女性が煙草を吸うのは感心しない、と言われた。  
古いタイプの男っぽかったから、ああそうと適当にはぐらかしたけど  
美容に良くないし子供を産む時にも悪影響だ、なんてくそ真面目なツラでお説教してくる。  
子供なんてうっとうしい物こさえるつもりなんかないわ、と内心毒づいているうちに  
ひとつ退屈しのぎを思いついた。  
火を点けたばかりの煙草を唇から離して、そっと顔を近づける。  
濃い眉に彫りの深いはっきりした目鼻、あたしと同じ褐色の肌。  
強い光を宿した眼とあたしの眼がかち合う。  
 
「……口が寂しいの」  
 
そっと囁いて、茹で蛸みたいになるかしら? それとも嫌がるかしら? と思いながら唇を重ねた。  
……だけど意外な事に、反応はどっちでもなかった。  
分厚い掌がごく自然にあたしの腰を抱き寄せ、口付けがより深くなるようにと顔を傾ける。  
熱い舌が絡み合って、貪られているのが分かった。  
 
「んん……」  
 
何よ、巧いじゃない。 やる事やってるってわけ?  
こっちもその気になって、挑発する気で首に腕を回してやったら  
咎めるように大きな手で肩を押さえられた。  
あたしの指から落ちた煙草は、床に落ちる前に一瞬で燃え尽きて灰になった。  
 
「ねえ、まさかこれで終わりなんて言わないわよね」  
 
あたしは久し振りにわくわくしていた。  
たとえ、自分の方から泣き喚き懇願するような手荒な目に遭ったとしても続きが欲しかった。  
武骨な指が、タロットカードを扱うときと同じ繊細さであたしの身体の線をなぞる。  
その動きに堪らなくなって、白い長衣越しに広い背中にしがみついた。  
触れられた肌が徐々に熱を帯びて溶かされていく。  
ちょっとした悪戯の、火遊びのつもりだったのに……  
もう、すでに取り返しがつかないほど燃え上がってしまっていた。  
あたしは火傷しそうな愛撫を受けながら、このままこいつに好いようにされていようか、  
それとも逆に空っぽになるまで搾り取ってやろうかと愉しい選択に思い悩んでいた。  
 
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