、一定水準あった方が良い。
そうして得たお金を夢をもって賭け、スったり、或いは儲けたりするのが理想だった。
こうした「遊戯」に、人々が身を乗り出して参加するためには、血生臭い騒ぎは、
極力少ない方が良いのだ。その方が、人々は安心して、お金を賭け事へと投じてくれる。
売春婦に頭を抱えるのも、「安定した市井の人々の生活」に関与していた。
イタリアでの売春婦は基本的に路上で「客引き」をしている。そしてこれを行う
殆どの女性達が異国民であり、それらの元締めは専ら別国のマフィアが行っている。
女達は、一夜の性を売る。中には避妊したり、堕ろしたりする者も居るが、
出産する者も勿論居る。そして、そうやって産まれた子供たちがどうなるか……。
――かつての我が身を思い返すような、胸糞悪い気分になった。
産まれた子供たちは、満足行く教育も受けられないまま、スリやコソドロを行う。
当然、ジョルノ達の場を荒らしたりする。そうした時に、親が出てきて、
親と衝突するのはまだ良い。最悪なのが、親から見捨てられている場合だ。
そういった時は本当に、心から、自分も大人だというのに、
「大人」という存在が……否、「人間」が、憎らしく、なるのだ。
いつか、別国のマフィアと大きくやり合う日が、来るかも知れない。
そう、思った。
「いくら民衆の評価が高くても……これじゃあ、承太郎さんが婿として迎え
るのを嫌がったのは、当然ですよね……」
パソコンと向き合い、勢力情報や経理を纏めながら、ぽつり、とジョルノは呟く。
徐倫に求婚して、数日後、娘親である承太郎から、「婿に来る気は無いか」と告げられていた。
一緒になるのなら、空条家でも別に良いだろう。悪いようにはしない、と。
そして、彼はこんな事も、言った。
「徐倫から、ギャング・スターだと聞いたが?」
お調べになっているでしょうが、本当です。と、ジョルノは臆せず、答えた。
「僕は、ギャングを辞める気はありません。そして、
徐倫を手放す気もありません」
そうか。と、彼は言った。残念だ、と。
「さっきの婿入りの話は無しだ。忘れてくれ」
そう告げて、背中を向けた男に、ご結婚はお許し頂けるのですか?
と声を掛けた。するとゆっくりと振り返って、言った。
「娘が望んだ以上、俺から良いも悪いも、無いだろう。
ただ……幸せには、してやってくれ。これは、俺からの『願い』だ……」
告げられた言葉に、必ず、そうしますと、深々と頭を下げて、
義父の寛大さに心から感謝した。だがきっと、本当は義父は結婚を機に、
足を洗って欲しかったのだろうと、そう思った。
ふぅ、と溜息を吐く。データーを保存し、時計を見ると、
もう直ぐ徐倫が帰宅する時間だった。パソコンの電源を落とし、
大きく伸びをしてから立ち上がると、自室を出て、椅子にかけていたエプロンを
つけた。腕まくりをして、キッチンに立つ。
料理は得意だ。小さい頃からさせられていたのだから、家事全般は普通に
こなせる。徐倫は別に良いと遠慮していたが、彼女は洗濯、裁縫は得意だが、
料理は余り得意ではなかったようで、ジョルノの腕と申し出を受けると、
躊躇いながらも譲ってくれた。以来、食事を作るのはジョルノの役目だ。
新鮮なトマトとレタスをシンクに付ける。まな板を広げ、白身魚の鱗を、
内臓を取り、流水で綺麗にする。塩と胡椒をガリガリとミルで砕いて振り掛ける。
鍋にオリーブ・オイルとスライスしたニンニクを入れる。じゅわっ! と、
ニンニクの食欲をそそる香りが立った。下ごしらえした魚を入れる。
香ばしい魚の香りが広がる。今夜は、"Acqua pazza(アクアパッツア)"だ。
