ある日の総武署の屋上。  
ぼくと三日月くんの二人でお昼ご飯を食べていた。  
 
相変わらず三日月くんの食欲は旺盛で、  
一体その体のどこに入ってるのかと、なかなか興味深いものがあった。  
「あのね、霧山くん」  
突然箸の動きを止めた三日月くんがぼくの方を向く。  
「ん?」  
というか、何となく『ほっぺにごはんつぶ付いてるよ』とは言わせない迫力のようなものがあった。  
「あたしね、いろんなもの食べてきたけど、どう‥‥‥‥‥‥っっしても食べたいものがあるの」  
だからごはんつぶ付いてるんだよ、三日月くん。  
とはまた言い出せず、普通に「何が?」と聞いてみる。と、三日月くんはゆっくりとぼくに指をさす。  
「え?‥‥‥え?何も持って無いよ、ぼく」  
すると三日月くんはごはんつぶを付けたまま、どんどん顔を近付けて来る。  
ごはんつぶ取ってあげた方がいいのかな、と、ぼんやり考えてるぼくに構わず、どんどん顔を近付けて、  
ついには唇の柔らかい感触と―――ごはんつぶのペタッとした感触があった。  
三日月くんの舌先が、ぼくの唇をなぞり終えると突然唇は離れた。  
「霧山くんが、食べたいんだ♪」  
そう言った三日月くんの顔にもうごはんつぶは無かった。  
 
気がつくと、ぼくは三日月くんに押し倒される格好になっている。別にものすごい力で押さえつけられてる訳でも無いのに、何故か身体は動かなかった。  
「み、三日月くん。ぼくを食べたいって‥‥ん、ちょっとっ!どこ触ってんの!」  
三日月くんは素早くぼくの制服ズボンのベルトに手をかけ、慣れたような手つきで抜き取り、ファスナーを開ける。  
 
‥‥‥どこで覚えたの?そんなこと。  
びっくりするあまり、抵抗しないぼくを尻目に、三日月くんはあれよあれよという間にぼくの分身を開放していた。  
時々目の前で三日月くんの長い髪が揺れて、それから香る香りが鼻をくすぐる。その香りと、どこで覚えたのかとさえ思う巧みな指先に、ぼくの分身が熱く昂ぶるのを感じる。  
 
というか、ここは署の屋上なんだから、いつ何時人が来ないとも限らないのに。  
「ね、ねえ三日月くん、待ってよ。仮にも勤務中なのに、こん―――」  
なんとぼくが話し終わらないうちに、ぬるりとした熱い感触があった。  
「な、な、ななな何やってんの!?」  
自分でも変な声だと思ったが、三日月くんのあまりにも大胆過ぎる行為に比べたら。  
「ははら、ひいやわふんほはへへふほ」  
「何言ってんのか分かんないよ!?」  
口を放すことなく、三日月くんは繰り返す。「ははら、ひいやわふんほ」  
ぼくの分身を咥えたままでもごもがと喋るから、その度に刺激されてますますぼくは追い詰められる。  
「そこで喋らない!」  
その声に話すのは止めて、黙って咥える。  
 
というか三日月くん、君喋らなくてもなんでそんなに上手な訳?  
 
舐めるだけじゃなくてそんなところ吸ったりとか、手も使ってどんどん的確に責めあげるのは何なの?  
 
腰の辺りを時折襲う甘い痺れが次第に強くなり、もう限界が近いことを知らせる。  
「三日月、くん‥‥‥っ!この、ままじゃ‥‥‥口、離さないとっ‥‥」  
引き離そうと試みたが、三日月くんは離れる気配が無い。  
そうこうするうちに、足の付け根が痙攣するような感覚に襲われ、頭の天辺まで痺れるような一層強い快感が走って、頭が真っ白になった。  
「も、もう‥で、出るっ‥‥」  
 
 
 
―――そこでぼくは、目が覚めた。  
 
目が覚めたら、いつものアパート。  
下半身に纏わりつく不快な感触を感じ、毛布を捲ってみた。  
「まいたたたたた‥‥」  
先日又来さんが『参った』と『アイタタ』のハイブリッド語、と言ってたが、正に今の状態だ。夢精なんて、十代じゃないんだから。  
というか、何故三日月くん‥‥?  
 
