「DIO様ですか。たった今、街に出たばかりですよ。任務成功の報告は私が伝えておきましょう」
館に戻るなり聞かされた言葉に、マライアは眉を寄せた。
「ああ、そう」
「……そちらはDIO様の寝室ですが? 」
「知ってるわよ! どこに行こうと勝手でしょう? 」
マライアは不機嫌を隠しもせず廊下を奥へと進む。
テレンスは冷めた目で彼女の背を見送り、小馬鹿にしたように片方の口の端を上げた。
いつ来ても暗い館の中にコツコツとヒールの音を響かせて
館の奥、ある部屋の扉を開ける。
高価な調度品や貴金属が無造作に置かれ、
執事によって改められたベッドはシーツに皴ひとつない。
誰もいない部屋に微かに残る血と情交の跡の匂いだけが、
DIOがさっきまでここにいた証明だった。
主が居ない事は分かっていたが、それでも溜息が洩れてしまう。
あの方に可愛がってもらう。その為だけに、休む間もなくここへ報告に来たのに……。
その証拠に、暗殺者として任務をこなしている間、ずっと体の中に押し込めていた熱が
やり場を失くして疼いている。
赤い絨毯の上を猫のように静かに歩き、整えられたベッドに片膝を乗せた。
心音があまりに切なくて、背を丸め、甘えた仕草でシーツの上に額を擦りつける。
洗いたてのそれは腹が立つ位乾いた匂いで、
もっと深く、その向こうにあるものを嗅ぎとろうと眼を伏せてうずくまる。
部屋の中に微かに残る気だるい気配にのみ意識を集中させた。
最後にDIO様が私に触れたのは任務に就く前の晩。
(この部屋で……このベッドで……)
甘い記憶に酔う。広いベッドの隅で腰を高く掲げる。
指がそっと自分の体をなぞる。
爪と同じ真紅を塗った唇から喉へ、喉から胸へ、胸から腰へ、
服の上から自分の形を確かめるような緩やかな愛撫は進む。
(やはり、お前は紅が似合うな……)
あの晩、私の体のそこかしこに甘く牙を立てながらDIO様はそう言ったわ。
愛撫は記憶を呼び起こし、記憶は更なる欲を煽る。
指がもどかしくタイトスカートをたくしあげ
……僅かな躊躇の後に、黒色のショーツを下ろした。