徐倫と一緒に食べる料理を作ることは、苦ではない。何といっても、
彼女は自分の作ったものを、とても美味しそうに食べてくれる。
食事の前に軽く祈りの言葉を唱えて、可愛らしい口に食べ物を入れて、頬張る。
そうしてとても良い笑顔で「美味しいッ!」と微笑むのだ。
そういえば、と白ワインを鍋に加えながら、ジョルノは思った。
彼女は僕が食べる時も、ニコニコしてるな、と。
徐倫は料理は苦手なようだったが、女の子らしくというか、
菓子作りは得意なようで、ちょくちょく、ジョルノの好物であるプティングやらを
作ってくれた。
何度も丁寧に濾して、蒸し器で蒸され、よく冷えたそれは、ふるん、と震え、
甘く、そしてとても優しい味がして、ジョルノは直ぐにそれが気に入った。
徐倫はニコニコと、ジョルノが食べ終わるのを上機嫌で見て、また、
作るわと約束してくれた。
ホットケーキも良かった。朝食で食べたいからッ! と、その日に出された
それは、とても綺麗なキツネ色で、カフェオレと共にふんわりと良い湯気を
立てていた。二段重ねで、上に乗ったバターと蜂蜜が、朝日を受けてキラキラと
光っていた。味はふんわり、しっとりしていて、あっさりと、
ジョルノの胃に収まった。
徐倫はやっぱり、平らげるジョルノを見て、ニコニコしていた。
ああ、と、ジョルノは思った。
フレッシュトマトに、ハーブ類が加わった鍋は、良い香りを立てている。
オリーブの種を抜く、貝の表面を綺麗に洗う。
あれは多分、「母」の顔だ。自分は母親からそんな表情を受けたことが無い
から分からなかったが、きっと、あの徐倫の表情が、きっとそれなのだ。
だとすれば、と、ジョルノは思った。徐倫の食事を見ている自分は、
一体どんな顔をしているだろうか。母の顔なのだろうか。それともやはり男だから、
シェフが客をもてなすような、そんな顔なのだろうか。
もしも、子供が出来たら、自分達の顔を見て、何と言うだろうか?
そんな事を思っていると、何だか妙に可笑しくて、くつくつ笑った。
オリーブと貝を鍋に入れる。もう直ぐ徐倫が帰って来る。そうしたら、
この話をしてみようかなと、そう思った。
▼--- Chapter 6 ---▼
久々に財団を訪ね、エンポリオと会うと、「徐倫お姉ちゃんッ!!」と、
少年は顔を綻ばせて、自分を呼んだ。
数ヶ月ぶりに会う少年は、何だかとても背が伸びて感じた。昔と違い、
ジーパンに黒のTシャツという簡素ないでたちだったが、少年の成長に良く
合っていた。昔に比べると、ずっと表情が豊かになり、良く笑うようになったな、
と徐倫は思った。
「どう? 学校は。上手く行ってる?」
「うんッ! 最近漸く慣れてきたんだッ!」
徐倫お手製のガトーショコラを頬張りながら、少年は答えた。その知識量と
頭脳ならば、飛び級も可能だと思えるこの少年は、敢えて年齢通りの授業を受けていた。 「『普通』をやっておきたいから」というのが本人の弁で、徐倫も財団も、
これに異は唱えなかった。彼の技能や知識は休日に、学校ではなく、財団の方で、
磨かれていた。
エンポリオは嬉々として、最近あった学校での出来事や、友達の事を話した。
面白い特技を持った子や、癖を持った子。変わった子。みんな変わっていて、
みんな素敵だ、と、エンポリオが笑って言った。これが、
「個性」ってヤツなんだね、と。
そう言えば最近学校で、怪談話が流行っているんだ。と、少年はこぼした。
音楽室のピアノが独りでになるんだって! と。
「マジィ〜? あんた、『ピアノの幽霊』持って行ったりしてないわよね?」
「してないよッ! ……でもさ、不思議なんだ。刑務所とかなら分かるよ?
