「ああぁぁっ!!」
秘所を貫く痛みと熱に、洋子は苦悶の声をあげた。
中はほぐされ濡れてはいるが、いきなり勢い任せに打ち付けられては苦痛ばかりが先に立つ。
捕らえられた手足を何度もばたつかせ、首を激しく振って拒絶の意思を示す。
逃れられないとは分かっている。
それでも、ただ黙って受け入れる事が出来ない。
数知れぬ男達の気配。いくつもの腕。荒々しい吐息と、嗤う声。
次に何をされるか分からない不安と、今自分に向けられている明確な暴力。
閉ざされた視界の外から襲い来るあらゆるものが、息も整える事の叶わない恐慌ばかりを促すのだ。
「や、あっ、いやっ……! ぬい、て……抜いてっ……!」
助けを乞うように伸ばされた腕は、手首を掴まれてしまってもう動かせない。
石の床を引っ掻く指に痛みが走り、僅かな湿りが指先に滲んだ。
それさえ気にも留めず、ただただ恐れおののく心にまかせて洋子はもがいていた。
彼女が僅か程も意味を成さない抵抗を続ける内に、凌辱者の腰の動きは激しさを増してきていた。
肉と肉が擦れ合って生じる熱と、息をつく暇も与えぬ律動が、より強い圧力を秘所に加える。
出る──荒々しい呼吸と獣じみた呻きの合間に聞こえた声が、彼女の脳内にはっきりと響いた。
考えるより速く、唇が鋭い声を発する。
「ひっ、ぃっ……! いや、やめて、やめっ」
じわりと、熱が奥で滲んだ。
口も閉じられないままで、洋子はその感触を膣内に刻み込まれた。
中で何度か震える肉棒から放たれる、生温い液体。
奥へゆっくりと流れていく、おぞましい感覚。
何か取り返しのつかないものを奪われたかのような虚無感が、体の芯からぞわりと込み上げてくる。
堪えきれぬ悲しみに押されて鳴咽を漏らすばかりの彼女に構う事なく、欲まかせの暴力は続く。
一番手が抜け出ると間を置かず次の男根が入ってきた。
またしても力まかせの挿入をされるが、痛みはいくらかやわらいでいる。
摩擦によるそれも、始めの比ではない。行為に慣れてきているのか。
それは彼女にとって、救いとは言い難かった。
体が痛みに順応しても、心がそれに従わなければ苦しい事には変わりない。
徐々に意思とずれ始める体の感覚に困惑する洋子を揺さぶるように激しい抜き差しは続き、やがてまた膣奥に熱が広がる。
涙ながらにしゃくり上げる声の中に、いや、と消え入りそうな言葉が混じる。
もう何度零したか分からない、拒絶の言葉。
行為に対するものか、自身の体に対してのものなのか、分からなくなりつつある。
達した男が離れると、強引に体を転がされた。顔や胸を硬い床に押し付けられ、洋子の表情が苦しげに歪む。
俯せの体勢にされた身を少し浮かせると、いくつもの痛みが走る。
それでもここから逃れたくて、彼女は手足に思いきり力をこめた。
「っ……! うっ……く……」
疲労で重い身体を持ち上げて、四つん這いになる。
そして擦り傷だらけの両手足を動かして、前へ、前へ。
笑い声がそこかしこから聞こえてくる。何処へ逃げたら良いのか、分からない。
目隠しが邪魔なのだ。
動転していて今更のように気付いた洋子が片手を顔に伸ばそうとしたが、遅かった。
真後ろに迫っていた男が彼女の腰を両手で掴み、後背位で挿入してきたのだ。
熱の冷めきらぬ秘唇に打ち付けられるものの猛々しさに震え、洋子は嘆きの悲鳴を上げる。
「ひぁっ……もう、いやっ……! いやぁっ……!」
非力な女の抵抗を嘲笑いながら、男はピストンを繰り返した。
棹に絡み付く襞を突き放すように引き抜いては、閉じかける穴を抉るように貫く。
最奥まで突き込むたびに、ぱん、ぱん、と洋子の尻に男の下腹部が叩きつけられる。
相手の事などまるで省みない、一方的な挿入だというのに。
「んあぁ……あっ……こ、こんな……」
女の肉体は、男を拒まない。
乱暴に掻き回されて、喜んでいるかのようにうねりペニスを締め付ける自身に、洋子は上擦った声をあげた。
駄目、駄目と頭の中で自分を責めるのに、身体は信じられない程に彼女を裏切る。
男の動きに応えて細い腰は揺れ、唇からは媚びるような甘い息が零れる。
