[1]  
 
 カーテンを閉め切った屋敷の、隠し回廊に、地下の奥。まるで秘蔵の宝物か  
何かのように隠された一室に、娘はいた。  
 音も無く扉が開き、唯一の明かりである蝋燭の火が、風で揺れた。娘はジジ  
ッ……と、僅かに揺れた音に気づき、身を起こし、風の流れて来た方向を見つ  
める。そこには月光のような白い肌と、血のように色づいた赤い唇、金糸の髪  
を持った、異様なまでの艶と、高貴さとを備えた、一人の男が立っていた。  
 
 「気分はどうだい? 空条徐倫」  
 低く、心を解き解すかのような甘い声で、男が娘に語りかける。娘は何も答  
えず、ただ、男をぎろりと睨みつける。男が寄る。反射的に身構え、じゃらり、  
と娘の両手を縛めている、手錠が鳴った。  
 
 おやおやァ、とおどけた調子で、男が語る。  
 「困ったものだな。これだけ素晴らしい部屋を与えているというのに、君は  
どうにも不服らしい。承太郎は相当、君を甘やかして育てたようだ」  
 「……『部屋』ですって? 『檻』の間違いじゃないの?」  
 
 男の言葉に、娘は吐き出す。部屋には一流の家具に、天蓋つきの大きなベッド。  
ゆうに四人どころか、五、六人は浸かれる巨大浴室。電気は無いが、色とりど  
りの蝋燭の明かりが室内の高貴さを高めている。  
 もしも、これが。  
 そう、もしもこれが、例えば、愛する恋人だとか、友人だとか、家族だとか  
……そういった親しむべき人と一緒で、自由の身であれば、徐倫の心も華やい  
だだろう。  
 だが、今、娘の前には、助けてくれる友人も、家族も、誰もが、居なかった。  
ただ、やたらと豪華でふわふわとしたベッドの上に、両手を縛められ、繋がれ  
ているだけだ。  
 唯一自由である両足を引き寄せ、僅かに縮こまる。男が入って来た部屋から  
風が流れていた。服を剥ぎ取られた変わりに着せられた裸同然のレースの薄物  
では、肌寒い。  
 
 そんな徐倫の様子をどう勘違いしたのか、或いは、見透かした上でからかっ  
ているのか……男は、徐倫の居るベッドまで歩み寄ると、悠然と、その上に腰  
掛けた。柔らかなベッドが、男の重みで、沈む。  
 「そんな悲しそうな顔をしないでくれ給え。心が痛むよ」  
 どの面を晒してそんな事を言えるのか、徐倫をこんな状態にした張本人は、  
いけしゃあしゃあとそんな事を告げ、徐倫の方へと顔を寄せる。男から、薔薇  
のような、甘い香りがした。気持ちが悪い。吐き気がする。  
 
 「近寄るな……気持ちが悪い」  
 吐き気を抑えながらそう告げると、男は、ン? と不思議そうに首を傾げて  
みせ、次の瞬間――バァアン! と、高らかな音を立てて、娘の頬を平手打ち  
にした。  
 さして力を入れた様子は無いのに、娘の身体が浮き、ベッドの背に打ち付け  
られる。グ、と、悲鳴が洩れる。おやおや、と、男はまるで、飼い犬の粗相を  
見たかの様子で、肩をすくめる。  
 
 「いやはや、君の我侭にも困ったものだ。処女を捨てると女は変わると言う  
が、君もその類なのかな? これでもこのDIOは紳士なのでね、痛いのは嫌だろ  
うと、君にも優しくしたつもりだったのだが……お気に召さなかったのかな?」  
 
 う……。と、痛みで呻いている徐倫の顎を、DIOはすっと指で持ち上げ、や  
れやれ、腫れてしまったねぇ。と、自分が張った徐倫の頬を、優しく撫ぜる。  
 「処女を捨てると」という言葉に、徐倫は露骨に顔を顰め、嫌悪感を露わに  
睨みつけた。ついこの間の事をまざまざと思い返し、また、吐き気に襲われた。  
 
 処女は、此処に……この、『世界』に来て、この男と出遭って直ぐに、奪わ  
れた。当然だが、合意ではない。力ずくの、強姦だ。抵抗はした。必死にした。  
糸になって逃げようともした。だが、時を止められ、抱き寄せられ、圧し掛か  
られ……。  
 本当に、もう、本当に……  
 手も、足も、出なかった。  
 
 徐倫が住んでいた場所はアメリカでも高級住宅地で、治安は良かったが、そ  
れでも、行く場所や時間帯によってはそういった危険に見舞われる可能性はあっ  
た。実際、クラスメイトの中には何人か、犯された女子だっている。大体そう  
いった子は堕ろすために風評を気にして引越しをしたが、風の噂で自殺を計っ  
たり、ノイローゼになった子も居るということは聞いていた。だから、自分に  
もその危険があることなんて、一人で行動出来る年頃にはとっくに知っていた。  
知って、行動する以上は自信があった。そういった者の毒牙には掛からないと  
いう自負があった。  
 
 父を助けるために、獄中へと残ってからは、覚悟となった。処女なんて、ど  
うでも良い。いや、良くは無いが、父の記憶を、命を助けることに比べれば、  
そんな事は踏み越えられる。  
 覚悟は、力となった。結局、獄中で徐倫を襲える者など一人として居なかっ  
た。命のやり取りにも、勝って来た。  
 あの日、神父が『時の加速』を行うまでは。  
 
 「どうしたんだい? 徐倫、顔色が悪いぞ……?」  
 DIOが顔を寄せてくる。金の髪、赤い唇。嫌だ、こいつ。気持ち悪い。  
 
 神父が時を加速させた。色々な物が変わって言った。神父は高らかに叫んだ。  
世界は変わると、お前達は置いて行くと、この世界は数多くある可能性の一つ  
に過ぎないのだと。  
 その、『数多くある可能性の一つの世界』に、自分は仲間達と、父と離れ離  
れとなって、残されたのだ。即ち、『DIOが生き、彼は全てを理解している世界』  
に。  
 
 最低だった。最悪だった。目の前の美しくも、不快感を掻き立てられる男に  
抱かれた時、初めて『女として』恐怖を覚えた。  
 自分は、男の前では被食者だった。ただ、食われ、良いように動かされる存  
在だった。悔しかった。涙が出た。声だけは、どうにかして、歯を食いしばっ  
てこらえた。唇を噛締めていると血が流れた。その血さえも啜ろうと、DIOは舌  
を伸ばし、弄った。  
 そこでふと、強姦されて自殺未遂をした級友の話を思い出した。揺す振られ  
ながら、ほんの少しだけ、それが分かった。  
 行為自体は、良く分からないが、優しかったのだろう。貫かれた時、十分に  
潤っていたせいか、破瓜の痛みは大して無かった。  
 だが、セックスする時、紳士であろうとなかろうと、普通、暴れるからと言  
う理由で、相手の両手両足を折ったりはしない。貫かれた時に痛みを大して感  
じなかったのも、折られた痛みがあった事は間違いない。とにかく、快楽どこ  
ろの話ではなかった。加えて、男は徐倫の血までも求めた。星型の痣がある首  
筋を舐め、歯を突き立てて血を啜った。  
 両手両足を折られ、処女を奪われ、血を吸われる。そんな、想像を絶する痛  
みの前に、意識を手放し――現在に、至るのである。  
 
