「……どういう事だ?」  
 
 李が組事務所に戻ると、岩辺は顔を見るなりそう詰問した。  
「資料を奪えなかった上に、探偵も殺り損なっただと? アンタにしちゃあヘマが過ぎるんじゃねえか?」  
 阿部を失った事で計画に狂いが生じ、更に風林豪造の命も奪い損ねてしまっている。  
 災厄続きのこの現状の中で穏やかでいられる程、岩辺圭一郎という男の器は大きくはなかった。  
「代わりに人質を連れて来ている。龍京から聞いていなかったか?」  
 ドスの効いた叱責にも眉一つ動かさず、静かに答える李。  
 神宮寺探偵事務所での一件の後、李宗一は王龍京と連絡をとり、そこでの一部始終と、一旦組事務所に戻る旨を伝えた。  
 その際、組長には自分の方から伝えておくと王に言われていた。  
 落ち着き払った態度が気に食わないのか、わざとらしく大きな足音を立てながら、岩辺は李に近付く。  
「そいつを助けに、奴が必ずやって来るなんて保証が何処にある? タレ込まれたら手遅れだ」  
「来るさ……必ずな」  
 言いながら、李は組長室の扉の方を振り返った。  
 彼の背に隠れて見えなかったが、扉の側に誰かがいる。  
 彼に促されて前に出て来た人物を見て、岩辺は目を見張った。  
 
「………ほう」  
 低く唸り、口端を歪めて笑う。  
 岩辺の頭をよぎった下賎な考えを示すように、その三白眼に怪しい光が点った。  
 
 岩辺の前に静かに佇んだのは、この場にいるには似つかわしくない、整った身なりをした女性だった。  
 特別着飾っている訳でもなければ、化粧や香水の匂いを濃く纏っている訳でもない。  
 この街でよく目につく、男に媚びる要素の一切を、抜き取ったように落ち着いた装いと風貌。  
 だがそれでも、毎夜代わる代わる相手をさせてきたどの女にも劣らないのではないかと思う程の美貌に、岩辺は舌を巻いた。  
「奴の助手だ……どうする?」  
「そうだな……」  
 一つ息をつき、愉快そうに嗤った。  
「使える内に、使っておくか」  
 
 好色そうな彼の視線に晒され、女性は震えそうになる身に力を篭めた。  
 
 
  *  *  *  *  *  
 
 
 ──君が俺の側にいて、何になる。  
 
 神宮寺の突き放すようなその言葉に、洋子は少なからず動揺した。  
 これまでにも危険な状況に立たされる事はあったが、ここまで辛辣な言葉で傍にいる事を拒絶されたのは、初めてだった。  
 
 自分は本当に彼の助手足り得るのかと、悩む気持ちがまだ消えていなかっただけあり、不安は更に色を増していく。  
 冷たい言動の裏の彼なりの気遣いに気付くだけの余裕さえ、今の彼女にはなかった。  
 
 役に、立てないなら。  
 
 肝心な時に必要とされないのなら、自分が助手である意味など、あるのだろうか。  
 
 自宅への帰路の途中、洋子は足を止め、事務所のある方向の空を仰いだ。  
 じきに雨でも降り出しそうな淀んだ雲に、黒い闇が混じり出している。もうすぐ、夜が訪れる──  
 
 彼はもう、事務所から離れただろうか。  
 
 再び歩き出す洋子を阻むように、いつになく緊迫した彼の横顔が頭にちらつく。  
 どんな状況下においても余裕を感じさせるいつもの雰囲気は、あの時の彼の表情にはなかった。  
 本当にこのままで良いのだろうかと、頭の中で何度も自問する。  
 