劣情が、拭えぬはずの嫌悪感を上回っていた。
「は……あぁ……んふ……」
上半身を必死に支えていた腕ががくりと曲がり、洋子の頬が再び石の床に押し付けられた。
暴力にも、快感にも、抗えるだけの気力はもうない。
一度諦めが心にさすと、脳内を性感だけが支配しはじめる。
もう、どうだっていい。ぽつりと、そんな言葉だけが浮かんだ。
「は……あ……」
男の動きが止み、腹の奥がじわりと熱くなった。
また、中で射精されている。
虚ろな思考がそこに行き着くと、恐れや絶望だけでない、奇妙な感覚に背がわなないた。
そんな自分を哀れむ暇もなく萎えきらぬものは抜け出て、すぐにがちがちに勃起したものが洋子の膣をこじ開ける。
腰の動きや息遣いから別の男だと分かるが、もう厭いの声は上げない。どうせ受け入れる事しか出来ないのだ。
よほど待ちわびていたらしく、抜き差しされる肉棒の摩擦は激しい。根元まで嵌め込まれると入り口から体液が飛び散り、床にびちゃりと零れる。
内腿に幾筋も伝う、ぬるい混合液の感触。耳に入ってくる、顔も分からぬ男の荒い呼吸と卑猥きわまりない交わりの音。
興奮をかきたてる要素ばかりを与えられた身は熱に浮かされ、持ち上げられた尻はねだるように男の腹に擦り付けられた。
女が抵抗を諦めた事を悟ったのか、数人の男が嗤う。
そして中を貫く者とは異なる気配が、洋子の傍まで歩み寄ってくる。
不意に、弾力のある何かで頬をぺちりと叩かれた。
牡の臭いを放つ生温かいそれは、うっすら開いた彼女の唇に押し付けられる。
「歯ぁ立てんなよ」
そう告げて指で唇をさらに開かせ、男は中に昂ぶったものを押し込んだ。
噛もうとはしないが、自ら舌を絡めようともしない。
ささやかな抵抗……という訳ではない。ただ億劫なだけだった。
男がくたりと垂れていた洋子の頭を髪ごとわし掴みにし、前後に振ってペニスを出し入れする。
「ふぐっ……んむぅ……」
苦しげに顔を歪める洋子だが、やはり拒まない。されるがままに口淫を受け入れている。
先端で喉奥を容赦なく突かれて嘔吐き、口内に滲む先走りの苦みに涙を落とす。
鼻から吸い込む空気は濃密な性臭を体内に送り込み、言い知れぬ不快感を染み渡らせた。
見も知らぬ男達から、こんなにも酷い辱めを受けているというのに。
男根を包み込むように口内に唾液が溢れ、出し入れされて鈍い水音が立つ。
秘唇は喜んでいるかのようにぐずぐずに潤み、膣壁は吐精を乞うて肉棒に吸い付き、締め上げる。
べたついた指にいたぶられた乳首は硬くしこり、膨らみを撫で回されれば甘く間延びした息が漏れる。
女の本能は、蹂躙行為を求めてさえいた。
「んうぅっ……ん、ふ、ふっ、んぷっ」
口の中いっぱいに広がる生臭い白濁を無理矢理飲み下させられながら、洋子は堕ちきらぬ心でただただ早くこの悪夢が終わればいいと願っていた。
「はぁー……はぁー……はあぁ……」
どれだけの時が過ぎただろうか。
ぐったりと上半身を横たえたままの姿勢で、洋子は背後から秘所を突かれていた。
男が前後に勢いよく腰を振るたびに、結合部からぐちゅりぐちゅりと泥を掻き混ぜるような音が響く。
何度も男根を受け入れた秘所はすっかりほぐれきっており、白黄混ざった粘液に塗れた陰唇は熱く蕩けていた。
精液に紛れて区別はつかないが、彼女自身から漏れ出た愛液の量も相当なものであった。
最初こそ秘所を傷つけぬ為の潤滑液程度のものだったが、もはやその比ではない。
どんなに頭で否定しても、本能的な快感を立て続けに与えられた秘部は悦び、ますます涎をたらすのだ。
「ひあぁ……あっ、はあ、あうぅん……」
黒いアイマスクの下で、洋子の瞳は恍惚に潤む。
無為な抗いをやめた体は波のように押し寄せる暴虐をあるがまま受け止め、生じる淫悦に溺れていた。
行為に慣れてしまうと、視界を閉ざされて感じていた恐れも、刺激を引き立てる要素にとって変わっていく。
汗と唾液と精液とが混じり合って放つ臭いは感覚の麻痺した鼻腔に染み付き、異常なまでの興奮を促す媚薬と化していた。
開いた口から舌をのぞかせ、はっ、はっ、とせわしなく呼吸をする洋子。
