イリヤの空 if 2話−すれ違う二人−  
 
一発抜いてスッキリした浅羽が見つけたのは、体育館の中に残されたイリヤの持ち物だった。  
見るも恐ろしい切っ先。  
ファーストフード店の裏手の駐車場で、原チャリをかっぱらったときに見たナイフだ。  
明後日の方向には上靴も落ちている。    
しかも片方だけ。   
ここで一体何があったのだろう。  
どこにもいないイリヤ。  
置き去りにされた荷物。  
脱げた靴。  
抜き身のナイフ。   
・・・・・・・・・  
・・・・・・考える。  
さらに考える。  
・・・・・・・・・  
何故ここにナイフが落ちていたのか。  
ついうっかり、落っことしてしまったのだろうか。  
いや、こんな物を落として気付かないなんてことがあるのだろうか?  
しかも音の響きやすい体育館で。  
そうじゃない。  
おそらく、イリヤはナイフを使おうとして落としたのだ。  
では何に使おうとしたのか。  
何かを切ろうとしたのかもしれない。  
こんな体育館のど真ん中で?  
そうじゃない。  
そもそもイリヤがナイフを持っているのは、物を切るためではないはずだ。  
自衛軍にいた彼女は、きっと闘うためにナイフを身につけていたに違いない。  
イリヤはここで、闘うための訓練でもしていたのだろうか。  
そうじゃない。  
決まってる、使わなければならない相手が来たのだ。  
背が高くてタレ目で、いつも下品な冗談を言ってはひとりで大笑いしていそうな男が  
浅羽の頭の中でニヤリと笑った。  
その瞬間、冷たく沸騰した血液が全身をかけ巡った。  
 
飛び出す浅羽。  
体育館から出たところで転びそうになりながらも、そのまま走り続ける。  
完全な濡れ衣である。  
そもそも榎本は浅羽たちの居場所を把握できていないし、する気もない。  
吉野がイリヤに対して狼藉を行ったなどとは、かけらも想像しなかった。  
残念なことに、浅羽はもう一つ残された大切なものを見落とした。  
ナイフからそう離れていない床の上に、つい今し方河原で自分が飛ばしたのと同じ物が付着していることに  
ついに気が付く事がなかった。  
吉野とイリヤを混ぜ合わせた、粘質の体液。  
精液と愛液と、そして純血を引き裂かれた破瓜の血。  
それは、薄暗い体育館の中ではストロベリーとバニラアイスのトッピングが溶けて垂れたように見えたかもしれない。  
 
全速力でグラウンドを斜めに渡り、校門を抜けたところでキョロキョロと辺りを見回す。  
道は左右に続いている。  
片方は自分が今上ってきた下り坂で、もう片方は丘の方へと続く上り坂である。  
迷わず後者を選んだ。  
自分が今上ってきたときには、白いバンとすれ違うことはなかったからだ。  
猛スピードで勾配の緩い坂を駆け上る。  
浅羽が学校から遠ざかって行く。  
イリヤから遠ざかって行く。  
 
 
同刻、イリヤはセックスの真っ最中だった。  
体育館の中にある用具倉庫の床に広げられたマットの上で、横向けに組み敷かれて結合されながら、吉野に乳を吸われていた。  
ボタンの無くなったブラウスを大きくはだけ、味けのない簡素なブラジャーはズリ上げる。  
片方を汗でベットリとした手でこね回しながら、もう片方の胸の頂に音を立ててむしゃぶりついていた。  
赤みがかった小さな乳輪に吸いやすそうな大きめの乳首。  
触れば形を変える控えめな胸にかぶりつく。  
酸っぱい唾液を纏った舌が、独特の堅さを持つ頂点を這い回り、押しつぶす。  
歯でコリコリと強めに噛む。  
唇で吸いながら引っ張る。  
搾るように吸う。  
発展途中の胸から、出るはずのない母乳を吸い出すように。  
刺激により張りしこる乳首。  
このオンナは感じている・・・  
その思い込みがより一層の興奮を呼び、下半身を振り立てた。  
鼻息を荒げながら、ちゅっぽんちゅっぽん吸いまくった。  
吉野の動きに合わせて力無く揺れるだけの肉人形。  
自分の肩に掛けていたイリヤ片足。  
その股を強く抱きなおす。  
深まる結合部。  
 
