――阿九斗と絢子の前に現れた巨大ナマコに乗った謎の怪人の所から――
「貴様! けーなに何をした!」
「うははは、なーにまだ膜は破っちゃいないさ、「本番」は魔王様に見てもらおうと思ってね。そら、いいものを見せてやろう」
ミスターXと名乗った男が手に持ったけーなの首輪へと繋がっている鎖を引き、四つん這いでお尻を阿九斗達の方へ
向ける姿勢をとらせた。
「い、いやぁ……あーちゃん、見ないでぇ……」
「な、何だあれは?」
「お尻からなにやら葉のような物がでてるな……」
阿九斗達が首を傾げる視線の先、けーなの白くてつやつやのお尻。その二つの丘の中央、本来排泄口がある場所から、
緑色の葉っぱのようなものが生えていた。
「大根だ、大根がまるまるケツに入って葉だけが見えているのさ! どうだね、少女のケツから見える葉っぱの尻尾は、
実に美しい光景だと思わないか? これが俺のアートだよ! 芸術だよ!」
「馬鹿な! 物理的に考えて大根が肛門になど入る訳がない!」
真顔で反論する阿九斗にチッチッチと人差し指を振り、下卑た表情でミスターXは続ける。
「そりゃそうだ。だが拡張してやれば可能なのだよ、筋弛緩剤を打ち、器具で入口を強く広げて固定。それを繰り返して
腕が入るようになれば後は簡単、極太の大根も根元までずっぽりってわけだ! そら、抜いて見せてやろう!」
ミスターXは得意げに言うと、お尻の葉を掴み力任せに引き抜く。見る見る尻の穴が広がっていき、大根が姿を現し始める。
信じられないといった驚愕の表情でそれを見つめる二人。それもそうだろう、大根の太さは直径10p程はあるだろうか。
そんな物が人間の尻に入っていたなど、二人の理解を超えていた。
完全に引き抜かれても、けーなのお尻の穴はポッカリと空いたままだった。肛門の筋力が伸びきってしまい、
閉じる力が失われているのだろう。
「え? 私のお尻どうなってるの? なんかスースー涼しい風が入ってくるんだけど。あーちゃん、私のお尻変になってないよね?」
その壮絶な光景に阿九斗はけーなの問いにどう答えればいいのか分らず「あ、いや至って普通の可愛いお尻だよ、なぁ服部さん」
などとやや上擦った口調で答えてしまうのだった。
「え? そそそ、そうだな! か、風通しの良さそうなどこにでもある普通のお尻だよな!」
いきなり話をふられた絢子もまた、思考がまとまらないままに、意味不明な表現を口にしてしまう。
「さーて、俺の作品を見てもらえた所で、本番といこうじゃないか! そら、魔王様の方を向いてケツをこっちに向けな!」
ズボンを降ろし反り返ったペニスあらわにすると、腰を前後に小刻みに動かすリアクションをしながら阿九斗をニヤっと見つめた。
「貴様! そんな事は僕が絶対に許さない!」
「ほぅ、ならどうする! 俺が膜を破る前に、一瞬で俺を倒すか? あんたの力をもってすればそれも可能かもしれんが、
もう一人のガキの存在を忘れるなよ?」
阿九斗から視線を反らすことなく、背後の巨大ナマコの方に立てた親指でクイっと指し示す。
「あれは!?」
阿九斗が指し示された方向を見やると、巨大ナマコに裸に剥かれ全身をこねくり回されて悶えているヒロシ(妹)の姿が見て取れた。
「俺に何かあると、あのガキの穴がえらいことになるぜ」
「くっ!」
「分ったら、黙ってそこで俺がこの娘の膜をぶち破るのをみてなっ。そらいくぜぇ」
四つん這いのけーなの腰を両手で掴むと、入口に狙いを定めて腰を後ろに大きく引きしぼり、勢いよくペニスを打ちつけた。
けーなの入口が左右に分かれ亀頭が入り、ずぶずぶと姿を消していく。
「はっはー! 膜いただきだぜ! …………あれ? おかしいな、いつもの感触がない。っていうか、なんだこの
ゆるゆるのマンコは!? 女! お前処女じゃない上にヤリマンかよ! そういえばケツも妙にゆるいなと思ったぜ」
「うう……違うよ、私そんなんじゃないよ! その………………孤児院で……ゴニョゴニョ」
よほどミスターXの言葉が気に障ったのだろう、普段のけーなからは想像も出来ないほどの大声だった――が、最後のほうは途端に
小声になり、阿九斗達の場所までは届かなかった。
「っかぁぁ! こんな便器女、アートじゃねぇ! 俺はお古には興味ねぇんだ! 全く面白くねぇ! こんなもんいらねぇ!」