 「そういえば」  
 と、彼は言った。今は骨折から回復した徐倫の手を取り、指先にくちづける。  
恋人にでもするような動作に、徐倫は眉を顰める。じゃらり、と縛められてい  
る鎖が鳴る。  
 「最近食事を摂っていないようだな。困るぞ徐倫。食事は生きてゆく上で欠  
かせないモノだ。私は君には健やかで居て貰いたい」  
 大人しくトマトジュースでも飲んでろよ、と内心毒づく。『生きてゆく上で  
欠かせないモノ』として、徐倫の生き血を啜る。だからそのために食事を摂れ  
と言っているのは明白だった。アンタは、と呟いた。其処でぱしん! とまた、  
叩かれた。  
 
 「悲しいぞ徐倫。私のことをそのように呼ぶとはな。私のことは『DIO』と  
呼んでくれて良いよ。私の徐倫」  
 ぎっ、と唇を噛締める。無駄な体力を、労力を使うなと己に言い聞かせ、「  
DIO」は、と問う。  
 
 「あたしを栄養剤として、生かすつもり? いつでもどこでも、生き血を吸  
うために……」  
 徐倫の言葉に、ああ、それも勿論、あるが……。そう答えると、DIOはぐっ  
と徐倫の身を引き寄せ、その上に、圧し掛かった。  
 
 「最近退屈なのでな。『暇つぶし』に付き合って欲しい」  
 声を上げる間もなく、口づけられた。  
 逃げようとする徐倫の舌を、DIOの舌が執拗に追う。歯列を舐め、角度を変え、  
舌を幾度も出し入れする。大きな手が、胸を揉む。黒いシースルーのベビード  
ールでは、ほぼ、身に着けていないも同然で、動きがダイレクトに伝わってく  
る。蜘蛛の巣をかたどって付けられたベビードールのスパンコールが、歪む。  
蜘蛛の巣が、歪め、られる。DIOの手で。捲りあげられる。恐らくは、男が選  
んだのであろう下着を、男の、手で。  
 
 「や、やめやがッツ……!!」  
 スタンドを出す。殴りかかる。正面からではなく、糸となって回って、背後  
から。フン! と、男が嗤う。徐倫の上に跨って、見下ろして、嗤う。  
 無駄だ。という囁きと共に、DIOのスタンドが現れ、掴まれ、動きを封じら  
れる。本体と同じように、スタンドも、縛められる。DIOは囁く。徐倫の耳元で、  
甘い声で。心を溶かす、声の響きで。  
 
 「諦めろ」  
 ぐじゅ! と、DIOの太い指が、秘所に押し入った。歯を、噛締める。指が出  
し入れされる。周りを撫ぜられる。心に逆らい、中は蠢く。びくり、びくり、と  
DIOの指を締め付けていることが、自分でも分かる。  
 「時代の変化と言うものは面白いものだ。衣服も変われば下着も変わる物だ  
な。この……割れている下着は、実に無駄でなく、色気があって良いものだ。  
そうは思わないか?」  
 
 言いながら、DIOは指を動かす。オープンショーツがどんどん愛液で濡れて  
ゆく。感じたくも無いのに、身体はしとどに濡れて行く。びくん! と、とあ  
る箇所で背中を震わせ、吐息が甘くなったことを見、口の端だけに笑みを浮か  
べて、DIOは裸身を露わにし、己の肉棒を、見せ付ける。  
 DIOのそれは、肌が白いというのにそこだけ赤黒く、使い込まれ、逞しくいき  
り立っており、あんなものが入れられたのだと、改めて徐倫に悪寒を感じさせ  
た。あの時は腕の痛みで誤魔化せた。本人は優しくした言っていたが、こんな  
ものを身に入れるなど、冗談ではない。  
 思わず上へと逃げようとする身体を引き寄せられる。無駄だ。という一言と  
共に、剛直が、挿入した。  
 
 「――ッ!!」  
 ぎりっと、歯が、鳴る。痛い。熱い。痛い。いたい。イタイ。  
 甘い匂いがする。頭がくらくらする。胸焼けがする。嫌いだ、この、匂い。  
大嫌いだ。あたし、こいつの、匂い。嫌だ。嫌だ。いやだ。  
 「……嫌、ッだッ!」  
 「直に好くなる」  
 言って、DIOは動く。意志を無視して。好きなように。自分の好いように、  
身体を揺さぶる。歯を食いしばる。苦しい。辛い。好くなんか、ない。なれる  
わけが、無い。  
 ふいに、そこで、ふっと耳に息を、吹きかけられた。閉じていた目をぱっと  
開いた。  
 
 「ああ、やっぱり、徐倫は耳が弱いのだな。好いことだ」  
 言い、軽く、耳を噛む。胸を揉まれる。きゅと乳首を抓られる。きゅ、と、  
身体の、どこかが、おかしく、なった。  
 「……おや、此処が、これが、好いのかい?」  
 ひッ! ァ……ッ! と、堪えきれずに声を上げる。ぐんぐんと、腰を進め  
られる。目が、ちかちか、する。腰が浮く。ひあ、駄目、だ。駄、目。  
 「ダ……だ、めッ!」  
 「知らないな。ほら、子種だ! 有り難く受け取れ! 空条徐倫!」  
 
 ぐあり、と、何かが襲って来て、意識は、飛んだ。  
 
 下腹部がずきずきする。頭がぼんやりする。花の香りがする。薔薇の、匂い  
だ。この匂いは好きじゃない。気障ったらしくて、嫌味で、高慢で。香りがす  
るなら石鹸だとか、海の匂いがするのが良い。ママと、パパの香りだ。大好き  
な両親の香りだ。ああ、そういえば……。  
 海に、潜って、神父と闘って、それから一体どうなったっけ?  
 
