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照屋栄子は無残だった。黴臭い地下牢、殆ど裸に近い体には鉄鎖の戒め、口にはボールギャグを咥えさせられている。
連日玩ばれ続けた肉体は男の体液に塗れ、睡眠も許されず輪姦が続いた栄子は、しかと意識を保つことすら不可能なほど、精神が混濁していた。
食事もまともなものは与えられず、自由な排泄も許されなかった栄子は、衰弱し、汚物に塗れ、それが悪臭となって、かつての妖艶なる美貌のくの一を包んでいた。
投獄されて幾日経ったかわからない、それほど幽閉と虐待の嵐は栄子の心身の平衡を狂わせていた。ただ、生来の鋭い目つきだけは、依然と変わらず、ふいに陵辱の止んだ監禁部屋の暗がった一隅を、憎悪と憤怒に燃えさせ、じっと睨んでいた。
ふと、地下牢へと続く階段を降りる複数人の足音が栄子の耳に届いた。やがて足音は三重に封鎖された扉を開け、栄子の前の分厚い鉄扉を、重々しい金属音と共に開いた。
「――おやおや、随分、哀れななりをしていらっしゃる」
複数の護衛に囲まれて、立っていたのは内閣魔術情報局、CIMO8の工作員、あの男――通称2Vだった。
「おや、彼女は何か言いたそうでいらっしゃる。おい、猿轡を取ってやれ」
CIMO8の手下に栄子の口の戒めを解かせると、途端、凄まじい罵声が轟いた。
「テメエ、よくもあたいをコケにしやがったな、ガラクタ人形の糞野郎!! テメエただじゃすまさねえ、今にぶっ殺してやるからな、あたいがテメエをくびり殺してやる!!」
「ほほ、一ヶ月も×××にぶち込まれ通しで、まだそんな口がきけるのだから大したものだ」
栄子の恫喝にもまるで顔色をかえない――いや、そもそもこの男の体は、栄子の言うよう人形なのだ。ただ、口元を愉快げに歪ませた。
「で、照屋さん、私はあなたと上方漫才しに来たのではない」
2Vはなおも罵ろうとして、胃袋からむせ返るザーメンに咳き込む栄子を見下ろしながら、
「ちょっとお尋ねしたいのですよ。今回の事件、どうも内閣のデータベースや公式記録が改竄された形跡がありましてな。何らかの陰謀があったものと判断し、CIMO8独自で内々に調査をしている最中でして」
2Vは栄子の呪いの唸りに一顧だにせず、淡々と続ける。
「私は、あの戦いで私の計画通り上手に踊っていただいたあなたなら、あるいは何か知っていると思って、こうしてここまで来たわけですが?」
栄子はその言葉に、革(あらて)めて発奮しながらも、激情から少し冷静な本来の彼女に立ち返った。
詳しい事情は栄子とて知っているはずはない。だが、確かなのは――。
「阿九斗さ! あの、あの――魔王・阿九斗が望一郎を殺し、神をも殺して、どうやったか知らないが、あたいたちを、こうしてだまくらかしているのさ! とっととあいつを捕まえて殺しちまうんだ!!」
「ふむ、やはり紗伊阿九斗か……彼が魔王であり、今回の大掛かりなデータ改竄事件に一枚絡んでいる、それはどうやら間違いなさそうだな……」
それだけ一人ごつと、2Vはそのまま栄子に背を向けようとする。
「ちょ、ちょっと! 待っておくれ!! あたいは、あたいはどうなるのさ!? 悪いのは、魔王だろ? 望一郎を殺したのも、神を殺したのも、スハラ神を殺したのも……全部、魔王が」
「もう、あなたは用済みなんですよ。――分かりますか、照屋栄子さん、いや、もう照屋家からは勘当されたんですよねえ?」
栄子の顔が見る見る絶望に染まっていった、頭の回転の速い彼女は大体の筋書きを把握したのだ。
内閣とCIMO8は、今回の大騒動の始末に適当なエスケープゴートを用意する。そして、全ての罪と汚名を着せられ、葬られ去るのは……。
「私は人形遣いでしてな。あなたにはよく踊っていただきましたよ、道化芝居、というか、猿回し、一幕の滑稽劇でしたがね」