腰を引く。  
柔らかく、熱い女子中学生の肉の挟洞から赤黒い陰茎が姿を現し、一緒にイリヤの襞も捲れて姿を現す。  
濡れたカリ首が粘液をプチュっと外に掻き出したところで、また中へと沈めて行く。  
まだ使い込まれていない肉襞の感触を味わいながら進む。  
吉野の少し出た腹が恥骨ぶつかると、イリヤの中でも亀頭の先端が弾力のある膣奥の壁にぶつかる。  
この先にあるのは子宮。  
再び射精感が高まってきた。  
 
 
 
早くなる腰の動き。  
それを察してか、イリヤの膣内がキュウゥゥ〜〜っと締まり始める。  
メスの本能が、猛々しいオスの滾りを子宮いっぱいに欲していた。  
射精を促すように壁が狭まり、ツブツブの膣襞が吸い付いてくる。  
イチモツが動きにくくなるので、また注挿を力強くする。  
精子を欲し、絞り上げる。  
また強く出し入れする。  
その繰り返しだ。  
交尾をする雄と雌。  
吉野の頭の中はすでに沸騰していた。  
髪を振り乱し、涎を撒き散らし、とても知性のある生き物には見えなかったが、吉野にとってはどうでもいいことだった。  
自分の下で組み敷かれてヨガる雌に種付けを行う。  
もうそれしか考えていなかった。  
やがて、限界が訪れる。  
動きが最高潮に達し、恥骨が下腹にめり込むぐらい密着させた。  
肉壺の最奥を突き上げ、本日4度目の欲望を解き放った。  
ドビュッ!  ビュクッ ビュククッ  ビュッ  ビュ・・・・  
ケモノの呻きを絞り出し、腰が砕けそうになるぐらい射精した。  
長い間射精の余韻に浸り、満足げに深いため息をついた。  
ぬるり、と引き抜かれる液まみれの男根。  
少しばかり硬度を失ってはいたが、まだまだいけそうだった。  
ドサリとマットの上に放りだされるイリヤ。  
乱れた白い髪に隠れる顔。  
こちら側からはその表情を伺い知ることはできない。  
二人とも肩で息をしていた。  
 
うつ伏せでマットの上に倒れているイリヤを見る。  
身体が火照りを帯び、呼吸に合わせて肩が上下していた。  
イリヤから垂れたものがマットに染みを作る。  
少し開いたままの合わせ目はヒクヒクと蠢き、吉野の注ぎ込んだものを逆流させていた。  
吉野のペニスはまだまだ元気だ。  
手が伸びる。  
その白い尻肉を掴んだ。  
胸とはまた違った、手のひらを押し返してくるような感触。  
その弾力を愉しんでいると、菫色の穴が目に入る。  
双臀を弄びながら、親指で窄まりを押してみた。  
今までの激しい性行で程良くほぐれた括約筋。  
親指がズブリとめり込んだ。  
今までとは違う感覚に、イリヤがわずかに反応する。  
この数年間、ホームレスなどをやっていた吉野は、同じ仲間にケツを貸したり、貸してもらうこともあった。  
スペルマを垂れ流す女の部分も魅力的だが、少女のもう一つの穴にも魅力を感じた。  
親指で刺激すると、再びイリヤが反応を見せた。  
あれだけ吐き出したというのに、まだ元気に鎌首をもたげる愚息。  
涎を垂らした口元が歪んだ。  
 
山の稜線に日が沈もうとしていた。  
時刻は6時前。  
浅羽はついに体力が尽き果てて、膝に手をついて立ちすくんでいた。  
町中を探し回った。  
依然として行方のわからない白いバン。  
もう日も暮れる。  
そうなると探すのが今より困難になる。  
嫌な考えが頭の中を俳諧しだす。  
はたして白いバンはこっちに来たのだろうか。  
本当にイリヤは、榎本に連れ戻されてしまったのだろうか。  
ひょっとしたら、単にナイフを落っことしただけなんじゃないのか?  
誰かが連れ去られるところを見た訳じゃない。  
たまたまイリヤは学校から出かけていただけかもしれない。  
猫の校長と遊んでいて、転んでナイフを落として、上靴が脱げて  
そのまま追いかけただけなのかもしれない。  
ああ、よく考えたら、学校の中を隅々まで探してもいないじゃないか。  
・・・・・・・  
・・・・・・・  
なんだ、ひょっとして自分の早とちりなんじゃないか?  
そう思った瞬間、これまで張っていた気力が一気に抜けた。  
ヘナヘナとへたり込む。  
脱力感。  
呼吸が整うにつれて、身体の熱も逃げて行く。  
気温が下がりはじめる。  
吹き出した汗が冷たかった。  
賑やかな蝉の鳴き声が、徐々にヒグラシに取って変わろうとしていた。  
 
