「ん…」
寝ぼけた目で天井に焦点を合わせる。
ぼんやりとカーテンに眼を移す。まだ暗い。
部屋の空気が冷えきっていた。
もう春のはずだが、朝は冷え込んでいるものらしい。
朝らしい乾いた冷気のおかげで顔を洗うまでもなく目が醒めてきた。
…何時くらいだろ?
枕元の目覚し時計を手に取ろうと体を動かしかけて、固まった。
…体が動かない。いや、それ以前になにか重いものが胸から足にかけて乗っている…。
これが噂に聞く「かなしばり」なのか…。なにかが布団の中に居る…。
俺にへばりついているぞ…。
「…って、」
布団をはぐと、やっぱり。
唯が俺の胴に手を回してすーすー寝ていた。…しかも全裸で。
「おいっ…オマエ、なんで俺の上で寝てるんだっ!」
唯が目をこすりながら目を醒ます。
「…んぁ?…あ、淳平おはよー…。…すー…。」
再び俺の胸板の上に顔を乗せて眠り込もうとする。
「すー、じゃねぇ!俺のベッド貸してるんだからそっちで寝ろっつーの!」
「…いいじゃん、今ベッドに戻ったら寒いし。
唯みたいないたいけな乙女にそんな辛い目を強いるの?
淳平のオニっ!…くー…。」
「…とりあえず服着れ。」
「パジャマなんてどっか行っちゃったよ。淳平が布団から出て、探してよ…。
むにゃ…すー。」
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A. 「…いつまでもそんな格好してると、襲っちまうぞ?」
B. 「…まぁ、いっか。」
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→A
「…いつまでもそんな格好してると、襲っちまうぞ?」
「またまた…そんなハッタリ、唯には効かないもーん…。」
目を閉じたまま小生意気に言い返してくる。ちょっと年上の威厳ってやつを示しておくか…
「よっこいしょっ…と。」
「きゃっ…」
体を回転させて俺と唯の体の位置を逆にする。つまり、唯の体の上に俺が乗った。
「これでどーだっ…」
と、唯の顔を見ながら冗談のつもりで言ってみた…が。
「………」
唯は顔を真っ赤にして、固まっている…。
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A.「このまま食べちゃおっかなー。」さらに冗談を言う。
B.俺も唯の体の上で、膝を折った四つんばいの姿勢のまま固まっていた。
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→B
俺も唯の体の上で、膝を折った四つんばいの姿勢のまま固まっていた。
伸ばした両手は、唯の頭の両脇に。
しかも、さっきから俺の股間が…立っている。
俺の股間の朝立ちと、俺を見詰める唯の、潤んだ、怯えた瞳のせいで、
俺の顔も真っ赤になって来た。
…俺は唯相手に何をしているんだろう…
ぼーっ、とする頭で考える。上手く頭が回らない。
…とりあえず体をどかさなきゃ…
けだるさを覚えて、右肘を折って唯の体の右に、体を投げ出す。
左腕がまだ唯の顔の上に乗っていた。唯は俺の目をじっと見詰めている…。
ふに…ふに…むに…
なんとなく唯のほっぺたを、当てた左手の親指でなでる。
さらさらした唯の髪が4本の指の下をすべる。
唯は目を閉じて、しばらく俺のなすがままになっていた。
「…ゆ、唯、ベッドに戻るね…」
急に我に返った唯が、慌てて身を起こそうとした。
くんっ
俺は反射的に、向こうに顔を向けて、立ちあがろうとする唯の、
左の手首をしっかりとつかんで、こっちに引き寄せる。
バランスを崩した唯が、倒れ込んでくる。俺は唯の華奢な体を、
しっかりと抱きとめた。
「じゅ、淳平…?」
「唯…」
俺は唯の頭を抱きしめる。
唯は俺の腕の中で、体を離そうと、ひとしきりもがいたあと、俺の頭を
ぽかぽかと叩き始めた。
「は、はなして。淳平、はなしてってばぁ…」
「唯だって、本当はこうしていたいんだろ?」
ぴたっ、と唯の動きが止まる。
「え…」
唯は顔を上げて俺を見る。
頬を赤く染めた、少女の潤んだ瞳が俺を見詰める。
「唯だって、こうしていたいんじゃないのか?」
唯は口をつぐんだまま、俺を見詰めている
最初から、わかっていたんだ。俺は唯じゃなきゃダメだって。
東城が可愛くても、さつきと居るのが楽しくても、
あの雪の降る日。俺は溢れ来る感情を塞き止める扉が、
衝動に弾かれて吹き飛んでしまったのを確かに感じた。
ちがうんだ。明るい恋とか、楽しい学園生活とか、そういうのじゃないんだ。
「大切な」人が俺にはいるんだ。子供のころからずっといっしょで、妹みたいで。
でも、ちがう。兄弟の愛情じゃないんだ。「大切」
そうとしか言えない。だって、この溢れ出る想いを、他に、どう表現できる?
