『ミルキー』  
 
雨は別に嫌いではないが突然の雨はさすがに困る  
雨の臭いを感じながら空を見上げると目でわかる程の大きな雨粒は勢いを増しており、止む気配が全く感じられない  
まわりが暗いのは雨雲だけのせいじゃなく、19時を過ぎようとしている時間のせいでもあるのだけど  
 
「まいった」  
 
閉まっている店の軒先に飛び込んだまではよかったがこの様子だとなかなか帰る事が出来ないだろう  
 
「お困りのようね」  
「そりゃね」  
 
同じ立場のくせに三日月君は何故か偉そうに僕に話かけてくる  
それに、僕より濡れている癖になんでそんなに偉そうにできるのかよくわからない  
 
「ふっふっふっ」  
 
出たこの演劇チックなくさい笑い声  
意図的にやっているのか知らないが何かを企んでいる時はこれがでてくる  
何をしようとしてるんだろうと三日月君の出方を窺う事にする  
 
「折り〜たたみ傘〜」  
 
似ていない猫型ロボットのモノマネをしながら鞄から何かを取り出した  
 
「これで雨もばっちし」  
 
「それ……トウモロコシだよ」  
 
数秒の沈黙  
ビニール製の屋根が雨を弾く音がより強まった気がした  
 
「おかしいニャ〜」  
 
おかしいのは誰かの頭の中身だろ、とツッコミをいれるのももったいない  
語尾にニャーとか付けてるのがまたムカつく  
 
「で、でもほら茹でたらきっと美味しいよ」  
「そうだよね」  
「何その見た事のない優しい目」  
 
『せっかく相合い傘できたのに』とブツブツいっている三日月君はとりあえず置いておいて、困った事に結構な時間が経つのにまだ雨は弱まる気配をみせない  
 
「ふっふっふっ」  
 
また例の笑い声が聞こえてくる  
 
「もういいから」  
「これ見っけちゃった」  
 
少し汚れていて古めかしいが三日月君が持っているのは紛れも無い傘  
コンビニなんかで置かれてる安そうな透明のビニール製だが傘は傘  
 
「また〜三日月さん  
あるなら早く言ってくださいよ」  
「褒めてくれてよろしくてよ」  
 
言われた通りに何回か三日月君を褒めるがだんだんと調子に乗る姿を見て感動も薄れてきた  
 
「さ、もういいから早くしろって」  
 
唾を地面に吐き舌打ちを鳴らす  
 
「しどい」  
 
三日月君はもっと褒めて貰いたかったのか知らないが渋々と傘を開く為下にある出っ張りに手をかけた  
 
「レッッオープン」  
 
勢いよく開かれた傘  
 
勢いよく吹かれる風  
 
勢いよく飛ばされるビニール部分  
 
残ったのは金属の骨をもってポーズをとっている女  
 
「三日月君と十文字さんてなんか似てるよね  
残念なところがとくに」  
「今だけは認めます」  
雨が止まない夜空にハァーと二人の溜息がハモった  
 
「しょうがないや  
のんびり缶コーヒーでも飲んで待とうか」  
 
近くにおいてある自動販売機に小銭を適当にいれる  
 
「三日月君は?」  
「緑色の」  
 
さすがにありえない出来事に堪えたのか小さな声で注文をしてくる  
 
ガチャガチャと音が時間差で二回音が鳴る  
 
体が冷えていたのか思ったよりも熱く感じた缶コーヒーを軽くオテダマしながら三日月君に渡す  
 
「ありがと」  
 
渡した時の手の冷たさと微妙な震え  
雨のせいで体からのものだろうか  
何も言わずコートを脱ぐと三日月君にかけてあげる  
 
「霧山君てこうゆう優しさ持ってるんだよね」  
 
三日月君はすぐに開けずに缶の温かさ楽しんでいる  
 
「ほら、雨が降ると人は優しくなるって言うでしょ」  
『言うよね〜』という答が返ってくると思ったのに、僕が定番のあるあるを言っているのに三日月君は決まってそれを言ってこない  
代わりに少し驚いた顔を見せるだけだ  
 
「誰にでもやるんでしょ」「人をプレイボーイみたいに、僕だってちゃんと人を選んでやってるよ」  
「私だけ?」  
「どうだろうね?」  
 
缶コーヒーのプルトップを上下させながら話をはぐらかした  
 
「それより近いから離れなよ」  
「雨のせいね〜」  
 
近くに寄る必要等ないのに自然に距離が縮まり肩と肩が触れあっている  
ドラマなら急展開な台詞が出てくるところだけど、残念ながらこれはドラマじゃない  
時効が趣味のポツネンとした男と底無し胃袋の女の話なんて誰も見たがらないだろうし  
 