 「目が覚めたかい? 良かった。やはりどうにも、気を失っている状態とい  
うのは抱いても面白くないものだな。反応が無くてはどうにもつまらん」  
 きゅっと、胸の頂を抓まれ、耳に息を吹きかけられた。眼前には厚い胸板が  
ある。薔薇の芳香が漂っている。其処で一気に意識が覚醒し、逃れようと身を  
捩り、下身に挿さった、肉の楔に呻いた。  
 
 丁度向かい合い、子供を膝に抱えるような格好で、DIOは徐倫を抱いていた。  
互いに裸身のままで、太い両腕が徐倫の身を逃さぬように囲っている。  
 徐倫は自分の状況にさっと顔を青ざめ、次に羞恥で赤くして、抱き締められ  
た小さな空間で、精一杯両の腕を動かした。  
 
 「ストーンッ! フリィイーッ!!」  
 スタンドを解き放つ。イメージを実像化した徐倫の分身が集まり、糸となっ  
てDIOの首と、両腕とを縛め、キリキリと締め上げた。おや? と、DIOが僅か  
に眉を上げた。  
 「本当に元気なお嬢さんだ。先ほどあれだけよがり、意識を手放していたと  
いうのに、こう来るとはな。これは、まだまだ満足し足りない、ということで  
良いのかな?」  
 
 「……フザけんなよ。アンタが時を止める能力を持ってるってコトは、父さ  
んの記憶のDISCで分かってる。でも、この状況でどう逃げるつもりだ? 一寸  
でも動いたら、アンタの首は、切断されるッ! 時を止めようとッ! どうし  
ようとッツ! 状況は変わらないッ!!」  
 
 「やれやれ、『状況が変わらない』のは、君の方じゃないかな、徐倫。君の  
下の口は、私のモノを咥えたままの状態なのだからね。それに……」  
 カッと、眼が光った。ちりっと、徐倫の頬を何かが走り、ぬるり、と血が流  
れた。  
 「私の持ってる力は、『世界』だけでは無い。そして徐倫、君はまた、私の  
ことを『アンタ』と呼んだね……?」  
 
 優しい声に、肌が粟立った。ずくん! と、中に挿れられた物を、突き上げ  
られる。  
 「ひゃア……ンッ!!?」  
 「好い声だ。その調子で啼いてくれたまえ、徐倫」  
 「ゃッ! ぁッ! ぃやっ!!」  
 激しい突き上げに堪らず、DIOの胸にすがる。徐倫の、けして大きくは無い  
ものの、白く、形の良い胸がDIOの身体に押し付けられ、ぐにぐにと形を歪め、  
頂が擦れ、快感からまた声を上げる。  
 「……っくしょう! 畜、生ッ!」  
 「言葉が悪いなぁ〜〜〜。徐倫、君は……」  
 ずずん! と腰を動かす。あぅ! と短い悲鳴を上げて、徐倫が喉を反らせ、  
白い首筋を露わにする。その様に、舌なめずりをする。ストーン・フリーの糸  
は、解かれない。  
 「さぁ、徐倫。良い子だから、この糸をほどッ……!?」  
 べしっ! と徐倫の手が、DIOの目に掛かった。全体重を乗せたのか、DIOの  
身体が傾ぎ、倒れる。徐倫の手が首に掛かった『糸』を引く。カッと、DIOの目  
が光る。肉の破ける音と、血の匂いが溢れる。DIOの首筋から、血が、流れる。  
赤い唇が動いた。蝋燭の火が、止まった。  
 
 「あたし……は、助け、るんだ。父さん、を……」  
 
 荒い呼吸と共に、丁度胸の辺りで声がした。倒れたDIOの上には、徐倫が乗っ  
ている。沈黙と同時に、首筋の拘束が、解けた。どうやら完全に気を、失った  
らしい。  
 フン! とDIOは息を吐くと、身を起こして己の首筋に手をやった。ぬるり、  
と流れる血が手に触れる。あと一息、もしも、『世界』の時を止めるタイミン  
グがずれていれば、確実にDIOの首と、腕をこの娘によって落とされていただろ  
う。  
 自分の上に倒れ付す娘を見る。娘の手からはDIOの眼を受け、どくどくと血が  
流れている。DIOはその手を取り、血を、舐めた。  
 
 ジョースターの血は、他の人間の血液とは違い、実に身体に馴染む。そうし  
て体内に入れると、気が昂ぶり、最高級のワインを飲んでいるかのような錯覚  
さえも引き起こす。  
 ジョースターであれば、老いぼれであろうと男であろうと大差無いが、どう  
せ飲むならば見目共に麗しく、飲んでいて楽しい方が良いに決まっている。  
 DIOからしてみれば、この娘は最高級の嗜好品だった。一度は自分を死に至  
らしめた承太郎は幾度殺しても飽き足らないが、この娘をこの世の中に生み出  
したことに関しては、感謝さえもしても良い。  
 何と言ってもジョースターであり、生娘であり、憎むべき承太郎の娘であり、  
スタンド使いであり、自分の親友であるプッチを追い詰めた程の娘なのだ。そ  
の娘が、自分の為に最高の『食事』と快楽を提供し、自分の名を呼ぶ。  
 ――それは何と、甘美なものだろうか!  
 
 だが、娘は手強かった。処女を頂いた時など、余りにも暴れるものだから、  
仕方ないので手足を折った。これは、「食事はスマートに」と思っているDIOか  
らしてみれば、かなり心外な行動だったが、反抗的なのだから仕方ない。誰の  
下にいるのかということを、ハッキリと分からせておくには必要なことだ。  
 行為中も、せめて甘い声で鳴くとか、弱弱しい声ですすり泣くとかしてくれ  
れば、もう少し征服感もあったかもしれない。だが、娘は声を噛締め、殆ど上  
げなかった。これでは余りにもつまらない。だが、殺してしまっては血が飲め  
ない。それは惜しい。  
 
 何、時間はたっぷりあると、暇があれば娘を犯し、血を啜ることに決めた。  
実際少しずつ、娘の肉は馴染み始めた。実際、先ほど上げた甘い声は中々好か  
った。早くあの声で自分の名を呼び、縋って欲しいものなのだが、精神が堕ち  
るまでには、まだまだ時間が掛かりそうだ。  
 
 「……男であれば、確実に殺していたな」  
 再度、己の傷つけられた首筋をなぞる。帝王は一人で良い。だから、男はい  
らない。だが、女は別だ。女はいても困らない。血なり、肉なりを己に提供し  
てくれる。そして何よりも子を産む。子は、いつかこのDIOを助け得る存在とな  
る。優秀な「手下」として。だから、女は必要だ。自分のためにも。  
 
 「さて、しかし……どうすれば君を完全に堕せるのかな? 空条徐倫」  
 呟くと、DIOは徐倫の腕に有る、蝶の刺青にキスをした。  
 
 
[2]  
 
 
 目が覚めた。己の身を見ると、清められ、今日は何やら、乳首の部分だけを  
露出したイエローの刺繍が施されたオープンブラとオープンショーツを身に付  
けていた。ご丁寧にガーターベルトまで付いている。  
 変態めと、心から思った。  
 両腕と両足を確認する。今日は、手錠を掛けられていない。どうしたのだろ  
うと首を傾げる。普段であれば手なり足なりを縛め、手洗いまでは立てる距離  
に繋がれているというのに。  
 「趣向を変えたとか? ……まさかね」  
 逃げ回った方が燃えるとか思ったのかもしれない。あのドSなら有り得そう  
だと、渋面を作って部屋を見回る。多分、この部屋からは出られないようにな  
っているのだろうけど、と思いながら。  
 
 蝋燭の明かりを頼りに、普段DIOが入って来ている扉のノブを回す。鍵が、掛  
かっている。  
 「ストーン・フリーッ!!」  
 叫び、扉を殴りつける。ばぁん! と高い音が響いたが、やはりというか壊  
れない。溜息をついて、天井を眺める。  
 