そして、「大切」は「必要」になって、「不可欠」になっていく。
どんどんと気持ちが勢いを増して、”もう、止められるわけがない。”
「ゆ、唯は…」
しばしの沈黙のあと、唯が口を開く。
「…唯も…。」
でも、もうその先を聞かずとも、俺にはわかりきっていた。
俺は念を押すように言う。
「親とか、周りの奴らは関係ないんだ。
唯が、答えを出してくれれば…。」
俺は唯の頭を抱きしめる。
唯が俺の体に腕をまわして、俺の胸板に頭をこすりつける。
そして、そっとつぶやく。
「ずっと、淳平とこうしていたいよ…。」
顔を上げて俺をじっと見る。
どくん…どくん…どくん
心臓が急に命を吹き返して、音を立てる。
あの雪の日以上に、俺と唯の間の隔たりは狭まっていた。
いや、もう隔たりは無い。最後の”ディスタンス”は、唯が無くしてくれた。
これで、俺達は、ひとつになれる。
そっと唇を重ねる。
唯の柔らかい唇の感触が伝わる。
「んっ…」
キスをした瞬間、目を閉じたまま唯は体を震わせた。
唯の細い首に手を当てる。
「あ…」
唯が眼を開いて、嬉しそうに照れたように口を結ぶ。
「唯のファーストキス…」
少し、顔を赤らめる。
照れくさくてコメントしようが無いので、俺はまたゆっくりと唇を重ねる。
「む…」
唯は少し顔をしかめる。
少しだけ、唯の唇が開く。
俺は唯の首を後から押さえて、舌を重ねた唇の間から、唯の口の中へと入れる。
唯の舌先と俺の舌が触れ合う。でも唯の舌は口の奥へと逃げてしまった。
そして唯が慌てて口を離して横を向く。
「けほっ…けほけほ…」
どうやらさっきから息を止めていたらしい。
「大丈夫か?」
「うん…息止めてたから…」
息を整えている・・・。
そして息を整えた唯がぽつりと言った。
「ねぇ…淳平は、東条さんとか、さつきちゃんと、こういうことしたことあるの…?」
「えっ…」
俺は少し黙った。
「…キスはある…。」
「そっか…そうなんだ…」
どこか寂しそうにつぶやく。
「やっぱり、淳平も唯の知らない間に、大人になっていっちゃうんだね…。」
そうつぶやいた、唯の顔が、あまりに寂しそうに俺の目には映り、
気が付くと、唯の体を強く抱きしめていた。
「…淳平?淳平、くるしいよ…」
「もう、そんな寂しいこと言うな。
言わないでくれ…。」
しっかりと唯の体を抱きしめたまま、つぶやく。
「俺一人で、勝手に大人になんかならないし、
唯をおいてきぼりにするような真似はしない。約束する。」
「どうしたの?淳平…」
離したくない…唯と離れたくない、という強い想いが俺を支配していた。
俺の体の下から、唯が抱き返してくる。なだめるように。
「大丈夫。大人になるときは、唯も一緒。」
ふっ、と俺の中のわだかまりがとけていく。
そうか…。このわけの分からない衝動の由来は、俺の、唯に対する罪悪感だったんだ。
東条に目が移り、さつきになびき、西野に心揺れる。俺はダメな男だ。
でも、もう選んだんだ。これで、俺は救われる。唯だ。俺にはもう唯しかいない。
「ねぇ…淳平…唯と、して。」
「え…?」
体を離して、唯の顔を見る。
「もう、乙女にこんなこと何度も言わせないでよ…。
…淳平と、したいの…。いっしょに、大人になろうよ」
顔を真っ赤にしながら、唯はそう言ってくれた。
俺は、もう一度唇を重ねた。
唯の唇から柔らかな頬、すべすべした首筋を通って鎖骨に口付けをする。
「んっ…」
唯が繰り返す吐息の中で声を漏らす。
