トリッシュがプロシュートと初めて出会ったとき、彼女はまだたったの15歳で  
幼いながらも自分が美しい事を自覚していたが、彼に比べればそれはちゃちな自惚れに過ぎないと思い知らされた。  
美術の教科書で見たギリシャ彫刻のように端正な容貌も、モデル顔負けのスタイルの良さも  
トリッシュがのぼせ上がるに十分な要素だったが、  
何よりも惹かれたのは、そのダイヤモンドのように気高く強い意志だった。  
暗殺者という稼業に身を置いていても、彼は周りから一目置かれる存在だった。  
トリッシュはすぐに彼に夢中になり、少しでも相応しくなりたい一心で  
生まれたてのヒヨコのように何かにつけて彼の後をついて回ったものだったが  
プロシュートの方は、世間知らずのかたぎ娘のやる事、すぐに飽きるだろうと好きにさせていた。  
ただ、プロシュートお兄様、という尻が痒くなるような妙な呼び方だけは止めさせたが。  
初めのうちはマンモーニが二人に増えたとぼやいていたものだが、今はどこに出しても恥ずかしくない淑女だ。  
とても初対面でギャングに使い走りを言いつけたわがまま娘とは思えない。  
ふと思い出してその事を口にすると、トリッシュは「なんで今さらそんな事言うのよぉーッ!」と真っ赤になった。  
プロシュートは少し意地悪い笑みを浮かべながら、彼女はしおらしく猫を被った様よりも  
自然な表情の方が魅力的だと改めて思った。  
 
「しかし何だな……お前もいい女になったもんだな」  
 
トリッシュはいきなりの褒め言葉に恥じらいながら、あなたがそうしてくれたの、と小さく口にした。  
わがまま勝手な振舞いを度々叱られながらも、こうしてプロシュートの傍にいるのは  
一緒にいると『誇り高い気持ち』になれるからだった。  
彼が自分にくれたその気持ちを覚えている限り、何があっても彼のように強く気高くいられる、  
トリッシュはそう思う。  
 
(あたしが彼を特別だと思うように、彼もあたしを特別だと少しでも思ってくれてるのかしら)  
 
甘えるなこのマンモーニ、と叱られるかも知れないが、想いは止められなかった。  
トリッシュはそっと身体を寄せ、プロシュートの胸に頭を擦り付けた。  
……ついこの間まで子供だと思っていたのに、こうして一丁前に誘惑してくる。  
気まぐれで拾った子猫は、いつの間にか女豹に育っていたらしい。  
 
「……ねえ、キスしてもいい?」  
「ハン!」  
 
トリッシュの控えめな申し出をプロシュートは鼻で笑い、おもむろにその唇を奪った。  
 
(そんな事をいちいち聞く必要はねーんだ)  
 
心の中で思った時、すでに行動は終了している。 これもプロシュートの教えだった。  
そのまま革張りのソファに身体を押し付けるように抱き合い、互いの唇を貪る。  
せっかくのスーツが皺になっちゃう、とトリッシュは思ったが  
激しく降らされるキスの雨に、すぐに何も考えられなくなった。  
 
深く浅く口付けを交わしながら、互いに協力してボタンを外し衣服を脱ぎ捨てていく。  
二人分の香水のかおりが熱を帯びた肌の間で混ざり合い、匂い立った。  
肌の触れ合う温もりと、裸の背中が革に触れる心地よさを楽しみながら  
トリッシュは生意気にも挑発するような事を言い出した。  
 
「今日はあたしの方から『して』もいいかしら?」  
「言うじゃあねーか、いくつになっても指しゃぶりの直らねーマンモーニが」  
 
端正な容姿とは裏腹に、プロシュートの手や指は裏稼業の者にふさわしく力強い。  
その指をトリッシュの目の前に差し出してやると、赤ん坊のようにぱくりと咥えた。  
彼女には情事の際に自分の指ではなく、相手の男(と言ってもプロシュートぐらいだが)の指をしゃぶる癖があった。  
いつだったか、声が響くからこれでも咥えてろ、と喘ぐ口に指を噛ませた事があったかも知れないが、  
今の二人にはどうでもいい事だった。  
 
