私の余命は後三カ月。  
だが沙紀は、朝生さんの子供が欲しいです、と言ってくれた。  
他のどんな男よりも私を選ぶ、と。  
 
病気の事実が判明して今に至るまで、さんざん自問自答した。  
本当の気持ちを告げず、黙って逝くことが最善の策ではないか。  
沙紀には龍、京吾、灰谷、武藤、ヤスなど、好意を抱く男には事欠かない。  
あの喜多川さんですら、虎視眈々と彼女を狙っている。  
私は自分の持てるものを全て遺したうえで、そのあとは他の男に彼女を委ねるべきではないか、と。  
 
が、今の私は、残り少ない人生を自分の気持ちに正直に生きると決めた。  
婚約自体は亡き先代が決めたものだったが、今はただの男として沙紀を愛している。そして、彼女も。  
お互いの気持ちを通わせることができて、私の心は嬉しさに満たされた。  
もっと彼女に優しくしていればよかった、とか、もっと早く気持ちを打ち明けていればよかった、などと激しく悔いた。が、それは詮ないこと。  
散歩から帰った沙紀は顔を赤らめながら私に、抱いてください、と打ち明けた。  
 
愛する女から抱いてくれとねだられて、拒める男など男ではない。  
後悔しないんだな、と問うた私に、絶対しません、と答える沙紀。  
私はもうたまらなくなって、ベッド上できつく沙紀を抱きしめた。  
しばらくすればいなくなってしまうというのに、それでも無心に慕ってくる彼女が哀しい。そして愛おしい。  
どれだけ罵られようと、このまま他の男に渡すなど絶対にできない。  
 
私は、午後の検温の時間が近づいていることに気がついた。  
これからのことを邪魔されるなど、考えただけで虫唾が走る。  
私はナースコールを押し、看護師に状態が変わりないことを告げ、大事な来客が来ているので2時間ほど誰も訪室しないでほしい、と伝える。  
看護師から了承した旨の答えがあり、ナースコールは切れた。  
 
私の腕の中で緊張しているのか、沙紀は体に力を入れて固くなっている。  
強張った体を解きほぐそうと、何度も口づけた。  
浅いキスを角度を変えて何度も繰り返しながら、徐々に深くむさぼるようなキスへ。  
このまま沙紀を食べてしまいたいような衝動にかられながら、私は唇のみならず、頬や首にもキスの雨を降らせていった。  
 
胸の上に、手のひらを置く。  
服ごしに触っても、柔らかいのが十分わかる。  
そして向かい合わせになり、服のボタンをはずして脱がせた。  
沙紀もぎこちない手つきで私のパジャマを脱がせ、お互いに一糸まとわぬ姿となる。  
ベッドに横たえ、胸の中央の突起を口に含み、舌で転がす。  
あ、とかすかな声が上がる。  
 
胸を刺激された沙紀はたまらなくなったのか、私の背中に腕を回す。  
火傷の痕が、何度もなぞられる感触。  
物問いたげな表情に気づいた私は沙紀の耳元に、それは後で説明する、と囁いた。  
私から家族を奪った忌まわしい火事の記憶は、いずれ話しておくべきことだろう。しかし、今はこの行為にのみ集中したい。  
愛撫を深めるほどに、沙紀の声も大きく、高くなっていく。  
 
秘部に触れる。  
沙紀は苦しそうな表情を浮かべるが、それにはかまわず指を中に入れていく。  
既に潤った中は熱く、異物を排除しようと締め付けてくる。  
今すぐにでも入れたいとはやる気持ちを抑え、私は指での探索を繰り返す。  
探られるたびに、床上で沙紀の体がのたうつ。白いシーツがしわになる。  
そして、反応がひときわ大きくなるある場所を見つける。  
そこを攻められるたびに、やめて、と甘い声で懇願されるが到底辞められるものではない。  
その声を楽しみながら攻め続けると、体を痙攣させて沙紀は達した。  
 
いいか、と尋ねた私に、はい、と沙紀が答える。  
淡い後悔が脳裏をよぎったが、私は己の意思に忠実であろうと決めた。もう迷わない。  
皮膚を隙間なく密着させてお互いの背中に腕を回し、足を開かせてすっかり固くなった脈打つ物を一気に突きたてる。  
入れられて苦痛を感じているのだろう、沙紀は低く呻き、きつく眉根を寄せている。  
思い切って最奥まで入れ、しばらく動かず体になじませる。  
苦痛を減らす助けになればと、私は心中を吐露した。  
ずっと前から好きだったこと、自分の気持ちに素直になれず意地悪ばかりしてしまったこと、沙紀に近づくほかの男どもに嫉妬していること、そして今、結ばれてとても満たされていること。  
思わぬ告白を受けた沙紀は、潤んだ目で私を見あげ、私も、とつぶやいた。  
 
反応を確かめながら、私は少しずつ腰を動かす。  
動きを、次第に激しいものにしていくとベッドがきしみ始めた。  
呻きは消え、代わりに淫らな水音と甘い嬌声が部屋に響く。  
初めてですごく感じて本当に淫乱だ、と私が囁くと、こんなに感じるのは朝生さんだから、との答え。  
男は相手がだれでも等しく快楽を感じることができる。が、女はそうはいかない。  
愛こそが最高の媚薬。  
もう、私は仕事のことや組のこと、自分が去った後のことなど考えられなくなり、沙紀とともに快楽の極みに達することにのみ集中した。  
 
とうとう沙紀が私の動きに同調し、快美を訴え出した。  
感じてるのか、との問いに、すごく気持ちいい、と酔いしれた表情を浮かべて答える。  
お互いの腰を振動させ、更なる快楽を紡ぎ出す。  
沙紀に対する愛おしさに満ち溢れた半面、壊したい衝動にも駆られながら抽送を繰り返す。  
絶え間なく嬌声を放っていた沙紀が私の耳元に口を寄せ、名前で呼んでもいいか聞いてきた。  
無論、拒む理由などありはしない。  
声を限りにして、義之さん愛してる、と喘ぐ沙紀。  
私は、自分が長く持ちそうにないのを自覚した。  
 
中は熱く、絞り取ろうと絡みついてくる。  
そして沙紀自身も、私を離すまいと両腕両足を巻きつけている。  
沙紀が望むように、子供を与えてやれるかどうかは分からない。神のみぞ知る。  
が、これからはタイムリミットが来るまでそばにいて、体力の許す限り抱いてやることにしよう。  
そんなことを考えながら、必死に射精の衝動を堪える。  
その時、沙紀の体に二回目の痙攣が訪れた。私は強い締め付けを感じ、耐えられなくなって熱い欲望を解き放った。  
 
お互い汗のにじんだ肌を密着させて、快楽の余韻が去るのを待つ。  
私は額に貼りついた沙紀の髪の毛を撫でつけてやった。  
これで私たち夫婦だね、と沙紀がつぶやき、ああ、と私は答える。  
もし生まれ変われるものならば来世でも沙紀と夫婦になりたい、と願いながら。  
 
 
―――真実を告げに来た院長が自らの死刑執行書にサインしに来るのは、それから間もなくのことである。  
 
 

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