『雪語り』
真っ白な冷たい絨毯のうえ、独り女がとすんと倒れていた。
その肌はまるで透明色のように真っ白で透きとおっている、そして唇だけが赤い血のような色を浮かべるはずだった。
しかし その女は常と違った。
真っ白な肌には青痣がいくつも浮かび、服は裂け、右足は曲がっていた。
ただその表情だけは汚れなく、安らかに美しかった。
女は、そんな美しく痛めつけられた空間の中心だった。
あぁ、この女を連れ帰り、思うさま犯したい。
たとえば男なら思っただろう。初めはただ息を飲んだだろうに。
だが、ここには雪以外、なにも誰も見当たらない。
そこにあの男が通りがかったのは、それから何時後だったろうか。
もし男が気づくなら、笑みがこぼれたその後に、あまりの痛みに顔を歪めた、女の悲鳴が鳴くのだろう。
601 名前:おとな 投稿日:2008/11/08(土) 03:05:43 ID:1RJN2qJy
洋子は、意識を取り戻す。
雪がただ、降り積もる様が見える。
体が妙に、重い、動かない。
先生?ここは?いったいなぜ?
いつもの言葉は頭を回り、まとまらずに霧散する。
雪の上に転ぶ体を起こそうとするが叶わない。込めた力は水のように抜けていくのだ。
あの上から落ちたのだろうかと 崖を見上げられずに、目だけで様子を伺い知ろうとした。
その時になってやっと、顔にかかる影から、背後に人の気配を知った。
うつ伏せになっている自分の背中に、ぐいと足を置く誰か。
洋子の血はめぐり一気に記憶が遡っていく。
だがこの誰かはお構いなしに、洋子の胴の下につま先を滑り込ませ、その体を乱暴に仰向けに返した。
弱い所に入った衝撃に、洋子はたまらずに咳き込んでは、その振動の誘発する全身の痛みに堪え、涙を溢れさせる。
今まで想像したことさえないような、信じられないほどの痛みが全身を支配している、
このときやっと、洋子は自分があの崖から落ちたのだということに確信を持った。
こんな…私…どうし……先生、先生は…?せん…っ
混乱する頭で、助けを求めて叫ぼうとして声にならない呼吸と想い、混ざって涙が零れる。
浅い呼吸を重ねて必死に酸素を求めるが、痛みによってそれさえもままならない。
い、き… が、…っ
さらにその時片手で軽々と、洋子の上半身は抱き起こされた。
「ッ…ぁ……っ…!!」
その衝撃はすぐさま裂かれるような異常な感覚となり全身を駆け巡って、
叫ぶ事もできないほどの絶望的な痛みとなり、洋子は意識を失った。
男は、洋子の体を担ぎ上げ、ゆっくりと歩みを進めた。
洋子君!しっかりするんだ…!
先生……! っ大丈夫ですか?どこかお怪我は…?!
夢の声に起こされて目を覚ますと、洋子は見知らぬ部屋にいた。
木製の壁…どこかのロッジだろうか、とぼんやり思う。
逃げなくてはとか状況を探らなくてはとか、いくら命令してみても、あの痛みが怖くて少しも動くことができなかった。
硬い床に熱を奪われ、体はすっかり凍え切っている。
このまま、もう先生には会えないのかもしれない。と、思った瞬間。
目頭が熱くなり、込み上げる感情で喉が振るえ、すぐに涙が溢れてきた。
……ぅ…
もうどうしようもなく心細く、不安で堪らない、先生に会いたかった。
普段の冷静な部分はすっかり影を潜めて、弱くて敏感な部分が剥き出された洋子の心には、
今自分のすべきことは消えてしまい、神宮寺へのいとおしさ、せつなさしか浮かんではこなかった。
…っせんせぃ― …ひっ く…… どうして…――― 私…
しゃくり上げたその時。部屋のドアが開く音がした。
洋子の肩が跳ねた。痛みはない、だが震えが止まらない。
ゆっくりと見知らぬ男が入ってくる、身をかがめて。
貼り付けたような笑みを浮かべて。
男は、洋子の前に膝をつけ座って動かない。
「あ……あの、…私……」
洋子は体を起き上がらせようと力を込め、ゆっくりと上半身を起こそうとする。
だが、凍えた体は痛みに支配され、うまく力が入れられない。
腕に体重を乗せようと、震えながら振り絞る。
男は素早い動きで洋子の片手をつかんでぐいと引き、体を無理やりに起こさせた。
乱雑な扱いで、全身の筋肉が一気に緊張する、同時にあの激痛が走る抜ける。
洋子はあまりの痛みに一瞬意識を手放しかけたが、なんとか堪え、唇を噛み、荒く息をついて震えた。
辛そうな洋子の表情をみても、男の顔は相変わらず笑っている。
「ご めんなさ…い… っ離し、て…も、らえ ません…か…?」
洋子は痛みに耐え切れず、息も絶え絶えに男に懇願した。
すると男は、意外にもすぐに洋子を掴む手を離した。
僅かに安堵の色を浮かべた表情で男を見た洋子は、少し息を整えた後、ゆっくりと、礼を言った。
「…助けていただいて…あ、ありがとうございます。……本当に…助かり、ました。」
上半身を起こしている体勢は、怪我で弱っている洋子にとってかなりつらかったが、そのまま続けようとする。
「あの… っ連絡を…、したいんです…お願いです、電話 を……」
頭からどんどん血の気が引き、視界がゆがんでいく。
ぐるぐるまわる視界の中で意識を保とうと必死で懇願する。だが、男の返事はとても短かった。
「さむいでしょう」
「…え…?」
男はそのままの表情で、身を起こしかけた洋子に覆いかぶさった。
洋子は叫んだ、あまりの痛みに我を忘れて、声にならない恐怖を叫んだ。
男は、抵抗する力もない洋子の体を組み敷いて、服を剥ぎ取ろうとしたが、
なかなか思い通りにいかないので、思い切り力を振るった。
服を引き剥がすため、腕を引き捩りあげる、肘を押し込んで押さえつける―――
その動作はあまりに乱暴で、傷ついて弱りきった身体への配慮などは微塵も感じられない。
まったく男の欲望の為の行為そのものだった。
男から溢れ出す荒息の隙間に、洋子の小さく消えそうに弱々しく 悲痛な悲鳴が混じっていく。
「ぁッや… め…―― っ!…っも………あ゛…ぁ…っ!! ひぅ、ぁ… …―っ!!!」
洋子は全身を襲うあまりの痛みの凄まじさに、子供のように咽び、泣き、震えて、かすれた叫び声をあげた。
男の乱暴な腕は止まらず、むしろエスカレートしていく。
咽て叫んでは胃液を吐いて、それでも痛みから解放されずに、とうとう失禁してしまった。
男は気づいて一瞬手を止めると、別に気にした風もなくすぐに作業を再開した。
洋子から服を剥ぎ取りすべてを脱がし終えると、男は立ち上がり満足そうにその姿を見下ろした。
だが洋子には息つく間も与えられず、すぐに、男に満身創痍の身体を力一杯に揉み扱かれるという激痛の嵐が始まった。
この地獄のような苦痛から解放されたのは、折れている右足を力一杯に擦られて、洋子がついに失神した時だった。