死刑とか行われるから、噂になるのも分かる。でも、どうして学校でそう言う
噂が出るんだろうね? 関係なんて全然無いのに」
そうねぇ……と、徐倫は言った。
「やっぱり、気になるんじゃない?」
「何が?」
「『死ぬということ』が」
そっか……と、エンポリオが応えた。沈黙が、落ちた。アンタさ、と、
徐倫が言った。
「『見た』んだっけ、結婚式の前に、馬の……集団? を……」
うん。と、エンポリオは答える。
「あれが『霊』であるかは分からないし、『死後の世界』なのかも
分からないけど、ね。
あのね、お姉ちゃん、『魂』っていうのは一定なんだ。この世界で亡く
なった魂が、天国に行くか、地獄に行くか、はたまた、何か別の生命に生まれ
変わるかは分からない。もしかしたら、別の世界の別の人間として、
その『魂』は動いているかもしれない。
でも、一定なんだ。増えすぎる事もないし、減りすぎる事も無い。
……ううんと、ね。怒らないで聞いて欲しいんだけど、子供って、
精子と卵子が受精し、着床して、出来上がるでしょう?」
え? ええ。と、徐倫は少年の歳相応とは思えない話題に
呆気に取られながらも、真面目に頷く。
「ヒトの男性の精子は何億とあって、そのうちひとつの卵子と受精出来るのは
たったひとつの精子だけだわ。白血球とか、酸の海とかが、『異物』である精子を
攻撃するから、どうしても数が無いと受精出来ないもの」
「うん。そうして受精出来たとしても、着床して、育たなくちゃいけない。
子どもがひとり産まれるには、物凄い困難を乗り越えて、漸く出来ることなんだ。
でも、ひとによっては、あっさり子供が出来たり、出来なかったりもする。
勿論、これはその時の相手や体調、状況にもよると思うんだけど、
僕は『魂の量』だと思うんだ」
魂? と、徐倫は問い返した。うん。と、エンポリオは、頷く。
「どこからどこまでの生物に『魂』があるかと言われると困るけれど、
少なくとも僕は、出産にはこれが関係していると思ってるんだ。
『魂の量』は一定だから、供給が少ない時は、どうしても生まれないし、
多い時は、生まれやすい。誰が決めているのかは分からないけれど、
そういうのがあるんじゃないかって、思うんだ。
だから、その、何て言うか……」
ここにおいて、もごもご、と、言い難そうに、エンポリオは言った。
「あまり、気にしなくて良い……。
お姉ちゃんと、お兄ちゃんのせいじゃないと、僕は思うよ……?」
ぱちり、と、徐倫は瞬きをした。エンポリオは気まずそうにオレンジジュー
スを啜っている。ありがとね、と小さく告げると、エンポリオはほっとした表
情で、席から立った。
「誰かと待ち合わせ?」
問うと、静とかくれんぼして遊ぶ約束をしているんだ、と少年は答えた。
「『かくれんぼ』って、『消える能力』で? それってゲームになるの?」
「なるよッ! 僕は『幽霊』のスタンドで、ボールを転がして場所を
絞るんだ。『幽霊』は静、消せないし、当たっても素通りするだけだしね。
じゃあね! お姉ちゃん。ケーキ、すッごく美味しかったよッ!!」
そう告げると、エンポリオは元気に手を振って、部屋から出て行った。
あとには綺麗に食べられた一枚の皿と、ストローのささったコップとが残り、
その、幸せな風景を眺めながら、徐倫は己の腹に手をやって、ぽつり……と呟いた。
「こども……欲しい、なァ……」
物寂しげなその呟きは、すっと室内に、吸い込まれた。
▼--- Chapter 7 ---▼
セックスは普通にしていた。診断でも異常は無かった。ただ、何故か
なかなか子に恵まれる気配は無かった。
まだまだ二人も若いため、焦る心配は無かったが、だからといって
諦められるというものでもなかった。
いつものように風呂に入り、寝所を整え、ネグリジェに着替えて待って
いると、何やら小箱を手に、妙に困った顔をして、浴室から上がったジョルノが
来た。どうしたの? と小首を傾げて訊ねると、驚かないで、見て欲しいんです。
と、ベッドの上にその小箱を置いて、徐倫に見せた。中には、楕円形をした、
紐付きの端子があった。
「なぁに? それ?」
ひょいと、手に取る。徐倫が手に取ったのを見、同僚に譲り受けたんです。
と、小さなリモコンの方をジョルノは手に取った。スイッチを入れると、振動
と共に、徐倫の手の平にあった端子が動いた。
「自分たちは使う機会が無いから、使ってくれと言って押し付けられました。
……いわゆる、『大人のオモチャ』ってヤツです」
ヴぅぅヴん、と、徐倫の手の平で、それは動く。『大人の』というのを聞いて、
やや、虚を突かれたようだが、思ったほど嫌悪感は無いらしく、
手に乗せたそのままで、これがバイブってヤツ? と、問い返した。
「いえ、それはローターと言われているもので、バイブはこちらの……」
と、ジョルノが言い、箱から取り出した物を見て、徐倫は硬直した。
透明感があるし、一応、素材として女性が好みそうな、親しみやすい
デザインにはしてあるのだろう。だが、いかんせん原型が生々しい。
なにやらご丁寧にパールのようなものまで付いている。思わず後ずさり
してしまいそうな徐倫に、折角の貰い物なのですから、と、
ジョルノは苦笑いをしながら、徐倫を招き寄せる。
「別に、使わなくても良いですから、持つだけでも持ってみて下さい」
「そ、そうね……」
言われ、おずおずとだが、受け取って、手にしてみる。ジョルノ程ではないが、
そこそこ大きい。それなりに、重さもある。
ごつごつしていて、申し訳ないが、挿れる気にはとても、ならなかった。
ジョルノもそれを見てとったらしい。特に無理強いはせず、何時ものように、
唇を合わせた。
互いの呼気が交換される。くぐもった声が洩れ、ぺちゃ、ぺちゃと舌音が響く。
するり、とネグリジェを剥かれ、優しく、胸を揉まれる。頂を摘まれ、甘い吐息が
洩れる。感覚に身を震わせ、思わず手にあったバイブを握る。ジョルノの手が
するりと伸び、もう片方の手の中にあった、ローターを取る。使ってみますか?