 相手が暴力という方法をとる集団である以上、確かに彼の言うように、足手まといでしかないのかもしれない。  
 だが、彼自身がその暴力に屈してしまったその時……  
 
 一体誰が、彼の事を守れるというのだろう。  
 
「……………」  
 
 一際強い寒風が洋子の髪を乱し、通り過ぎた。  
 
 もう一度、自分が歩いて来た道を振り返る。その眼に宿っているものは、惑いより決意の方が濃い。  
 
 彼に全てを委ねて己の身だけを守る事を選ぶなら、自分が助手である事に意味などない──  
 
 家路に背を向け、少し前に停めて来た車の方へと歩き出す洋子。  
 
 その足取りにはもう、迷いはなかった。  
 
 
  *  *  *  *  *  
 
 
 そして、今。  
 洋子の側には二人の男が立っている。  
 神宮寺が調査している保険金殺人に深く関与しているであろう暴力団──岩辺組の組長と、自分をここまで連れて来た中国人の男。  
 事件に関する証拠と引き換えの人質、という名目で連れて来られたものの、このままではその取引は成り立たない。  
 今の神宮寺の手の内には、彼等を告発出来るだけの切り札など、ないのだから。  
 それを彼等が知れば、自分は時を待たずに殺されてしまうのだろう。  
 
 ……それだけではない。  
 もしも神宮寺が証拠となり得るものを入手しないまま、ここに来てしまったなら、彼にも危害が及ぶものとなるだろう。  
 仮にそれを手に入れる事が出来たとしても、この男達が自分達を逃がすとは限らない。  
 いずれにせよ、このままここにいれば、最悪の状況は免れないのだ。  
 
 であれば、自分はどうするべきなのか──  
 
「……アンタ等がチョロチョロ嗅ぎ回ってるせいで、こっちは散々だ」  
 
 その言葉の割に、岩辺の口元の笑みは消えない。  
「いわれのない事で晒し上げられたんじゃあ、堪ったもんじゃないな」  
 
 とぼけた物言いをする岩辺に、洋子は努めて冷静な言葉を発する。  
「貴方達のした事は、もう分かっているんです。全て……」  
 洋子はそこで声を収めた。  
 今はまだ、深入りした発言はしない方が良い。  
 追い詰めるだけの材料などない上に、相手を逆上させてしまっては、自分の状況は一層危ういものとなる。  
「ワシらがやった事を裏付ける証拠……とやらを持っているらしいが」  
 幅広いソファーにどっかりと腰を沈めながら、言葉を続ける。  
「確実にそうだと言える物かどうか分からんだろう? だから、まず見せてもらいたい。それだけの事さ」  
「もし私達が持っている資料が相応の物なら、どうするつもりですか?」  
 愚問と知りつつも、洋子は岩辺にそう尋ねた。  
 今は少しでも多く、時間を稼がなければならない。自分と、いずれここに来るであろう神宮寺の為に。  
 洋子の問いに、岩辺は少し考え込む仕草をしてみせた。わざとらしい動作だった。  
 
「……まあ、それはその時考えれば良い」  
 酷薄な笑みは消えない。  
 答は既に決まって揺るがないのだろう。  
 
「それで」  
 
 何の前触れもなく背後から生じた声に、洋子は体を強張らせる。  
 先程から影のように佇んでいた李の声だと気付くのに、僅かながら時を要した。  
 今までそこにいた事すら忘れる程、彼の気配は希薄だった。  
「あの男を、ここで迎え撃つんだろう?」  
 指示を促すように李は確認する。  
「下の奴等に待ち伏せるように言ってある……が、しかしだ」  
 話を中断された事に若干不服そうにしつつ、岩辺は立ち上がりながら答える。  
「怖じけづいて逃げ出さないとも言い切れん……その時の為の人質だ……なぁ?」  
 最後の呼び掛けは、洋子に向けられたものだった。  
 後半の意味がいまいち分からず、李を見やると、やや不快そうに目を細める。  
「おい」  
 洋子が何か言うより先に、岩辺は扉を開け、側にいた若い衆に何やら指示を出す。  
 扉の向こうの気配が去ると、岩辺は振り返った。  
「場所を変える。ついて来い」  
 
 その目に浮かんだ怪しい光に、洋子は身震いしそうになった。  
 とても嫌な事が、起こりそうな予感がしていた。  
 
 
  *  *  *  *  *  
 
 
 彼等の目的地は、この真夜中の気配とあいまって、不吉な程静まり返った場所だった。  
 黒い海を背景に聳え立つ、幾つかの倉庫。  
 岩辺と組員の会話の中に「ハルミ」という言葉があった事を、洋子は思い出した。  
 それが地名を指しているのだとすれば……ここは、晴海埠頭だろうか。  
 