羞恥に嘆く理性の声に、応える事はもう出来そうにない。
目に映らぬところで男達のいくつもの手が、陰茎が、身体中を犯していた。
律動に揺れる乳房をぐにぐにと揉みしだかれて。
際限ない快楽に震えの止まらない腰や足を撫で回されて。
滑らかな頬や艶やかな髪に一物を擦りつけられて。
男の臭いと感触を全身にまとわされ、思考は瞬く間に遠ざかっていく。
「ああぁぁ……」
低い呻きと共に胎内にザーメンを注がれて、洋子は気怠い声を上げた。
汚されるのに慣れた身とはいえ、哀しみは消えない。新たに流れた涙が、視界を遮ったままの厚布を濡らす。
用を済ませたものがずるずると外へ出ていった後、開いたままの入り口はひくひくと震えていた。
何回分の射精を受けたのか。黄ばんだ精液に満ちた秘部は、中が空くとぐぷりと濁った音を立てて外へ漏れ出し、尻や足を汚した。
しかしその開放感もつかの間のものに過ぎず、すぐまた違うペニスに穴を塞がれる。
腰を掴まれ激しく揺さぶられ、中を抉られ掻き回される。その繰り返し。
だが、しばらくしてそれが前触れもなく収まった。
絶えず秘所を埋めていたものがなくなって、冷えた空気がそこに触れる。
使われ続けていた秘部は状況についていけていないらしく、まだ時々花弁を震わせては中を収縮させている。
しかし休息を与えられた事に安堵した為か、体のあちこちが疲労や痛みを訴えてきた。
持ち上げられていた腰を落とし、気怠げに身を寝かせる。
──終わったのだろうか。
どんより靄のかかった頭で、そんな事を思う。
しかし、やはりそのような事はなく、頬をぺしぺしと叩かれた。
「おい、起きろ」
どこか楽しげな男の声。まだ、あれが続くのだろうか。
うずくまったまま身を縮こまらせ、洋子は起き上がろうとしない。
疲弊した体はこれ以上の酷使を望んではおらず、脱力したまま石床から離れない。
動かずにいる彼女の耳に舌打ちの音が聞こえたのと同時に、髪をぐいっと掴まれた。
「っ……ぅ……」
「いい事を教えてやる。あんたんトコの所長さんな、今俺らが預かってんだよ」
所長という単語に、洋子の唇がひくっと震える。
「まだたいした事はしちゃあいないが……後はあんた次第だな」
男の言葉の一つ一つが、鈍った頭の中に毒のようにじわじわと染み込んでくる。
試すような物言いだったが、選択の余地などありはしなかった。
洋子がのろのろ体を上げると、男の手は行き先を示すように髪を強く引っ張る。
それに従って四つん這いで進む彼女だが、動きはおぼつかない。彼女の体力は、もう限界なのだ。
そんな事には構いもせずに、男は彼女の髪を引いて歩き、やがてぱっとその手を離した。
「ぅ……っ……あぁ……」
へたりこむ洋子の四方から、また何人かの含み笑いが聞こえる。
何度聞いても慣れない、悪意に満ちた声だった。
不意に両脇に誰かの腕が入り込み、体を持ち上げられた。
逆らう動作も出来ぬままに降ろされた先は、冷たい床ではなかった。
剥き出しの肌に触れる布のような感触と、その下から感じられる温もり。
そして間近に感じるくぐもった呼吸音から、何者かの体と密着しているのだと気付く。
胸の辺りにもたれかかるような体勢にされた事に戸惑って腰をずらすと、秘所に何かが触れた。
柔らかくも、弾力のある触れ心地。熱く滾った、棒のような形のもの。
頭で察する前に、背筋がぞくりと震えた。
暴行の続きに対する恐れと無意識の部分の疼きが、洋子の中に再び湧きあがってくる。
後ろから耳元にぬるい息を吹きかけながら、男が何事かを囁く。
思考が一瞬停止した。告げられた言葉を反芻し、数秒かけてその意味を理解する。
自分で挿れて、動け。
男はそう言ったのだ。
出来ない──その意を首を小さく、しかし何度も横に振って彼女が示すと、また男が毒を吹き込んでくる。
「"先生"がどうなっても知らねぇぞ?」
「……っ………」
従うしか、ない。
零れ落ちた微かな吐息は、深い諦めに満ちていた。
正面の男の胸から身を少し離し、両手に力を入れて、腰をゆっくりと持ち上げる。
濡れそぼった割れ目にそそり立ったものが時々触れて、僅かばかりの刺激が生じる。
