自分の局でお庭のなでしこを眺めながら、わたくしは今日幾度目かのため息をつきました。  
頭にあるのは、先程右大臣家の小者が届けてきた文のことでございます。  
簡素な白い紙になかなかの達筆ぶりで書かれたそれは、  
まあ、恋文といいましょうか。  
お歌もなかなかの出来なのではありますが、艶っぽい内容ならそれなりに  
きれいな透かし模様の紙に書くとか、何かの枝に結ぶとか、そういう方法もあるでしょうに。  
それでも、あの堅ぶ……いえ、真面目一辺倒のあの人が、  
頭を振り絞ってこのような文を書いているところを思い浮かべますと、  
自然と口元がほころんでくるのでございます。  
このようにお歌や文を遣すようになって三月。  
わたくしも二、三度に一度はお勤めの合間に文を遣ってはいましたが、  
なにせこのような経験のない者、なかなか、こう、  
瑠璃さまのおっしゃるような「ゴーサイン」を出すタイミングがつかめないのでございます。  
けれども、最近は瑠璃さまもようやく落ち着かれたようですし、  
そろそろ、いいのでしょうかしら、ねえ……。  
 
内大臣家の東の対屋、瑠璃姫の居室の庭には萩の花がたくさん植えられている。  
白と淡い紅色の小さな花は、かのひとのように可憐である。  
「なにをぼんやりしているのよ、守弥」  
瑠璃姫の厳しい、しかしどこかしら笑みを含んだ声が飛んだ。  
若君とご結婚なされてから既に一年、相変わらず奥ゆかしいという言葉などとは縁遠いものの、  
最近はさすがに少々落ち着かれて、女性らしく、あでやかな雰囲気すらあるように感じる。  
「あんたも高彬に一途に仕えてきてさ、これまで女っ気もなしでもう二十四歳じゃない。  
あの子もまあ、これは半分はあたしの責任だけど、二十一歳で未だ独身よ。  
これ以上伸びると、あたしも不安だわ」  
「そ、そうはおっしゃられましても……なにか、急ですし」  
「結婚って、片方がアクション起こさない限り、まったく話が進まないものよ。  
小萩だって色よい返事くれてるんでしょ?男ならさっさと決めちゃいなさいっ」  
色よい返事と言えるかどうか……と言いかけたわたしをさえぎって、瑠璃姫はさらに続ける。  
「わざわざあたしが陰陽で占わせてせっかくしあさってが吉日って出たのにさ。  
これを逃さない手はないわよ」  
「しかし、小萩どのの気持ちの準備も」  
「その辺は心配ご無用よ、先輩格の女房に頼んでしっかりリサーチ済みなんだから。  
あの子も経験ないんもんだから、とまどってるのよ。こういう時は男がリードしないとだめなの」  
 
右大臣家に帰り食事をとったあと、わたしは頭を冷やそうと夜の庭に出た。  
だが、思い出されるのはかの人のことばかりだ。  
品の良い額、細い顎、すんなりとした首筋。  
髪はすそがひろがり、動くとさらさらと音がして。  
衣のあわせはいつも清楚な色で、それがまた良く似合う。  
握ったら折れてしまいそうな、細い指。  
考えただけで、頬が熱い。胸が苦しくなる。  
 
やはり、わたしは、彼女が欲しいのだ。  
 
まだ湿り気が残っているような気がして、  
わたくしは一度先を束ねた髪をほどき、また櫛でとかしました。  
髪が湿ったままでは、眠ることができないわ。  
脇息にもたれ、読みかけの絵巻を読もうとして、  
しかし手が伸びたのは三日前に届いたあの文でございました。  
けっきょくお返事をしないまま、日が過ぎてしまったのでございます。  
もれるのはため息ばかり、やはりあの日のうちに返事を遣るのでした。  
 
……?  
なにか、外でもの音がしたような気がいたしました。  
気のせいでしょうか。いえ……  
ほとほとと、格子を叩く音がいたします。  
けれども体がこわばってしまって、どうしてでしょうか、動けないのでございます。  
 
格子を叩いたものの、返事がない。  
もしやもう、彼女は眠っているのだろうか。  
灯りは、ついているのだが。  
……ともかく引き戸を開けねば。よし。  
意を決して、戸に手をかける。  
音を立てないように。そっと……。  
 
