(※『彼』を使った女体化吉良自慰)(容姿は初代吉良で年齢設定は二十代中盤ぐらい。エロ分は少なめ)
体温を失いその肌は僅かばかり蒼白になり、わたしの掌に収まるまでに小さくなってしまった『彼』はまるで石膏で造られた精巧な模型のようだった。
けれど模型にはない柔らかさがまだその指には残っている。わたしは彼の左手と自分の右手を組み、『彼』を見つめ、『彼』をうまく切り取ってくることが出来たという達成感と胸の内でその質量を増やしつつある幸福感にため息をついた。
冷たくすべすべした皮膚の感触がわたしの肌に吸い付くようで心地よい。
『彼』は弛緩し僅かに内側へ指を曲げ、けれどそのほかは生きていたときとなにも変わらない形でわたしの右手に握られている。
今は切り取った直後でまだ柔らかさを残しているけれど、これからはそうもいかなくなる。いびつに曲がったまま硬直してしまえば『彼』の美しさも半減するし、なによりその用途も限られてくるだろう。
悪くすれば彼と遊ぶときや料理をするとき、荷物を持ってもらったりするときに無理矢理に変形させるしか方法はなくなるかもしれない。
――ただ骨肉を断つだけではしなやかさが保てない(そもそも今のままの杜撰な手段ではすぐに腐敗し形を留めなくなってしまう)。
しかしホルマリン漬けの瓶越しではこの美しい指先に触れることはできないだろう。
対策を考えておく必要があるな、と思考したが、今の幸福感に包まれたわたしにはそんな問題は懸念するにはまだ早い、遥か彼方の話にしか感じられなかった。
舌の上に『彼』の指先を乗せると、すぐに海水を薄めたような味が伝わった。洗浄はさっき念入りに済ませたから、きっとこれは触れ合ったときにわたしの手から移った汗の味なのだろう。無機質な『彼』に生の証が宿ったようでわたしはほんの少しだけ嬉しくなった。
『彼』の人差し指と中指の先を軽く吸っていると、唇に初々しい接吻のような微弱な刺激が伝わる。ちょうど隣にある、まだわたしの唾液に濡れていない薬指がわたしの唇やその近くを撫でてゆくからだった。
むろん命なき『彼』は意図してわたしに継続的に刺激を与えることなどできず、それはわたしの指先への愛撫が深さを増していったとき掠めるように触れていき、すぐ甘やかな痺れを残して去っていくというだけのことだったけれど。
そんな彼からの拙い愛撫も、積もれば十分にわたしの衝動を加速させる。
胸に膨らんだ幸福感は今や内側からわたしを蝕む、得体の知れない痛みと焦燥感に変わりつつあった。
ちろちろと指の又まで丁寧に舐めたあと、ふと『彼』を見ると二本の指のそこだけが蛞蝓に這い回られたようにてらてらとぬめり、光を反射させていた。
口から『彼』を離すと銀糸が伸びて、重力に耐えられずわたしの顎に落ちていった。
…冷たい。
「っ…ん、ぅ、…」
根元まで『彼』をくわえ込み、本格的に舌を絡ませ始めると呼吸がしづらくなって、喉の奥から意図しない声が漏れた。
本来食事を行う器官に潜り込んだ異物は飲み込むことも噛み砕くこともできないし、してはならないものだ。歯を立てて傷つけてしまわないように注意しながらくわえ続けて懸命に吸ったり舐めたりを繰り返していると、溜まった唾液がちゅるちゅると水音を立て始める。
溢れて喉に垂れ落ちる。もう口元は透明なそれで汚れきってしまっているだろう。
自分で自分の心臓の鼓動が聞こえるほど煩く響いている。要因としては風呂から上がって間もないことも少なからずあるだろうが、外側から暖められたからではなく、根本的な熱は内側から湧き出しているような気がする。
口での奉仕を続けたまま、手持ち無沙汰になった左手をなだらかな膨らみの上に乗せてみると確かに肉付きの薄い胸を通して心臓がせわしなく働いているのがわかった。
厚手の綿のパジャマの上から左手でそっと包んで、力を込めていく。徐々に食い込む五指に痛みを感じることはなかった。柔らかい肉はわたしの好きなように形を変えて、多少乱暴に扱っても柔軟にわたしの動きとわたしの気分についていく。
粘土で塑像するように揉みほぐしていくと、存在を主張し始めた先端が生地に擦れ背中に震えが走った。
手の平の汗を吸い込んで生地がしっとりとしてきた頃、何回か口いっぱいの唾液を飲み込み顎に疲れを感じ始めたわたしは『彼』に奉仕することをやめた。