「テメエ、テメエ……っ」
ガチガチ震えながら奥歯を噛み鳴らす栄子をぬめった視線で見下ろすと、2Vは腰をかがめ、床に転がされた栄子の裸体に手を伸ばした。
「んっ……あんっ!!」
「いやあ、でも勿体無いですよね、この肉体。変な野心さえ起こさなければ、あなたも照屋家を継ぎ内閣官房の妾くらいになって、長生きできたのに」
「やめろ、汚ねえ手で、あたいに触る……な……!」
「淫売の分際で何を言ってるんです? あーあ、ここなんてこんなに使い込んじゃって、とても若い娘の色じゃないですよねえ。
妊娠確実なほどザーメン注ぎ込まれてますが、何も『今回だけ』でこうなったんじゃないんでしょう?」
「畜生、畜生……っ!!」
あまりの屈辱と絶望に涙を流す栄子を床に転がして、2Vは再び扉に施錠をさせた。
「さて、最後のお芝居が待っています。用済みマリオネットの解体処刑ショーがね」
「みなさん、ご覧になっているでしょうか? ここ、コンスタン魔術学院の特設会場にて、魔王討伐にあたり、独断専横で大損害を出し、
ついには父親殺しの大罪まで犯した希代の腐れ×××、照屋栄子の公開処刑が、今始まろうとしています!」
魔道ヴィジョンのキャスターがマイクを片手に朗々と報じる。コンスタン魔術学院の運動場は、観覧を求めて数百倍の倍率のチケットを争い、
見物におしかけた野次馬、招待を受けた学院の生徒、内閣官房関係者、そして報道陣による怒号と歓声の喧騒のさ中にあった。
「この腐れ×××、メス犬の照屋栄子とは、無謀な指揮で伊賀・服部両忍軍に大損害を出し、内閣の空中戦艦を撃墜させるなど、拙劣な戦術で利敵行為を繰り返し、
かつ、実は父親の照屋家当主の殺害未遂をして、照屋家を乗っ取ったことが判明しております。さらには最初から魔王と内通していた疑惑も持たれています」
キャスターは淀みない口調で、報道を続けていく。
「今回、内閣の特令により、このどうしようもないあばずれでビッチの、×××の味が病み付きになっている、腐れ×××照屋栄子を公開レイプ、凌遅処死にてお仕置きし、
それを全国に生放送することが決定しました。では、ゲストの星野ゆりちゃんです!!」
「どうも、みなさんこんにちは〜!!」
星野ゆり、実は絢子の妹、忍者の服部ゆう子がはち切れんばかりの笑顔でカメラに挨拶する。
「ゆりも、栄子の腐れ×××には捨てゴマにされかけたり、喉元に刀突き付けられたり、大変でした〜、今回の栄子公開レイプ・処刑、解体を楽しみにみなさんと実況しまーす!」
運動場、そしてモニターの前の無数の観衆が「ゆりちゃーん!!」と盛大なコールを送る。皆、浮かれた熱気に包まれ、盛大なカーニバルの始まりを今か今かと待ち構えていた。
一方、運動場の真ん中、特設の壇上が設けられ、壇下には銃を持った無数の服部忍軍が警衛し、その上で、栄子は素っ裸で杭に縛りつけられていた。
豊満な肉体――緑の髪のかかるたわわな乳房、くびれたウエスト、妖艶なヒップを余さずさらし、壇上のカメラは丸見えの栄子の女性器を、
アンダーヘアから見え隠れするクリトリスが識別できるくらいまでズームアップしたり、またその栄子の表情を撮影したりを交互に繰り返していた。
すぐ目の前、栄子の目にも見える大ヴィジョンには、栄子の裸体が生放送されている。栄子は自分の性器が全国放送の中虫眼鏡を当てる程ドアップされ、
また屈辱と羞恥に顔が紅潮してそれと反対に蒼白になっている唇がわななくさまを、自分を、自分で見せられ、大きな目からはあまりの屈辱と羞恥と悔しさに涙が溢れ続けていた。
あたいは、確かに女の体を武器に使う事も辞さず、望一郎はじめ多くの男に体を委ねたあたいは、あばずれなのかもしれない。だが、こんな屈辱を受ける謂われはないはずだよ、
