「うわっ……何コレ!!」  
 
 
ふと目覚める。  
見慣れた天井、見慣れたカーテン。  
そして隣にだけ、見慣れない……三日月しずか。  
僕は髪の毛をくしゃくしゃとかき上げて大きな溜息をついた。  
 
「あー…、昨日は酷かったんだっけか……」  
今思い返せば多分、無理矢理にも取れるほどの勢いだったと思う。  
まぁ、三日月くんが求めてきたといえば求めてきたんだけど。  
…その張本人はというと……くー、くーとまだ寝息をたてている。  
それもそうか、まだ朝の6時前だもんな。  
 
もう5月だと言うのに、今日の朝も少し肌寒い。  
けれども寒いからと言ってぬくぬくと布団の中にいられるほど、僕は呑気じゃないというか  
なんというか。僕も男だし。  
こやつの寝顔を見てじっとしていられるなんて、できないんだなこれが。  
できれば、もう少し、布団のなかでモゾモゾしていたいけど、  
それだと心がモヤモヤしてきちゃうので、この辺でシャッキリしちゃおう。  
 
…と、僕はノソノソと洗面所へ歩き出す。  
あ、もちろん三日月くんの首元まできちんと布団をかけなおしていくのは忘れない。  
“霧山くんの所為で風邪ひいた〜!”なんて言われたらたまらないからな。  
 
我ながらやっさしーい、なんて少しニヤけて鏡の前に立つ。  
ああ、気持ち悪い笑顔。ニヤけちゃってこのー。  
おうおうおうおう、いつもよりテンション高いじゃない、僕!!  
フフフとまた不気味な笑い声が自然と漏れる。  
それくらい、昨夜は・・・・・  
って。  
 
「ああ・・・・あのやろう・・・」  
僕は、そうひとりごちながら首筋に手をやった。  
赤くはっきり残っているソレはまぎれもないキスマークで。  
 
「痕、つけやがったな…三日月ぃ〜…」  
 
 
はぁ。と溜息が出る。  
その溜息は、呆れて出た重い溜息でも、嬉しくて出た吐息でもない。  
でも、どっちかっていったら後者の方かな。  
とにかくなんとも言えないカンジ。  
あーあ、やっちゃったよ。とか、困っちゃうよなー。とか、キスマークかぁ。とか…  
なんだかもどかしいカンジだ。こんな自分がちょっと恥ずかったり。  
 
……しかし、どうやって隠すかなぁ。  
蚊に刺されちゃいましたー。とかなんとか言えばごまかせるのだろうか?無理か。  
 
と、今度は少し思い溜息を、ゆっくりとつく。  
噂の犯人は、まだ温もりの中夢をさまよっているのだろう。  
僕の気持ちも知らないでさ。  
もう一度鏡を見ると、ますます赤く色づいて見えるその痕に、僕はまた はぁ、と溜息をついた。  
 
「…あとで覚えてろよーー!」  
 
「覚えてないよーーーんっ」  
 
独り言のつもりで言った言葉に返事。  
…と共に、にょっ!と鏡に割り込んでくるのは寝ぼけ眼の三日月君で……。  
 
僕は一拍置いて、反応した。というか、驚いたよマジで。  
「うわっ!!三日月くん?」  
「おはよー、霧山くーん。どうしたのー?」  
 
何故かにこっと微笑むと、三日月くんはじーーっとこちらを見つめてくる。  
じーーーっと見つめてくるんだけど、どんどん眼が落ちてきて、糸目になる。  
でもまた数秒後に目を見開いてじーーーーっと見つめてくる。  
そんな三日月君……実に彼女らしい。  
それを僕は黙ってみていて、何回か繰り返したあとに正直な感想を言った。  
 
「酷い顔だねー、三日月くん」  
すると、あっという間にへのへのもへじの顔になる。口はまさしくへのじである。  
「むーっ!!何よ霧山くんっ!霧山くんだって、そんなっ、寝ぼけた…寝ぼけた…  
………って、アレ?」  
「………何?」  
三日月君は不思議そうな顔をしたあと、一コマの空白を置いて、真っ赤になった。  
真っ赤になって、僕の顔を見たあと、天井を見て、そして今度は上目遣いでまた僕を見た。  
「…寝ぼけた……寝……ってことは……昨日……私たち、ヤっちゃった?」  
うっわ、直球かよ。恥ずかしいー。  
でも事実なんだよな。事実。だから僕は恥ずかしさを紛らわすかのように  
変なテンションですぐに答えた。  
 