と囁く。さして不快感も無かったそれに、こくんと頷く。
小さな唸りと共に、ジョルノの手にあるそれは、震えながら下着の上から
徐倫の頂を、花芯を、弄った。じっと花芯に当てられて、撫ぜられていると、
じんわりと愛液が滲んで行く。あァんッ……! と声が洩れる。ジョルノはくす
くすと笑みながら、挿れますよ? と、ショーツの横から、それを差し挿れた。
徐倫の身が、跳ねた。と、同時に、ベッドサイドのジョルノの携帯電話が、
鳴った。
ちっ、と心の底から忌々しそうに舌打ちをして、ジョルノは携帯電話を取る。
信頼を置いてる部下の一人からの電話だった。無視するわけには行かない相手に、
ジョルノは「直ぐに戻りますッ! 待っていて下さいッ!」と言いおいて、部
屋を出る。妻の喘ぎ声を聞かせるわけには行かなかった。
そして、急な電話に、つい……ローターのリモコンを、手にしたまま、
部屋を出て、しまっていた……。
電話は実際重要なもので、火急を要するものだった。素早い部下からの連絡
にジョルノは感謝しつつ、パソコンを立ち上げ、的確な指示と情報を与える。
その電話相手からとの電話が終了した後も、急ぎ、関係する者達に電話をして、
対応するように指示を与える。
全ての指示と情報の整理が済み、ほっとした後に、はっと徐倫の事を思い出して、
慌てて寝室に戻った。そこで、息を、飲んだ。
それは、酷く淫靡な光景だった。快感に身を捩ったのだろう。ローターから
伸びる紐が、ぐるぐると徐倫の片足に絡まり、まるで緊縛をしているようだった。
花芯からは、もう、ショーツをぐっしょりと濡らすほど愛液が迸っている。
ブラジャーは、堪えきれずに、自分でずり下ろしてしまったのだろう。
僅かに乳首が覗き、頂はぴんと立っていた。
だが、何よりも淫猥さを高めていたのは、徐倫が手にしていた、バイブだった。
すがる物が欲しかったのか、ぎゅっと、手のしたバイブを握り締め、
手は、スイッチを押してしまったのだろう。うぃん、うぃんと、
卑猥な音を上げながらうねるそれを、徐倫は惚けた顔で、胸の間に押し抱いていた。
「徐、倫……」
呟く。唾を飲み込む間も無い程に、妻の痴態に目を奪われる。
ジョルノの声を耳で捉えたのか、徐倫は重そうに顔を向け、
じょる、のォっ……! と声を上げ、きゅっと、自分から、両足を、開いた。
「来……てェっ! お願い……! くる、しいのぉ……ッ!!」
慌てて、ベッドに駆け寄る。徐倫は涙をぽろぽろ流しながら、
まるで釣られた魚かのように、必死でジョルノにキスをする。
ぐちゃぐちゃという音を立て、手を愛液でまみれさせて、ジョルノは徐倫の
上下の下着と、ローターを徐倫の中から取り外すと、急ぎ己の服を脱ぐ。
そうして徐倫に圧し掛かるその前に、待ち切れなかったのか、徐倫の方から、
ジョルノの方を、押し倒した。
「ァんっ! ジョルノっ! ジョル、のォっ……!!」
己の手で天を突いているジョルノの物を捉え、もう片手で花を開き、
ずぶずぶと腰を沈めてゆく。
「徐……倫っ!」
感覚に、ジョルノも眉を顰める。徐倫はジョルノの腹に手をついて、
一心不乱に腰を動かした。
「はァ……ッツ! ぁあんッ! ジョルノっ! イイよ……じょる、のッ!」
「好いです……か? 徐倫……そんなにも、僕の、はッ……?」
うん、好いッ! と、徐倫は歓喜の涙を零しながら、腰を振り、
無我夢中で、頷く。
「あんなのよりも、ずッと、ずっとッ……! 何十倍もッ! 何億倍もッ!
