ちょっと遠くに釣りに行った帰り道に、あたしとダグラスは突然の落雷と土砂降りに遭遇した。  
天気も良いし近所だからと、鞍袋も雨具も用意していなかったあたし達は、急いで近くの廃坑に逃げ込んだ。  
お互いぐっしょり濡れていたので、とりあえず火を起こして服を乾かす。デイビットが一緒じゃなくて良かった。あの子が朝熱を出した時は、釣りに行く事を止めようかと思ったけど。  
「ほら、服脱いでこれ羽織っておけ。俺は後ろを向いてるから」  
くしゅん!と派手にくしゃみをしたあたしに、ダグラスが備え付けの毛布を投げてよこした。だいぶ使っていなかったらしく、ウン年分の埃が舞ってあたしは余計くしゃみをしたけど、気を使ってくれてるんだなと思うと嬉しかった。  
「うん…み、見ないでよね?」  
「誰が見るか、そんな色気のない体」  
もう、レディーに向かって失礼よね。いつも人の事、子供扱いするんだから。  
そろそろと服を脱ぐ。ダグラスも後ろ向きで自分のシャツを脱ぎ捨てて、水をしぼっている。  
ううっ、そっか。良く考えたら、ひと気のない廃坑に二人きり。しかもお互いほぼ半裸。  
何かあったらどうしようかとか、ちょっと意識しちゃうじゃない。  
「…おい」  
「ひっ!…な、なによ?」  
「脱いだ服はこっちによこせよ。しぼって乾かしてやるから」  
後ろ向きのままで、ダグラスが手を出した。あたしはそっと手を差し伸べて、なるべく近寄らないように濡れた服を渡した。  
ダグラスがあたしの服をギュッとしぼる。肩甲骨のあたりの筋肉がそのたびに盛り上がるのが、綺麗だと思った。  
「おい」  
「はっ、はいぃ!?」  
「何素っ頓狂な声出してんだ、お前は。…良いか?」  
「なっ、なっ、何が?」  
「そっち向いても良いのか、って聞いてんだけど」  
「あっ、どうぞどうぞ…」  
あたしは体に毛布をしっかり巻き付けて、部屋の隅にうずくまった。  
 
「…何をしている」  
「え?雨宿り」  
「それは判ってる。俺が聞きたいのは、なんでそんな隅っこに行くんだと言う事なんだが」  
「いや、あたし思うんだけど、別に、ここでも、十分乾くかな〜…って」  
赤い顔でしどろもどろに説明するあたしに、ダグラスが大きなため息をついた。  
「心配しなくても変な事なんかしねぇよ、安心しな。そんな所にいたら、風邪引いちまうだろが」  
あたしの腕を掴んで、暖炉の傍に押しやる。そのままダグラスは、暖炉から少し離れた所に腰を下ろした。  
「あの…あたし思うんだけど、そんなに火から離れたら、ダグラスが風邪引いちゃうよ?」  
「おや?俺が近寄ったら、怖いんだろ?」  
ダグラスはそう言いながら、いじわるそうにニヤニヤした。  
「いや、怖い訳じゃないの…その…ごめんね。…こっち来て?ね?」  
あたしは自分の隣をポンポン叩いた。仕方が無さそうに、ダグラスが横に腰を下ろす。暖炉の火を眺めながら、しばらくお互いに沈黙が続いた。外では雨が降り続いている。  
この廃坑の家の中から雨を見ると、あの日の事を思い出す。  
「…あの時も、こんな天気だったなぁ」  
「うん?」  
「ほら、あの日。昔、ここに逃げ込んだ時…ダグラスがここに帰って来るちょっと前」  
「ああ!小さかった頃の誰かさんが、わんわん泣いた時の話な」  
「んもう!あれはもう過去の事でしょっ!」  
あたしは軽くダグラスの胸を叩いた。すぐからかうんだから、まったく油断も隙もない。  
「なんだよ、お前が言い出したんだろ?」  
ダグラスが笑ってそう言った。なんとなく気まずさが和らいで、あたしはホッとした。  
「それから、あたしが記憶を取り戻した時も、こんな雨だったね」  
「ああ!誰かさんがドジ踏んで、崖下に落っこちた時の話な」  
ドン!とあたしは床を叩いた。  
「まったくっ!ダグラスってば、ちっともロマンチックじゃないんだから!」  
「だから前にも言っただろ?俺にそういう事を期待するだけ無駄だって」  
ダグラスは威張ってそう言った。  
「そりゃー、ダグラスにロマンチックを期待するのって、バッファローにドレスの仕立てを頼むような物かもしれないけど…」  
「…前にも思ったけど、さり気なく失礼だよな、お前」  
 