彼女が、見上げている。  
切れ長の目を見開いて、頬を染めて。  
その手に持っているのは、二日前に贈ったわたしの文ではないか。  
いとおしさがこみあげる。  
「小萩どの……」  
床にひざをつき、抱きしめる。  
彼女が、体をこわばらせ、そしてしばらくののち、息を吐いた。  
「……戸を閉めて」  
……こういうところが、間が抜けていると瑠璃姫に言われる所以なのだろう、わたしという男は。  
戸を閉めて彼女を振り向くと、少し怒ったような、拗ねたような表情でわたしを見つめている。  
日ごろ怒られることが多いわたしにとっては、このような表情は新鮮で。  
やはりとても、いとおしい。  
ふたたび彼女に近づき、抱きしめた。おずおずと、背にまわされた手の感触にぞくっとし、  
興奮が湧き上がり、たまらず唇をふさぐ。  
わたしたちは横倒しになった。  
 
ふたたび唇を重ね、見つめあう。  
背にまわしていた腕を抜き、左手で頬をおさえて、右手で彼女の髪をなぜる。  
心臓が破裂しそうだ。しかし、彼女も初めてなのだろうから  
わたしが落ち着いて、なんとかコトをすすめねば。  
そうだ、こういう時のキ、接吻というものは、舌をからみあわせるのではなかったか。  
思い切って、舌を差し入れてみる。  
「ん……!」  
驚いた表情も、また新鮮でよろしい。  
本能の赴くまま、彼女の舌に自分の舌を絡め、吸い上げる。  
やわらかい彼女の舌に、下半身が更に熱くなった。  
彼女の呼吸も荒い。  
 
なぜなのでしょう、体の奥から不思議な感覚が湧き上がってまいります。  
瞳がうるんで、頬が紅潮しているのが、自分でもわかるのでございます。  
こんな時、女性は目をつむるものだと聞きますが、彼をつい、見つめ返してしまう。  
気難しげな眉宇、わたくしを見つめる意思の強そうな目、すっきりと通った鼻梁。  
薄い唇はお互いの唾液でしっとりと湿り、それを見るとまた、不思議な感覚が強くなります。  
がっしりした男性らしい首筋と肩のあたり。  
 
ああ、わたくしは、この胸にずっと抱かれたかった。触れたかったのだわ。  
そう思うと急に恥ずかしさがこみあげ、  
わたくしは彼の胸に顔をうずめて、焚きしめられた香の匂いを吸い込みました。  
「そうだ、小萩どの」  
顔をあげると、彼が照れくさそうな表情で、袖から花を取り出しました。  
「まあ、萩の花」  
わたくしの名にちなんで、持ってきてくれたのでしょう、  
思わずほおえみ、わたくしの側から接吻をしてしまいました。  
 
やがて彼の唇が、頬、顎、首筋を移動して、知らず知らずのうちに体から力が抜けてゆきます。  
「きゃあっ」  
ごつごつした手が、羽織っていた竜胆の単をはぎとり  
あっという間に小袖の胸元に滑り込んでまいりました。  
「やあ……あ……」  
「隣の女房に、聞こえますよ」  
普段はわたくし優位で話しているのに、今日の彼は笑みを含んだ声音で、小憎らしい。  
そうだわ、彼も、はじめて……なのかしら。それとも……?  
しかし頭に浮かんだ雑念は一瞬の後に  
乳房を覆う大きな手で、頭の隅に追いやられてしまうのでした。  
彼の冷たい手のひらに触れられたところは、なぜかじんわりとあたたかく、  
そこから痺れが体中に広がってゆきます。  
ああ、でも、これだけは。  
「灯りを消して……」  
彼が、しぶしぶといった面持ちで灯りを消しに行きました。  
 
月明かりが格子から差し込んでいる。  
几帳にさえぎられてはいるものの、彼女の表情や、  
体の曲線は意外にはっきりと浮き上がって見える。  
もう一度喉のくぼみを唇で舐め上げ、そっと小袖をはだけた。  
「や……っ」  
彼女が顔を背ける。  
暗闇にほんのりと浮かび上がる彼女のそれは、  
細身の体からは想像しなかった、豊かなものであった。  
その先にある小さな、つんと尖った……  
そう、きっと(薄闇の中なのでわからないが)萩の色のような花弁。  
ーーー将文が、とにかくやさしくするようにと、申していたな。  
やさしく乳房を揉み、そっと舌を這わせる。  
外側から、花弁に向かうにつれ、彼女の息遣いが荒くなってきた。  
 
花弁をゆっくりと味わう。  
試しに歯を軽く立ててみると、  
「ん……っ」  
懸命に声をこらえているが、体がますます汗ばんでくる。そろそろ良いのだろうか?  
左手で彼女の身体を支えたまま、右手で自分の衣をはだけ、  
さらに彼女の腰紐を一気にほどいた。  
「いやっ……恥ずか……」  
彼女は小袖一枚を腕に通しただけで、ほかはすっかりはだけている。  
かなり扇情的な姿だ。  
もっとこの状態を楽しみたい。  
 
