時効捜査を続けて、何度目かの冬がやってきた。  
本当もう、何年目?って感じよね。  
でも、綺麗にライトアップされた町並み、過ぎ行く人々の装いを見ると、  
あー冬だなぁー、冬っていいなーっていう気持ちになる。  
…え、なりません?なりますよねー♪  
そ・れ・に、霧山くんも隣にいるし!これ、重要。  
まぁ、それはいいんだけど・・・  
うぅ、前言撤回。冬ってあんまり良くない!  
さ…寒いぃ〜〜〜〜〜〜!  
 
 
「・・・ックシューーーーン!!!」  
 
思いっきり大げさなくしゃみと共に、鼻水が噴出しそうになるのを慌てて抑える  
あたしの姿は、あまりにも滑稽でそれと同時に物凄い同情に値するのだろう。  
そんな事は、呆れた眼差しの霧山くんを見ればわかることで。  
 
あーーーもうっ、冬め!北風め!!このやろうめ!!!  
あんまり良くないどころか、冬なんて大嫌いだ!  
季節ランキングワースト1位に格下げしてやるぅ!!  
……そんなことを考えながら、ずるっ…と音を立てて鼻水をすすると、  
これまた白い目でこちらを見つめる霧山くん。  
そんなに見つめちゃ、照れちゃうじゃないv…って、  
見つめるなら白い目じゃなくて、熱い眼差しで見つめてよね!  
 
はぁ・・時効捜査も終わって、食事もして、そんな真冬の帰り道。  
本当だったら、ムフフvな期待のひとつやふたつ、したいところだけど…  
「三日月くん、暖めてあげるよ」なんて展開期待したいところだけどぉぉ〜〜!!  
 
・・・フッ。今の今まで手もつないでないのに……ねぇ?  
期待のカケラもないのは、御察しの通りです。くすん。  
そんな心も身体も寒〜い、あたし三日月ですが、隣を見れば一応霧山くんはソコにいて。  
だからかな、まだなんとか心も体も、芯までは冷え切ってはいないみたい。  
 
「ったく・・・大丈夫かー?」  
「うん、まぁね。ちょっと寒いけど」  
あら、霧山くん、もしかしてちょっとは心配してくれてるとか?  
うふふのふ、嬉しいじゃないv  
「そんな薄着をしているからだぞー、三日月くん。ちょっとは考えなよ」  
 
うっ…たしかに、私はコートひとつ羽織っていないのですよねー。一応厚着だけど。  
でもこんなんじゃ寒いのは当たり前か。  
「ぷぅ。今日は天気良かったしさぁ〜〜。あーあ、昼間はそんなに寒くなかったのに」  
「夜になれば冷え込むのは当たり前だろー、まったくこれだから・・・」  
 
へーいへい、どうせ私は馬鹿ですよー。私が悪い。でもね、冬も悪いと思うな、あたし。  
寒いのがいけないんですのよ!!  
……でも、どうやらそんな事考えてた私が間違っていたらしい。  
っていうか、まさかこんなことが起こるなんて、普段妄想以外では考えもしないから!!  
 
霧山くんは、おもむろに愛用のマフラーを外すと、ソレを私の方に投げ渡してきた。  
 
「しょうがないなー、それでも着けてなよ」  
 
 
・・・え?  
 
わ!  
あのあのあのあのいいんですか、霧山くん?てか霧山くんのマフラー?  
首から首に伝わるハーモニーってやつですよね、コレ。  
えっほ、えっほ、えっほ、えっほ、えっほ、えっほ、えっほ、むむんっ!  
 
コホンッ。  
 
「あ・・ありがとう。珍しいねぇ。・・でも霧山くんは大丈夫なの?」  
「構わないよ。俺にはコレがあるから」  
そう言うと、ひらひらと、コートの襟を揺らした。  
もちろんコートと言ってもあの気の毒な人のトレンチとかいうコートではない。  
で、、あるからして……  
あー、霧山くんのコート・・襟・・ひらひら・・・だぁ……  
 
その時の私は少し、いやかなり気持ちが高揚していたんだと思う。  
霧山くんのその様子がたまらなくて・・・霧山くんの温もりがするマフラーが暖かくて、  
本当に、心が、身体がどうしようもなくって……  
 
思わず、後ろから抱きついてしまった。  
 
「―――!!み、三日月くんっ?!」  
案の定、霧山くんは、驚いたみたいですっとんきょうな声をあげた。  
でも、あたしだって驚いてる。  
いつも妄想だけで、行動に移せない、あのあたしが、こんなことしてるなんて……  
だから、この場をそしてあたし自身を、必死でごまかそうとして声を張り上げた。  
 