ジョルノのが好いッ! ううん、そうじゃ、なきゃ、やだッ!!」
「……徐倫……ッ!!」
ぐちぃ! ぐちゃぁ! ぐちぐちッ!! という音は、ジョルノから体位を
入れ替えられ、ジョルノが覆い被さったところで、ぱん! ぱんぱん!
という互いの肉壁をぶつけ合う音にとって変わられた。徐倫の、嬌声が上がる。
ジョルノの、徐倫の、互いが互い、お互いの名を呼び合う声が響き、
そして高まり、同時に――果てた。
超、飛びたい……と、ジョルノの腕の中で、恥ずかしさに顔を覆いながら、
泣きそうな声で徐倫は告げた。あたし、自分がどんどん淫乱になって
いっている気がする、と。
「……こんな淫乱だから、神様も、なかなか子宝を恵んでくれないのかしら?
うう、やだ……超恥ずかしいッ……!!」
「それは違いますよ、徐倫。性欲が強くなければ、種を残すことは
出来ません。今出来ないのは、ただ、時が合わない、それだけです。
きっと、気にし過ぎなんですよ。圧力を感じたりして、ストレスを
どこかで感じているのかもしれません。
……今度、仔馬を観に行きませんか? 以前徐倫が美しいと言っていた馬の
仔が産まれたんですよ。親に良く似た、美しい黒鹿毛の仔だそうです」
腕の中で嘆く徐倫に、ジョルノが慰めるようにそう告げると、え!?
あの子、こども出来たのッ!? と、徐倫はぱっと顔を上げた。
馬は、徐倫がひどく気に入っていた競走馬の、こどもだった。
「見たいッ! すっごく見たいわッ!! きっと、綺麗なんでしょうね……」
きらきらと目を輝かせる徐倫に、そうそう。と、ジョルノは頷く。
「そうやって旅行先で身も心も解すことは、とても大切なことなんですよ。
ですから、ね、徐倫。旅先では少し趣向を変えてみて、今度は是非、
このバイブを……」
「誰が使うかぁああああぁーーーーーーッ!!!!」
ベッドの上、徐倫が投げつけたバイブは、ジョルノの顔面に、見事にクリー
ン・ヒットした。
▼--- Chapter 8 ---▼
深夜、他には誰一人として居ない己の書斎で、承太郎は電話を受けた。
スピーカーの音量は最大に。ブツ……ブツ……というノイズが入る。
受話器の向こうから、”Buona sera(こんばんは)”と、低い、声が響いた。
音はノイズがかかり、尋常とは異なる響きをもっていたが、声質だけは、
聞き覚えがあるものだった。
久しぶりだな、と、言葉を返す。
”しばらく聞かないうちに、低さは相変わらずだが、
声が何だか優しくなったな、承太郎”
電話の向こうの相手が、くつ、くつと笑う。お前は随分と変わったなと返す
と、何せこっちは亀だからな、と気にする様子なく返して来る。
”ジョルノから話は聞いたよ。ついにお前も『おじいちゃん』だって?
おめでとう、承太郎。そのうち『ジジイ』と孫から言われる日が来るよ”
「ぬかせ。カメよりましだ」
軽口を言い合う。電話の向こうの相手は、人でなくなった、
昔ながらの友人だった。
”出産予定日はいつなんだい? その日は一日無事にお産が済むことを
祈っておいてやるよ。何と言っても、その日がお前が『ジジイ』になる日だからな」
「……ポルナレフ、オメーには絶対教えねえ……”
告げて、電話を切ろうとすると、わーッ! まてまて切るなッ!!