 組事務所からは随分離れてしまった。  
 神宮寺は洋子がこの場所にいる事を知らない。故に、取引を行う事など不可能だ。  
 彼女も薄々気付いてはいたが、恐らく彼等は、まともに取引をしようなどとは思っていないのだろう。  
 資料だけでなく、真実を知る者全てをも始末しなければ、岩辺達にとっての不安要素は消えないのだから。  
 ただ命を奪われる為だけにここにいるような気がしてきて、俯きがちになる顔を、ぐっと上げた。  
 神宮寺とて、易々と殺されるような男ではない。  
 彼が危険視していた李は、今はここにいる。  
 この男さえいなければ、組事務所内に入っても、無事に脱出する事も出来るかもしれない。  
 ならば、今自分に出来る事は……  
 
「降りろ」  
 やがて一つの倉庫の側に車は停められ、岩辺に一言促された。  
 
 二月の夜の埠頭はあまりにも寒く、車外へ出た途端に凍えるような空気に晒される。  
 
 倉庫の扉前で寒そうに身を縮こまらせ、しゃがみ込んでいた男が、岩辺を見るとすぐさま立ち上がって一礼した。  
 組員の一人なのだろう、岩辺と二、三言葉を交わしながら、後ろに立っている洋子をちらちらと見ている。  
 その視線に嫌なものを感じたのは、決して彼女の気のせいなどではなかった。  
 男は重々しい扉を開け、中に岩辺達を迎え入れた。  
 倉庫内は風が吹き込まない為か、外より幾らか寒さが薄れているが、冷えた体は温まらない。  
 それはきっと、冷気のせいだけではなかっただろう。  
 
 薄暗い倉庫に足を踏み入れると、複数の男の話し声が奥から聞こえた。  
 洋子達の足音に気付いたのか、近付いて行くと声は静まり、刺すような視線がこちらに向けられる。  
 殺気にも似た威圧感の中、岩辺は口を開いた。  
 
「全員集まってるか?」  
「はい。で、その女が……?」  
「ああ……伝えた通りだ」  
 岩辺の答に、周囲の男達が色めきたつ。  
 洋子に向けられていた好奇と卑しさに満ちた視線が、一層増した。  
 
 ここまで来て、自分がどんな目に遭わんとしているのか分からない筈もなく、洋子は震える体を腕で抱えた。  
 
「外を見張っていてくれ」  
 命じてくる岩辺に、李は僅かに眉の端を上げた。  
「始末するだけなら、すぐに済むんじゃないのか?」  
 相変わらずの抑揚のない声音に、抵抗の意が含まれている。  
 岩辺達の思惑を、好ましくは思わないのだろう。  
「奴がもし事務所に来なかったら、この女に資料の在りかを聞かなきゃならん。まずは、ゆっくり話し合おうと思ってな」  
 舌なめずりしながらのその言葉に、何の説得力もありはしない。  
 
 逆らえぬ訳ではないが、それにどれ程かの意味があるとも、李には思えなかった。  
 いずれにせよ、この女の命はここで終わるのだから。  
 
 黙って倉庫を出て行く李に背を向け、岩辺は組員に目配せした。  
 すぐさま数人が洋子に近付き、一人が後ろから肩を抱き竦める。  
 更にもう二人が、抗おうとする彼女の腕をきつく掴んだ。  
「……っ……く……」  
「さて……アンタに幾つか聞きたい事がある」  
 撫でるように耳に囁くダミ声に、鳥肌が立ちそうになる。  
 
「李は来ると言ったが、その探偵が信用出来るかどうか分からん……逃げるとしたら、奴は何処へ行く? それから、資料は何処に隠した?」  
 吹きかかる荒い呼気から逃れるように顔を逸らすと、顎を掴まれ、脂ぎった岩辺の顔に近付けられる。  
「答えろ」  
「……………」  
 
