《思い出−東城綾−》  
 
「あ、東上綾だ。」  
渡り廊下で話していた男子生徒が思わずつぶやいた。  
「やっぱりかわいいな。」  
一緒に話していた数人の友人も、彼の一言に反応し決まったように相槌をうつ。  
入学当初あれだけ騒がれ芸能人扱いされていた彼女も、卒業間近の今となっては  
むやみに騒ぎ立てる人間などおらず、平穏な日々を過ごしていた。  
しかし落ち着いたのは彼女をとりまく環境だけで、彼女の人気が落ち着いたわけではなく  
むしろ手が届かない高嶺の花のようになっている彼女に思いを馳せる男子生徒は減ったわけでは無かった。  
「かわいいよな・・・。卒業する前に一回位やりてーよ。」  
「お前じゃ無理だろ。」  
「はははっ」  
「なんだよ。正攻法でいったらな。たださぁ、卒業前に思い出作り・・・したくね?」  
彼女を見ながら男子生徒がニヤリと笑った。  
「だったらさ・・・。」  
それを聞いた友人達も含まれた意味に気づいたらしく、ニヤニヤと笑いながら提案をだしてゆく。  
たわいのない会話から「思い出づくり」と称した怪しい計画は着々と進められていった。  
「普通じゃつまんないよな。綾ちゃんの思い出にも残るような最高のものにしなきゃな・・・。」  
 
その日は彼女にとってはいつもとなんら変わりのないものだった。  
いつもの時間に家を出て、いつもの時間にバスに乗る。  
普段は徒歩で通学している彼女だったが、冬が近づき寒さを感じる季節になると  
最寄のバス停からバスで通うようになっていた。  
「今日も混んでるのかな・・・。」  
冬の寒さを和らげてくれるバスでの通学は彼女にとっては心地良いものであったが  
込み合う車内だけは未だ好きになれなかった。  
好きになれない一番の原因はぎゅうぎゅうに混みあう苦しさではなく、  
それを利用され行われる行為にあった。  
「今日は痴漢にあわないといいけど・・・。」  
そう心配しながら、時間通り到着したバスに乗り込む。  
今朝はいつもより寒いせいか乗車している人が多く感じる。  
いつもよりぎゅうぎゅうの車内は密着度がかなり増していた。  
案の定、すぐに通常密着しているだけでは触れられないような場所へも手が伸びてきた。  
(あっ・・・やっぱりまた今日も・・・。)  
 
彼女が恥ずかしそうに下を俯くと、突然後ろから目隠しをされた。  
「えっ・・・!?」  
と彼女が驚いたのと同時に口にも布があてられ、その声は声にはならな  
かった。  
(え・・・?何?何があったの!?)  
いくら満員のバスとはいえ、通常起こりえない行為に彼女はパニックになった。  
すぐさま周りの人間の衣服や体を軽く掴み、気づいてもらおうと助けを求めるも何も反応が無い。  
しかし、周囲の人々は気づいてくれるどころか、助けを求めた全ての方向から  
手が伸びてきて、彼女の体をまさぐり始めた。  
両手や両足は周りの腕によって固定され、自由に動かすことができない。  
 
(なんで!?・・・どうして!?)  
彼女の頭の中はこの状況を未だ理解できずにいた。  
しかし、服を捲られ直接触れたことの無い場所へと手が伸びてくると  
びくりとした体の衝撃と共に、状況が飲み込めてくるようになってきた。  
(いっ・・・いやぁぁっ・・・)  
しかし、ようやく状況が理解できてきたものの初めて触られる秘部に男達の手が伸びてくる度、  
初めて触られる快感に彼女の頭は次第にぼんやりとしてくる。  
(い・・・嫌なのにどうして・・・。)  
「・・ん・・・んふぅ・・・。」  
今まで布越しに抵抗するような音だった彼女の声は次第に体に反応し、  
いやらしいものになっていく。  
その変化に男達も気づいたようで、周りからは小さくクスクスと声が聞こえてくる。  
 
その声を聞いて途端にものすごい恥ずかしさが彼女を襲う。  
彼女は自分の置かれている状況とあまりの恥ずかしさに泣きそうになった。  
しかし、気持ちとは裏腹に終始やむことの無い行為に体は反応し続けてしまう。  
精神的にも肉体的にも追い詰められ、再びパニックになりそうになった時、  
救いの声がした。  
「まもなくー、泉坂高校前、泉坂高校前。」  
そのアナウンスの声で、もうすぐ車内に大きな昇降の流れが出来ると感じた彼女は  
気を持ち直し、もうすぐで開放される望みを持ち耐え続けた。  
案の定アナウンスに反応し、男達の手の動きも慌しくなる。  
スピードが緩やかになるに従って男達の手も拘束している手の他は  
動きがやみ、ようやく開放されるのを感じ、ホッとした彼女の体に瞬時に  
電流が走った。  
(え!?なっ・・・何か中にっ・・・)  
何か小さな機械的な振動を、自分の中心から感じる。  
何かを無理やりいれられたのだ。  
瞬時にそう感じ、それに気をとられていると、プシューっという大きな音をたてバスが止まった。  
それと同時に拘束されていた腕と足は開放され、人の流れで一瞬よろめきようやく  
目隠しをはずすも、彼女の周囲にはもうだれも居なかった。  
 
ふらふらしながらも慌ててバスを降りる。  
突然起きた一連の行動に心臓がずっとばくばくと鳴り続ける。  
本当はこのまましなだれて泣いてしまいたいくらい、ショックなことだったの  
だが、何よりも先に解決しなければならない問題があった。  
さっきは必死でバスをおりたものの、中に入っているもののせいでうまく歩くことができない。  
(・・・ど、どうしよう・・・。このままじゃ学校に行けないよ・・・。)  
不安なのはそれだけではなく、いつも身につけている下着が上下とも行為の最中に  
剥ぎ取られてしまっていたのだ。  
(誰かに気づかれちゃったら・・・。)  
時間が経つに連れ、振動による快楽は増し、立っているのもままならない。  
(どうしよう、どうしよう・・・・)  
快楽とパニックで考えがまとまらない。  
「あれ?東城さん、どうしたの?」  
「きゃっ・・・!」  
必死に考えていると見知らぬ男子生徒数人から突然声をかけられ、びっくりした。  
「え?」  
「具合悪そうだけどさ、大丈夫?」  
さすがに事情を話すわけにはいかず、心配してくれる人間に対して良心が痛むものの、  
慌てて嘘をつく。  
「あっ・・・風邪で具合悪くて・・・。」  
なるべく彼らに気づかれないように必死に振舞う。  
「だったらさ・・・俺達が病院に連れて行ってあげるよ。」  
 
 
 

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