PART.3
公開初日の3日後、真中は妻のつかさを伴いお忍びの形で自身の初監督作品を映画館で鑑賞した。
「まあまあお客入ってるね。良かった良かった。」
平日の火曜日ではあったがまだ公開したばかりだったしまた話題作という事もあり観客の入りは悪くはなかった。
運がいいのか、この同時期に所謂超話題大作級のハリウッド映画と並行していないというのも要因の一つかも知れない、
そんな風に真中は状況を冷静に分析してみたりもしたが内心はやはり客のまずまずの入りに安堵していた。
上映時間は1時間50分ちょっとと長くもなく短くもないという平均的な長さである。
つかさとは早く一緒に劇場で鑑賞したかったのだが一番の当事者の立場でもあり土日もはさんでなかなかそうもいかず、
この日ようやっとある程度時間の余裕が取れた為晴れて待望の妻へのお披露目となった。
初めての作品だが本当に悪くはない出来だ。つかさもきっと気に入ってくれる、俺も鼻が高い気分だ。
暗闇が広がる先の銀幕のスクリーンでは主演の男女二人が互いの愛を確認しあうシーンが展開されていた。
だが結局最後は互いの価値観の相違と疑心、不信感が芽生えやがて二人は傷ついていく・・・。
それは愛を求め信じあおうとしながらも、もがき苦しんでいく男女の哀しい愛の物語だった。
「ホント凄く良かった。もうあたし感動しちゃって泣いちゃったよ・・・」
劇場を後に二人は今晩宿泊する高級ホテルのレストランで夕食に洒落込んでいた。
その帰りにつかさは書店で映画雑誌数冊を購入しあまり行儀が良いとはいえないがメニューが運ばれてくる合間合間で
真中の作品の特集やその批評などを読みふけっていた。
キャスト、スタッフらのインタビューなども掲載されており当然ながら監督・真中も取り上げられていてそれを見るにつけ
つかさは子供のように嬉しそうにはしゃいだりする。
「あ、東城さんのインタビューも載ってるね。まあ脚本で参加してるし当然か・・・・なんだか監督の淳平よりも東城さんの方が
扱いが大きいじゃん。なんか悔しいね」
「そりゃ仕方がないよ。俺は監督といっても過去に小さな賞取った事があるだけのまだ無名といっていい存在。だけど東城は
既に売れっ子の人気作家だしね。今回この映画がそれなりに話題になってるのも東城が脚本で参加してくれたからなんだ。
それだけじゃない、実際とてもいい話に仕上げてくれた。最初の脚本家のシナリオだけじゃここまで迫力が出なかったはずだよ。
やっぱ東城の力は改めて凄いと感じたよ。ま、俺の手腕と主演の役者もいい仕事したけどな。」
真中は自画自賛しながらも同時に役者、特に外村プロ所属の主演女優の演技力には感心させられたものだ。
話題の脚本と主演俳優に随分助けられたんだよな、決して俺だけの力量ではない、驕らないようにしなきゃ、と自身を戒める。
「でもあの映画決して爽やかなお話じゃなかったね。正直何回も見たいと思える題材じゃないんだよな・・・。
淳平を前にこんな事言うのも失礼千万だけど」
それがつかさの正直な感想だった。
真中もそう言われて苦笑せざるを得なかった。
「東城さんの小説は読んでるから分かるんだけど実に東城さんらしい題材で描いたって感じなんだよね。
ホラ東城さんって恋愛小説でも上辺の爽やかさなんかよりも人間の暗さや情念みたいなのがスタイルっぽいよね?
なんか曖昧な判断は許さずはっきりした二者択一を選ぶ、みたいな。文面がくどくない分読みやすいんだけどそれが
余計印象に残るんだよね。今回の映画ではそれに淳平が撮った映像が混ざり合った訳で余計に臨場感があったし」
そうなんだ、それが東城綾の持ち味なんだ。
描きたいテーマは常にはっきりさせてあってそれが決してくどくならずに品性を保ちながらも男女の痛い性やエゴなどを
実に豊かに描写するのだ。
見事な職人的技術と言っていい。
若くして直林賞受賞した経歴は伊達ではなく方向としてむしろ純文学的なスタイルに近いのかもしれない、真中はそう思う。
「しかし東城さん、綺麗だよね。淳平も惚れ直したんじゃないの?」
つかさの思いもよらない一言にズキッ!と激しく動揺する真中。
つかさの眺める映画雑誌の東城綾のインタビュー記事に掲載されているその顔写真はなるほど誠に美しかった。
・・・・惚れ直した?・・・・確かにあの時東城と再会した俺は相当心奪われた・・・・。
泉坂の同窓会で再会した時もかなり大人びた美しさを漂わせていたが今度の時はその比ではなかった。
どこかあの頃のまっすぐでひたむきだった美しい少女の面影をまだ残しながらも同時に艶やかで魅惑の大人の女であり
そして妖艶なメスの匂いを感じさせ一瞬頭が真っ白になった気がする・・・そんな俺に彼女は微笑をくれたんだ・・・。
真中はあの日綾と二人の席を設け綾から自分への贈り物を貰った事を結局つかさに報告する事が出来なかった。
変に隠したりせず堂々としていた方が罪の意識を抱かずに済んだのだ。
なのに自分はそうせずにつかさには知られたくない秘密を作ってしまったのだ・・・・。
あの日東城は、今は奥さんの事は話さないでください、と言って俺に・・・・。
それを不意に思い出し真中は何とも形容しがたい体の火照りを感じていた。
何だこの感情は?この熱さは何だ?・・・・苦しい。
「ちょっと、淳平大丈夫?顔色が変だよ?」
つかさからの指摘で真中ははっと我に戻ったのだった。
夕食の終え二人は宿泊するホテルの最上階のバーラウンジに場所を移した。
ここから見える夜の東京の夜景は実に素晴らしいものだった。
昔最高に美しかった夜景を写したアメリカの映画を見たけどあれ何てタイトルだったかな?