 後ろと前から、男達の吐息が迫る。  
 冷気の中のその生暖かさが、ひどく不快だった。  
「逃げたりなんか……しません。証拠資料も……きっと、先生が………」  
 
 答えながら、いっそ逃げてくれれば良いと、少し思った。  
 彼はここの事は知らない。  
 けれど、気付いてしまうかもしれない。  
 助けに来て欲しくない訳ではないが、あれ程深手を負った神宮寺に、これ以上傷ついて欲しくはなかった。  
「………まあ、いい」  
 フン、と鼻を鳴らし、岩辺は顎から手を離す。  
 その手で白い首元に巻かれていた赤いマフラーを乱暴に引き剥がした。  
 喉を圧迫されて息を詰まらせる洋子の首筋に、岩辺のべたついた掌が這う。  
「くく……」  
 にたにたと笑いながら、彼女を拘束している男達を促す。  
 待ちわびたかのように幾つかの腕が彼女のコートを掴み、引っ張り、薄汚れたコンクリートの床に投げ捨てた。  
 
 中に着ているブラウスのボタンまで外されそうになった所で、洋子は漸く男の腕から逃れ、乱れる呼吸を落ち着けようとする。  
 
「無駄だよ、姉ちゃん」  
 男達が、嘲笑う。  
 
 無駄──それは、自分が一番よく分かっている。  
 
 倉庫内には、十人前後の暴力団組員。  
 外には、殺し屋の男。  
 逃げるどころか、抗う事すら叶いそうにない。  
 
 このまま、されるがままに身を散らすのだろうか。  
 何も出来ないまま……彼の役にも、立てないまま……  
 
「……っ……」  
 再び男の腕にきつく捕らえられ、洋子は痛みに顔をしかめた。  
 その辺に落ちていた縄で両手首を縛られ、床に投げ出される。  
 横ざまに倒れ、体をしたたか打ちながらも体勢を整え、男達と向き合った。  
 無数の野卑な視線に晒されて、怯みそうになる心を必死に保つ。  
 しかし彼女に向けて伸びるのは、幾つもの腕、腕、腕。  
 ブラウスの襟元を力任せに引かれ、前を開かれる。ボタンが幾つか音を立てて引きちぎられる。  
 露わになった下着を隠そうと前に腕を持って行くが、背後の男に上に持ち上げられてしまった。  
「ううっ……!」  
 胸へと伸ばされる手を阻もうにも、腕を上手く動かせない。  
 
 それでも何とか男の腕を振りほどこうと、体を揺らし、足を動かして抵抗する。  
 
「あんまりてこずらせるなや」  
「コイツを使いますか」  
 舌打ちする岩辺の横から、別の男が洋子の後ろの方に垂れているワイヤーを指差す。  
 重機に繋がっているらしく、先端にはフックがついている。  
「そうだな……やれ」  
 指示に従い、男達が洋子の腕の縄にフックを固定する。  
 ワイヤーを少し巻き上げると、洋子の体は、足が軽く地につく程度まで上へと引き上げられた。  
 
 両手を固く戒められ、吊り下げられる細い身体──  
 まるで生贄か何かのようなその無防備な姿に、男達は興奮を隠しもせずに嗤い、息を荒げ、その内側に息づく肉体を想像し、視姦した。  
「押さえてろよ、お前ら」  
 そう言って、岩辺は手をスカートの中へと伸ばす。  
 足をばたつかせて阻もうとする洋子だが、複数の男の手によって体を押さえ付けられてしまう。  
 捲くり上げられたブラウスの下の肌や腕、そして足の方にまでべたべたと這う掌の感触に、鳥肌が立った。  
 岩辺は膝丈程のスカートを焦れったそうにたくし上げ、下着を勢いよくずり下ろした。  
 膝を上げて隠そうとする洋子の動きをた易く封じながら、そこを覗き込む。  
 
「たっぷり味わってやるからよ……感謝しな」  
 
 叫び出したい程の恐怖に駆られながらも、唇をきゅっと閉じたまま、洋子は捕らえられた手足を必死で動かす。  
 そんな彼女の様子を笑いながら慌ただしくベルトを外し、いきり立ったものを抜き出した。  
 
 洋子がもがく度にずり落ちるスカートの裾を若い衆に持たせ、広げさせた下肢の間に体を割り込ませる岩辺。  
 近付く荒い吐息から顔を背ける洋子の腰を掴み、秘唇を強引に貫いた。  
 