「うん、ヤっちゃったーっ!」  
「…………ヤッチャッタ…?」  
「ヤっちゃった!」  
お互いに指を指して照れ笑い。  
アハハ、ヤっちゃったんだー、と照れ笑い。  
お互いに伝染したかのように、しばしヤっちゃった音頭を繰り返したあと、  
ようやく落ち着いて、同時に深呼吸をした。  
そのタイミングに、また笑みがこぼれる。  
今度は、なんだか甘酸っぱい雰囲気で三日月くんは言った。  
 
「…そっかぁ……、あのさ……あたし、変じゃなかった?」  
「ん?凄かったよー」  
「えっ…えっ……」  
また茹蛸のように赤くなるもんだから、ついついからかいたくなる。  
こんな風に、すぐに顔に出たりする三日月くんの素直なところが、僕は好きだ。  
 
「いやー、思い出しただけで…アレはやばいよ?“いっぱいしてぇ…”だもんなぁ〜」  
「・・・・・・っ!」  
カァァァッと、絵に描いたように震えた三日月くんを、鏡の前にぐいっとひきよせる。  
昨日あんなことがあったばかりだからな、僕だって強気になるよ。  
「ほら、見てみなよ僕の首筋。キミが付けたんだよ?コレ…」  
「あ・・・」  
「…この痕、どうしてくれるのかな?こんなにハッキリついてちゃ隠せないよなー」  
まだ赤らんでいる顔のまま困惑する三日月くんを見つめてにっこりと笑う。  
すると余計に戸惑うものだから可愛くて仕方がない。  
そして、鏡の中で、何か言いたげなその唇に目を奪われる。  
 
だから僕は、鏡の中から目を離して、その唇の持ち主に向き直った。  
「どう、責任とってもらおうかなー?」  
僕は耳元でわざとらしくそう一言呟いてから、洗面台に手をつき、腰をひきよせた。  
 
「………ぁ…」  
ちゅるりと吸い込まれるように唇を合わせる。  
まだ、あわせるだけ。1秒触れたか触れてないかで、そっと唇を離す。  
でも、もう三日月くはそれだけで腰砕け。へなへなと僕に体重を預けてくる。  
昨日の今日だから、無理もないかもしれないけど、覚悟してもらおうか。  
悪いけど、この痕の代金は高くつくからねー。  
僕はそう心の中で呟いては三日月くんの顔をちらっと見る。  
あぁもう、とろけきっちゃって。とろんとした目でこっちを見るなよ、興奮するだろ?  
理性が効かなくなって、また酷くしちゃってもいいのかよー?  
僕はひとり苦笑しながらも、欲望に忠実になると決めた。  
決めたら僕の場合、行動に移すだけで。  
左手はすくうように腰にあて、右手が顎に触れるとすぐに、唇を押し付けた。  
押し付けては薄く触れて、口の端から端まで舐めあげて。  
そしたら三日月くんの、押し返す手の力、かすかな抵抗。甘い拒絶。  
「ふぁ……霧…ゃまくん……っだ、め……」  
その否定も、媚薬なだけ。ますます誘引される。  
細い両腕を、右手でがっちりつかむ。これでもう、抵抗できないでしょ?  
両手をあげさせ、鏡に押さえつける。エロいよ三日月くん…  
涙目の訴えにもう僕も無理だから、と本気の視線を送った。  
あとはもう、落ちるだけ。  
心まで舐め取るように、唇を吸い尽くして。  
歯茎をわって、舌を入れるとそれに答えるように三日月くんの舌も泳ぎだす。  
「ぁ……んっ…ふぁ…やぁ……」  
「やじゃないでしょー、ふぅ…こんなとろんとろんになって」  
何度も何度も舌を這わせて、絡ませる。  
くちゅくちゅととどちらともつかないいやらしい音が、洗面所中に広がる。  
三日月くんの腰がへなへなと力抜けて行くのがわかるから、両手でしっかりささえる。  
さっきまで拘束されていた行き場のない両腕が、ぺたぺたと求めてくる。  
そうして、三日月くんは離された唇を口惜しんであむあむと唇を動かした。  
「んっ…ぅぅ〜…きり…まく…ん……してぇ…」  
どこかで聞いた台詞。それは昨日だったか、それとも今日のことだったか。  
あぁ、もう理性も限界なんだなー。まぁ僕も一緒だけど。  
“一緒”なところがちょっと嬉しくなる。ガラでもないけど。  
嬉しくなって、イイ気になって、もっといじめちゃいたくなる。  
 
