「東城さん、受験勉強でわかんないとこあるから教えて欲しいんだけど、暇ない?」
東城家に西野つかさからの電話がなった午後5時。
「…えーっと…。別に、いいんだけど…いつ?」
「んー…明日忙しいし、わからないことそのままにすんの嫌だから、今日じゃだめかな?」
「ううん。いいよ…、場所は図書館でいい?」
「あー、それね。今日、日曜であいてなかったんだー。昼間にいったんだけど…」
「じゃぁ、どこにする?私の家でいいなら…」
「ああ!そんなんダメだよ!だってそこまでお世話になれないよ〜。うーん…じゃ、うちにする?今日親いないから、気兼ねしないでしょ?」
「…いいの?…あ、じゃぁそうしましょっか。」
「わかった。じゃぁ、待ってるね!」
…ガチャン…
電話を切り、急いで西野の家に向う準備をはじめた綾。一応、手みやげも忘れず、クッキーなどを紙袋につめ、服を着替え、玄関を出た。
ピンポーン
「はぁーい、あ東城さん!」
「…ごめんね、なんか道間違っちゃって」
「クスっ。ううんいいよ!中はいりなよ。」
西野の部屋は夕日のキレイな片付いた部屋で。音楽がコンポから流れている現代チックな部屋だった。
「西野さんって本当にモテそうな子なんだな…真中くんも…きっとこんな西野さんが好きで…」
ふと、窓にうつる夕日をみながら、綾がさみしそうに思っていた。
「東城さーん。オレンジジュースでいい?」
下から、つかさの声が聞こえ、ふと我に戻る。
「…あ、おかまいなく!!」
「はい、どうぞ。」
そういって、つかさがジュースを差し出した。
おぼんに乗せられたお菓子やジュースを飲みながら問題に取りかかる。
つかさは、頭が悪い訳でも、飲み込みが悪い訳でもないので、勉強はよそう以上にはかどる。
また、創造性豊かなつかさの問題の解き方には綾も考えつかない方法を考えだし、綾の舌をまいた。
「西野さんってすごいわね、教えた事どんどん覚えちゃう…」
溜め息をつきながら、綾が呟く。
「そんなことなーい!東城さんの教え方がいいんだよ!」
にっこり笑ってつかさが返す。
つややかな健康的な肌と澄んだ瞳の笑顔。きっと自分が男だったら絶対好きになるんだろうな…と思える程、つかさは可愛いのだった。
こんな笑顔に…真中くんも…好きになったのかな…
そう思った時、綾は無意識にに寂しそうな表情をしていた。
そんな、表情をつかさは見のがさなかったのだろう
「とーじょうさん?どーしたの悩み??」
「…え?」
「なんか…つまんなそーな顔してたから…つまんないのかと思って。」
「…そ、そんなことないの!あの…ちょっと考え事してて!」
「ふーん…じゃぁさ、その考えてた事はなしてよ。聞きたい」
「私の考えてた事なんて…つまんない…」
「もー!それは私が聞いてからきめる事でしょ?」
つかさの目にじっと見つめられると嘘がつけなくなる。
「あの、じつは好きな人がいて…その人にはもう…恋人がいて…でもあきらめられなくて…その恋人もかわいくって良い子で…」
「で、悩んでる…と?」
「うん…西野さんならどうする?」
「…そうね、私なら迷わず進むかな。だって好きなんだもの、少しえも望みがあるならがんばっちゃう!」
「そう…なんだ。」
「東城さんはそういうことできない?…っていうより…その好きな人…もしかしたら、東城さんの事すきかもよ…彼女よりずっと…すきかもね…」
「え?…」
ふと顔をあげると、つかさが下を向いていた。
「…東城さんさ、眼鏡とると可愛いんだし、胸もおっきいし、頭もいいし!けっこう自信もっていいよ。」
さっきとはうってかわって寂しそうな笑顔でつかさが言う。
目尻には涙が溜っている。
それでも、笑顔で語るつかさは本当に強いのだろう…
「あ…そろそろ、ゴハンだね。どーする?作る?簡単なものならママが作ってくれたやつがあるけど…ピザとか取ろうか??」
涙をごまかすように立ち上がって、つかさが言う。
「え、あ、あの、そんな悪いから…わ、私帰るわ!」
「うーん…ゴハン二人分だから帰られたた方が困るかな!」
にっこりと、つかさが返す。さっきの話題で少し戸惑った綾も、緊張がほぐれる。
「じゃ…いただいて行こうかな。」
「うん!じゃぁ、下行こうか!」