「バッカねー、何驚いてるの?石に躓いただけですーー!」  
「えー、そういう問題なのー?…それじゃあ、もう離れ…」  
そう言って、霧山くんがあたしの腕を離そうとする前に、負けじと腕に力をこめた。  
このまま、離れるなんてできなかった。  
かといって、真剣に愛を告白できるほど勇気もなかった。  
結局あたしにできることは、いつものようにとぼけたフリすることだけだった。  
 
「んーっ♪霧山くんあったかいじゃなーいvv」  
「いや、ちょっとキミ、僕が冷えるでしょー」  
「えー、いいじゃない。あたしだってか弱い女の子なんだから  
ちょっとくらい、暖めてよね!!」  
「か弱い、ね……」  
「うるさいっ!!」  
ハハハと呆れた声を出す霧山くん……に、くっつくあたし。  
いくら声を張り上げても、強がってみせても、心臓は正直で、ドクドク言ってる。  
気づかれてもおかしくないくらい、ドックンドックンしてる。  
あは、もしかしてもう、気づかれてるかもね。  
どうでもいいか……こんなに近くにいられるんだもん。  
霧山くんだって、本当に嫌だったら、振りほどくはず……よね?  
それに、まるで示し合わせたかのように、人通りもないし・・。  
もしかして、チャンスかも!  
あたしはそう思うことにした。  
 
そう思ったら、勇気がでてきた!あたしってすごいな!  
うん。ずっとこのままでいるわけにもいかないし、行動を起こさなくちゃ!  
「霧山くん、ありがと。おかげで暖かくなった!」  
「それはよかった。じゃ…」  
む、むむっ!このままじゃ霧山くんペースに元通り、そうはさせない!  
「あ、ちょっとまって。お礼に、私も霧山くんを暖めてあげますよ♪」  
 
言い終わらないうちに、マフラーをそっと霧山くんの首に巻く。  
もちろんその後で、あたしの首にもくるりと巻きつけるのは忘れない。  
「はいっ、完成!」  
「………えぇぇぇぇ?」  
うん、完璧。完璧な作戦。  
これなら霧山くんもあったかくてあたしもあったかくて、オマケに  
二人の距離は急接近ってわけですよ!!  
……さぁ、どう出る霧山!!!  
 
「何コレ、はっ、恥ずかしい〜〜〜〜」  
「でもあったかいでしょ?一石二鳥です♪」  
「うーん、一石二鳥ねぇ……」  
 
えっ?  
もしかして、それで納得しちゃうの?  
もう、霧山くんの反応に、凄く緊張したんだからね!!  
うふvでも……でもでも、いいってことだよね?  
このまま巻いて歩いてもいいってことだよね?  
ランラランラランラランラランラ  
本当ですか?!  
 
…そんな、爆走したあたしの心は置いておいて、マフラーの方はというと……  
やっぱりふたりで巻くのには幾分長さが足りないのか、ギシギシと窮屈に巻きついてくる。  
でもそれが、余計に二人の距離を近くしている。  
作戦通りであたしは嬉しかった。嬉しいっていうか、もう最高?  
 
すぐ目の前に、霧山くんの顔があって、手を伸ばせばすぐにでも頬を寄せて、  
あわよくば口づけする事さえできる、この距離。  
けれども、人通りが少ないからといって、やっぱりこの道のど真ん中でそれを  
決行するのはちょっとためらうものがあるんだよねぇ。  
どうしようかな…と、一通り考えを巡らせた上に、口から出たのは、  
なんとも直球ストレートど真ん中な台詞だった。  
 
「ねぇ・・・私の家、寄って行かない?」  
 
 
 
 
部屋に入った瞬間、あたしは霧山くんを後ろから包み込むように抱き締めた。  
 
「ちょっ……?」  
「………」  
あたしは、無言で霧山くんの背中に顔をうずめる。  
外では、あんなにいい気になって浮かれてたけど、いざ行動に移すとなると  
どうにも身体が動かなかった。  
霧山くん、女の子が男の人を家に呼ぶときの気持ち、わかってるのかな?  
やっぱりあたしのことなんて、なんとも思ってないのかな?  
さっきまでと違ってそんなネガティブなことばっかり考えてたら、涙が出てきた。  
もう、わたしのいくじなし!バカ!  
こんな風になるなら最初から、家なんかに誘わなければいいのに!!  
 