と、まるでこちらの景色が見えているかのように、慌てた声が響いた。
渋々、手を放すと、フー、やれやれ。と、溜息がこぼれる。本当に、
こっちが見えているのでは無いだろうか。
”ジョルノも徐倫も、ずっと子を得ることを望んでいたらからな、
冗談はさておき、本当に良かったよ”
ポルナレフの言葉に、承太郎もああ、と頷く。ここ数年、望みに望んで、
ようやく二人の間に恵まれた生命だった。娘の報告は、妻から聞いた。
「おめでたですって!!」と、復縁した妻は年甲斐もなくまるで己の事のように、
喜んでいた。
承太郎自身としても、勿論、娘の幸いは嬉しく、孫が出来るのも嬉しい。
ただ、気掛かりなのが、一点あった。
”――『DIOの血』が、気になっているのか? 承太郎?”
「!」
友の言葉に、息を飲みこむ。図星を指され、そうだ、と小さく答えた。
言い繕うような仲でも、人格でも、相手はなかった。
確かに、と、ポルナレフは言った。
”ジョルノはDIOの子だ。俺でも、あいつがヤツの血を引いていることは
感じられる。だが、それ以上にあいつは『ジョースター』だよ。承太郎。
ジョルノは、お前と同じ誇りと、瞳の輝きを持っている男だ。あいつが『矢』
を手に入れてから、ずっとあいつの側に居たんだ。
それは、誇りをもって保障するぜ”
俺は、と、承太郎は言った。
「今でもジョルノのことを怪しんでいるわけではない。徐倫が認めた男だ。
ただ、ジョルノ自身は良くても、ジョルノの身に流れているDIOの血……。
それが、怖いんだ。徐倫の子に、何か影響が出ないのかが、怖い。
……俺は、また、『何か』が起こるのが、とてつもなく、怖いんだ……」
電話口の向こうで、フゥ、と溜息が響いた。そうして、声が掛かった。
”臆病になったな”という言葉に、そうだな、我ながらそう思うぜ、
と承太郎は言葉を返した。
「不思議なモンだな、高校の頃は、怖いものなんて全く無かった。
――いや、お袋やら、何やら、失いたくないものは沢山あったが、
『怖い』とは思わなかった。歳が経つにつれ、どんどん臆病になって行ったんだ……」
”幸せなんだろうよ”と、声が響いた。
”承太郎。お前は幸せなんだよ。お前自身はピンと来ていないが、
お前が恐れるのは、今が『幸せ』だからだ。
……ああ、だからって、昔のお前が不幸って言ってんじゃあないぞ?
ただ、お前は幸せだから、それだから、変わることが怖いんだろうって、
そう言っているんだ”
沈黙が降りた。しばらく間が空いて、「そうだな」と、承太郎は答えた。
「……確かに、俺は、幸せ者……なんだろう……」
不可能とも思える旅を終え、DIOを倒し、母を救った。妻と出逢い、結ばれ、
子を得た。仗助たちと出逢い、ジョルノを知り、己のエゴから、
妻と娘に辛く当たり、一方的に離縁した。
そうして、また、一方的に娘に逢いに行き、娘を救えたかと思ったら、
逆に娘から救われた。娘は成長し、困難を乗り越え、ともに、
プッチ神父と闘い、ジョルノと娘は結ばれ、ついには孫さえも出来た。
それは決して、順風満帆とは言えなかったが、間違いなく、『幸い』だった。
”あのな、承太郎”と、スピーカーから、声がした。
”俺は、ジョルノが嫁さんを貰ってくれて、本当に良かったと思ってんだ。
あいつはさ、俺からDIOのことを知って、自分の親が
どうしようもない外道って事に、心底嫌悪を示していた。一時期は、
自分自身さえも嫌う程のもので、見ていて酷く危うかったんだ。
分かるか? 承太郎。そんなあいつが、親になるんだ。親になるって、
『DIOの息子』から、『人の子の親』になることだ。あいつは、
DIOのプレッシャーから、漸く開放されるんだよ……”
承太郎、と、友は、言った。
”俺は、DIOは、大嫌いだ。今でも嫌いだ。妹や、アヴドゥル、イギー、
花京院を亡くした時の悲しみは、今でもある。だが、あいつとDIOとは別人だ。
別の魂を持っている、別の奴なんだ。
これから生まれる奴だって、そうじゃないか。喩えもし、DIOの魂で
あったとしても、俺らがきちんと見守って、今度こそ、
まっとうな道を歩ませてやれば良い……違うか?”