真中はそう思案しながらつかさとカクテルを乾杯した。
つかさはケーキの趣味が影響してるからだろうか酒はカクテルのような甘い物しか口にしなかった。
それもせいぜい嗜む程度なのだが今夜はペースを持ちながらも4,5杯と次々に口に運んでいた。
「なんか今日は結構飲むな?あまり飲んだら悪酔いするぞ。カクテルは後から酔いが回るっていうから」
「うん、・・・・でもなんかお酒が飲みたい気分になっちゃって・・・。淳平の初監督映画見れてこうやって久しぶりに
外で一緒の時間過ごせたからかな?なんだか嬉しくなっちゃって」
単純なものだ、真中は微笑ましくそう思う。
こういう時のつかさは本当に可愛い、時々怒ったりする事もあるけど今の俺はつかさをワクワクさせれているのかな?
さっきまで綾の事で悶々とした感情を抱いていた事も忘れて実に都合のいい解釈をする真中だった。
「ねえ淳平、本当の事言うとさ・・・・あの映画見てねあたし凄く感動したんだ・・・・それは間違いないよ。でもね、
同時にね凄く嫉妬しちゃったの・・・・淳平と東城さんの事」
え?つかさの突然の告白に驚く真中。
「高校一年の時のあの作品見たときもちょっとそう思ったんだ・・・あの時はあたしも泉坂にいたら淳平の傍で一緒に
映画を作れたのに、ってね・・・。でも今度のはちょっと違うんだ。淳平の作り出す映像に東城さんのストーリーが
思いっきり命を吹き込んでる・・・はっきりとそう感じたの。 それであたし凄く嫉妬しちゃった・・・。淳平が東城さんより
あたしを選んでくれたにも関わらず二人はこうして固く揺ぎ無い夢の絆で結ばれてるみたいで・・・」
つかさの思いがけない告白で真中は再び息苦しい感情が胸の奥から込み上げて来そうになる。
「ごめん、変な事言って・・・・慣れないのにちょっと飲んじゃったから・・・・そろそろ部屋に戻ろう」
真中がつかさの肩を抱くような形で二人はバーを後にホテルの寝室に戻ったが部屋に入った途端つかさは真中の胸に
飛び込んできた。
「淳平!」
つかさは真中に懇願する。
「して、・・・・・お願い・・・・・、して」
真中はもう何も言わずにつかさを抱きかかえそして二人はベッドの上で織り合うように
重なり合った・・・・・・。
夜のネオンの灯火は二人を照らすかの如くまだ明々と消えないでいた・・・・・。
その夜真中とつかさはお互いの体の温もりとその存在を確かめ合うかのように熱いうねりの中に身を委ねていた。
細く白く輝くつかさのしなやかな体は真中が愛して愛してやまない美の宝石であった。
もっと胸が大きかったらいいんだけど・・・・淳平もその方がいいんじゃないの?