そしてなだらかな胸の曲線を伝ってその先端へ。
朝の冷気のせいなのか、すでに固くなっている唯の右の乳首を口に含む。
「…んっ…ごめんね…。淳平…。胸…小っちゃくって…」
「俺は気にしないって…。だって、唯、きれいな体してるもんな…」
唯の目を見て言う。唯がかぁぁっと顔を赤くするのを見て、ふっ…と少し笑う。
すべすべとした胸の感触を両の掌で楽しみながら、俺はさらに降下していく。
「…淳平…や…だっ…恥ずかしい…って…」
唯が真っ赤にほてった顔を手で覆うのを上目づかいに見ながら、唯のおへそにキスをする。
「ひゃっ…」
唯のはりつめた声を聞きながらさらに降下を続ける。
唯が何も身に付けていないのでその部分はあらわだ。
右手の親指で唯のまだ生えそろわない恥毛の柔らかさを感じる。
「ちょっ…淳平…まじまじ見ないでっ…」
「…唯の…かわいいな…」
ぴっちりと合わされた扉を親指の腹で撫でる。
「…やぁっ…もうっ…」
唯は恥ずかしさで半ば怒っているように見える。
「ごめんごめん…」
そう言いながら再び唯の首筋まで体を戻す。
そして唯の唇を重ねる。
「…さて…よいしょっ…と」
寝間着のズボンをトランクスごと下にずり下ろす。
すでに張りつめて痛覚を催し始めている俺のモノがトランクスのゴムに引っかかって跳ね上がる。
そして唯の体の上に乗る。
「じゅ…淳平…それ…体に当たってるのって…もしかして…」
「…俺のだよ」
唯の目からは俺達の腰にかかった布団で見えていないはずだ。
「…ねぇ」
「ん?」
「唯のもじろじろ見たんだし…”淳平の”も唯に見せてよ。」
「…え?あ…ああ。」
もっと唯は怯えているのかと思った。いや、かえって自分の目で確認していないと恐いのかもしれない。
俺が体を起こす。唯も仰向けの姿勢から身を起こす。そして唯の目が俺のモノを捉える。
本当に「しげしげ」とした視線が俺のモノに注がれる。
「…わっ・・・大っき…こんなの…ホントに入るかなぁ…」
ちょっと痛いかも…と言いかけて、やめた。痛いなら言わない方がいい。
唯がそろそろと手を伸ばして完全に天井を向いている俺のモノをきゅっと掴む。
俺は思わず反応する。
「わっ…跳ねた…」
「…もういいだろ?」
恥ずかしいと人は怒りたくなるものらしい。
「あ、ごめんごめん…。」
唯が布団の上に体を戻す。
「あ、ちょっと待ってな…」
机の引き出しを開けて、ゴムの箱を取り出す。
「…へー…ちゃんと持ってるんだ…。」
「学校でくれるんだよ…。」
唯がむくりと体を起こし、俺の後ろまで這って来て、俺の首に抱きつく。
柔らかい体が俺の背中に当たる。
「…何やってんだよ?」
「いや…着け方、見とこうと思って。のちのちのために。」
なーにが”のちのちのために”だよ…と内心照れながら、箱から1つ取り出す。
「こうやって封を切って…」
「ふんふん…」
先端を摘んだまま先端に当ててクルクルと下に降ろしていく。
「で、こうする。」
ぐっ、と握ったまま上に引っ張り、皮を被せて、最後まで降ろしていく。
「…な…?簡単だろ?」
「ふーん…唯にもできそう…」
オマエがしてどーすんだよ、と心の中でツッコみながら唯に向き直る。
寝間着の上を脱ぐ。
「さて…」
「う、うん…」
唯の唇に軽くキスをする。唯の両の脇の下に手を入れて布団の方までズルズルと後退していく。
唯の頭が枕の上に乗ったのを確認してから言う。
「じゃ、行くぞ…」
唯がぎゅっ、と目をつぶる。