沈黙があった。やれやれ、と、溜息交じりに、承太郎は言った。
「やれやれだ……。まさか、オメーから説教を受ける日が来るとはな。
歳は取りたくないもんだ……。
曾曾祖父の肉体を奪い、分かれていた血が、また戻るか……。
確かにそれで、良いのかも知れないな……」
そう語り、承太郎は僅かに眼を閉じ、顔も見たことも無い曾曾祖父に対し、
静かに祈った。
▼--- Chapter 9 ---▼
あ、と。徐倫は呟いた。編み物の手を止め、己の腹部へ、手をやる。
「ジョルノ、今、この子、蹴ったわッ!」
そう告げて、己の手を愛おしそうに撫ぜ、微笑んだ。妻の言葉を受け、
その側で本を読んでいたジョルノは、顔を上げ、妊婦となった妻の腹部を見た。
「本当ですかッ!? ……いや、徐倫が言うのだから、
本当だって言うのは分かるし、知っているんですが……」
顔を上げた瞬間に、思わず喜色と共に告げた言葉に、どことなく照れくさ
そうに、ジョルノは言った。触ってみる? という言葉に、良いのですか?
とたじろぐ。
「なに遠慮しているのよ、"Padre(おとうさん)"! ほら、息子に
挨拶をしてあげてッ!」
言い、徐倫はジョルノの手を取ると、そっと己の腹にあてさせた。とくん。
と脈打つ妻からの胎動に、びくりッ! とジョルノは慌てて手を離し、
じっと己の手の平を驚いた目で見つめた後、再度ゆっくり……妻の腹部に、
手をあてた。
「凄い……生きて……いるんですね」
ぽつり、と呟く。昂揚感があった。普段自分が生命を吹き込む時と似た。
だが、段違いの昂揚感だ。
「不思議だな……この中の命に、『魂』が、吹き込まれているんですね……」
感慨深く、そう呟く。ジョルノの作り出す「生命」には、いわゆる「魂」と
いうのは入っていない。彼等は確かに命を持ち、生物の習性を持って行動するが、
それらはやはり元々あった生命とは異なり、「物質が細胞として再構成された」
という感覚に近い。だから余計に、こうした「元来あるべき生命の誕生」
に触れる際は、生命の神秘というものを、感じ入った。
「確か、男の子……でしたっけ、診察では」
そうよ。と、徐倫は言った。揺り椅子が、きぃ、と揺れた。
「名前は、もう、考えていますか?」
ジョルノの言葉に、あるわッ! と、徐倫は満面の笑みでもって、答えた。
「ニコラス! あたし、ニコラスが良いなって思うのッ!」
徐倫……と、ジョルノは呟いた。それは、サンタクロースの起源とも言われている、
有名な聖人の名前だった。……駄目かな? と、徐倫は上目遣いに、夫を見る。
「だって、この子が出来たのって、あの、黒鹿毛の仔に逢った時じゃない?
あたしはあの仔が祝福してくれたんじゃないかなー、なんて、思うのよ。でも、
まさかイエス様の名を使うわけにはいかないし、あたしにとっては、
サンタさんからの贈り物みたいなものだから……ニコラス。
……ダメ?」
こきゅ? と小首を傾げて言う妻に、やや、咳払いをした後に、
まぁ、良いんじゃないでしょうか。と、ジョルノは言った。
「世の中、"Diavolo(悪魔)"なんて付けるひとも、いますしね。
それに比べりゃ徐倫のは何億倍も可愛いから、きっと許されます」
やったぁ! と、諸手を挙げて徐倫は喝采を上げると、優しく、
己の腹を撫で、まだ見ぬ息子に、語りかけた。
「特別な才能を持っていなくても良い。……ただ、丈夫で、元気で……
どうか……幸せに、なってね……」
そう語る徐倫を優しく見つめながら、ジョルノは静かに眼を閉じ、まだ顔さ
れ知れない己の息子の幸いを、ただ、祈った。
▼--- Chapter 10 ---▼
キッチンからの明かりに、目を覚ました。ふと、隣のベッドを見るとジョニィ
が居ない。欠伸をしながらベッドから起き上がり、扉を開けると、
ジョニィはひとり、小テーブルでホット・ミルクを飲んでいた。
明日も早いのに、何をやっているのだ。こいつはと思っていると、
視線に気付いたのか、ジョニィがこちらの方を向いた。
「何? ジャイロ。君も欲しいの?」
「あ? あー……うん。入れてくれる?」
説教しようかと思ったが、ごく自然に問われた言葉に、何となく文句を言う
タイミングがずれ、大人しくジョニィからホット・ミルクを入れて貰う。
レース参加者の宿泊施設。飲食物は、言えば分けて貰えていた。
ゆっくりと、ミルクの柔らかい香りが広がり、マグカップに注がれる。はい、
とジャイロにそれが手渡され、ずず、と、ジャイロは啜った。
「オメェーよぉおおお。明日もレースは早いって言うのに、何起きてんだ?」
「それは君も同じじゃないか……ああ、ひょっとして、僕が起こしちゃった?