「ああぁっ!!」  
 
 鈍く重い痛みに、耐えきれず洋子は悲鳴を上げた。  
 濡れてもいなければ、解されてもいない。  
 未通でなくとも痛みを伴う挿入に、洋子は辛そうに身を捩じらせる。  
 彼女の様子になど構う事なく──寧ろ、それを愉しんでいるように腰を打ち付ける岩辺。  
 中を抉るように熱の塊を奥へと押し込んでいく。  
「ぐ……ぅっ、あうっ!ああっ……!」  
 苦しさに堪らず声を上げる洋子を、取り囲んでいる男達が眼をぎらつかせて見守っている。  
 苦痛を滲ませた声であっても、この状況においては興奮を誘うものに過ぎない。  
 それに気付いた洋子は、唇を強く噛み締め、喉をついて出てこようとする声を押さえ込む。  
 
 ささやかな抵抗……それでも、怖じけそうになる心を支える為には、そうする事位しか出来なかった。  
 身動き出来ぬ中、せめてペニスの侵入を妨げようと膣に力を篭める。  
 しかし、ただ男根を刺激するばかりのものでしかなく、拒絶にすらならない。  
 
「おおぅっ……こいつは………へっ、なかなか……締まるじゃねえか」  
 感じているのか、と嘲られ、洋子はふるふると首を振る。  
 肌蹴たブラウスの内側の胸を掴み、力任せに揉みしだく、汗ばんだ手。  
 体の芯から凍りそうな程の寒ささえ、男達に押し付けられる生々しい熱の感触に遮られてしまっていた。  
「ん、くっ……んんぅっ………」  
「おら、おらっ……!黙ってないで、何とか言ったらどうだ……ああ?」  
 乱暴な律動の最中、声を押し殺す彼女の様が気に入らないのか、罵声を浴びせながら下半身を叩きつける岩辺。  
 ブラジャーの中にまで突っ込んだ手の力は強まり、押し潰すように胸の形を歪ませる。  
「ぐっ……!」  
 噛み付かんばかりの勢いで施される口付けに、洋子は食いしばった歯に更に痛くなる程の力を篭めた。  
 口内のどこかを噛み切ってしまったのか、血の味が滲む。  
 
 吸い付いてくるがさついた感触に眩暈を覚えかけたところで、やっと唇が解放され、腰のペースが速くなる。  
 
「ぐうぅっ……出る、出るぞっ!中で受け止めろやっ……!!」  
「………っ!んんっ……ぐっ、ううぅっ……!!」  
 
 髪が乱れる程首を振り、捕らえられたままの脚をばたつかせ、それでも唇はきつく結んだまま、洋子の膣内は望まぬ精を受け入れた。  
 
 低く気の抜けた声で呻きながら、岩辺は腰を時折震わせ、欲望の丈を中に撒き散らす。  
「……はあっ………」  
 突かれる苦痛が失せて声を抑える必要が無くなり、洋子は漸く口を開き、息をついた。  
 あまりの悲しみと惨めさに、張り詰めていたものが途切れかけて零れそうになる涙を、顔を仰がせて堪える。  
 周りの男達のはやし立てるような笑い声が、心に幾つも刺さった。  
 岩辺はその声に応えるように肉棒を何度か抜き差しし、ゆっくりと腰を引く。  
 ずるり、と抜け落ちた男根の先端からは、黄身がかった精液が秘部との間に糸を引いていた。  
 
「おう、お前ら。後は適当に始末しとけ」  
 ズボンを穿きながら、面倒そうに岩辺が指示する。  
「へえ……で、組長………」  
 組員の一人が、物言いたげに呼び掛けると、やはり気怠そうに答えた。  
「好きに使え。もっとも、ロクに啼きもせんようだがな……」  
 
 飽きた玩具を放るような物言いだったが、組員達は目を輝かせる。  
 岩辺が倉庫を出て、足音が失せた事を確かめると、残された男達は洋子に視線を戻し、一様に卑しい笑みを浮かべた。  
 
「……っつう訳だ。悪く思うなよ」  
 
 
  *  *  *  *  *  
 
 
 夜明けの気配は、まだ訪れない。  
 洋子は再び口を閉ざし、泣き濡れた頬を垂れる髪に隠し、いつ迎えるとも知れぬ終わりをただ、待ち続けた。  
 
 

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