「んー、三日月くん?よく聞こえないなー?どうしてほしいの?」  
「ぁぅ…もぉー!霧山くんの…いじ、わる…っ」  
 
うん、僕いじわるかも。だってキミ可愛いんだもん。  
でもあえて、否定してみるよ。  
 
「えー、僕がいじわるだってー?もう、可愛くないなぁキミは。素直になりなよー」  
「やだーーっ、やなの、言わないっ……言わないからねっ…ん」  
 
そう言ってる間にも、もじもじと足を擦り合わせる。  
触って欲しいくせに、いじっぱりなんだからなー、もう。  
僕は、そっと三日月くんを後ろから抱きかかえると、小さく足を広げてみせた。  
 
「ちょ…っとぉ…な、に……やぁ…、ずる、い…っ」  
案の定抵抗する姿を見て僕はニヤリとする。  
「何だよ、してほしかったんじゃないの?」  
うぅと、歯を食いしばって耐えている三日月くんを眺め、そっと脚の付け根に手を這わす。  
…と、そこはもう、ぬるぬるに熟れきっていた。  
 
「うわっ、何コレ?!三日月くん、キミ、こんなにしてたの?」  
「…………っ!!ん、………ふぇぇ…違うぅ……」  
「違くないじゃん、あーあ、こんなに濡らして」  
 
その言葉に、三日月くんははぁ…と息を荒くする。そんな、息遣いを耳にしたならもう、  
今すぐにとろとろのあそこに、指を入れて、ぐちゃぐちゃに掻きまわしてやりたい。  
でも、僕は我慢する。だって、三日月くんにエッチなこと言わせたいもん。  
その唇から、凄いことを言わせたい、強請らせたい、求められたい。  
だから、触れるか触れないところを、ゆっくりいったりきたり、完璧に焦らす。  
んぅ…とかあぁ…とか、もう、さっきからずっと艶めいた声ばっかり出して、  
さっさと折れちゃえばいいのになー。だってもう限界でしょ?  
 
「んっ、んっ、もぉ………してぇ……?きりやまくん、してぇ?」  
「んー?やっと素直になる気になったー?」  
 
そう言う前から、三日月くんはスリスリと、腰を僕の腰に押し付けて、強請るような  
仕草をしている。もうずっと、切なそうで、たまらない。  
「してっ、んっ、してぇ、お願い……きりや…まくぅ…ん、えっち、して?えっちして…っ」  
上目遣いでそんなエロい顔で、言うなよ……ブルっときた。ヤバイ。  
予想以上に、ヤバイよ三日月くん………っ  
「いいよ、してあげる。エッチでしょ?してあげる………そんなにいっぱいしたい?」  
「…ぅん、したい、したいの霧山くん…っ、き…りやまくんので、いっぱいかきまわしてぇっ…」  
 
気づいた時には、三日月くんを洗面所のマットの上に組み敷いていた。  
たしか、後ろからがいいんだ?とか聞いてたっけ。  
あぁ、もうわからない。  
でもとにかく熱くて、三日月くんの中も熱くて、ぐちょぐちょで、それなのに締め付けてきて。  
頭の中もとろけそうなぐらいで。それは三日月くんも一緒?……だといいんだけど。  
 
「っう!っっ!ん、あっvだめなの、きりゃ…まくんっ!ふぁああっ」  
一緒、だ。……あはは、もうなんか、二人して落ちちゃおうか。  
 
「あー、だめじゃないでしょ?こんな腰振って?“オレ”のこんな銜え込んで、ホント  
三日月くんは淫乱だねー」  
「ふぁぁぁvvvvちが…っ、違うもんっ、、きりひゃまくんの所為だもんぅっ」  
「オレの所為なの?じゃあ、なんでこんなびちょびちょに濡らしてるの?感じてるんでしょー?  
もういいかげん、正直にいいなよー」  
 
そう言ってから、動きをやめる。いじわるじゃないよ、急に顔が見たくなったんだよね。  
ひっくり返して、こっち向かせて、にっこり笑ってあげる。  
でもやっぱりキミは、いじわるだと勘違いしたみたい。  
 
「っく……、いじわる……さっきから、ずるいよっ……んっ…」  
「どうして?いじわるじゃないよ?」  
今度は本気でいじわるをする。動いてあげない。僕って性格悪いのかも。  
でも、じっとしててもわかるくらいひくついてる三日月くんのアソコを僕のが貫いてるのを見ると  
動きたくて、突き上げたくて仕方がなくなる。  
でも、そうする前に、三日月くんが言葉を紡いだ。  
 
