眠る前、ベッドの中でネズミの足音を聴く事が増えた。  
 房の屋根裏部屋に棲んでいるネズミが、子供を産んだらしい。以前よりも、足音の数が増えた気がする。  
 哺乳類の雌は、発情期になると異性を呼び寄せる物質、フェロモンを出すという。  
 雄はそれに吸い寄せられ、番(つがい)となる雌を取り合う為、他の雄と争う。  
 それは、どんな匂いなのだろう? どれだけ蟲惑的で生々しい匂いを漂わせるものなのだろう?  
 元々、『異性』も『同性』も存在しない世界にいたミュータントである彼女――F・Fには分からない。  
 
 ふとF・Fの頭をよぎるのは、彼女に『生きる目的』を与えてくれた大切な仲間、空条徐倫の事だった。  
 徐倫には、不思議な何かがある。  
 彼女との戦いに敗れ、仲間になる事を決めた時から感じていた。  
 普段は屈託無く笑い、怒り、驚く普通の女性なのに、いざ戦う段になると信じられない程の集中力と強靭な意志を見せる。  
 それが何なのかは分からない。けれど彼女には確かに、他人を惹きつけるものがあるのだ。  
 もしかしたら『それ』がフェロモンというものなのだろうか?  
 けれど、今のF・Fの肉体は女性であるエートロのものだ。  
 雌が雌を招き寄せるフェロモンを出しても、何の役にも立たない。  
 だが、しかし…  
「あぁああ〜ッ! ダメだ! これ以上考えると眠れなくなっちまうッ!」  
 堂々巡りの思考から抜け出す為、枕に顔を埋めて強引に眠りに就く事にした。  
 
 翌朝、G.D.St刑務所の食堂で、徐倫と顔を合わせた。  
「オハヨ、F・F。どーしたのよ? 元気ないじゃない」  
 F・Fの向かいの席に腰を下ろし、明るく尋ねてくる。  
「ちょっと考え事しててさ、昨夜ロクに眠れなかったんだ」  
「なに? あんた、悩みでもあんの?」  
「ん…ちょっとね」  
「…もしかして、父さんの事で何か分かったとか?」  
 そう問いかける徐倫の瞳は、真剣だった。父親の話をする時、彼女はいつもこの目をする。  
 透明で、強い意志に満ちていて真っ直ぐな瞳。  
 じっと見ていると、吸い込まれてしまいそうな気がした。  
「いや、そういう事じゃあないんだ。もっと、何ていうか、こう…個人的な事。取るに足らない事なんだけど」  
「あたしには言いにくい事? だったら無理には聞かないけどね」  
 皿の上に盛られたサラダをフォークでつつきながら、徐倫は呟く。  
 その光景を見ていて、ふと、ある事に気付いた。  
 
「徐倫、いつもより朝食の量が多くない?」  
「…ああ、もうすぐあの日だからね。近くなると無性に食べたくなるのよ」  
「あの日って?」  
 F・Fが身を乗り出すようにして尋ねると、徐倫は眉間に皺を寄せ、声をひそめて答える。  
「でかい声で訊かないでよ。メンスよ、メンス」  
「…あ、なるほど」  
「そういえば、あんたはどうなの? 無いんだっけ?」  
「どうだろう? よく分からないけど」  
「分からないって事は、それっぽい事は無かったって事よね? …いいわあ〜、メチャクチャ羨ましい。無い方がいいわよ、あんなの」  
「そうなの?」  
 
「生理前って、とにかく眠くなるし食べる量が増えるから太っちゃうしニキビはできやすくなるし、胸が張ってちょっとどっかにぶつけただけで痛くなるし、と・に・か・く最悪なのよ。おまけに…、あっ、イヤな事思い出した」  
「イヤな事?」  
 問い返すと、徐倫は溜め息をつき、目をそらす。  
「…ここに入る時、留置係に見られた事思い出したのよ。あん時もちょうど、生理前だったから」  
「見られたって、何をさ?」  
「だから〜ッ! 何ていうか、その……マスターベーション…を、よ」  
「え…」  
 その言葉の意味は、ゴミ箱に捨ててあったポルノ雑誌を拾い読みして知っていた。  
「そ、そっか…。徐倫でもマスターベーションなんて、するんだ…」  
「だからッ! でかい声で言うなってッ!」  
「ご、ごめん。意外だったからさ」  
「言っとくけど、ここにブチ込まれてからはしてないわよ。もっともグェスと同房だから、したくても出来やしないけどさ。アイツ、何か怪しいんだよね。こないだも、視線を感じて目覚ましたら、あたしの寝顔覗き込んでた事があって…」  
 徐倫は早口で喋り続けるが、話の内容なんて全く頭に入ってこなかった。  
 それよりも、徐倫でも異性に欲情するのだという事実がただショックで。  
 