その度に反応しそうになる身を抑えながら、片手を男のものに添え、先端を膣口にあてがった。
びんと張り詰めた男根に触れながら、自分は今、何人目の男のものを受け入れようとしているのだろう、と考える。
粘液に塗れていないそれは、今まで彼女の中に入り込んできた男のものとは異なると分かる。
周囲からは無数の野次と嘲笑の声。何人いるのかなど分からないし、数える気も起きなかった
考えるだけ辛くなる疑問を頭の片隅に放り、洋子は腰を落とし始めた。
顔も分からぬ男に犯される為に。
熱液でとろとろにほぐれた女陰が、だんだんと肉棒を飲み込んでいく。
中に湛えていた濁液をほんの僅かな隙間から零しながら。張り出た箇所で襞を押し広げられながら。
「ぁ、っ……!」
奥に亀頭がぶつかったところで、洋子は喉を反らして息をつまらせた。
自重を支える腕に力が入らず下半身を下まで落とし込んでしまうと、根元までずっぽりと嵌まってしまい、行き止まりの部分にぐりぐりと押し当たる。
深い場所から痛みを感じるが、それをも越える快感が腹の底から込み上げてくる。
飲まれてはいけない。
自我を保ってなけなしの力を体にこめるも、芯から滲み出る熱に何もかも奪われてしまいそうになる。
男の方は荒い呼気を漏らすだけで、彼女を急かす真似はしてこない。自分から動こうともしない。
欲望そのものを叩きつける行為のような恐怖はないが、また別の忌避感を感じずにはいられなかった。
この男を満たすまで、彼女は望んでもいない性奉仕をし続けなければならないのだ。
はしたなく腰を使って……男性器を包み、締め付け、それを何度も繰り返して……
そんな自分の有様を思い描きながら、洋子は体を上げていく。
「は……あぁぁ……」
潤んだ内壁を屹立に擦られ、甘い喘ぎを零してしまう。
自分の意思ではないのだと、頭でどんなに言い繕っても抑えきれない。
腰を落としては上げ、男を柔らかく迎え入れては締め上げ、どろりと粘った潤滑液で汚れきった互いを擦り合わせる。
次第に高まる勢いが、熱量が、理性と体を切り離して忘我の心地へと持っていこうとしている。
周りからは蔑みの声と笑いが絶え間なく投げつけられる。
男の上で浅ましく腰を振り、熱っぽい声をあげて悶える自分は、どんなにいやらしく映るのだろう。
他の者達と違い、目前の男は何も声をかけてはこない。
時折身じろぎするものの、求めるような動きとはどこか違う。
だが、きっと嘲笑っているのだろう。周りの男達と同じように、乱れきった姿の自分を。
快楽を引き出す為に動いているのは彼女だけ。男達は今は皆、傍観者でしかない。
ただそこにいるだけの男を、自分が、犯しているのだ──
「……っ……!!」
噛み締めた歯がかたかたと震え、涸れた筈の涙がまた流れ落ちた。
ぐすぐすと啜り泣きながら激しく下半身を揺らし、振り、中の柔肉を男根に押し付けてゆさぶる。
終わりたい。終わらせたい。ただそれだけを希って。
ぐちゃぐちゃという水音と自分の上擦った声を耳に入れたくなくて、一心不乱に身を上下し続けた。
役に立たない両目をぎゅっと閉じてしまうと、熱気とこもった臭いが肌に伝わってくる。
自身と、何人もの男が分泌したさまざまな液の臭い。
そして、その中に違和感のあるものがひとつ。
それは、嗅ぎ慣れた、あの人の──
「はぁっ、ん、んっ、あぁぁー……っ!」
それと理解しきるより早く、女の限界は訪れた。
身体を固くこわばらせ、喉を震わせて絶頂の声を放つ洋子。
きゅうっと収縮させた膣の奥で、熱がじわりと広がっていくのをかろうじて残った思考のかけらで悟った。
数度震えるものに欲を放たれ、安堵と哀しさが交ざった感情が空虚な心を覆っていく。
体も心も擦り減らして、もう疲れきってしまった。
今度こそ終わったのだと、思わせてほしい。
怠さにまかせて男の肩にもたれかかった体勢で荒い息をつきながら、洋子はどこか懐かしさを感じさせる温もりに無意識に頬を寄せていた。
「……………」
どれくらいの間、そうしていたのだろうか。
誰かの気配が後ろから近付いてきた事に気付いて、洋子は我を取り戻した。