高校の時から今に到るまでこれがつかさの悩ましいコンプレックスになっているようだ。
真中は困ったように苦笑しながらも、そんなことないって。好きだよ、つかさの体・・・、と愛おしい彼女の唇にキスをする。
そして右手をつかさの胸に滑らせながらゆっくりそれを愛撫していく。
う、ううん、つかさの口から吐息が漏れる。
ボタンを全て外された上服の下から覗き出たブラジャーのホックを器用に外しつかさの柔らかで丸い胸が顔を覗かす。
つかさ・・・・綺麗だよ。
そう呟きながら真中はつかさの胸の先端のピンクの蕾をした乳首を口に含む。
ああ、ああん、んああ・・・・顔を赤らめて声を喘ぐつかさ。
真中はCカップクラス弱のつかさの両胸を丹念に弄りながら交互に乳首を吸う。
その度につかさはぶるる!と体をのけぞりながらも両手で真中の背中に腕を回す。
「もう・・・・淳平、胸は変に感じちゃうんだから、あんまり弄ったら駄目だよ・・・・」
つかさが一番感じる部分をいつも意地悪く責め立ててしまう真中であった。
やがて真中の手は胸からぐっと下の部分へと這わせながらつかさのパンツに手をかけそれをゆっくりと脱がした。
つかさの陰部はチラチラと可愛らしい金色の陰毛で申し訳なさ気に覆われながらその部分は艶やかにしっかり濡れていた。
真中は陰毛を指で絡めながら秘部を周りのヒダに指をかけ濡れ具合を確かめてみる。
「や、やああん!・・・・ああ・・・だ、駄目だよ、・・・・・そんなにいじったらもう・・・・・恥ずかしいよ・・・・」
つかさはもう恥ずかしさで頭がいっぱいになっている。
「それじゃあ、つかさ、いくよ・・・」
充分蜜で濡らしたつかさのナカに真中がゆっくりと自分のモノをインサートした。
「う、うう、・・・・・じゅ、淳平・・・・・・き、来てぇ・・・・・」
つかさの膣に入った感触をしっかり下半身で実感しながら真中はゆっくりテンポを刻むように腰を動かしていく。
その度につかさは涙を浮かべながら陰部の中の真中によって突き上げてられてくる責めに体を震わせる。
昔の肉体労働と世界放浪と映画の現場で鍛えられた真中の全身からはいくつもの汗の結晶が浮かび上がってくる。
それがつかさの白く透き通った体に触れ合って彼女の体を余計に眩しく光らせていく。
・・・そして約15分ほどの交わりの中でもう真中は精のほとばしりを迎えようとしていた。
もっと長く頑張ってやりたいんだが・・・・もう限界だ・・・・。
真中は飛びそうになる意識の片隅の中でそう呟く。
つかさの蒼い瞳を見据えながら真中はじっくりと絶頂に達していく・・・・。
だがつかさの膣で射精を迎えようとした瞬間、真中はある声を聞くのだった。
「・・・まなか・・・・くん」
その声の主は紛れもないあの東城綾の声だった。
絶頂の中でイキながら彼は意識の彼方で東城綾のその懇願するかのような声を確かに聞いた・・・。
そして射精されて真中の下でぐったりとするつかさの顔に東城綾の顔が蜃気楼の如く被さられて見える。
「欲しい・・・・来て・・・・真中君・・・・」
綾の黒く澄んだ瞳が静かにそう語りかけてくる。
真中は突然我を忘れたかの様につかさの両胸を思いっきり鷲掴みにする。
「ちょっ!、ちょっと、淳平、や、やめて」
だがその声は真中には伝わらない。
真中はつかさの胸を揉みくだしながら萎えた一物を再び滾らせていく。
そしてつかさを前屈みにさせバックの形から思いっきり性でたぎる一物を再び彼女の秘部に注入した。
つかさは思わず声を叫びそうになるくらいの激しい責めだった。
そして真中はもう半分我を忘れているかの様だった。
今彼の脳裏を支配しているのは東城綾の幻影であった。
東城、東城、東城、東城、東城、東城・・・・・・・・・・・・・・。
彼の中で東城綾は力ずくで獣のように荒々しく犯されていた・・・・・。
その綾の両頬には眼から一筋の涙が伝わっていた・・・・・。
「まなか・・・・くん」
真中は再びその声を遠くから聞いたのだった・・・・・。
「・・・・淳平、本当にどうしちゃったの?あんな人が変わっちゃったみたいになって・・・・」
あの激しい性の営みの後、つかさはシャワーを浴びて全身の汗と匂いを洗いバスローブで体を包めながら
夫に問いただす。
「ごめん、・・・・何かかっこ悪いことしちゃって・・・・。その、つかさをもっといっぱい欲しくなってさ・・・・」
恥じるように真中は答える。
「まあ、別にいいんだけど・・・・でも出来ればもっと優しくして欲しいよ。あんな風にしなくてもあたしは体はいつでも
淳平の物なんだから・・・・」
つかさもやや照れくさそうであった。
「もう遅い時間になっちゃったね。そろそろ寝ようか?」
二人は一つのベッドの中にお互い裸で抱き合うように入ってそのまま眠りについた。
真中はまだ混乱していた。
何であの時俺は東城の声と幻を感じたんだ・・・・。
そして俺はあんなに獣のように激しく東城を・・・・つかさを東城に見立てて・・・・。
東城、君は今どうしている?もう寝てるんだろうか?俺は、俺はこんなに君の事で苦しいんだ・・・・。
その手は妻のつかさの肩を抱きながらも彼の意識はここにはいない女性の影を想い続けていた・・・・。
やがて深い眠りの淵に誘われて彼の意識は遠い彼方へと消えていった・・・・。
長かった夜ももうすぐ明けようとしている・・・・。