そう言ってペニスを引き抜くと、睨んでいるけーなの腹めがけて渾身の蹴りを放つ。「あぐっ」呻き声とともに、
けーなの華奢な身体が前方――阿九斗達の方へ吹飛ばされる。
「服部さん!!」
阿九斗は絢子を一瞬ちらっと見やり合図を送ると同時に、飛来するけーなを展開させたマナのクッションで優しくキャッチした。
絢子も瞬時に阿九斗の意図を理解し、行動を起していた。俊敏な動きで巨大ナマコに捕らわれていたヒロシ(妹)を奪還したのだ。
「うわーん! あーちゃん、私ね、私ね……」
阿九斗の胸に抱かれたけーなは大粒の涙を頬に滴らせながら、泣き声まじりに必死に何かを訴えているようだった。
恐らく先ほどのミスターXの酷い侮蔑の言葉を聞かれた事を気にしているのだろう。
そんなけーなの心中を想ってか、阿九斗は優しく顎を持ち上げ真摯な眼差しで見つめて言った。
「僕はちっとも気にしてないよ、けーな、例え君がヤリマンだろうとそんな事で嫌ったりしないさ。ヤリマンだからという理由で
個人を蔑むだなんて間違ってる。ヤリマンだろうがユルマンだろうが、君が君である事にはかわりはないさ。けーなは僕の
大切な友達だよ」
「…………」「う、うわぁぁーーーーん!!」
2人の心が繋がり、分り合えたような空気が――全く流れなかった。地面に突っ伏して大声で泣くけーなを、何でだ?
心の底から慰めたのに!? と、おろおろする阿九斗の姿がそこにはあった。
「き、貴様! よ、よくもけーなを泣かしてくれたな! 許さん!!」
微妙な場面を転換しようと、ビシィっと直立の体勢でミスターXを指差し、怒りの声をあげる阿九斗。
「ぐはは、戦闘開始のようだな、紗伊 阿九斗! 言っておくが俺は対魔法戦闘のエキスパートだぜ! くらいな!」
二人のやり取りに鼻水を垂らして笑っていたミスターXも戦闘モードに移行する。
変質者よろしく羽織っていたマントを大きく広げると同時に、不快なノイズが辺りに響き渡った。
「オラァ!」
そんな耳障りな音など気にせず拳を繰り出す阿九斗。膨大なマナによって強化されたその拳はミスターXのガードごと
叩き込まれる――はずだった。が、片手で軽くあしらわれ、逆に正拳を顔面に食らい鼻血を撒き散らし地面に片膝をつく。
――くっ、なんて重くて威力のある攻撃だ、こいつ、強い!?
「バカな! 阿九斗の肉体はドラゴンとも殴り合えるほどだぞ!」
阿九斗の驚きを絢子が言葉にする形になったが、直ぐに謎は解ける事になる。御丁寧にミスターXが解説を始めたからだ。
「俺のノイズが 〜〜略〜〜 アートで 〜〜略〜〜 なのだ! がははは! 俺は対魔術戦闘のエキスパートだといったろう!」
その後一方的に殴られ、蹴られ、ボロボロになっていく阿九斗だったが――。ふらふらとおぼつか無い足取りで立ち上がると不意に
絢子のほうに駆け寄り、驚愕の行動をとった。
「服部さん、ご免、後で洗って返すから!」
言うや否や絢子のスカートの中に手を入れ、褌を素早く抜き取ると高らかに天に掲げ、なんと自らの顔に十字になるように
装着したのだ。
「なっ、き、貴様! 一体なんのマネだ!?」
「ふ、ふふふ、ふはははは! 理解した、理解したんだよ! ミスターX! このノイズがお前の魂の叫びだと
いうのなら、僕もお前と同じ変態の境地に達すれば存分に力を奮えるってことだ!」
「馬鹿な、そんな物かぶった程度で攻略できれば苦労はな――へぶおぅ!」
ミスターXが吼え終わるよりも早く阿九斗の拳が頬にめり込んでいた。続けざまに攻撃を入れ、最後にジャイアントスイングで
フィニッシュを決める。
「ふおぉぉぉぉぉぉ! すごい! 力が、鼻で呼吸をする度に力が溢れてくる! まさか! 服部さんの褌はマナを増幅させる
アーティファクトだったのか!」
鼻をクンカクンカと鳴らし、込み上げる力の奔流に酔いしれその高揚感に身を任せる。
「そんな訳あるかぁ! この変態野郎! 匂いをかぐなぁ、馬鹿ぁぁぁ!」
スースーする股間をスカート越しに押えながら、顔を真っ赤にして非難の叫びをあげるが、陶酔しきっている阿九斗に声は届かない。
「んふうぅぅ、俺のアートを理解してくれるとは嬉しいねぇ、さすが魔王様だ。だがこっちは大きな目的のために動いているんだ!