浅羽はなんとか立ち上がった。  
まだイリヤの安否が確認されたわけじゃない。  
一度戻って確かめなければ。  
もう一歩も動きたくないとストライキを起こす足を叱咤して、浅羽は学校への道を戻り始める。  
 
体育倉庫はもう真っ暗だった。  
吉野は浅羽同様、床にへたり込んでいた。  
脱力感。  
呼吸が整うにつれて、身体の熱も逃げて行く。  
気温が下がりはじめる。  
吹き出した汗が冷たかった。  
もう何も出ない。  
勃たない、裏スジが痛い。  
満足した。  
これだけ出せば、もう一生出ないんじゃないかと思うほど出し尽くした。  
たぶん次に出るのは血か煙か。  
魂が出て腹上死かもしれない。  
 
吉野は重い腰を上げる。  
少しおぼつかない足取りで入り口へと向かい、電気をつけた。  
蛍光灯の光が黄色く見えた。  
振り返る。  
そこには、グチャグチャになったイリヤが転がっていた。  
仰向けで投げ出された四肢。  
意識があるのかないのかわからない、開いたままの濁った瞳。  
乾いた涙の後が付いた頬。  
吉野の唾液でまみれた、半開きの口。  
キスマークだらけの細いうなじ。  
わずかに上下する胸は、首筋に負けず劣らず吉野のマーキングが施され  
唾でテカテカの右の乳首の周りには、うっすらと歯形と血がにじんでいた。  
なだらかで縦長のヘソのあるお腹には、濁液がしこたまなすり付けられた跡。  
そして一番酷いのは、吉野に欲望をぶつけられ蹂躙された、二つの性器だった。  
ついぞ数時間前まで一本のスジだった合わせ目は限界まで押し広げられ、  
開ききったままの膣口からは、漏れ出る混合液の合間から擦り切れたピンク色の肉道が見え隠れしている。  
中から引きずり出され、入口からはみ出して赤く充血した肉ビラ。  
小さかったお尻の穴には、その辺に転がっていたリレーのバトンが突き刺さり  
その先端部からドロリとした精液と血液が流れ出た。  
 
ゴプッ ブピュッと二つの穴から漏れ出る濁液。  
ヒクヒクと弛緩と収縮を繰り返す、吉野の形を覚え込まされたイリヤの大事な部分。  
あれから尻で2回、膣では何回射精したか覚えていない。  
ただ、外には一度も出さなかった。  
マットの上に横たわるイリヤの惨状を目の当たりにし、  
「なんということをしてしまったのだろう」という罪悪感と同時に、  
「またイリヤの中に突き立てたい」という欲求が込み上げた。  
そのとき、吉野ははたと気づく。  
――浅羽――  
彼はどうしたのだろう、と。  
急いで電気を消した。  
体育倉庫の扉を薄く開け、広い体育館の中を見渡す。  
・・・・・・・・・・  
・・・・・・・・・・  
誰もいない。  
たしか浅羽はコンビニに買い物に行くと言ったはずだ、そんなに時間がかかるとは思えない。  
自分の中ですでに時間の感覚など無くなっていたが、辺りが暗くなっているのを見ると  
かれこれ数時間は行為に没頭していたに違いない。  
吉野は急に薄ら寒くなった。  
イリヤにした事を浅羽に知られたら・・・・  
自分はなんということをしてしまったのだろうか。  
そして先と同様、イリヤとの痴態を思い出し、また犯したいと思う自分もいた。  
いずれにせよ、このままにはしておけない。  
吉野の腹の底でで、三度ぐるりと蠢くものがあった。  
 
しばらく歩くとコンビニが見えた。  
ひげ剃りを買い、エロ本を拾う言い訳のために猫缶を買いに戻ったコンビニだ。  
坂を上る。  
エロ本を拾った場所を通り過ぎる。  
今度は何も落ちてない。  
さらに登る。  
自身が痴態を繰り広げた橋の袂を、少し覗き込んでから通り過ぎる。  
暗くて良くは見えなかったが、隠したエロ本が発見された形跡はなさそうだった。  
まああれから数時間しかたっていないのだから、当然なのかもしれない。  
のんきなものだと自分で思う。  
やがて、闇に浮かぶ大きなシルエットが見えてくる。  
学校だ。    
当然電気は点いてない。  
点いていたとしても、明かりは漏れないようにしているはずだ。  
 