「せっかく思い出の場所で二人っきりなのに、もうちょっとロマンチックな雰囲気に出来ないの?」  
怒って抗議したあたしのおとがいを、ダグラスの手が捉えた。  
「…いいのかよ?」  
見ると、ダグラスの目が細められている。これは…本気の時の目だ。  
「今、誰もいないここで、あられもない格好のお前相手に、本気出していいのか、って聞いてるんだぜ?」  
そこで初めてあたしは、ダグラスが今まであたしに触れるのを我慢していた事を悟った。  
…どうしよう?  
あたし達は、まだキスまでしかいっていない。いつものように子供扱いされてるんだな、とあたしは思っていたんだけど。  
この先に進むのが嫌な訳じゃない。ただ、本音を言ったら少し怖い。でも…。  
でも、初めてはダグラスじゃなきゃ嫌だ。他の人なんて、考えられないよ。  
「…いいよ…」  
あたしは聞き取れないほど小さな声で、真っ赤になってそう答えた。  
「…嫌なら今すぐそう言ってくれ。始まったら…止められないぞ」  
苦しそうに言いながら、ダグラスがあたしをギュッと抱きしめて来た。固く、強く。  
「いいの…だってあたし達は、人生ただ一人の、最高の相棒なんでしょ?」  
そう言ったあたしに、ダグラスはくすんと笑った。  
「ああ…そうだな」  
ダグラスはそのまま、あたしに優しくキスをした。  
静かに体を倒される。ダグラスの手が、そっとあたしの毛布を開く。恥ずかしくて、あたしは眼を閉じた。  
「!! お前、下着まで雨で濡れてるぞ。早く脱がなきゃ風邪引いちまうだろが」  
あきれた声を出したダグラスが、手早くあたしの下着を剥ぎ取って行く。  
あああ。この人はこんな時まで、雰囲気とか情緒って事をまるっきり考えないんだろうか。  
それにしても、なんだか妙に女の子の下着を脱がせるのが上手なような。やっぱり、それなりに経験があるって事よねぇ、これって。ちょっとショックかもしれない。  
男の人だし、あたしより九歳も年上なんだから、当り前なのかもしれないんだけど。  
などと考えている隙に、あっという間にあたしは生まれたままの姿になった。うわっ、恥ずかしいよう。  
ダグラスも、あたしから体を離して自分の服を脱いで行く。全然隠していないので、全部丸見えだ。…男の人って、そんな風になってるのね。ううっ、どこを見ていいのやら。  
 