「いじわるだもん……っ、ねぇ……いじわるじゃなかったら、動いてよぉっ……お願い、もぉ、、  
欲しくて頭おかしくなっちゃうの……」  
「しょうがないなー、ホント。三日月くんはえっちなんだから」  
それからその台詞と同時に、一気に最奥まで貫いた。  
「ゃあああああぁぁぁぁっvvvvv」  
 
「もう、オレなんか、とっくに頭おかしくなってんだよっ……」  
ぬっちゅぬっちゅと響き渡る濡れた音が、益々二人の心を高揚させる。  
溶け出した汗に、僕も三日月くんも、隠していた本音を織り交ぜ始めた。  
 
「んっぅ、きりひゃまくぅん、気持ちいいのっ、ぁぁっ、あたしのおまんこぉ、気持ちいいよぉっ」  
「ついに言っちゃったね。可愛いよ…すっごいエロいよ、キミ。ホントにさー。どうしたの?」  
「やっ、やっ……、あたし、おまんこって…、あっv自分でえっちなことぉっ…言ってvぁv」  
「そうだよ?三日月くん、さっきからおまんこ気持ちいいー、ってずっと言ってるよ?」  
「やぁぁ……言わないでぇ……」  
 
そう言って三日月くんは、顔をくしゃくしゃにして、感じまくって、恥ずかしがって顔を隠す。  
そんな仕草を見て、掻き抱くようにして、腰を押し付ける。  
暑くて熱くてたまらない・・。僕ももう、限界みたいだ。  
「っく……三日月くん、出すよ……っ」  
 
「ゃ、っ、きりやまくん、、ぁたしも、あたしもっ……いっちゃぅ……」  
僕は、登り詰めた快楽が一気に吹き出るような感覚に襲われると、たまらず熱い塊を  
思い切り吐き出した。  
「………っあ!!!三日月・・くんっ……!!!」  
「ぃくっ……ぃくひく、ひっちゃぅ・・・っvvvvvv」  
 
 
 
 
 
「はぁ…はぁ……、はぅ………酷い、霧山くん…、またこんなにして…」  
「ごめん、でも………」  
―――凄く可愛かったよ  
 
僕はそうささやいた。  
 
急に恥ずかしいことを言われ、三日月くんは何も言い返せずに赤い顔のままで押し黙った。  
そうしてしばらくしたあと、「ばかぁ」と一言つぶやいた。  
 
僕は、三日月くんのその台詞が、愛情表現だと言う事をずっと前から気づいている。  
そんな三日月くんの隠された愛情表現が心の何処かで嬉しいと感じてしまっている  
自分がいることにも、気づいていた。  
それでも昔は認めてしまうことが何故か悔しくて、僕なりに反抗し、気づかないフリをしていた。  
そんな気持ちもしらないで、こやつは無遠慮にどんどん僕の心の中の奥深くにまで入って来て。  
気づいたらいつの間にか、近くにいて、隣にいて、抱きしめていた。  
 
そんなことを考えたら、何だかとても悔しい気分になってしまった僕はそのまま三日月くんを  
自分の方へと引寄せる。  
 
そして、首筋に思い切り吸いついた。  
 
それこそ思い切りよく噛みつかんばかりの勢いで。  
 
 
 
「……きりやま…くん……っ?」  
 
もういい頃合だと唇を離すと茫然とさせた表情で、頬を紅潮させて自分を見つめる三日月くんを  
見下ろした。  
うろたえた顔と、その首筋はっきりと残った紅い痕を見て僕は少し勝ち誇ったような顔をする。  
その表情を見て、僕はまた僅かに微笑んで言った。  
 
 
「……これでおあいこでしょ♪」  
 
鏡に映った自分を見て、三日月くんは「あーー!」と言った。  
そして、こちらをくるりと向いて捨て台詞を言うと共に、そそくさとお風呂場に駆け込んで行った。  
 
「あーあ、もう!今日一日皆にからかわれて困っても知らないんだからねっ!べーだ!」  
 
腰を押さえながら、風呂場に入りこむ姿を見送ると、自然と笑みがこみ上げてくる。  
 
 
――――もう、みんなにバレてもいいかなー………。ね、三日月くん?  
 
 
 
 
僕はそんなことを思いながら、もう一度鏡の中の自分を見る。  
 
昨夜付けられた紅い印は、今も鮮明に残っていた。  
 
おわり  
 
 

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