 その晩、再びF・Fはベッドの中で考えた。  
 哺乳類が番(つが)うのは、生殖の為だ。  
 雌が優秀な雄を選別し、優秀な子孫を残す為、交尾をする。  
 欲情するという事は、その雄の子供が欲しいと願う事なのだろう。恐らく。  
 では徐倫が欲情する相手は、一体誰なのだろう?  
 留置場にいた頃に欲情していた相手は、シャバにいたボーイフレンドだったかも知れない。  
 その相手とは、どんな関係だったのだろう? 徐倫は、その相手に抱かれたのだろうか? どんな風に?  
 徐倫はその相手に抱き締められて、キスをされて、それで…。それを思い出して、自慰をしていた?  
 
――馬鹿、何考えてるんだ。あたしは。  
 こんな事、考えてはいけない。  
――相手がどんな男だったか分からないけど、徐倫がここに入れられてから一度も面会に来ないようなヤツじゃあないか。  
 エルメェスが徐倫に抱いている『友情』と同じものを自分も抱いているのだと、今まで思っていた。  
 だったらあの程度の猥談、軽く流せばいい。エルメェスならきっと、ゲラゲラ笑い飛ばしただろう。  
――あれ?  
――何だか、おかしいぞ? あたし。  
 体が火照って、いくら気持ちを鎮め、眠ろうとしてもそれが出来ない。  
 頭の中には徐倫の痴態ばかりが浮かび、消えてくれない。  
――もしかして、これって…。  
 F・Fが懸命に目を瞑(つぶ)って早く眠れるよう祈っている内に、いつしか鉄格子の外からは鳥のさえずりが聞こえてきていた。。  
 
 その日の夕方、F・FはTVルームにいた徐倫を連れ出し、人気の無い通路へと向かった。  
「…どうしたのよ? 何か大事な話でもあるわけ? 今やってた映画、ちょうどおもしろいとこだったんだけど」  
「う、うん…。あのさ…昨夜もちょっと、考え事してて…結局、一睡もできなくてさ」  
「マジィ? よっぽど深刻な悩みなのね〜。何だったら、エンポリオにでも相談してみたらどう? あの子なら頭の回転早いから、いいアドバイスくれるかもよ」  
「いや、それはいいんだ。悩みの原因は何となくだけど、わかったから」  
「そう? なら良かったじゃん」  
「それで、あんたにも協力して欲しいことがあるんだ」  
「協力? って何よ?」  
 いつもと変わらない表情で尋ねてくる徐倫を見ると、決心が鈍る。  
 だがどうしても、これだけは確かめなければ。  
 
「ちょッ…! F・F! 何すんのよ!」  
 F・Fは勢いに任せて徐倫を抱きすくめ、唇を奪った。  
 冷たい壁に徐倫を押し付け、舌を差し入れる。  
「ん、んッ…!」  
 ぎこちなく蠢く舌を徐倫の口中で捉え、吸い立て、己の舌を絡める。  
 湿った途切れがちな吐息が漏れた。徐倫は懸命にF・Fを押しのけようとするが、敵に攻撃する時と違い、相手が仲間なだけに思い切れない様子だった。  
 徐倫の体から立ち上る甘ったるい匂いが、F・Fを興奮させる。  
 そしてひとしきり徐倫の唇を味わい、体を離した。  
「ハァ、ハァッ、ハァ…! い、いきなり何すんのよあんた…。どっかおかしくなったの?」  
「昨夜、一晩中考えてたんだ」  
「考えてたって、何をよ?」  
 徐倫は訝しげに尋ねるが、F・Fはその質問には答えない。  
 