 それにしても随分と高い天井だ。そして、四角い部屋だ。  
 「まるで鳥篭……いや、虫篭みたいね」  
 光が届かないところからすると、此処はきっと地下なのだろう。しかし、酸  
素はある。どこかしら通風孔がある筈だ。だとすれば、きっと、あの暗闇で覆  
われている天井にある筈だと、見当をつけて、糸を伸ばした。しゅるしゅると  
糸は伸びてゆく。天井へ、地上を目指して、片腕分ほど糸を伸ばした頃、漸く  
「糸」が何かを掴み、ぱっと徐倫は顔を輝かした。  
 
 「何を、しているんだい?」  
 声が、響いた。  
 慌てて後ろを振り返った。その間も無く縛められる。肌に触れられる感触で  
分かる。DIOだ。顎を掴まれ、耳元で、囁かれる。いつの間にと思うと同時に、  
時を止めて入りやがったと理解する。ぎしぎしと身体が軋む。ガーターベルト  
を付けた脚が、圧し掛かる力の上に、震える。  
 
 「悲しいな、徐倫。私と君との間には、最早あのような縛めは必要無いと思  
ったのだが……どうやら、それは私の思い違いだったらしい」  
 「ハナから、アンタの思い違いでしょ……DIO」  
 
 唸りながらの徐倫の言葉に、DIOは口角を歪めながら、徐倫の身を引き寄せる。  
 「君はどうしてそんなに私から逃げようとするんだい? 徐倫。気持ちの良  
いことは嫌いかい? 君の身体は悦んでいるのに?」  
 言いながら、やわやわと乳首を撫ぜる。ぴん、と直ぐに反応をみせる己の胸  
に舌打ちを堪えながら、徐倫は身を捩った。  
 
 「あたしは、人とベタベタすることが好きじゃないの。父さんの宿敵なら、  
尚更だわ!」  
 「強情だな。だが其処が良い。征服欲を掻き立たせる」  
 ぐん! と引き寄せられ、そのまま背を壁に押し付けられる。ぎりぎりと押  
し合っているが、話にならず、せめて眼だけでもと睨みすえていると、フッと、  
DIOは嗤って、徐倫のうなじに顔を埋めた。舌が這う。背中が、震える。  
 
 「感度は上々だな。喜ばしいことだ」  
 フゥっと耳に息を吹きかけられる。「ぁ!」と小さい声が、洩れた。羞恥で  
頬が染まる。想像以上に、肉体を「馴らされて」しまったこの身が恨めしい。  
 鋭い犬歯でブラジャーの紐が裂かれる。白い胸が、ふるりと揺れる。首筋に、  
甘噛みするかのように牙が立てられ、頂が抓まれる。震える両足の間にDIOの太  
い指が入れられ、中をぐちゃぐちゃと掻き混ぜられる。  
 「やッ! ぁッ!」  
 声が出る。震える足が膝を膝をつきそうになる。駄目だ。やはり、身体が、  
馴らされている。  
 「良い子だ徐倫……良い子だ……。ほら、こんなにも濡れている。気持ち好  
いのだろう? 好いと言って、ご覧」  
 「ディ……DIOッ!!」  
 きゅっと、徐倫の指が、拳を作り震えながらDIOの胸を押す。ちゅっと、DIO  
は首筋にくちづけをする。胸を揉む。頂を抓む。爪で引っ掻く。んぁ! と、  
徐倫の声が洩れた。唇に深々とキスをする。まるで恋人同士のように、息継ぐ  
間もなく唇を食べ、取り出した肉棒を、潤った中に、挿し入れる。  
 
 「――ン! ――ッぁ! あ、ぁん!!」  
 震える徐倫の手を自分の太い首筋に回してやる。より深く繋がるために片足  
を持ち上げる。パン、パン! と、互いの肉壁がぶつかるほど、激しく腰を動  
かす。ぐちゅぐちゅと、徐倫の中のものはDIOのものを受け入れる。柔らかく  
包み込み、きゅう、と締め付ける。  
 「ふぁ、や、ゃん! あッ! やぁ!」  
 「DIOと、呼んでおくれ、徐倫」  
 耳元で、囁く。快感から酩酊している筈だというのに、ぶんぶんと徐倫は頭  
を振る。  
 「や、呼ば、ないッ! アンタ、なん、かぁッ!」  
 強情者め! という声と共に、徐倫はビクン! を背を反らした。くたり、  
と身体が弛緩し、DIOの身に寄り掛かる。荒い息を互いに吐く。ゆっくりと徐倫  
を床に降ろし、自分のものを、引き抜く。どろり、と混ざり合ったものが、垂  
れる。  
 
 徐倫は頬を紅潮させ、呆けた目で遠くを見ている。口元からはDIOと徐倫の唾  
液が流れ、脚は引き抜いた時そのままの状態で、淫らにM字に開脚しており、赤  
い口はてらてらと光り、未だ、物欲しそうに蠢いている。  
 ――ふと、徐倫の紅潮した頬と同じく、赤く色づいたその口に自分のものを  
奉仕させたい欲求に駆られた。あの、ぷっくりとした唇に自分のものを含ませ  
るのは、なんと官能的だろう。  
 早速やらせてみようかと、前に屈んだ所で、徐倫の目がDIOを見た。眼は潤  
んでいる。とろりと、とろけそうな様子で。頬は上気し、唇は、何か物言いた  
げだった。徐倫からは、柔らかい、温かい、香りがしていた。顎を掴んだ。引  
き寄せた。何も言わずにくちづけた。  
 くち、くちゃり、と舌を合わせながら、奉仕させるのはまたで良いと思った。  
何と言っても、男の象徴だ。下手に奉仕させて噛み切られたら冗談ではない。  
そういった事は、他の女にやらせればいい。  
 そう思いながら、二人の影は再度、床に沈んだ。  
 
 
[3]  
 
 抱かれるのに、まだ慣れないと言えば嘘になる。黄色いシースルーのベビー  
ドールに身を包んで、徐倫はひっそりと溜息を吐いた。隣には、父の宿敵が眠  
っていた。キングサイズのベッドの上で、徐倫の事を抱き締めながら。  
 
 あたし、と、徐倫は自問自答した。  
 どうしてコイツのこと、殺そうとしないんだろう。いや、そりゃ、確かに、  
この状況でも、コイツはきっと殺気を抱いたその瞬間に、本気で殺そうとする  
んだろうけれど。  
 勝てないからなのだろうか? 強引に抱かれた時の恨みの念も、消えてしま  
ったのだろうか? 父を、皆を助けたい。この『世界』を終わらせたい。その  
ためには、このひとを殺すしか、きっと、無いのだろう。  
 
 情が移ったのだろうか?  
 そう考えてみる。そりゃあ、確かに、顔立ちだけは良い男だ。だが、殺して  
おかねばならない男だ。この男は、徐倫の愛する人々を苦しめる。そもそも、  
徐倫を投獄したのもこの男が起因となっている。許すべきではない男だ。  
 