「はー……っ」  
霧山くんの溜息。  
そして不意に腕をほどいて、あたしの方に向き直る。  
ビクビクしながら顔をあげると、目の前には霧山くんの顔。  
あたしを見てる。  
 
あーきっと、呆れられちゃったな。  
呆れを通り越して嫌われちゃったかも。  
…頬を伝う涙を見られたくなくて、またあたしはうつむいた。  
 
「あーもー、僕ダメだなー」  
霧山くんの声。  
やっぱりもう、おしまいかな・・・  
なんて思ったとたん、とどめの一撃。  
「はー、三日月くん、こっち向いたら?」  
 
うぅ、もう、わかりましたぁ。  
こうなった以上、いじいじしても仕方がありません。  
女三日月しずか、覚悟を決めます!!  
…そう思いつつも、おそるおそる霧山くんの方に顔をあげる。  
わ。真剣な、ちょっと怖い霧山くんの顔。  
はじめて見た………  
 
そう思った瞬間だった。  
肩を?まれ、ひきよせられ、あ…と口を開いたところを塞ぐように口付けられた。  
 
「んむ・・・ぅ・・っ」  
 
深い口付け。  
そしてそのまま舌先を割り入れられて、あたしの口内を犯してくる。  
呼吸が止まるくらいの貪るような激しいキスは、口内で絡む舌先の熱い感触と、  
混ざり合う唾液の粘着音で頭の中を支配していった。  
もう、何も考えられない……  
 
「・・っは・・ぁ・・・・」  
 
霧山くん、どうして…こんなキスされたら、あたしもう、おかしくなっちゃうよ?  
その証拠だってある。身体が熱くて、膝もガクガクで、もう、立ってられない。  
 
「ん…きり…や…まくんぅ…?」  
「…キスだけで腰抜かすなよなー」  
 
意地のわるい、いつも通りの苦笑。  
これは、夢?  
あたしの妄想なの?  
でも、少し荒い息遣いだとか、この体温は絶対偽者なんかじゃなくて。  
へなへなのあたしを見下ろし、そしてしっかりと引き起こす。  
何を言えばいいのかわからなかった。  
でも、何か言わなきゃ。どうして・・どうしてだか、わからなくて、でも・・・  
 
ぐるぐるといろんなことを考えて、何かを言おうとした。  
けど、その前にぎゅっ、と力強く抱き締められる。  
 
「あーあ、言うつもり、なかったのになー」  
「え……?」  
「大体さー、毎回好きでもない女を捜査に付き合わせるワケないと思わない?」  
「え…それって…」  
「いや、だからさ、キミももう、いい加減気づいてると思うけど……」  
 
そう言うと、さっきまでの顔とは違って、また、真剣で、ちょっと怖い顔になって……  
目線が合わさったその瞬間には今にも食べられてしまいそうな、  
男の瞳をした霧山くんがいた。  
その目線にゾクッ、と寒気のようなものが走るのを感じたときには、もう遅かった。  
あっという間に、唇を寄せられると、今度は扉のすぐ近くの壁に背を押し付けられ、  
腕を押さえつけたまま口を吸われた。端から端まで。  
もう、ダメだと思った。  
されるがまま、とろけそうになる全身の甘い快感を止めることができない。  
霧山くんとの、初めての、ううん、まだ2度目のキスなのに……。  
たまに漏れる濡れた音にあたしの身体もますます反応して熱くしていくようだった。  
 
「ダメ、そんなにされたらあたし・・」  
「…三日月くん、それは無理。ここまで辿り着くのにどれだけ我慢してたと思う?」  
 
名前を呼ばれるのと同時に耳元に甘い吐息を掛けられる。  
そのまま耳朶を銜えられ、舐め上げられて、そうされる度に膝の力が少しづつ抜けて…  
あたしはまた砕けそうになる脚に力を込め、耐えていた。  
 
「んっ…霧山…く、ん…」  
あたしが、そう、名前を呼ぶと、少し照れたような、でも真剣な顔をして言う。  
「今まで言わなかったけど、僕、キミのこと…好きだから」  
耳元で甘く囁く、それは甘く暖かい腕に堕ちる為の台詞?  
あぁそっか、そうだったんだ。  
あたしは、返事の代わりに、霧山くんの身体をぎゅっと抱きしめ、目を閉じた。  
と、同時に、まるでそれを合図ととったかのように、霧山くんの手があたしに触れる。  
 
「…ひゃっ…?……ぁ」  
 
あたしが首筋を指先で擦られ、眉を顰めているのを見て、霧山くんは、あたしの腰を抱くと、  
右手でスカートの隙間に手を差し込んで太ももをそろりと撫で上げてきた。  
 
「えっ…?そ、そ…そんなとこ……っ」  
「ごめん…」  
 
霧山くんは、ひとことだけ告げると、もどかしいほどに上下に手を動かしてくる。  
何度も何度も優しく撫でる動作を繰り返してきて、もどかしくて、熱いものが奥の方から沸きあがってくる  
のがわかっても、どうしようもなくて。  
 
あたしは間もなくかくんと力なく腰がずり落ちてしまいそうになった。  
 
 

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