 
吉野は体育館の脇に置き去りにしてあった荷物を回収して、体育倉庫に戻ってきた。  
とりあえず、身動きできないようにイリヤを縛ってみた。  
猿ぐつわも噛ました。  
さて、この後どうしようか。  
・・・・・・・  
・・・・・・・  
・・・・・・・  
引き返すなら今のうちだぞ?  
人一人をさらって逃げ切れるものか、すぐにバレる。  
そうすりゃ人生終わりだ。  
・・・・・・・・・  
だが失う物は何もない。  
何もないからホームレスなんぞをやってるのだ。  
それは浅羽の事にしたってそうだ。  
吉野は鼻で笑った。  
くだらん感傷だ。  
お遊びはもう終わったのだ。  
ふん縛られたイリヤの横にどっかりとアグラをかき、リュックから保存食の缶詰を開け、  
クチャクチャと食べ始めた。  
食べながら考える。  
新しく拾った大荷物をどうやって持ち運ぼうか。  
隣で転がる大荷物を見る。  
生きてはいる、だがピクリとも動かない。  
少し考えて台車を借りることにした。  
 
 
しばらく歩くと、開きっぱなしの校門が見えた。  
不用心なことをしたなと思いながら通り過ぎる。  
グランドを横切り、非常口から校内に入る。  
かって知ったるなんとやらで、真っ暗な廊下であるにも関わらず、まっすぐに進めた。  
目指すは保健室。  
だが角を曲がったところで、その部屋に電気が点いていないことに気づく。  
いやな予感がする。  
でもひょっとしたら、イリヤは遊び疲れてそのまま眠っているのかもしれない。  
扉を開けて中の様子を伺う。  
窓のカーテンを閉めると明かりのスイッチに手を伸ばす。  
明るくなった。  
ベッドは二つ。  
いつもイリヤは右のベッドだ。  
いなかったらどうしようという気持ちと、いたら安心だけどやっぱりどうしようという気持ちで  
ベッドをしきるカーテンをそっと開ける。  
もぬけの殻。  
嫌な予感が一気に膨れ上がる。  
もう一つの自分のベッドも覗くが、やはり誰もいない。  
 
そうだ、おじさんは!?  
いつも吉野が寝泊まりしている部屋へと走る。  
明かりは灯っていなかった。  
勢い良く扉を開ける。  
誰もいない。  
それどころか荷物も無い。  
・・・・・・・・  
浅羽は考える。  
イリヤの荷物が残っており、何者かと争った形跡がある。  
おじさんはどこにもおらず、荷物も無い。  
ひょっとすると、おじさんは見たのかもしれない。  
白いバンと黒服の男たちに連れ去られるイリヤを。  
だから自分も連れて行かれるか通報されると思って逃げ出したんだ。  
ともかく、おじさんも探してみよう。  
何か見たかもしれない。  
せめてどっちの方角へいったかわかるかもしれない。  
再び浅羽は走り出した。  
グランドを横切り、校門から飛び出す。  
坂を駆け下る。  
浅羽が学校から遠ざかって行く。  
イリヤから遠ざかって行く。  
 
同刻、腹ごしらえを終えた吉野が立ち上がった。  
簀巻きにしたナマモノを大きなずた袋に入れ、用務員室の裏手から失敬した台車に乗せる。  
グラウンドを避け、舗装された通路から校門を出た。  
そこで立ち止まる。  
さて、どっちに行こう。  
すくし考えてから、吉野は坂を登る道を選んだ。  
街の方には浅羽がいるかもしれない。  
ちょっとしんどいが、丘を迂回する道を行くことにした。  
空き地を通り過ぎ、ジグザグの坂を下る。  
野菜畑を東西を突っ切る4車線の広い道路出た。  
ここでもちょっと考えてから、西に進むことにした。  
新しい玩具も手に入ったことだ、しばらく退屈はしなくてすみそうだ。  
またどこかの学校に忍び込びながら、行けるところまで行ってみよう。  
吉野は想像する。  
この生きたダッチワイフを使って、色々な事を試してみよう。  
 
イリヤと浅羽は離されて行く。  
大人の欲望に踏みにじられた少年と少女の純情。  
そして未来。  
もう二度と、彼らが巡り逢うことはないのかもしれない。  
   
 

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