一階のリビングで、二人は向かい合って食事をした。
「…おいしー…」
「え!?本当?よかったぁ。家の味ってやつがあるから東城さんの口にあわなかったらどうしようとおもっちゃった!」
「ううん!本当に美味しいの。西野さんのお母さんってお料理上手なのね。」
「うーん…確かに上手かも。でも私はあんまりだけどね」
楽しそうに話すつかさ、笑いながら頷く綾。
しばらくのあいだ談話を楽しみ、夕食を食べた二人は後片付けをおわすと、ソファに座りテレビを見始めた。
テレビは再放送の映画をやっていた。
よくある恋愛とアクションを交えた内容。
綺麗な女優とかっこいい男優、派手なアクションが魅力の映画でストーリー的にはよくある話しである。
「これさー、面白いけど何回も再放送しちゃ面白みもへっちゃうよねー。」
むぅっと頬を膨らませて、つかさが言う。
「そうね…でも、本当に良い映画なら何度みても飽きないなって私は思うの。」
「うーん…そうかもね、でもそんな映画ってあるの?」
「…。まだない…かな…。でも、きっとそんな映画が出てくるのも近いんじゃないかな。」
」
「あ!東城さんの脚本が世に出るようになったらきっと、そんな映画になるよ!!」
「え…っ。そ、そうかな…ありがと…。」
嬉しそうに微笑む綾がすごく可愛らしくて、つかさは少し悲しくなる。
綾の脚本、そして間中の監督。ふたりが大きくなればきっと大傑作ができるのだろう。
でも…自分は…そんな間中になにもできない。
ただ綾と間中を邪魔しないようにする以外何もできない。
「…西野さん?」
ぼぅ…っとテレビをみつめるつかさに綾が心配そうに問いかける。
大きな瞳、長くて綺麗な髪、ふわふわしていていかにも女の子らしい東城綾。
みればみるほど、近付けば近づく程、彼女の良さがわかって嫉妬するどころではなくなるつかさがいる。
「うん…ごめん、ちょっとぼうっとしちゃった。」
「…大丈夫?具合悪いならそろそろ私、帰るから早く寝た方が…」
「いいんだって!あ、そうだ!こんなのあるんだけど…!」
ぺろりと舌を出しながら、つかさは立ち上がり、キッチンの冷蔵庫に向った。
冷蔵庫から出して来たものは…
つかさの父親が買って来たシャンパンだった。
「これねー、パパが買ってきたんだけど、この間ちょっと飲んだら甘くて美味しかったんだー!」
「え?!でもそれアルコールじゃ…」
「たまにはいいじゃん!息抜きだって!ねっ?」
「うーん…そうねぇ…少しらいならいいのかしら…。私も弟もよくお父さんとかに飲まされていたし…」
「でも、ビールとかでしょ〜?美味しくないんじゃない?」
「うん!はっきり言うとあまり美味しくないわ…」
「じゃ、これ飲んでみてよ!本当に美味しいんだって!」
グラスをとると、瓶の蓋をあけ、金色のシャンパンを注ぐ。
笑顔でグラスを差し出すつかさ。
グラスから立ち登る匂いはアルコールが入っているとは言え、とても甘いにおいがしていた。
「うん…」
少し不安げに綾はグラスを取ると、ゆっくり口をつけた。
コクン…
口いっぱいに甘い味が広がり、ほんのり果樹の味もした。アルコールは殆ど感じずとても美味しかった。
「どぅ?やっぱダメ?」
「…ううん!すごい美味しい!こんなのはじめて!」
笑顔で綾が返すと、ほっとしたようにつかさも笑顔になった。
「よかったぁ!じゃ、私ものもっと!…コクン…うん。やっぱりおいしぃー!」
そうして、シャンパンを飲み始めた二人。
飲みやすいシャンパンなだけに、簡単にグラスが進む。
「きゃははっ!東城さん面白い〜」
「うふふっ!でね…っ弟がねー…!」
アルコールも溜り始めたのか二人の会話が盛り上がり、笑い声が耐えない。
「西野さんってほんと素敵な女のこってかんじよね。うらやましーもてるんでしょー」
「ううーん。どうだろ?でも東城さんだって女の子らしいしー私も羨ましい!」
綾の肩に頭を載せ、虚ろな目で見つめるつかさ。男の子だったら我慢できなくなるような状態。
いや、女の子でもどきっとしてしまうだろう。
「ふふっ…やっぱり西野さん可愛いっ」
「えへへっ。東城さんもかわいいよーぅ!」
はしゃぎながら、綾に抱きつくつかさ、そのつかさを抱きしめる綾。