「…あんた、昨日の朝食の時にさ、話してくれたろ?  
 ここに入る前、誰かの事を考えて、一人でしたって。  
一晩中、ずっとその言葉が頭から離れなくてさ。  
…今まではずっと、あんたのこと守ってやりたいって…  
あたしに『生きる目的』をくれたあんたに感謝してるから、だから、  
望むことを叶えてやりたいって思ってたんだ。純粋に尊敬してると思ってた。  
だけど、昨夜、あんたの言葉思い出したら…」  
 言葉を続けようとして、躊躇する。  
 これを言ってしまって軽蔑されたりはしないかと、不安になる。  
――何考えてんだよ。軽蔑ならもう、とっくにされてるだろ…。  
 自嘲気味に自分を叱咤し、こう言葉を続けた。  
「…あたし、濡れたんだ。あんたが誰か…あたしの知らない別の男に抱かれてるとこ、想像して。あんたが他の誰かにそんな事されてるとこ思い浮かべんの、すっげえイヤだったけど、でも、それでも…あんたで濡れた。おかしくなりそうだった。頭から離れなかった」  
 徐倫は何も言わずに、戸惑いの表情のまま俯いている。  
――そりゃそうだよな。この状況じゃあ、何も言えないよな。  
 けれどそれでも、F・Fは更に徐倫を追い詰める言葉を発してしまう。  
 
「なあ、どうすればいいか教えてくれよ。あんたを尊敬してる。守ってやりたい。  
あんたの望みなら何でも叶えてやりたい。あんたのイヤがる事なんて絶対にしたくない。  
これはウソじゃあない。…でも、あんたを好きで、あんたに欲情してるのも  
ウソじゃあないんだ。あんたがイヤがるって分かってても止められない。  
教えてよ、徐倫。あたしは、どうすればいい?」  
 視線をそらしたままの徐倫の肩を掴み、問いただす。  
 だが徐倫は、まるで言葉を忘れてしまったかのように口をつぐんでいる。  
「…何も言ってくれないのか? だったら、イヤがって跳ねのけるまで…しちまうよ」  
 徐倫を抱き締め、再び強引に唇を奪う。  
「ん…! うッ…!」  
 ピクンと肩を震わせ、弱々しい抵抗を見せる。が、突き放したりはしない。  
 F・Fの手が、インナー越しに徐倫の乳房に触れた。  
 掌に収まるサイズのそれを、やんわりと揉みしだくと、中心の突起が徐々に突き立ってきた。  
 
――そういえば、生理の前は胸が張るって、昨日言ってたっけ。  
 乳房は弾力に満ちており、F・Fの掌に確かな感触を返してくる。  
 唇を離し、頬を伝って耳へと移動させた。  
 キスした時に移った徐倫の口紅が、彼女の頬や耳を染めていく。  
 その光景は物凄く卑猥で、セクシーだった。  
 徐倫はF・Fの肩に指を立て、小さく息を喘がせている。  
「バカ…。こんなとこで、こんなこと…して…誰か来たら、どうすんのよ…?」  
「そう思うんなら押しのければいい。あんたの『スタンド』を使えば、簡単にあたしの腕から抜け出せるだろ?」  
「………」  
「いいの? 黙ってたら、許してくれるんだってカン違いしちまうよ? こんな風に…」  
 ホルダーネックのキャミソールをたくし上げ、ブラジャーのホックを外すと、形の良い胸が露出した。  
 ツンと突き立った乳首を舌で弾き、もう片方の乳房を掌で弄ぶ。  
「あッ…! あ、あぁッ…んッ、ん…」  
 口の中で次第に硬度を増す突起を、丹念に吸い立てて、時折歯を立てる。  
 徐倫が切なそうに太股を擦り合わせているのが見えた。  
 乳房を弄んでいた手をゆっくりと下ろし、今度は太股を撫で上げる。  
 