毛布にくるまって赤面しながら反対側を向くあたしに、ダグラスが体を寄せて来た。  
「…入れてくんない?寒いんだけど」  
はいどうぞ、とあたしはしぶしぶ毛布の前を開いた。そのまま、ダグラスが覆いかぶさって来る。とても恥ずかしいんだけど、あったかいのが嬉しい。  
「ミリアム…好きだ」  
そう言って、ダグラスは今までした事のないような、長くて熱いキスをした。頭の芯がしびれてくる。いつの間にか、毛布はあたし達の下に敷かれていた。  
いくら雨が降って薄暗くても、外はまだ昼だ。体が全部見えてしまうのが恥ずかしい。  
そう思って懸命に体を隠そうとするあたしの腕を、ダグラスが押さえ付けて来る。  
「やだ…恥ずかしいの…」  
「大丈夫、綺麗だから」  
そう言いながら、ダグラスはあたしの胸を愛撫して来た。  
こういう時だけ気の効いた事を言うのね、と文句の一つも言いたかったけど、そんな余裕は無くなっていた。ダグラスの指や唇があたしの頂きを刺激するたびに、電流が走る様な感覚がする。その指で他の色々な場所に触れられるたび、踊るように体が跳ねる。  
お互いの体に褪めない熱が起こって、皮膚を焦がすほど熱い。  
ダグラスの手が段々下に降りて来て、とうとうあたしの叢に辿り着いた。  
叢の奥に隠れた秘裂を、その指が軽くなぞってくる。今までとは比べ物にならない刺激に、お腹の奥から何とも言えない感覚が沸き起こる。  
あたしはその感覚が怖くて、目を閉じて必死にダグラスにしがみついた。雨の音とは違う水音が部屋の中に響く。ダグラスの指が動く度に、閉じた瞳の奥から体の末端に向かって火花が散る。  
「…ふっ…んくぅ!…」  
「気持ちいいか…?」  
「わ、わか…わかんない…。でも、何だかすごく切ないの…ゥっ!」  
「それが、気持ち良いって事…」  
そう言って、ダグラスはあたしの中に指を差し入れてきた。少しだけ痛かったけど、それはすぐに甘い疼きに変わる。  
あたしは、荒れた海に漂う小舟のように、ただただダグラスに翻弄された。腿の内側に、熱い塊が何度かぶつかってくる。  
 
「…良いか?」  
ダグラスが我慢出来なそうに、あたしの膝を左右に広げた。あたしはコクンと頷いた。  
「最初は痛いけど…少し我慢してくれ。力抜くと楽らしいぞ…」  
そう言いながら、ダグラス自身があたしの中に入って来た。その瞬間、まるで無理矢理焼ごてを押し込まれたような感覚に、全身が大きく軋んだ。  
あたしの意志とは関係なく涙が滲んで来る。ダグラスの指が、あたしの涙を掬った。  
「痛いか?ミリアム」  
あたしの事を気にしたダグラスが、中でしばらく動かずに留まっていてくれた。お腹の奥の方から痛みが、徐々に切ない疼きに変わって来る。  
「…もう大丈夫みたい…いいよ…」  
あたしは、目を開けてダグラスにキスをした。それを合図に、ダグラスが律動を始めた。  
痛みが甘さを伴って、あたしの内部で暴れている。切なくて、苦しくて、でもダグラスの全てが好きだと思った。  
「…ダグラス、好きよ…愛してる」  
「ああ…俺も、お前を愛してる…ずっと…こうしたいと思ってた…」  
そうだったのか…ずっとあたしを子供扱いしてると思ってたけど、本当はそうじゃなかったんだね。嬉しい。  
まるでこの世に今、あたし達二人だけの様な気がする。  
体は熱く繋がりあっているのに、心がとても穏やかに繋がっている。  
最初は痛みだけだった中の感覚も、熱いうねりを伴ってあたしをどこかに運んで行く。  
自分の中に欠けていた物が満たされるようで、もう二度と離れて欲しくないとさえ思った。それはどこか祈りにも似ていて。  
最初の怖さも薄らいで、あたしは素直にダグラスの熱に全てを委ねていた。動きが段々激しさを増して、あたしの知らない扉を開きはじめる。  
「…ミリアム…ミリー…っ!」  
「…ダグラス…!…」  
あたしは必死で、ダグラスの手に指を絡ませた。体の芯から熱くて白い光に包まれて、あたしとダグラスは何処かへと駈け上がった。  
 
 
「あ…雨、上がったね」  
乾いた服を着込んで身支度を調えたあたしは、ダグラスにそう微笑んだ。  
「ん…そうだな」  
ダグラスは、いつものダグラスに戻っていた。なんだか、つまらないの。  
「ね…お願いがあるんだけど、聞いてくれる?」  
「それは、お願いによるが」  
あたしは、ダグラスの耳元にそっと囁いた。  
ーーー人がいない時で良いから、今日みたいに、一日一回好きって言ってね。  
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