彼女を寝かせ、両足の間に身体を入れた。  
左足を軽く持ち上げ、白く柔らかい内腿にしばらく唇を這わせる。  
こちらもときどき軽く歯を立てたり、吸ったりして、反応を見てみることにする。  
彼女はぐったりとして、ひたすら喘ぐのみである。  
わたしも男、秘部を観たいのだが、こう暗くてはかなわぬ。  
代わりにふたたび上半身にもどり、乳房を両手で愛撫しつつ、  
腹部の溝をちろちろと舐めながらだんだん下に降りてゆく。  
 
彼女の喘ぎ声を聞きながら、秘部に指を這わせた。  
「あ……っっ!」  
そこは、しとどに濡れている。  
 
なんてこと、彼はわたくしの下半身に手を伸ばしたのでございます。  
思わず声を上げたわたくしの唇を唇でふさぎ、  
次の瞬間には両足を両手で広げ、そこを舌で愛撫し始めました。  
「やっ、ああっっ」  
恥ずかしさでいっぱいになりましたが、脚を閉じようとしても  
間に彼の身体が入っていて、果たせません。  
わたくしのそこは、なにやら冷たい液体がどんどんあふれてきているようで、  
尻の下にある小袖がすっかり湿っているのがわかるのでございます。  
それに、彼の舌のいやらしい動きのせいで、そこは淫猥な音をたてておりました。  
 
どれくらい時間がたったのでしょう、  
いえ、実際にはとても短い間だったかもしれないのですが、  
彼が耳元でわたくしの名を読んだので、  
頭もぼんやりして息も絶え絶えながら、ええ、と答えていました。  
「ああ……っっ!!」  
突如として、すさまじい痛みが、わたくしを襲いました。  
激痛というには、少し違うかもしれません。圧迫感がものすごく、息ができないのです。  
しばらく身体を強張らせたままでおりますと、彼が腰をひきました。  
これで終わったのかしら?安堵のため息を漏らそうとした次の瞬間、再び彼をそこに感じました。  
「ひゃあぁっっ」  
彼がさっきよりももっと奥の方へ、入ってまいります。  
無理、無理よこれは……!  
更に声が漏れそうになるのを、必死でこらえました。  
「大丈夫か……?」  
心配そうに彼が声をかけてまいります。うなずいた拍子に、  
右目から涙がひとすじ、零れ落ちました。  
彼はわたくしの涙をそっと舌で舐めとったあと、背中と腰をぎゅうと抱きしめ、  
わたくしの中へさらに深く腰をしずめました。  
凄まじい異物感が、わたくしの内部を侵します。  
そしてゆっくりと彼は、出し入れを始めました。  
こ、こんなに痛いのに何故動くのでしょうか。  
やがて幾度目かに彼をわたくしのいちばん奥に感じたのち、  
彼は低く呻いて、わたくしの上に崩れ落ちてまいりました。  
 
彼女は汗と涙で濡れた顔を傾けて、目を閉じたまま喘いでいる。  
「小萩……?」  
初めて彼女の名を”どの”付けではなく、呼んでみた。  
彼女は、そっと目を開け、泣き笑いの顔でほおえんだ。  
きつく抱きしめると、甘い切なさに満たされた。  
 
わたしが目を覚ましたとき、部屋はまだ薄暗かったが、  
なにやら様子がおかしい。人の立ち動く気配がする。  
「!?」  
がばっと跳ね起き、格子から外を伺い見ると日が高く登っている。  
巳か、牛の刻か……やってしまったようだ。  
彼女はまだぐっすり眠っていたが、わたしがかるく肩に手をかけると  
はっと目を覚ました。  
「大変……!」  
もう後朝の歌もくそもなく、彼女が身支度を整えるのを手伝い、  
瑠璃姫のもとへ送り出した。  
 
しかし、局のすぐ外のすのこを他の女房たちが行き交っていて、私は出るに出られない。  
だがどうせこの時間まで寝過ごしてしまったのだ、今更右大臣家に戻っても  
どうせ若君は出仕なさる日なのだから、内向きの御用を務める  
わたしがいなくてもなんの滞りもあるまい。  
今夜に備えて、からだをやすめるか。  
腹が減ったのは困りものだが……。  
わたしは彼女の匂いののこる小袖に顔をうずめ、昨晩の幸せな気持ちを抱いて横臥した。  
 
「大変失礼をいたしました、姫さま」  
わたくしは御前で平伏しておりました。  
「いいから、小萩、あんた朝ごはんを食べていらっしゃいよ。  
まだなんでしょう?」  
「いえ、そんなわけには」  
「遠慮することないわ、台所に言って精のつくもの用意させておいたのよ。  
今夜に備えて、せいぜい精をつけたらいいわ」  
思わず顔を上げますと、瑠璃さまは九年前と変わらぬいたずらっぽい顔で  
にっこりと、お笑いになられました。  
 
(終)  
 
 

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