「ハァ…あッ…」  
「ねえ…あんたも、あたしに触られて感じてくれてる? 欲情してくれてるの?」  
 粟立つ太股を経て、マイクロミニのスカートの中へと手を潜り込ませた。  
 ショーツの股間に当たる部分が、じっとりと湿っているのが分かる。  
「…見れば…わかるでしょ。それくらい…」  
「ホント…。あんたのココ、グチョグチョになってるもんね。熱くて、ヌルヌルしてて…触ってると溶けそう…」  
 耳元で囁きかけ、スリットに添ってなぞった。  
「ハァ…あぁッ…! あ、あ、あんッ…」  
 布越しに愛撫されるのがもどかしいのだろう。徐倫はいやいやをするように身を捩り、快感に潤んだ瞳をF・Fへ向ける。  
 腰が妖しくくねり、瞳が挑発的に潤む。  
 F・Fは彼女の反応を受け、その場に屈み込んだ。  
 そしてショーツに手を掛け、ゆっくりと引き下ろす。  
 濡れたショーツはくるくると丸まりながら、膝の辺りまで下げられた。  
「あッ…」  
 愛液をとめどなく溢れさせているそこに、F・Fはためらいなく顔を近づけた。  
「徐倫のココも…こんな風になってるんだ。あたしと、同じ…」  
 やや濃い目のピンクに色づいた秘部は、徐倫が喘ぐ度になまめかしく蠢く。  
 淡毛に覆われたそこを指で辿り、押し広げると、生々しい雌の匂いが漂う。  
 
「やッ…! ちょっと…! 顔…近づけないで…。シャワー浴びてないし、生理前だから…匂いが…」  
「関係ない」  
 F・Fは押し広げた秘部にさらに顔を寄せ、ルビー色に充血している突起にキスをした。  
「ハァ…あぁッ…! ん、んぁあんッ…! ダメだってば…F・Fッ…!」  
 舌先で押し潰すようにしてやると、そこはますます尖って大きくなる。  
 ぬかるんでいる膣口を指で辿り、秘裂に添ってなぞると細い体がビクンと跳ねた。  
 淫核を舌で弄い、次々に溢れてくる愛液を啜ると、舌先がピリピリ痺れるような感じがした。だが決して不快な感覚ではない。  
 徐倫の淫唇はF・Fの愛撫に応え、貫いてくれるモノを求めてヒクヒクと痙攣していた。  
 F・Fは自分の左手を己の股間へとあてがい、ぎこちなく愛撫する。  
「ハァ、ハァ、あッ…。ねえ、ちょっと…F・F…。あんた、何…してるの?」  
 F・Fの行動を不審に思った徐倫が、不思議そうに尋ねてくる。  
「…エートロの記憶を参考にしたから、これが普通なのかはわからないけど…。あたし、あんたの事、抱いてみたくて。それで…」  
 
 F・Fはおもむろに立ち上がり、着ているオーバーオールを脱ぎ始めた。  
 ストラップを外すと、それは呆気なく床に落ちる…筈だった。  
 だが、何かに引っ掛かって腰の所に留まっている。  
 F・Fは手を添え、オーバーオールをずり下げる。  
「えぇッ?!」  
 徐倫が驚きの声を上げた。F・Fの股間からは、本来ある筈がないモノが生えている。  
 そう、男性の生殖器が。  
 反り返って天を衝くそれは、今まで徐倫が見た中で一番大きく見えた。  
「それ…どうしたの? どうなってんのよ?」  
「だから、作ったんだって。あんたの事抱きたくて、それで…」  
「………」  
「形とか、その…おかしくない? 実際に見たわけじゃあないからさ、正直、ちょっと自信ないんだけど」  
「たぶん、形はこれでいい…と思う。あたしが見たことあるのよりずいぶん大きい…けど…」  
 徐倫は、恐る恐る、固く突き立っている偽のペニスに手を伸ばした。  
 その手首を掴んで強引に握らせ、囁きかける。  
 