こんなことあっていいはずがない、ないんだっ……いくら震えても、事態が変わるわけではない。栄子は歯を食いしばり、食いしばり過ぎて歯茎から血が溢れ口元から滴っていた。
「さて、処刑の手順ですが、まずは内閣が今回例外的に特赦した暴力犯・性犯罪者の中から、特に兇暴で悪質、または再犯率の高い凶悪犯で、
精神的にも反社会性人格障害(サイコパス)、性的サディスト、覚醒剤依存、殺人淫楽症などの鑑定を受けた元受刑者三百名による、七十二時間休まずのぶっつづけ三日間連続の輪姦ショーから始まります!」
キャスターの言葉に、会場内や、場外の野外モニターを見ている観衆から、一斉に歓声がわき上がる。
「続いて、四日目からは陵遅刑の執行となります。今回内閣府政令で命じられた寸磔の規定数は3,357回、一刀も余すなく、途中で死なせて楽にすることもなく、三日間に分けて、盛大に虐め殺しは行われます!」
キャスターの説明を受け、会場は大騒ぎとなり、星野ゆりなどはきゃあきゃあ黄色い声を挙げている。
「そして本処刑イヴェント七日目で、肉を削がれてすっかり痩せてちっちゃくなっちゃった腐れ×××の栄子に止めを刺して、はらわたを抜き、五体を分裂して市街地に曝し、イヴェントは閉会となります。以上がイヴェントの進行プログラムとなります」
「もう、あたし、すごく楽しみで今からわくわくしちゃう。みなさん、最期までゆりと一緒に栄子の腐れ×××解体処刑ショーを愉しんでね♪」
キャスターは喚声が一しきりやむのを待って、さらなるゲストの登場を告げた。
「では、次に服部忍軍の先鋒として一番槍を挙げ、魔王を討つのに大功績を挙げた、コンスタン魔術学園生徒、服部絢子さんに一言頂戴します。服部さん、どうぞ」
しかし、マイクを向けられ、モニターに現れた絢子は当惑した、否、むしろ明らかに嫌悪の混じった表情で、キャスターを睨んでいた。
「お前たち、正気なのか? いくら相手が照屋栄子でも、これはあんまりにもきちがいじみていると思わないのか。今回の事件、むしろ責任を取るべきは内閣の……」
「服部さんは少々混乱して上手く喋れない御様子です。では、次に内閣官房から御言葉を頂きます……」
CIMO8の連中に無理やり引っ張られた絢子は、憤りのまま、強引に人がきを押しのけ、警衛の服部忍軍を下がらせ、壇上の栄子の前まで来た。縛られ、あられもない姿を曝している栄子の。
「……今さらあたいに何の用さ、あたいの顔に唾でも吐きかけに来たのかい、処女のツンデレ女が」
栄子は絢子にだけは泣き顔を見せたくなくて、顔振るい涙を飛ばして、精一杯の虚勢を張った。だが、絢子は別に栄子を辱めるでも、嘲笑うでもなく、むしろ哀れむような目で、
「栄子……私はお前が嫌いだ。今でも、お前の顔を見ているだけで吐き気がする。――だが、今回の馬鹿騒ぎには、もっと吐き気がする」
「絢子、あんたは、記憶を弄られていないようだね……望一郎は、望一郎はどうなったんだい!?」
てっきり自分を嘲笑い唾でも吐きかけにでも来たとばかり思っていた絢子の苦悶の様子をみて、栄子は堪らず問いかけた。最後は縋るような調子だった。
「あの男が何だったかは、私にもよく分からないが、確かなのは自動律――けーなに恋慕して、神に取って代わろうともくろみ、阿九斗と闘い、そして……」
その言葉を聞いて、再び栄子の瞳はいっぱいの涙で潤んできた。それは、さっきまでとは種類の違う涙だった。
「望一郎、望一郎……あたいの……っ」
俯き、震えて嗚咽する栄子を、せいいっぱいの同情を込めて一瞥し、絢子は壇上に降りて行った。
「栄子……できれば、お前とはこんな決着は嫌だった。もっと違った形で決着をつけたかったよ。さらばだ」
「それでは、まずはレイプ大会を開始します!!」
キャスターの高らかな宣言が会場に響き渡った。