そう、放尿と排尿と失禁! 心に響くアートは全て放尿が生み出した! 過去の独裁者の大半は尿マニアだった!
勿論あんたもその一人だ!」
「…………あれ? ちょっと待て! お前の言っている事がまるで理解できないんだが!」
「だがあんたは、知らずのうちに周囲を巻き込んでいく、今だってあの女たちが犠牲になっていくんだ」
――駄目だ、まったく話が噛みあっていない
「そうら! 利尿ビィィィッムゥゥ!!」
阿九斗がそれを阻む隙もなく、奇妙な形の銃器が絢子達に向けられ、撃ち放たれた。
不意を突かれ、光線を浴びた絢子達だったが、すぐに身体に異変が起き始めた。
「あ、あれ? なんだか私、急におしっこがしたくなってきちゃったよぉ」
「っくぅ、私もだ……」
「ミスターX! 貴様、けーな達に一体何をした!」
「くはははは、利尿作用のある光線だよ、これを浴びた者は小便がしたくて堪らなくなる。そしてこの光線の恐ろしい所は
小便を体外に排尿すると途方もない快楽と共に尿道が常に開いた状態になり、以後、常に垂れ流しの状態になっちまうのさ!」
「なっ、なんて恐ろしい兵器なんだ!」
顔を青くする阿九斗。
「あぅぅ、漏れちゃう、漏れちゃう、漏れちゃうよぉぉ」
「馬鹿、なんとか我慢しろ! 私もお前もあいつの前でだけは、お漏らしなんてしたくないだろう!」
「でもでも、こんなの我慢できな――も、漏れちゃぅぅ!!」
と、その瞬間、絢子達の前に白く眩い光の放射が起こり、阿九斗はたまらず目を閉じた。そして眩んだ目をなんとか
開き、目にしたものは――。
「ころね! 戻ってきてくれたのか!」
「持っててよかった、導尿・カテーテル、です」
いつもと変らず平坦な表情で喋るその口には、二本の透明な管が咥えられていた。そしてその管の先は絢子とけーなの
股間へと繋がれており、どうやら直接体内から尿を管を通じて吸い取っているようだった。
「なるほど! それなら尿が直接尿道口からでる訳じゃないから、光線の作用もなくなるってことか!」
「はい、ちゅうちゅぅ。そしてもうご存知だと思いますが。んく、んく、ちゅうぅぅぅ。自分は有機物を体内で。ん、ごくごく。
分解してエネルギーにする事ができるのです――微々たるものですが」
生々しく喉を鳴らし二人の尿を吸い上げながら、抑揚のない声で説明する。
一方吸われている当人達はとても平静ではいられない。真っ赤になっているであろう顔を下に向け、お互い抱き合いながら
必死に羞恥と管から尿が吸いだされる感覚に耐えているようだった。
「――ち゛ゅぅぅぅ。はい、終了です、ご馳走様でした。」
一気に膀胱内の尿を吸い取ると両の手の平を前で合わせて処置完了を知らせ、はぁはぁと息を荒く、ぐったりしている二人を
背にしミスターXを正面から見据える。
「サイモエイト・ミスターX、あなたの行動は政府の感知するところではないとされました。故に私は紗伊 阿九斗の
監視員としてあなたを排除致します」
「ほーう、果してお前にそれが出来るかな? 食らえぃ! 利尿ビーーーム!」
「無駄です、私には排泄機能は搭載されていません(仮)」
かくしてミスターXはリラダン・ころねによって止めを刺され、事件は幕を降ろす事となった。
「けーな、服部さん、大丈夫か?」
「ふんっ」「ふ〜〜んだ」
――う、二人ともまだ怒ってるな。参ったな、そんなに怒らせるような事したつもりはないんだが
「ま……まぁ何はともあれこれで一件落着だな。ひろしの事は残念だったが……」
「死んだのですか、そうですか、それは残念なことでしたね」
「ああ、だが彼の死を無駄にはしない。僕は魔王になんか絶対にならない、信念に基づき正義を行う事を誓おう!」
「ひろしくん……」
「迷わず成仏してくれ……」
澄んだ星空を見上げながら、シメを始める阿九斗達一行の背後では、巨大ナマコが地響きを鳴らしながら街へと進行中だった。
その後、夜空に閃光が走り、あやしいスーツを着込んだ謎の飛行体が巨大ナマコをあやしい力で消滅させ、
飛び去った方角から死んだと思われたひろしが現れ、感動の再会を果す事になるのだが、それは全くどうでもよい話なのだった。
END