「…これ、あんたの中に挿れてみても、いい?」  
「挿れるって…」  
「徐倫、あたしが何しても、はっきり拒んだり突き放したりしてくれなかっただろ?  
 だから、諦め切れないんだ。あんたを抱きたくてしょうがない。  
 …もしイヤなら、さっさと逃げてよ。あたしを受け入れてくれるのかダメなのか、  
 ハッキリ教えてくれよ。じゃないとあたし、ホントにあんたをキズつけちまうかもしれない」  
 F・Fはすがるような目で徐倫を見つめ、懇願した。  
――もし本当に拒まれたら、あたしはきっと死ぬほどキズつく。だけどそれでも、徐倫がホントにイヤがってる事をしちまうよりはいい。取り返しのつかない事しちまうよりは、あたしがボロボロにキズついた方がずっとマシなんだ。  
 傷つける事を厭うなら、最初からこんな行為に及ばなければ良かった。だけどそれでも、心のどこかで『受け入れてもらえるのではないか』と期待してしまっている。  
「………」  
 徐倫は目を閉じ、迷っている。  
 
 だがやがて覚悟を決めた様子でF・Fに体を預け、キスをした。ほんの少し舌を絡ませるだけの、軽いキスを。  
「ッ…!」  
 突然の事に、F・Fは硬直する。  
 やがて唇を離し、徐倫はこう言った。  
「…あたしの『スタンド』を使えば、簡単にあんたの腕から抜け出せるって…言ったでしょ?」  
「えっ…」  
「抜け出さなかったって事は『このままされてもイヤじゃあない』って考えてたって事。あんたなら…いいわ」  
「ホントに? ホントに…いいのか? 徐倫」  
「あんたから迫ってきたんじゃあないの?」  
「そッ…そうだけど、信じられなくて…。あの、もしあたしに気を遣ってムリに言ってくれてるんだったら、その…」  
 徐倫の真意を確かめる為、弱気な台詞を口にするF・Fの唇を、再び徐倫のそれが塞ぐ。  
「…あんたの事は、好きよ。信頼してる。だから、平気よ」  
 その『信頼』は、仲間としての域を逸脱してはいないのかも知れない。  
 未だ、彼女の心を占めているのは父親である承太郎の事と、かつてシャバにいたボーイフレンドの事なのかも知れない。  
 けれど、それでも良かった。充分だった。  
 
「ありがと、徐倫」  
 細い体躯を抱き返しながら、礼を言う。  
「で、どうやって、その…挿れるの? 横になると背中、痛そうだけど…」  
「あたしが下になる。あんたが感じるとこ、見たいから」  
「…バカ」  
 拗ねるように唇を尖らせつつも、本気で嫌がっている素振りは無い。  
 F・Fは脱ぎ捨てたオーバーオールを床に敷き、その上に仰向けに横たわる。  
「ねえ、何かこの体勢ってさ…屈む時に、丸見えになっちゃわない?」  
「いいじゃん。さっき、もう全部見ちまってるんだから」  
「そういう問題じゃないわよッ! 挿れるとこを見られてるってのがね…!」  
「なに?」  
「…いい。何でもないわ」  
 徐倫は左手で露わになった秘部を隠しながら、ゆっくり腰を下ろす。  
 F・Fの仮初めのペニスを右手で支え、濡れそぼった秘部に導いた。  
「うッ…」  
 ぬかるみに呑み込まれる感覚に、F・Fは眉をしかめる。  
 
「くッ…う、うぅッ…!」  
 徐倫の眉が歪む。圧迫感はあるが、苦痛ではないようだ。  
 入り口で軽い引っ掛かりがあった後、肉棒は根元まで飲み込まれた。  
「ハァ、ハァ、ァッ…。ねえ、F・F…今、あんた…どんな感じなの…?」  
「どんな感じって…すっげぇ気持ちいい…。徐倫の中、濡れてて…熱くて、それで…」  
「あたしも…。あんたの、熱くて固いのが…奥まで来てて…すごく…」  
「ねえ、そのまま…上で動いてみてよ」  
「んッ…。うん…」  
 彼女は小さく頷き、ゆっくりと腰をくねらせ始めた。  
 きつい孔道が偽の男根に吸い付き、きつく締め付ける。  
「あッ…! うッ、ん、あぁッ…!」  
 濡れた粘膜に咥えられ、深々と呑み込まれたまま引っ張られる感触に、思わず声が漏れた。  
 徐倫の動きに合わせて粘膜がうねり、ペニスを複雑な形にねじ曲げられる。。  
 