 どうして、この男はこんな風になっちゃったんだろう?  
 ふと、そこで、そう思った。  
 父のDISCからは、そんな事は分からなかった。ただ、悪の帝王で、酷いこと  
を沢山やってて、自分の事しか考えていなくて、人をひとと思っていなくて、  
傲慢で……  
 「……こどもみたい」  
 ぽつり、と呟く。  
 
 いつからこの男はこうなったのだろう。生まれてからこうだったのか? いや、  
それは無い。生まれて間もない者に、善も、悪も、あろう筈は無い。  
 父の記憶では、彼の肉体は徐倫の父の、母方の曾祖父の物なのだと言う。肉  
体を乗っ取ったのだと、祖母のホリィは、その為命の危機に晒されたのだと。  
それを思えばひとしおに、この男を許しては駄目だと思う。だが、『許さない』  
それで、果たして本当に解決出来るのだろうかと、思う。  
 
 これは言い訳なのだろうか。勝てないことへの詭弁なのだろうか。だが、こ  
の男を許さず、憎み、恨む。……それで本当に、救われるのか? 自分達は、  
否、『彼』は――。  
 
 「……って! え!?」  
 救われるって何だ!? と自分の考えに徐倫は目を白黒させた。相手は敵だ!  
救うとか、救われないとかの考え以前に、許してはいけない相手なのだ!!   
それを、自分は一体、何を、考えているのだ!!  
 息を吸って、吐く。呼吸を整える。  
 
 ――でも、と徐倫は自分を抱く腕に、そっと触れて、思う。  
 自分が世に逆らっていたのは、父親の愛情を理解出来なかったからだ。不器  
用で、荒っぽいのに、妙な所で繊細な、そんな父を分からなかったからだ。  
 このひとは、と、目の前の鼻梁が整った男の横顔を見て、思う。  
 
 本当に、父の記憶の通り、愛とか、そういったものは、いらないのだろうか。  
自分を認める人間だけを集めて、それで楽しいのだろうか。自分にのみ賛同し、  
自分に対し甘い言葉で囁き、利益をもたらす――それは、一体なんと、ちっぽ  
けな『世界』だろう!!  
 
 ――この男を愛せるだろうか、と考えた。  
 分からない、そう思った。  
 少なくとも、プライドの高いこの男は、徐倫が同情していることを知れば激  
怒するだろう。徐倫としても、同情するつもりは無い。この男はこの男だ。そ  
して、自分は自分だ。  
 この男を愛することが、イコール、『自分』を磨り減らす事だとは思わない。  
この男はこの男であり、自分は自分である。  
 ジョースターを支配することがこの男のアイデンティティだというのなら、  
きっと、道は、交わらない。着いて行く事は、愚かだ。  
 でも――……  
 ふぅ、と徐倫は溜息を吐いた。どうせ、他にやる事は無いのだ。だったら、  
ただ機械的に抱かれるよりは、相手の事を考えた方がマシというものだ。反対  
のことをした方が、良い事だって有るのだ。  
 そう結論に達すると、自分を抱いている腕を、以前緑色の赤子にそうしたよ  
うに、そっと、撫ぜてやった。  
 
 
[4]  
 
 「……なんかさ、DIO、最近ずっと、此処にいない?」  
 渋面をつくりながら、徐倫は図々しくも我が物顔で徐倫に膝枕をさせ、その  
上で本を読む男に向かってそう言った。ちなみに徐倫が今日身に着けているの  
は黒レースのベビードールだ。蝶をイメージしているらしく、胸のところから  
ひらひらと羽根のように分かれている。何時もの事だが、『隠す』という機能  
は、皆無だ。  
 
 「おや、嫌だったかな? 徐倫。君が余りにもよがるものだから、てっきり  
常に居て欲しいと思ったのだけどな」  
 言い、するりと大腿部を撫でて来る。感覚をなるべく無視しながら、前にも  
言ったけど! と、徐倫は叫ぶ。  
 
 「あたしは、無闇やたらとベタベタするのは嫌いなんだってば! それに!  
あたしをよがらせてるのはDIO、アンタじゃないッ!」  
 おや? そうだったかなァ? と、いかにも白々しい様子で身を寄せてくる。  
身をずらす。腕を掴まれ、押し倒される。バサン! とDIOの読んでいた分厚  
い本が、ベッドから落ちる。  
 
 「……今日はもう、やらないわよ」  
 唸りながら、徐倫は言う。  
 「おや? それは昨日の話じゃあないか?」  
 「冗ッ談!! 此処が常に暗いからって、時間の感覚無いと思ってるでしょ?  
残念! 蝋燭溶け具合で分かるわよッ! 何回やれば気が済むのよッ! 最近、  
多すぎだわッ!! セックスで死ぬなんて末代までの恥よッ!! 飛んでるわッ!!」  
 「腹上死は男の浪漫だと、どこかの本で読んだが?」  
 「捨てなさいよッ、そんな本! なんてもの読んでいるのッ!」  
 「君を悦ばせる為には必要な知識だと思うのだがな。まぁ、何年経とうとヒ  
トは余り変わらないという事を認識させられるがね」  
 
 さらに紡ごうとした徐倫の言葉を、唇を合わせ、封じる。ちゅばちゅばと互  
いの舌を合わせる。何時の頃からか、徐倫も舌を重ねてくれるようになってく  
れた。素晴らしい進歩だと、ほくそ笑む。  
 指を動かしやわやわと胸を揉む。数時間前に散々弄ってやったせいか、秘所  
に手を伸ばすと既にじっとり濡れている。本当に、感じ易い好い身体だ。  
……最も、そのようにしたのだが。  
 指で濡れた中を弄ってやる。無意識でか、媚びるように、腰を動かす。指摘  
してやると羞恥で顔を染める。其処が良い。身体は完全にDIOに馴染み、触れて  
吐息を掛けてやるだけで濡れて来るというのに、精神は中々落ちない。あっさ  
りと屈する他の牝犬と違ってそういう所が面白い。  
 
 脚を強引に開き、秘所を舌で弄る。徐倫は柔らかい、懐かしい匂いがする。  
ジョースターの持つ血だからなのかは分からない。ただ、好い香りだと思う。  
これは初めて徐倫のスタンド、ストーン・フリーを羽交い絞めにした時に思っ  
た事だが、普通、スタンドから香りなんてしないものだ。  
 なのに、徐倫のスタンドは石鹸の香りがする。柔らかくて、懐かしくて、初  
めて嗅いだとき、それが何の香りか気づくのに大分時間が掛かった。  
 
 ぺしゃ、べしゃ……と、わざとらしく音を立てて、秘所を舌で弄る。徐倫の  
呼吸が荒い。瞼が辛そうに伏せられる。昂ぶりに近づいていることを見抜くと、  
すっと、離れて、横になった。  
 徐倫は、え? と虚につかれる。  
 
