事務所内に、パソコンのキーを叩く音と淡々とした男の声が響く。
神宮寺の調査結果を聞きながら、洋子がそれを報告書にまとめあげているところだ。
ほぼ毎日のパソコン操作に慣れた彼女の指は、滑らかに、そして軽快にキーボードの上で踊る。
だが、この時ばかりは動きの鈍さを隠せなかった。
「……っ、は……」
声音混じりの息が、緩んだ唇から漏れた。
手は止まる事なく文字を入力していくが、その手つきはますますぎこちなくなっている。
そのさまに気付いてはいるものの、神宮寺の報告の声は途切れない。彼女の脇から伸ばした両手の動きもまた、止まる事はない。
助手用の椅子に腰掛けて作業する洋子は、神宮寺の手によって後ろから胸を揉みしだかれていた。
薄手のブラウスのボタンは半端にはずされ、はだけた箇所からは膨らみの形の歪むさまが垣間見える。
指を食い込ませ、掌を擦りつけるような丹念な愛撫を受けながら、洋子は神宮寺の報告に耳を傾け、パソコンと向き合っているのだ。
「んっ……うぅん……」
言葉を区切る合間に、神宮寺は洋子のうなじに口付け、甘噛みする。
吹きかけられる息と刺激に震える女の体を、彼は試すように弄ぶ。
調査内容を細部まで、焦れる程穏やかな口調で語りかける彼は、彼女がこのささやかな快感に耐えかねるのを待っていた。
「ああっ……」
胸だけでは飽き足らず、神宮寺の片手が下方のスカートをたくし上げた。
程よく肉付いた腿を男の五指に撫で回され、洋子は思わず声を上げてしまう。
彼女の細い肩がこわばり、指の動きがぶれる。誤って入力してしまった文字を慌てて削除するが、指の震えは止まらない。
それに構う事なく、神宮寺は仕事上必要な事だけを洋子の耳元で囁き続けている。両手で施す淫らな行為からは考えられない程に冷静な声で。
みずみずしい肌の上を滑る指は付け根に行き着き、ついには下着の隙間に潜り込んできた。
既に蜜を滲ませている秘唇を割り開き、柔らかい粘膜を複数の指で掻き乱す。
胸を捏ね続ける方の手の優しい動きとくらべると、秘部に宛った指はいくらか乱暴に中をまさぐっている。
そうしてわざと音を立てて愛撫を重ね、彼女の理性を崩さんとしているのだ。
耳をくすぐる男の声と、温もりと、快感──その全てに惑わされ、細められた洋子の目がじんわり潤む。
だが、これでは到底鎮まらない。
「あぁ……先生っ……」
キーを叩く事さえやめて、洋子は背もたれ越しに神宮寺の胸に体を押し付けていた。
ぎしりと椅子を鳴らして身を委ねてくる彼女の様子を見て、彼は愛撫の手を止める。
「……どうした? 手が止まっているぞ」
「は……ぁ……」
不意に呼びかけられ、つい先程まで全身に満ちていた甘い浮遊感が遠ざかっていくのが、彼女には感じられた。
足りない、と体は訴えている。腕に力をこめてみても、集中する事が出来ない。
感覚の鈍った指をキーボードへ伸ばしてはみたものの、まともに打てるとは思えなかった。
「……すみません」
消え入りそうな声で詫びながら、洋子はゆるゆると首を振る。
「……無理、です」
「無理……?」
ひそめた声で問う神宮寺だが、表情は変わらない。想定通りの言葉だったからだ。
「このままじゃ……つらいんです……先生」
恥ずかしげに目を伏せながらも、半端に疼く箇所を慰めたくて、腿を擦り合わせている。
「お願いです……早く」
その言葉の通り、乞うような眼差しで洋子は神宮寺を見上げた。「……イかせて、下さい」
彼女の瞳には、口元に満足そうな笑みを浮かべた男の顔が映っていた。