「ハァ…、アッ…! ねえF・F、あんたの声ってさ…」  
「ん…ッ、あぁッ、あッ…! なに…? 徐倫…」  
「どっちが挿れられてるのか、分からないわよ」  
「だって、それは…! あ、や…ッ! ん、あぁッ…!」  
 上げている嬌声がはしたないという事なのだろう。けれど、こんな状況でまともな受け答えが出来る訳も無い。  
 F・Fは唐突に徐倫の腰を押さえ、動きを止めた。  
「…? どうしたの? F・F?」  
 じれったそうな表情でF・Fの瞳を覗き込み、尋ねてくる。  
「さっきの言葉の仕返し。『どっちが挿れられてるのか分かんない』って言ってたからさ、きっちり教えてやろうと思って」  
「えッ…?」  
 
「あんたがもっと焦れて、いやらしい顔してあたしを欲しがるまで、動かしちゃダメ…って言ったらどうする?」  
「な、何言ってんのよ、あんた…」  
「あんたの事、欲しいんだ。こんな機会、二度と無いかも知れないからさ、あんたの全部、見ておきたい。あんたにももっと、あたしを欲しがってもらいたい」  
 結合部へと手を伸ばし、コリコリとした突起を指の腹で愛撫する。  
「あッ…! やッ…」  
 反射的に手を払いのけようとするが、F・Fは動きを止めようとしない。  
 指先が敏感な部分をかすめるたびに、細い腰が跳ね、陰茎が強く締め付けられた。  
「あッ…! んッ、あぁ、あぁんッ…!」  
 上気した喉が反り、噛み締められた唇から喘ぎ声が漏れる。  
 強い快感に、徐倫の腰がうねり始めるが、手で厳しく制する。  
「はぁ、あぁッ…うッ…! F・F…! お願いだから、もう…これ以上…止められると、おかしくなりそう…!」  
 激しい呼吸の間から、懇願する言葉が聞こえる。  
 …何だかんだ言ってF・Fは、徐倫の頼みには弱い。  
 
「うん、分かった。それじゃあ…」  
 徐倫の腰に手を掛け、一度、ペニスを抜き掛けた。  
 そして再度、根元まで呑み込ませる。  
「あぁあッ…! もっと…あ、あぁッ! んんッ…!」  
 閉じ掛けた肉襞を押し広げ、肉茎を突き入れる快感に背筋が痺れた。  
「ハァ、ハァ、あッ…! 徐倫…徐倫ッ…!」  
 狂ったように律動を繰り返し、ひたすら快楽を貪る。  
 結合部から溢れ出したものが、コンクリートの床を汚した。  
「あ、あぁッ…! F・F…! あたし、もうッ…!」  
「んッ…! 徐倫…! いいよ…イッて…。あたしで、いっぱい…」  
「あぁ、あッ…! んぁ、あ、あぁ、あ、あああぁッ…!」  
 徐倫の内襞が、F・Fのモノをひときわ強く締め付けた。  
 強く吸い立てられ、F・Fも絶頂を迎える。  
 
 ドピュッ、ドクッ、ドク、ドクッ…!  
 
 脈動と共に、人間のものとは違う体液が溢れ出した。  
 
 まだ快楽で痺れているモノを徐倫の中に収めたまま、F・Fは呟く。  
「何となく、分かった気がするかも…。人間が、どうして繁殖目的じゃないセックスを、したがるのか…」  
「なに? どうしたのよ、いきなり…」  
「…今、出したばっかなのにさあ、何ていうか、その…またしたくなっちまった」  
「ちょッ…! 冗談は顔だけにしなさいよ。体力もたないって…!」  
「あッ、別に今すぐどうって事じゃないんだ。たださあ…」  
「ただ…何?」  
「また、あんたと気持ち良くなりたい」  
「…動物にオナニー教えると、死ぬまでやり続けるって言うけど、そんな感じ?」  
「違うって。あんたとだから、あんなに気持ちいいんだって。…だからさ」  
 徐倫の手首を掴み、抱き寄せてから、耳元でこう囁いた。  
「また、一緒に…しような。徐倫」  
 

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