 「べたべたするのは嫌なんだろう? 離れてやったよ。空条徐倫」  
 そんな、と短い声が洩れる。その呟きに、口角を上げて耳元で囁く。下身を  
曝け出し、仰向けのまま、徐倫の手を、自分のものに触れさせる。  
 「……欲しいんだろう? 自分で、挿れてご覧……」  
 「――ッツ!!?」  
 目が、零れ落ちんばかりに見開かれた。くつり、と笑って、ベビードールの  
上から頂を撫ぜる。乳首が、ぴんと立っていた。  
 
 「じょ、冗談じゃないわッ! 誰が、誰がそんなッ!!」  
 「おや、そうかい? じゃあ、勝手にするのだな。言っておくが、自分じゃ  
あ、イけないと思うがね?」  
 言うと、泣きそうな顔で睨まれた。耳までも赤い。  
 「――『おねだり』でも、良いが? 『入れてください、DIO様』と言って  
ご覧、徐倫――」  
 くつくつと笑いながら、耳元で囁く。ついでに耳たぶを舐め、ぴん! と乳  
首を弾いてやる。ふるっ、と徐倫が身を、震わす。  
 い……。と、小さい声が、響いた。ンン? 聞こえないなぁ〜と、耳を寄せ  
る。  
 「い、いれ……」  
 「もぉッと、大きな声でェ〜!!」  
 「――――!言えるかッ! このッ! ド変態ッツ!!!!」  
 ストーン・フリーで、思いっきり殴りかかる。それをあっさりとザ・ワール  
ドで掴まれる。本体も掴まれ、圧し掛かられる。  
 
 「やれやれ、結局こうなるのだな。一度、騎上位というのを徐倫とやってみ  
たかったのだが……」  
 「妙な希望持つなッ!! そして結局ヤろうとするんなッ!!」  
 「しかし放っておくのは辛いだろう。君を想ってのことだよ、空条徐倫」  
 「そんな、アンタが、勝手に……アんッ! ぁ、あ、あァんッ!!」  
 
 
 
 ……実際、と思う。人並み以上に甘え癖でもあるのか、慣れると過剰なまで  
にスキンシップを求めてくる。だが、それにしても、此処最近は入り浸りであ  
る。今までは食事とセックス時のみ居たのに、段々読書までするようになって  
来た。そして、暇があれば戯れてくる。世界中に手下が居るらしいが、こんな  
コトでこいつの組織は大丈夫なのかと、見当違いでも心配になる。  
 自分が部下なら、こんな上司はお断りだ。  
 
 ある日、それをそれとなく尋ねてみた所、「優秀な息子がいるから大丈夫だ」  
という返事だった。  
 「徐倫、君は逢ったことが無いと思うがな……多分、息子たちの中で、一番  
私の血を引いている子だろう」  
 薔薇の浮かんだ浴室でそう答えられ、へぇ、と応じた。広い円形の浴槽に、  
お互いが浸かっている。断じて、仲良く一緒に浸かっているのではない。徐倫  
が入っている所に入って来て、一緒に浸かる羽目になったのだ。早く出てって  
くれ! と祈りながら、平静を装って言葉を続ける。とにかくこの男の相手を  
するには平常心が大切だ! と学んでいた。  
 
 「……そう、じゃあ、時々でも顔を見せてやった方が良いんじゃないの?」  
 「何だ、妬いているのか?」  
 ンなわけねーだろォ!! と内心、盛大にツッコミを入れる。言葉は抑える。  
刺激したら、絶対この場で犯される。  
 「一般的な話よ。構って貰って嫌がる子どもは居ないってコト。……あたし  
は上がるわ。じゃあね」  
 「まぁ、待て、徐倫」  
 裸を見られるのは何時もの事だと、腹をくくって浴槽から出る。……と、次  
の瞬間、DIOの腕の中だった。薔薇の、風呂に、浸かった状態で。  
 
 こ い つ 最 悪  だ 。  
 わざわざ時間を止めてこんなことしやがった!  
 
 『世界』をこんな事に使うなよ。スタンドに感情があったら絶対スタンドは  
泣いてるぞと、頭がくらくらした。しかし父の記憶を探ると、わざわざ相手を  
驚かす為に、時を止めて登った階段を降ろすなんて芸当もしていたりする。も  
う、何ていうか子どものやることだ。  
 
 「折角一緒に浸かったのだ。もう少し二人で楽しもうじゃないか……」  
 「アンタが勝手に入ってきたんでしょ!?」  
 何のことだ? とすっとぼけて首筋にくちづける。ひゃう! と首を反らせ  
る。指を入れられ、ひゃ、ぁ! と身震いした。  
 「ゃ、ぁっ! お湯が、ぁ……!!」  
 「湯? 湯が? どうしたんだい徐倫?」  
 縋り付きながらの言葉に、DIOはくつくつ笑う。こいつ最悪だ。中が、気持ち  
悪い。湯気も加えて頭がくらくらする。早く、上がりたい。  
 溢れ出そうな涙を堪えて、スン、と鼻をすすると、湯の中のまま、身を貫か  
れた。水中ではやはりやり難いのか、貫いたまま、徐倫の身体を持ち上げる。  
湯から出て、背を浴室の床に置かれた瞬間に、ずぶりと深く、挿さる。  
 
 こいつ最悪だ。そして最低だ。  
 「んぁ! ゃアッ! もッ! あたま、が、くら、くら、するぅ!」  
 それは良かったと、くつくつ笑い声が響く。薔薇の香りがする。薔薇と、石  
鹸の香りが、混じってる。ぐち、ぐち、ぐちゃぐちゃ。惚ける。逞しい背に縋  
る。きゅと、爪を、立てる。本当にもう、この男から何度目かと数えるのも嫌  
な程もたらされた絶頂に、身を、弾ました。  
 
 
[5]  
 
 徐倫、君は良い香りがすると、ベッドの上に腰掛け、向かい合って繋がった  
格好で、DIOは言った。今日も今日とて、散々貫かれた後で、そう。と短く徐  
倫は応え、DIOの胸に頭を寄せる。互いの呼吸が、ひとつになっている。  
 話があるのだが、と、彼は言った。  
 
 「徐倫、永遠の若さに興味は無いか? 永久の美しさを、欲しいとは思わな  
いか?」  
 そう、徐倫の頭を撫ぜながら、DIOは囁く。言葉に緩慢として、徐倫が顔を  
上げる。  
 「それって、吸血鬼にならないかって事? DIOの血を貰って?」  
 そうだ。と、徐倫の言葉にDIOは頷く。永久の時を、永遠の若さでもって、生  
きられるのだ、と。  
 「そう、それは魅力的ね。でも、ダメよ」  
 「何ッ!?」  
 「あたしは人間なの。もう、随分と日の下には出ていないけれど、あんたに  
囚われた状態だけど、それでも、人間なの。これだけは、譲れないわ」  
 「……このDIOと共に生きることを、拒むと言うのか……」  
 アンタこそ何を言っているの、と、徐倫はDIOの言葉に苦笑する。  
 