――断面から覗く肉はまだ新鮮で、わたしの粘膜の色とよく似ていた。
この彼とはいつお別れなのだろうと、始まったばかりだというのにわたしはもう別れを考えている。
「っ…ふ、はぁ、…ん、」
口から分泌したそれと下から漏れ出ていたそれ。
滑りをよくするには足りすぎているほどで、くちゃくちゃと粘性の高い液が『彼』を包んで鳴る。
『彼』の曲がった第二関節のあたりまで透明なそれが付着して、わたしが緩慢な動作で抜き挿しを繰り返すたびにいやらしい水音を響かせる。
――結論から言うと、わたしの選んだ『彼』は十分にわたしを満足させることができた。
膣に埋まった二指が指の中で最も長く、挿入しやすいものだというのは一目瞭然だったし、
女のわたしとは骨から異なる、異性の関節の無骨さとわたしの見初めたしなやかさを兼ね備えた『彼』のそれが中に這入ると
一度にわたしの胸に「他者を受け入れている」という実感が沸き上がり、潤滑油がとろりと吐き出されたからだ。
時折気遣いを知らない爪の先が奥の壁を掻いてしまうけれどそれも高ぶったわたしの体には快楽に変換された。
パジャマの下と下着を膝までずり下げて壁を背に座り、脚をだらしなく立て開いたわたしの姿は傍目から見ればさぞ滑稽なものだろう。
先の奉仕から脚の間に感じていた潤みは剥ぎ取るようにパジャマをずらしたときに早くも下着の中央の色を濃くしており、
それも剥いで奪い去ってしまうと唾液と同じように糸を引いた。
下着の上から『彼』を使い、擦り付けるだけで事を済ませてしまおうと考えていたわたしは
自分の考えの甘さといとも簡単に準備を整えてしまう肉体に嘆息したものだ。
室内とは言え外気に晒された脚はやはり肌寒く、露出した腿に鳥肌が立っているのが見えた。
湯から上がって間もない、まだ湿り気の残る髪が気化熱で頭を冷やしたがそんな程度では追い付かない。
冷たい『彼』はわたしに操られるただの器具に過ぎないのかもしれないけれど、わたしはこのやり方が一番性に合っていると感じる。
何より体の奥から溢れ出る熱が他の手段の比ではない。
恐らくこの行為が『彼』を殺したときの興奮を呼び起こさせるからだろう。
わたしの性癖が露呈するこの瞬間、わたしの抱える欲は常人とは異なる色をしていると深く実感させられた。
今度は真っ赤に充血した下の口が浅ましく涎を垂らして『彼』を味わっていて、
それを他人事のように眺めながらわたしはいつになく自分が乗り気なことを悟った。
腕を回して足を通し、後ろ側から延ばした『彼』を操る右手を止めて、今度は前側から自分の左手でそろそろと膨れた上端の核を撫でる。
分泌された液はいとも簡単にそれに絡み、ぬるついた感触をわたしの指先に伝えた。
「っ…!ひっ、ぁ!」
まだ激しい絶頂には及ばなかったが、鋭敏な箇所への刺激はわたしが知らず知らずのうちに待ち望んでいたものだったらしい。
弱い電気を流されたかのように小さく喉が反って背筋が震え、反射的に閉じてしまった瞼を開けると視界は潤って霞んでいた。
無意識に丸まった爪先がベッドシーツを掴んで無数の皺を刻む。
ごくりと唾を飲み、排尿感に似た、けれどその何倍も強い快感を求めて人差し指と中指の間に粒を挟んで転がす。
もうそんな純粋な時代は過ぎたのに、わたしの発する声と来たらまるで少女のそれだ。
――まだ、満たされてはいない。下腹に渦巻く熱が告げている。
続けなくてはならない、と。
「んっ…くぅ、ふぁ…」
左手にばかり意識を集中させすぎて右手がお留守にならないよう注意しながら陰核を捏ね回し、『彼』で抽送を続ける。
同時に行われる二カ所への攻めは互いが互いの刺激を助長して、核を弄られれば愛液が量を増し抵抗を減らし更に奥まで届くようになり、
愛液が核に絡まればぬめる指先が与える刺激は大きくなる。
熱い泥のような粘液で満たされたわたしの壷は深く刔られると『彼』をきつく締め付けた。
『彼』が出ていくときは縋るように締め付けを続けて、また戻ってくれば簡単に受け入れる。
こうして手に入れた『彼』たちと睦み合うことは今までに幾度となくあったが、生身の相手との経験は無きに等しかった。
そしてこれからも無いだろう、それは確信している。
初めて衝動に駆られ、恐る恐る『彼』を挿入したときからそこは解れることはあれど締め付けはあまり変わっていないままだ。