ならゴメン。夢をね……見たんだ……」
夢? と、ジャイロは問う。そう。とジョニィは応える。
「僕には早世したんだけど、ニコラスっていう、五つ年上の兄さんが居たんだ。
乗馬の名人でね。200メートルを17秒でと合図を送ったら、その合図の通りに
キチッと走る、素晴らしい『時計』を持ったひとだった。
僕なんかよりもずっと優秀で、賢くて、優しい兄だった……」
マグを手に、ジョニィはそう語った。マグの中のミルクが、丸い鏡となって
ジョニィを映した。
「そのね、兄の夢を見たんだ。
……ううん。アレは、本当は兄じゃ、ないのかな? 僕の母さんと父さん
じゃあなかったから……。
とにかく、夫婦がいて、妻らしき女性は妊婦だったんだ。揺り椅子に揺られ
ていてね、自分のお腹の子を、ニコラスって呼んでいたんだ。
ふたりとも、とても幸せそうでね、その、ニコラスって子に、
幸せになってねって、呼びかけていたんだ……」
ジャイロ、人間のさ、と、ジョニィは言った。
「人間の魂って……死んだらどこに行くのかな?」
「あぁ?」
「ああ……何となくそう思っただけだよ。興味ないなら、別に良いさ」
そう告げて、ミルクを飲む。沈黙が落ちた。概念に、という、
ジャイロの声が掛かった。
「……概念による。俺らの国では、死んじまった魂は、審判の時を待ち、
暫しの休息を得るが、東洋の国じゃ、生まれ変わって、別の生き物や、
別の人間として生きたりする。
死んだ後、『審判を受ける』っていうのは、ドコの国でもある。
行く場所は天国だったり、地獄だったり、現世だったり、まぁ、色々だ。
俺は、昔の中国人が言ったみたいに、『生きる』って事をまだ知ったわけ
じゃねーのに、『死ぬ』ってことをどうこうは言えねえ……そう思う」
そッか……と、ジャイロの言葉に、ジョニィは呟いた。
ありがとうと告げると、いや、と、ジャイロが応じた。
僕は、と、ジョニィが、言った。
「僕は、良かったと思ったんだ。ひょっとしたらそれは、
兄さんじゃないかもしれないけれど、兄さんかも、知れない。
……凄く、ね。嬉しかったんだ……」
ぽそり、と、呟く。そうだな……と、ジャイロが、言った。
「じゃあ、祈ってやれよ。お前の兄だか、兄じゃねえかは分からねえが、
そのガキのために祈るのはタダだ。祈ったら、さっさと寝ろよ、このブラコン」
「うるさいよ、このファザコン。言われなくとも、明日はキチッ!
と走ってみせるさ!」
ニョホホホホ、言うじゃねぇの、と、空になったマグカップをキッチンに持
って行く。そこでジャイロは窓から見えた景色に、見ろよッ! ジョニィッ!!
と、呼んだ。
車椅子に乗り換えて、窓を眺めると、そこには見事なまでの
ミルキー・ウェイ(天の川)が広がっていた。目映く瞬く星達に、
ジョニィは息を飲みながら、静かに眼を閉じ、この、星々の向こうに居る兄の幸いを、
ただ、祈った。
△---------『 Mebius 』---------▼
(上)(下)
FIN