太い指が耳の辺りを掠め、何かを外している。
呼吸を落ち着かせたところでそっと目を開くと、ぼやけた視界に暗闇以外のものが映った。
ようやく目隠しが外されたらしい。
これでおしまいなのだ──そう考え至り、ほっと息を吐く。
まばたきをして目をこらすと、不鮮明だった像がだんだん輪郭を成していく。
男物のスーツの生地と、その下で汗に湿っているシャツ。
すっかりよれてしまっている、落ち着いた色合いのネクタイ。
全て、見覚えのあるものだ。それも、ごく最近に。
状況が掴めないまま、洋子はぼんやりとした眼を上へと向ける。
緩んだ襟元から覗く汗ばんだ喉元、頤、そして……
慕ってやまない男性の顔が、真正面から映り込む──
「……ぁ……」
眼を、大きく見開いた。
燻っていた熱の名残りが失せ、頭の中が急速に冷えていく。
猿轡をかまされ、手足の自由を奪われ、彼女に身を寄せられている男。
疲労の色を濃く浮かばせている顔を強張らせ、交わった視線を離せずにいる男。
繋がり合ったままの互いの秘部。
その感触と、彼の苦渋に満ちた表情と、自分達を包み込む嗤いと罵声から、ようやく全てを──理解した。
「あ、あ、あぁぁ……」
横に何度も首を振り、目の前の事実を弱々しく拒む。
その無意味さを分かりきっている心が、音を立てて軋む。
押し潰されて、わなないて、そして──
「──……っ、───!!」
割れんばかりの叫び声をあげた。
どんな言葉を、どんな意味を込めて発したのかすら、彼女自身分からなかった。
両の掌で泣き濡れた顔を覆い、髪を振り乱し、彼の傍から逃げるように身を離してうずくまる。
ぼろぼろになったブラウスで汚された身を庇い、彼の目にとまらぬように背を向ける洋子。
だが、もう、手遅れだった。
男達が口々に罵っている。
今更何を隠すのか。
あの男は犯されているお前をずっと見ていた。
助ける事も目を逸らす事も出来ずに、ただ見ているだけだった。そして──
よがり狂っているお前を見て、昂ぶっていたのだ、と。
うちひしがれた女にこれ以上ない程の駄目押しをして満足したのか、男らは束縛されたままの彼を振り返る。
感情全てを抜き取ってしまったかのような彼女の表情とは対称的に、あらゆる負の念だけをかき集めた、憎しみそのものを湛えた眼をしていた。
しかし男達は動じず、小馬鹿にした笑みを消さない。檻に捕われた獣同然の今の彼は、見せ物に過ぎなかった。
茫然として俯いたままの洋子の耳に、いくつかの音が入っては通り過ぎていく。
彼への男達の思い思いの罵声と、数発の殴打の音。
最後に足音だけがエコーがかったように響き、やがて消えていった。
静寂だけが残った空間で自失している事、しばし。
男達の気配が完全に無くなった事に気付いて、洋子はすうっと顔を上げた。
遅々とした動作で後ろを振り向くと、荒く息をついている彼の姿が目に留まる。
さっきよりも服が汚れ乱れている。
去り際の暴行のせいだろうか。
さほど手酷い仕打ちではなかったらしく、痛みを堪えている様子は見られない。
それだけは、ささやかな救いだった。
殆ど這うような状態で近付いていく洋子。彼の顔は見ようとせず、俯き続けている。
目前まで辿り着くと、出されたままの彼のものが視界に映った。
液に濡れてべたついたそれを見て、彼女の心が再びずきりと疼く──自分が汚したのだ、と。
放り捨てられていたスカートのポケットからハンカチを取り出し、そっと汚れを拭き取る。
やめろ、とでも言うように足を動かしてきたが、止めなかった。
そうせずにはいられなかったのだ。
拭ったものをズボンの中にしまうと、縛られたままの彼の両手に手をかける。
力の入らない指を懸命に動かし、固く結ばれた縄をほどいていく。
そうして彼女の指先が血に赤く滲み出した頃、男の腕に自由が戻り、そして──
彼女の体が、強い力で引き寄せられた。
長時間荒縄と苦闘し続けて赤黒くなった両腕で、きつくきつく抱き締める。
「───………」
言葉もなく。
残された二人は、互いの苦しみと嘆きを、時の許すまで噛み締めていた。