 「あたしを吸血鬼にして、どうするって言うの? そうしたら、あたしの血  
はDIO、アンタの血になってしまう。今までみたいに血を吸うことなんて、出  
来なくなるわ。それがどういう事を意味するのか、分かっているの?」  
 白い、細い指で、徐倫はDIOの紅い唇を、そっと、撫ぜた。  
 
 「分かっているの? それとも、分かっていて言っているの? 吸血鬼にな  
ってもジョースターの血を吸えるとでも? 吸血鬼になっても、子を成せると  
でも? 他の女達と、あたしは違うと、そう言っているの?」  
 
 こてん、と、徐倫は自分の頭をDIOの胸に預けた。  
 「あたしは死ぬわ。いつか、きっと。でも、それで良いって、思わない?  
 DIO、あんたは、あたしに、あんたと同じ土台に立って欲しいって、そう思  
っているの? あんたと同じように、太陽を恐れ、人の血を喰らう。永遠の時  
を生きる。そうなって欲しいと? 一体ぜんたい、『何のため』に?」  
 
 私は、と、掠れる声がした。DIOと、娘の小さな声がした。  
 
 「あたしは、以前ほど、あんたのことは嫌いじゃない。でもそれでも、譲れ  
ないモノっていうのは、やっぱりあんのよ。  
 あたしは人間よ。これはけして、譲れないの……」  
 
 どさりと音を立て、徐倫の身を押し倒す。細い娘の首筋に手をやる。DIOの手  
に比べ、娘の首は実にか細い。少し力をいれれば、あっさりと絶命するだろう。  
ぐ、と、ほんの僅かに力を入れる。徐倫はどこか諦観したような柔らかな、し  
かし芯のある眼差しで微笑みながら、DIOの眼を見つめ返す。娘の身に、震えは  
無い。沈黙が、落ちた。  
 
 ゆっくりと、手をどける。ずるり、と分身を引き抜く。ベッドから身を起こ  
し、興が冷めた、と立ち上がる。そう、と、徐倫は答える。  
 
 「覚えておけ、徐倫。貴様は私の譲歩を蹴ったのだ」  
 背を向けながらのDIOの言葉に、そう。と短く、徐倫は応えた。この瞬間、お  
互い『何か』を手放したことに、言わないまでも、互いが互い、勘付いた。  
 
 
[6]  
 
 今日は私の友人を紹介しようと思う。とDIOが言った。ふいに開いた扉に、  
何時もの如く淫らな衣装を恥じ、さっとDIOの方を向かい、開いた扉に背を向  
ける。  
 「誰が入ってくるか分からない『扉』の方に背中を向けるとは……随分、堕  
ちたものだな、空条 徐倫……」  
 忘れもしない声に、徐倫は耳を疑った。  
 
 「プッチッ!!」  
 叫び、スタンドを出現させ、『糸』を伸ばし手錠として、互いの手を繋ぎ止  
める。  
 神父は表情も変えず、以前と比べると随分とセクシーな衣装だな。と揶揄す  
る。黙りな! と恫喝する。  
 「オメーには聞きたいことが山ほどある……だが、何よりもまずッ! 何故  
お前が此処にいるッ!? お前が生み出したあのスタンドは、『緑の赤子』か  
ら生まれた筈だ! そして、あの赤子はDIO自身でもあった筈! つまりッ!  
この、『DIO』がいる世界と、お前とは同一の空間には居れない筈だ!」  
 当然の疑問だな。と、プッチは言った。以前と変わらぬ、あの、大胆不敵な  
表情で。  
 
 「世界とは何十もの糸が結び合い、織られている布だと考えた事は無いか?  
君と逢って、幸運にも私はそれを確認出来た。私とDIO、ジョースターの血族。  
DIOの息子達と君達、そして、君とDIO。  
 人と人との出逢いが運命であり、それが『引力』であり、『糸』と喩えられ  
るのならば、丁度メビウスの環を造るようにッ! 定めた所で『引力』を安定  
化させれば良い! そこで『世界』は完成するッツ!  
 ……君が居なくては、思いつかない考えだったよ」  
 喩えて言うのならば、と、プッチは言った。  
 「君等の『行動』は『糸』だった。そして『緑の赤子』は『織り機』だった。  
私は『糸』を集め、『世界』と言う名の『反物』を織った……そう言えば、分か  
るかね?  
 ああ、ちなみに、君のご両親と仲間たちは、『反物』から抜かせて貰ったよ。  
こちらとしては、『反物』を創る為に必要な、ジョースターという『糸』は一  
人分あれば、それで良かったからね」  
 
 ふざけるなと叫ぼうとした。声が詰まった。ふいに、孤独感が胸を圧した。  
徐倫、と声がした。すっと、背後から抱き締められた。  
 「可哀想に徐倫……君は、独りきりになってしまったね……でも、心配する  
ことは無い。この『世界』では、私達はもう、争う必要など、無いのだから…  
…」  
 そう、囁かれ首筋に顔を埋められる。甘い感覚と、絶望感から力が抜けるの  
を、どうにか堪える。背後からDIOに抱き締められたまま、神父を睨んだ。  
 
 「必要ないですって? 父さんが? エルメェスや、皆が……? あたしは  
ッ! プッチ!! あんたにとって都合の良い『世界』なんて許せないわッ!」  
 「君が憤るのも分からなくはない。だが、眼前の木が切り倒されたの嘆くあ  
まり、周りの山々の美しさに気づかない事と同じだ」  
 「誰がッツ! 誰が『この山の形が良い』って決めたのよ!? 頼んだのよ!  
アンタじゃない!? アンタが望む、アンタの形にしただけじゃないッ!!」  
 
 「落ち着け、徐倫……。落ち着くんだ……」  
 すっと、背後から抱き締めていたDIOが、徐倫の顎を引き寄せ、緩急をつけて、  
くちづけた。離した後に、唾液がこぼれた。アンタも、と、徐倫は呟く。  
 
 「知っていて、黙っていたのね……」  
 「知ったところでどうする? プッチを倒すとでも言うつもりか? 私は彼  
を守るぞ。この『世界』なくては、私は生きられないのでね……。  
 それに、私はこの『世界』気に入っている」  
 きっつと、顔を上げた。金髪の男の、鳶色の目が見えた。  
 「大嫌いよ、DIO、アンタなんか」  
 睨みつけながら、そう告げると、男は口の端を吊り上げて、それで良い、と  
笑った。  
 
 
[7]  
 
 三人分の重みに、ベッドが唸りを上げていた。君も来ると良いと、まるで食  
事にでも誘うようかの気軽さで、DIOはベッドにプッチを誘った。後学のためだ。  
良いだろう? 後ろに挿れる分は、数のうちに入らないさ。そう語って。  
 徐倫は抵抗したものの、あっさりと膝を屈した。舌を噛むなよ、君が死んだ  
ところで、何も『世界』は変わらない。ジョースターが潰えても良いのなら、  
承太郎が残したものを、全てふいにしたいのなら、話は別だが。そう囁いて、  
くちづけて、自分のもので徐倫の花を貫きながら、手を伸ばし、上に乗った徐  
倫の菊座を広げて、プッチを誘った。  
 