「小さい頃、雨って甘いって思わなかった?」  
「三日月君、口開けて上向いてたでしょ」  
 
そして、三日月君の話すくだらない会話が続くのが現実だ  
僕はこの緩い雰囲気は嫌いじゃないけど  
 
「実は結構このなんでもない雰囲気って好きなんだよね」  
 
三日月君に聞いて欲しいのか、今思った事が自然と口から出ていた  
 
「時効事件がなかったら三日月君の良さも悪さも絶対にわからなかった  
変な言い方かもしれないけど時効に感謝しないといけないな」  
「なんか年取った夫婦の回想みたい」  
 
僕の瞳にはフフッと笑う三日月君の姿  
僕との会話に笑ってる姿がなぜかとても愛おしいと思った  
なぜかなんてまどろっこしい物じゃない  
随分前からわかっていた  
これは恋なんだ  
その気持ちを含んだなんでもない会話が続きに三日月君と僕は笑っていた  
 
これが続けばいいなと思った矢先これ以上会話を進まさない為なのかパラパラとビニールに当たる唯一のBGMが止んだ  
 
「雨があがったか」  
 
誰にいうでもなく声が出ていた  
神様的には二人の関係がもう少しゆっくり進んで欲しいらしい  
 
「雨あがっちゃったね」  
 
名残惜しそうに三日月君が呟いている  
 
僕も確かにのんびりと二人で話をしてる時間は貴重だったと思う  
僕らはイベントがないとそれがなかなか出来ない  
ちょっと位恥ずかしいかったとしても何か行動を起こさないと関係が進まないとわかっているのにやらないでいるのも知ってる  
 
「じゃ、やるか」  
 
小さく決意をし例の傘を開き持っている柄を回転させる  
 
「何やってるの」  
 
突然の僕の行動についていけず三日月君は不思議そうにこっちを見ていた  
 
「傘入ってかないの?」  
「だって、雨は」  
 
指をピコピコと動かしながら空に注目させる  
 
「?」  
 
上を一度見上げると、意図を聞きたいのか小首を傾げ僕を見てくる  
 
「ほら、星が降ってきそうだからさ」  
 
僕なりの精一杯のロマンチック気取り  
なのに三日月君は何言ってるの?と言いたげに僕からじっと目線を外さないでいる  
自分の行動の恥ずかしさを隠す為に強引に三日月君の体を引き寄せると傘の中に入れた  
すぐ隣には三日月君がいて相合い傘と今でも言うのかわからないが今の僕らはその形になっている  
 
「へへへ」  
 
僕の左腕に嬉しそうに三日月君の右腕がしっかりと絡んできた  
最初からあんな小洒落た事しなくてもこうやって引き寄せればよかった  
 
時間と場所が起こしてくれた状況でまわりには二人しかいない  
夜空には雨が止んでくっきりと見える満天の星  
さっきまで意地悪をしていた神様も味方をしてくれている  
粋な計らいはそれだけでなく、沢山ある星の一つを音もなく落としてくれた  
黒いカーテンに一筋の白が走っていく  
 
「綺麗」  
「本当だ」  
 
流れ星が落ちてきた時に僕は三回お願いをしていた  
きっと三日月君も同じ願い事だったはずだ  
傘をポイと捨て、あいている手で目を閉じている三日月君の顎を軽く上げる  
 
「やっぱり三回かな?」  
「そうね」  
 
目を閉じたままの三日月君の唇が微笑みのせいで軽く上に上がる  
その唇に向かい一回目は小鳥の様にカワイイキスを  
次はファーストキスの様に求めあいながら戸惑いながらのキスを  
最後はドラマの恋人達の様に感情の入った甘く長いキスを  
キスの間、缶コーヒーの甘苦い味が口の中にひろがり頭の中では優しいスローバラードが流れていた  
 
「もっと凄いの頼めばよかった」  
 
「我が儘言ったら神様が怒るよ」  
 
「それなら霧山君に頼むからいいよ」  
 
三日月君は僕の耳に近付くと三回同じ内容を伝える  
 
「……マジでひくわ」  
 
やっぱりドラマみたいではないけれど、なんだかんだ言っても僕はこの現実が気にいってる  
異色なヒロインでもパッとしないヒーローでもなかなかなラブストーリーはできるんだな  
 
「そういえばこんな時間だけど帰りの電車はまだあるかな」  
 
「どうでしょう」  
 
何故かにやけてこっちを見ている三日月君  
 
「他人事じゃないのに」  
 
「ならまた流れ星にお願いしたら」  
 
「そのお願いは多分聞いてくれないと思うよ」  
 
「なんで?」  
 
「今はきっと三日月君と一緒にいたい気持ちの方が強いから」  
 
三日月君のリアクションが返ってくる前に星が滑る様に流れていった  
二人がずっと一緒にいれたかって?  
それはまた別のお話  
 
 
〜ししまい〜  
 

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