暗幕の月  
 
 
 
何もかもが、遠い。  
光もない。  
それが、月に光がない夜だと私に思い出させる。  
 
「…………っうぅ……っっ……。」  
苦しい。  
痛い。  
何度でも訴えるのに、声は彼には届かない。  
そう思うことも許してくれない。  
(許さない、何もかも。)  
この世界の、月に関わるもの全部が憎い。  
そんなセリフを聞いたわけじゃないのに、彼の目ははっきりそう訴える。  
喉の奥に詰められた私の叫びが、何度、何度苦悶を漏らしても、彼は情動に任せたまま、私を後ろから刺し貫いている。  
気力の、糸口さえ掴み落として眠りへと逃げようとする意識。  
このまま感覚も何も投げ出してしまえば楽になれる現実。  
それを妨げるのは、私が後悔している心だけ。  
「……何を、考えている?」  
冷たい。  
前にロカが、今は亡き英雄を燃える氷と表したことがある。  
その。  
言われたとは別の彼が。正反対と言われたカペルが、今は氷を抱えた地獄の炎のよう  
に思える。  
光のない部屋で、息をもらした声が、その温度を下げた。  
「何を考えているのアーヤ。聞いてるんだろ?」  
答えない。否、答えられない。  
そう問う、当の本人が私の口を塞いで、拒否する声もも何もを押し込めたのに。  
分かりながら問いを向ける声がおかしくて、私は目を閉じて、笑いたくなる声を忍ばせた。  
しんとした空間に乾いた音が立ち、次の瞬間、喉に息苦しさが寄ってくる。  
ほおが痛い。  
「君も、同じなのか?」  
背からあごを捕まれ、空に浮かされる。  
指一本動かすことさえできない自分の体は、死んでいるかのようだ。  
喉に掛けられた剣士の手は、簡単に私の首をめ上げ、殺すこともできる。  
それをしないまま、生殺しにして。  
 
「結局、君にも理解、できなかった、のか…」  
「っ」  
喉の前を撫でられ息が上がる。  
それは決して優しい愛撫でも、私への衝動でもない。  
ただ心だけが麻痺して、窒息させるためだけに感覚を鋭角にさせる拷問でしかない。  
「いい、さ、まだ、先は長い。」  
「ぅっ……ぅ……・・」  
いきり立つものは怒りを増したのか、無言で揺れ始める。  
私への責め問いは、甘く、深くなるばかり。  
「全部の鎖を断ち切った後になら、君にだって、分かるようになる。」  
何を、と聞く事もできないまま、途絶えかけた呼吸と意識が割れ始める。  
ぼやける思考の中、ただひとつ、あの村で倒れたフィアーナの声だけが、聞こえた。  
シーツに浮かぶ、輪郭が見えない影をつかんで息を吐く。  
(カペル……ごめんね。)  
 
何を言うことも許さない。  
頷くことも、できない。  
きっと今は何を言っても、讒言にしか聞こえない人に。  
一つの言葉を捧げる。  
 
 
夜の終わりは、まだ見えない。  
 
 
 

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