 プッチの手が触れた瞬間に、徐倫はびくりと振り返ろうとし、DIOはその顎  
を掴んで強引に自分の方を向かせて深く深くくちづけた。全体重を乗せて、プ  
ッチが徐倫の菊座を割って行った時、徐倫は眼を大きく開き、真っ白い、青ざ  
めた顔でDIOの身に縋り付いてくるので、DIOは頭を、撫ぜてやった。  
 
 そして、二人は、徐倫を嬲った。  
 前と、後ろとを男達に揺すられて、徐倫は息も絶え絶えに喘いでいた。汗が  
迸る。ふるふると、自分の目の上で承太郎の愛娘が嬲られ、乳房を揺らせてい  
る。  
 
 この上も無い愉悦に、唇が自然と歪む。  
 ――と、そこで、ぽたり、と、DIOの頬に、何かが落ちた。さらさらとした冷  
たい感触に娘の顔を眺めると、娘は、はらはらと、眼を閉じる事無く、ただ、  
静かにDIOを見つめながら、透明な涙を零していた。表情には、怒りも、悲しみ  
も、愉悦も、そこからは見出せなかった。  
 敢えて言うならば、恋慕だろうか、憐れみだろうか、……諦観だろうか。切  
々とした眼差しから、澄んだ雫は零れ落ち、下で貫くDIOを濡らす。ふと、徐  
倫もDIOが自分を見ていることに気づくと、互いの視線が混じりあった。そう  
してすっと、腕を伸ばして、がくがくと乱暴に身体を揺すられる中、耳元で、  
「DIO……」と囁き、その紅い唇に、初めて自分の方から、くちづけた。  
 
 顔が歪むのが、自分でも分かった。菊座を貫いているプッチが訝るほどさら  
に激しく、DIOは徐倫を貫いた。窒息させんばかりに自分の胸に徐倫の顔を抱  
き寄せた。見せたくなかった。何故かは分からない。分からないが、この娘の  
この顔を、誰にも見せたくないと、そう思った。だから、そうした。  
 
 娘はきっと、泣いているのだろう。引き寄せた胸元から、ぱたぱた、ぱたぱ  
た、と冷たい雫が触れるのをDIOは感じた。  
 吸血鬼となって以来、最早DIOから出る事は無い、ものだった。  
              |  
              |  
              |  
 君はその娘を随分と気に入っているようだね、とプッチは言った。最高のワ  
インを提供してくれる娘だからな。と、DIOは返し、自分の膝の上で横になって  
いる娘の頬を、そっと撫ぜた。  
 自分は裸体であるのに対し、娘の身体には、まるで「見るな」とでも言わん  
ばかりに、シーツを被せていた。  
   
 「私は、幾ら上等のワインを提供する娘とは言え、君の宿敵の娘だ。側で飼  
うことは賛成出来ないね。  
 『飼う』にしても、せめて『肉の芽』なりなんなりを、植えつけるべきだ。  
いつかその娘は、君を裏切るぞ」  
 
 フン! と、友の言葉にDIOは嗤った。  
 「この娘が承太郎のように、時を止めて来るとでも? 君は前々から思って  
いたが、実に警戒心が強いな、プッチ。まぁ、そこが君の良い所でもあるのだ  
ろうが……。  
 それに、『裏切る』という言葉は、信用している相手に用いるものだ。この  
DIOが、こんな小娘風情に心を許すとでも言っているのか?」  
 「少なくとも、徐倫は随分と君に懐いているように、思ったがね」  
 「濡れ場を見てそう思ったのなら、プッチ、女なんてものは皆、こんなもの  
だ。どこの牝犬も交尾の時は腰を振るものさ」  
 
 利用すると言うのなら……と、一呼吸置いて、神父は言った。  
 
 「徐倫は君の息子……ああ、ジョルノ君と言ったか? あの子にでもくれて  
やるべきだ。君が他の女達にしているように、手下として徐倫に子を孕ませる  
よりも、ジョルノ君にやらせるべきだ。彼は歳を取ることに対し、君は不老だ。  
直接君があちこちに種を蒔かずとも、優秀なものを育て、世代を越えて血が薄  
まったところで補ってやれば良い。  
 私はそっちの方が効率的だと思うがね」  
 
 「『アレ』は、頼りになるが、油断はならん。恐らく、息子達の中でも一番  
私の血が濃いのだろう……息子らの中でも、最も寝首を掻いて来るのは恐らく  
『アレ』だ。  
 この部屋の事を、アイツには言うなよ。知ったら、確実にアイツは食いつい  
てくる」  
 
 DIO……と、プッチは呼んだ。聞きたいことがある、と。  
 「どうして今日は、わざわざ私を呼びつけたんだ? まさか、徐倫を抱かせ  
るためだけ、じゃあ無いだろう?」  
 別に、と彼は答えた。何てことは無いさ、と。  
 
 「ただ、この娘がどう思うかなと思っただけだ。それだけさ。くだらない事  
だ。面倒をかけて済まなかったな、プッチ」  
 君は……と、言い掛けた言葉を、神父は飲み込んだ。そうして、役に立てた  
ならそれで良い、と告げ、部屋を後にする。  
 
 地上へと登る階段の側で、足元に一匹の蜘蛛がいることに気が付いた。もう  
大分弱っているのか、酷く動きが緩慢だった。ふと、この蜘蛛の事を考えた。  
これだけ弱っていれば、放っておいてもいずれ死ぬだろう。だとすればいっそ  
のこと、今、殺してやった方が幸いでは無いかと思った。だが、それと同時に、  
蜘蛛の心は蜘蛛にあり、生きるも死ぬも、その幸いは蜘蛛が決めるだろうと思  
った。そこまで思って、”誰が”という、娘の叫びが脳裏に響いた。  
 
 ”誰がッツ! 誰が『この山の形が良い』って決めたのよ!? 頼んだのよ!  
アンタじゃない!? アンタが望む、アンタの形にしただけじゃないッ!! ”  
 
 違う、と、掠れた声で、叫んだ。  
 「私の望む『世界』こそ幸いなんだ! 私の選んだモノこそ、人々が争い無  
く、不幸も無く、生きていられる『世界』なんだッ!!」  
 
 ぐっと、足を上げて、蜘蛛を踏み潰す。弱っていた蜘蛛は音も立てずに、神  
父の足元で汚らしい体液を撒き散らして、息絶えた。  
 
 ”ただ、この娘がどう思うかなと思っただけだ”  
 
 「DIO……それを、『執着』と言うんだ……」  
 憎憎しげに足裏についた、蜘蛛の体液を拭うと、神父は一人、地上に出た。  
 
       |  
       |  
     The End ?  
       |  
       |  
        ・  
:  
W h o C u t C o b W e b ?  
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