「おい……しゃぶるのは後にしとけ、オレを放っといて一人で盛り上がるな」  
 
こんな事まで教えた覚えはねーんだが、と思いながらもプロシュートもその媚態に煽られてしまい  
甘ったるい言葉を口にする代わりに、指と唇で彼女の肌の上に綴っていく。  
これもトリッシュの好きなやり方だった。  
くすぐったいけれど、ぞくぞくするような感じが堪らなくて  
トリッシュは形のいい臍に悪戯をするプロシュートの頭を抱え込んだ。  
きれいに分けて整えた髪が細い指に乱されてしまう。  
プロシュートがちらりと見ると、トリッシュの気の強い美貌は上気して花のように色付いていた。  
『欲しい』と眼が濡れるのは、おそらく彼女本人も気付いていない反応だ。  
指も唇も気持ちいいけれど、まさかこれだけで終わりというわけはないでしょう?と  
期待を込めて、ほとんど吐息のような声で(はやく……)と耳元に囁いてくる。  
プロシュートは焦らさず、白磁のような内腿に手を滑らせ、望むようにしてやった。  
 
 
トリッシュと関係を持つまで、プロシュートはいわゆる『初めての相手』になった事は一度も無かった。  
事が済んだ後、何気なくそれを口にしたら「じゃあ、あなたもあたしが『初めて』だったのね」と言われ  
その妙な言い方に苦笑したものだった。  
今、自分を見上げるトリッシュの艶めいた表情は、初めての時とは違う一人前の女のものだった。  
奥へと腰を進ませると、蕩けたような内側は拒まずに包み込んでくる。  
誠心誠意手管を尽くしての長期戦でも、トリッシュは痛いだの止めてだのと泣き喚き  
今まで相手したどんな女よりもひどくプロシュートを手こずらせたのだった。  
 
「処女だから具合や反応がいいってのは、ありゃ嘘だな」  
「……んぅ……! はぁ……あ……」  
「あの時より、今のお前の方がずっといい感じだ」  
 
互いの身体に馴染んだ今となっては、交合には何の抵抗も無かった。  
プロシュートを深く受け入れたトリッシュの腰がソファに沈み込む。  
彼は殺しの手際だけでなく寝室での所作も巧みで、微妙に角度を変えて責め立てる度に  
もっと、と催促するようにトリッシュは引き締まった腰を太腿で挟み込んできた。  
本当はもっと楽しみたかったが、トリッシュがすでに余裕を無くしそうなのに気付き  
よく知った箇処を何度も突いてやると、一際高い嬌声を上げてつま先をぴんと強張らせた。  
涙でにじむ視界の中、プロシュートが眉をきつく寄せて小さく息をつくのを見ながら  
ああ、彼も終わったんだわ、とトリッシュはぼんやり思った。  
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情事の後にはいつも、二人でコーヒーを飲むのが習慣になっていた。  
トリッシュは、夜明けのコーヒーなんてすごく素敵!映画みたい!とはしゃいだものだったが  
プロシュートにとっては私生活と仕事を切り替えるための儀式のようなものだった。  
トリッシュからカップを受け取り一口啜ったとたん、愛しい恋人は歯に衣着せぬ事を口にした。  
 
「……オメーはいつになったらコーヒーぐらいまともに淹れられるんだ?」  
 
紅茶でもコーヒーでも、プロシュートが淹れる方がはるかに美味いのだった。  
それを自分の舌でよく知っているトリッシュは、せっかく淹れたのに……と、悔しさと悲しさで顔を曇らせる。  
プロシュートはまだ熱いコーヒーを一気に飲み干して、ソファから立ち上がった。  
 
「オレがもっとましなの淹れてやるから、ちゃんと味を覚えとけ」  
 
慣れた手つきで、トリッシュの好みの分だけミルクと砂糖を入れたカプチーノを作ってやる。  
香り高く甘いカプチーノに、トリッシュはすぐに機嫌を直して笑顔になった。  
それを横目で見ながら、プロシュートはすっかり甘くなってしまった自分に内心呆れるのだった。  
 
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