唯の扉に押し当て、圧力をかける。ぐぐぐっと押し開いて行く感じがある。
先端が少しずつめり込んでいく。
「…我慢できなかったら言えよ…?」
唯は歯を食いしばって俺の言葉は聞いていないようだった。息も止めている。
早くしたほうが得策だな…。と思いながら腰に力を込める。
「…く…ぅん…っ」
発音したかどうかも分からない音が、唯の口から漏れる。
やがて先端が埋まりきったころ、一気に俺のモノがすべり込んで、
さらに少し中に入ったところで何かを突き破る感触があった。
「……いっ…たぁ…い…」
息も絶え絶えに唯がそう言う。
「…ご、ごめん…」
「…淳平、…唯のこと、ギュってしてて…
今、ホントに痛いから…」
「あ、ああ…うん…」
通らなければいけない道と知ってはいても、もがくこともできずに苦しむ唯を見るのは辛かった。
ある意味ではそれから逃れるために、唯の頭を抱きしめる。
唯の乳首が俺の胸板に当たる。
「…そぅ…」
唯の口から少し安堵の息が漏れる。
しばらくの間、10分くらいだろうか。唯と抱き合ったままだった。
そして、唯の呼吸が少しずつ規則的になってくるのが分かった。
「…大丈夫か…?唯…?」
「…うん。もう何とか平気みたい…。
動いてみる…?」
「あ、うん…」
唯の痛みを低減させたいという無意識の働きのせいなのか、俺は唯の中で縮みかけていた。
外れないようにゴムの下端を押さえて抽挿してみる。
「…ん…やっぱちょっと痛い……。」
少し顔をしかめながら唯が言う。
「ご、ごめん…」
すまない気持ちで腰を動かす。
ふと、我に返った気持ちで身を起こして唯の乳首を両手の指でつまむ。
「え…?淳平…?」
「い、いや、俺だけ気持ちよくなっちゃ、悪いだろ…」
「いいのいいの。最初は痛いのは当たり前なんだから…。今は淳平だけでも…。」
同時に快感を得ることはあきらめて、ゆっくりと腰を動かす。
少しずつ唯の中の構造がわかって来る。
徐々に俺のモノが硬度を取り戻してくるとゴリゴリと唯の中とこすれ合う。
「んっ…んっ…」
痛みともつかぬ声を漏らす唯が愛しくなってギュっと唯の体を抱きしめながら、
腰のスピードを少しずつ速める。俺の息が上がっていく…。
そして、どれくらいの時間のあとだろうか、俺は唐突に唯の中で射精した。
「あっ…唯の中で…脈うってる…」
潤んだ目で唯がつぶやく。
「ぐっ…うっ…」
腰を襲う快感に歯を食いしばる。
感動と色々な思いが交錯して、それは普通の絶頂よりもはるかに激しいものだった。
絶頂の中でも幾度も腰を動かしながら、最後の脈動のあと、俺は唯の上に倒れた。
「淳平…そんなに気持ちよかったの…?」
「あ、あぁ・・・」
息を継ぎながら返事をする。
「そう…よかった…」
汗だくの俺の体を抱き締めながら唯がそう呟く。
俺も唯の体を抱き返しながら、唯と唇を重ねた。
身を起こしてゴムを押さえて腰を後ろに引く。
ぬるぬると唯の中から俺のモノが出てくる。赤い血にまみれていた.
ふとシーツを見るとかなり大きな赤いシミのまだらができている。
「あっちゃー…」
「…え…?どうしたの…?」
唯が身を起こそうとする。
「わっ…ちょっ…そのままそのまま…お前は寝てろって。」
さらに動かれると余計にシミを大きくしてしまう。
俺の側のシーツの端を布団から外す。
「動くなよ…」
「え?なになに?」
そっと唯の背中と膝の下に腕を通して持ち上げる。
「わっ…これって…”お姫様だっこ”?