確かに、一緒に時効捜査をするようになってしばらく経つけれど。  
首を傾げつつ、取りあえず汚れた下着だけ先に洗ってから  
署に向かった。  
 
 
「おっはよ〜〜、霧山きゅん☆」  
署の廊下。いつもの調子で三日月くんに肩を叩かれたが、びっくりしてエビみたいに勢い良く後ずさってしまった。  
「‥ど、どうしたの?ごめん、そんなに驚かせちゃった?」  
三日月くんはシュンとして小さくなってしまった。  
「い、いやちょっとぼーっとしてたから‥‥ぼくの方こそごめん」  
何となく恥ずかしくて、三日月くんの顔をまともに見れない。  
「‥‥そう‥じゃあ、またあとでね」  
「うん」  
 
何となく気まずい空気を抱えたまま、時効管理課に入る。そこには又来さんとサネイエさん、そして真加出さんがいつものようにどうでもいいやりとりを始めている。  
「おっ霧山、あれから新しい趣味は見つかったのか?」  
相変わらず又来さんはストレートだ。  
「それがまだ‥‥なぁんかいい趣味ありませんかねぇ〜」  
「手作り蚊取り線香とかはどうでしょうか?」  
そう言って真加出さんが出してきたのは、なんとゴ××リの形の線香だった。  
「うわっ!アンタ、何作ってんの」  
サネイエさんがあからさまに嫌な顔をする。それに反して、真加出さんは一点の曇りも無い表情で話す。  
「虫が虫を取るんですよ。斬新なデザインだと思いません?」  
「まあ、確かにね‥‥‥」  
苦笑いしつつも席につくと、熊本課長もいつもの呑気な調子でやって来た。  
「おっ、今日もまたやってるねぇ〜」  
何故か硯と墨を持ってやって来た課長は、席につくなり墨を磨り出す。  
「ところで霧山くんは、新しい趣味見つかったの?」  
もしかしたら駄洒落なのか?突っ込むのも面倒臭いので、敢えて無視して返事する。  
「はあ、それが‥‥まだ」  
「いかんなあ〜どうだ、基本に帰って何か観察するとか?」  
 
観察、ねぇ‥‥  
 
と、そこへひょっこりと三日月くんが顔を見せた。  
 
「ああ〜〜〜〜〜っ!!」  
 
今度は三日月くんがぼくに驚いて、やはりエビみたいに後ずさる。「な、何っ?何なのっ!?」  
「三日月くん、君は素晴らしいよ!」  
皆が見てるのも忘れ、ぼくはがっしりと三日月の両肩を掴む。  
 
そう、何故このことに気付かなかったのか。  
 
「三日月くんを新しい趣味にすればいいんだ!」  
 
三日月くんのことを調べていけば、きっと今朝見た夢の意味や原因も分かるかも知れない。  
「もちろん協力してくれるよね?」  
まだ興奮しているぼくだったが、きっと三日月くんも喜んで協力してくれるはず、そう思ったが―――  
 
三日月くんは口を尖らせたかと思うと、  
「や、ですっ!」と、ぼくを突き放す。  
「え‥‥‥?」  
意外な答えにぼくがそこに固まったままでいると、三日月くんは追い討ちをかけるように「い―――――だっ」  
と、歯を向きだして出て行ってしまった。  
 
「おーお、ポツネンてば十文字並に残念なことになってるねえ」  
「ああ〜確かに残念だわ」  
「残念ですねえ」  
勝手なことを話していたが、呆然としたままのぼくの頭に入ってはこない。  
「まああれだね、霧山。取りあえず何故三日月くんが怒ったのかを調べるのを趣味にすればいいんじゃないの?」  
「お、ナイス課長」  
又来さんが指を差す。他の二人も真似して「おっ」「おっ」と指を差し合っていた。  
 
またいつもの課の風景の中で  
一人ぽつねんと残されたぼくの頭の中で、三日月くんの怒った顔と課長の言葉がぐるぐると回っていた。  
 
取りあえず、当分の間退屈だけはしそうにないなあと思いながら―――  
 
 
 
終わり  
 

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