元来女は性欲が男に比べ希薄と聞いたことがあった。
自分は例に漏れず、それどころかその上を行く淡泊さを自負している。
こうして『彼』を求め自慰に耽るのも、新鮮で清潔な『恋人』が手に入り、
爪が伸びるにつれ沸き上がる殺人衝動を解消した後ごくたまにある程度で極めて稀なことだ。
受け入れた絶対数が少ないのだから衰えないのは当たり前かもしれない。
懐かしい記憶に笑みを零し熱の篭った息を吐く。
光、だ。ぎゅうと閉じた瞼の裏に満ちる白い、光。
血潮が透けて見える気がする、少し前、『彼』をここに連れてくるときにも見た鮮やかな赤色。
高みへ押し上げられるたびに脳内が白く塗り潰されてゆく。
視界が弾けてすべてが消えそうになる。
(あと、もう…少しで)
吐息が犬のそれの如く荒くなる。自然と手の動きは速まり、腰が物欲しげに抽送に合わせ前後に揺れる。
こつこつと『彼』が奥を執拗に叩いていた。
ずるずるになった秘所は臀部にまで液を垂らしていて、
緩慢に伝い落ちる感触に気付いたわたしはシーツを新しく換える羽目にならなければいいと祈った。
…今更手遅れで、無駄なことではあったが。
ぐちゅ、くちっ…ずっ
「っは…く、」
胸から子宮にかけて、内側から掻き毟られるような錯覚に襲われた。
疾走直後のものに近い疲れを訴えている心肺が、切ない痛みをあちこちに伝染させているのだろう。
痒みと痛みと切なさがないまぜになったこの感覚に抗う術をわたしは知らない、
ただ流れに逆らわず本能に従うのが賢い選択だと理解してはいた。
「っあ…そんな…にっ…!はいら、なっ…!」
乾いた小指と薬指が潜り込み、中が窮屈になった代わりに壁を強く擦るようになると、
わたしは明らかな質量の違いに息を呑む。
思わず顔を背けたとき、後頭部が髪の艶を損ないそうな音を立て背後の壁に擦れた。
…誤解のないように伝えるが、冷静に『彼』を操作し新たに二本の指を捩込んだのは他でもないわたしだ。
演技ぶった叫びがぱくぱくと開閉し酸素を求める唇から放たれたのには自分でも驚いたが、不思議と気分は萎えはしなかった。
むしろ快楽を享受するには咄嗟の演技は好都合だったと判断したわたしは、『彼』の役に成り切り乱暴に掻き回し、奥へ奥へと捩込む。
束になった指は多くの水分を隙間に含み、飛び散る小さな雫が脚の付け根と『彼』の手の甲を汚した。
「だ、め、…っもう、」
鼓膜からも水音に侵されて犯されて、口にしたのは譫言だった。わたしが動かしている『彼』に対する、耐え難い責め苦から許しを請うための。
どうしようもなく蕩けた脳は他人と自分を区別する機能すら果たしていない。もう可笑しくなっている。
――終わらせなければならない。
「っ、…あ、あぁっ…!」
体の半分まで込み上げる痺れを後押しするように『彼』の親指で赤い肉芽を押す。
頬をなにか温かいものが流れていると思ったら、それは快感に翻弄されるわたしが流した涙だった。
「…っ―――、!!」
絶頂は呆気なかった。
一度に飲み込んでしまえなかった声が悲鳴のように噛み締めた唇から漏れてしまうのを聞きながら、わたしはぐったりとうなだれる。
力を失った四肢は切り取ってきた『彼』のように脱力し弛緩して、腿肉がふるふると余韻でわなないた。
核をいたぶっていた左手は汗と愛液で濡れた指先を天井に向けている。
緩んだ膣内からずるりと『彼』が落ちて、ぼとりとわたしの脚の間、マットレスの上に着地した。
今や五本の指の全体が鈍く光り、そして『彼』はわたしの手と同じように天に手の平を向けて沈黙している。
ふとわたしは『彼』を拾いあげ、その指先を口に含んだ。
塩辛さと酸っぱさの混ざった味が舌の上に広がる。
また、『彼』はわたしの体温が移って生前の暖かさを取り戻しているため、
その味は汗でないものが混ざっているのを抜きにして最初に含んだときより濃く感じた。
そしてわたしは『彼』を舐め上げ、呟いた。
…ああそうだ、どうしても思い出せないことが一つあったのだ。
「…また、一緒にお風呂に入らなければならないわね」
はて、彼の名前はなんだっただろう。
まあいい、浴室で思い出せるかもしれない。
わたしの名前は吉良吉子。
わたしは幾度となく入れ代わるであろう『彼』との生活がこれからも平穏に続くことを心の底から祈っている。
【終】