淳平、以外と力あるね」
”お姫様だっこ”。そういえばそうだな、と思いながら唯に言う。
「俺、手使えないからシーツ外してくれ。」
「え?…はいはい。」
唯はやっと気付いたのか、手を伸ばしてシーツをはがし、自分の腹の上で丸める。
「よし…っと。」
俺は唯とシーツを腕の上に乗せたまま立ち上がる。
腰の方を持ち上げて頭のほうが低くなるように力を調節する。
「落とさないでよね…。」
「わかってるって。あ、ドアも開けてくれ…。」
「はいはい…」
ドアノブが唯の手で回される。
音を立てないように廊下に出る。耳を澄まして親が起きていないか確認する。…大丈夫だ。
唯とシーツを抱えたまま風呂場へ急ぐ。
少しだけ洗面所の扉が開いている。俺が体で押して開けると、唯が手を伸ばして電気をつける。
洗面所兼脱衣所でタオルを一枚取る。風呂場に入ると、唯が風呂場の電気をつける。
そして風呂場の腰掛の上に唯を下ろした。床に落ちたシーツを手に握る。
「唯、先に体洗えよ。俺出てるから」
そう言いながらタオルを手渡す。
「え…?」
唯が不思議そうな顔をする。
「え、いや、だって親が起きてきたら、なんて言うか…
だから見張ってないと。」
「多分大丈夫だって…私が浴槽に隠れるから。
ほら、ドア閉めて。」
「…ああ…うん…」
しぶしぶドアを閉める。
はやくもシャンプーを手に乗せ始めている唯を見下ろしながら、俺自身は何もすることがない。
「あ、俺やっぱりちょっと出てくる…」
「あ、ちょっ、淳平?」
そう言って唯の声を尻目に風呂場を出る。
ゴムが自分のモノにはまったままなのを思い出したのだ。
洗面所で外す。ティッシュを一枚取り、亀頭を軽く拭うと、コンドームもその中に入れて、
注意深く丸めて、ごみ箱に捨て去る。
シーツに洗面所の石鹸をつけて洗う。落ちますように…
祈りつつ揉み洗いをする…
血の斑は期待通りに落ちてくれた。後は学校へ行く前に干しとけばいいだろう…
再び風呂場に入る。
「ちょっとシャワー借りるな。」
「あ、うん…。」
唯が頭をシャンプーの泡だらけにしながら目をつぶったまま応える。
ざっと頭を濡らすとシャンプーのボトルを手に取る。
頭を手早く洗うとシャワーで洗い流す。
体も軽く流して汗を落とすと浴槽のふたを外す。
幸いにしてまだ栓を抜いていなかった。
片足を入れる。
……ぬるい。
…もう夜明け前だしな。仕方ない。
諦念と共に体をつける。肘を浴槽の両側につき、足を掛ける。
ふぅっ…とため息をついて目をつぶる。
「あれっ…唯の背中流してくれないの?」
唯が催促している。疲れを感じていたので黙っていることにする。
「もー…仕方ないなぁ…
いつだったかはただで流してあげたのに…」
自分で洗うことにしたようだ。やがてシャワーで流す音が聞こえる。ひたっ、と足の裏と床が触れ合う音。
「あのー…唯が入れないん…だけど…」
「…上に乗れよ。」
「…うん…。」
唯が浴槽の縁と俺の体をまたいで水に足をつける。
「わっ…ぬるい…」
「だから体くっつけて…」
脚を揃えて俺の太腿の上に腰を下ろす。
唯のおしりが俺の太腿に押しつけられる。体温が伝わる。
そして唯が俺の胸板の上に頭を乗せる。
「あ、ちょっとしみる…」
唯が顔をしかめる。俺は腰を上げて唯の体を水から浮かせる。
「うん…ありがと…」
そう言ってから唯が黙る。唯の心臓が起こす震動が俺の体を通り、浴槽のぬるま湯を走り、
俺の体にはね返ってくる。
そっと手を伸ばして唯の髪を撫でる。
「ね…淳平…」
「ん…?」
「なんかさ、唯と淳平って…恋人って感じじゃないよね…
どっちかって言うと…夫婦?…そう思わない?」
一瞬言葉の意味を反芻していたが、徐々に脳に染み込んでいった。
「夫婦」
…そうだ…。さっきの契りを交わしたときからまだ一時間も経っていない…。
俺は東城とも、西野とも、さつきとも、立ち入ったことのないところまで唯と一緒に進んでしまった。
ふとしたきっかけ。けれど、きっと、こうなるべきだったんだ。最初から。
なぜかはわからないがそういう確信があった。
これからは唯を守りつづけよう。
唯と過ごしていこう…静かな時間を。
唯の頬に手を当てる。
「上がろうか…」
「うん…。」
我々は新しい下着を身に着け、俺は新しい寝間着を着て新しいシーツを手に持ち唯の手を引いて部屋へ戻った。
カーテンから薄い光がさしこんでいる。夜明けが近いらしい。
「え…えっと…唯のパジャマは…」
唯がそこかしこを探しまわる。どうやら見当たらないらしい。
先にシーツを広げて俺は自分の布団に入った。探すのを諦めた唯が布団の端を持ち上げてもぞもぞともぐり込んでくる。
俺の胸板に頬を押し付けて体をぴったりとくっつける。
体温と、疲れと、安心感から、まどろみがゆっくりと近付いてくる。まだ2時間は眠れそうだ。
「唯、おやすみ…」
そう呟いて目を閉じる。
「淳平…」
唯が俺の口にキスをしたのが、眠りとの境界線の上で俺が受け取った最後の感覚だった。