「おいラウラ! これはいったいなんの真似だ!?」  
「うかつに口を聞くな、一夏。私は怒っているのだ」  
 薄暗く、ラウラと一夏以外には誰もいない乾いた空間に二人の声だけが響いた。  
 まるで数学の授業に用いられる立方体の模型のように、飾りっけも生活感もない部屋。  
 もはや部屋と形容することさえもはばかられるようなその場所は、どちらかと言えば倉庫と言った方がしっくり来る。  
 そんな場所で、一夏は壁に鎖で繋がれた革の手錠に後ろ手に拘束されていた。  
 鎖はもちろんのこと、一夏の両の手を拘束する手錠の間は全くの密着状態。  
 何とかもがいてはみるものの、壁につながれた鎖がこすれ合う音が響くだけ。  
 それでも一夏は手を動かしながら、目の前に立つラウラに根本的な質問を浴びせた。  
「あのな、ラウラ。お前が何で怒っているのかは分からない、だけど――」  
「だけど、何だ? 言い訳なら聞いてやらんでもないぞ?」  
「それは怒っている奴が着る服じゃない! つーか、そもそも服じゃない!」  
 弾けるように一夏は叫んだ。  
 そう、目の前に立っているラウラはIS学園指定の水着姿だった。  
 それも紺色の、いわゆる旧型のスクール水着。  
 普段はIS学園の制服さえ、軍服姿に改造して着ているラウラ。  
 
 そんなラウラがそんなものに身を包み、一夏を拘束している。  
 一度は裸でベッドに潜り込んできていたこともあるラウラなら、ある程度強引な行動を起こしても不思議ではない。  
 しかしそれがどうして水着になるのかは、どうしても一夏には理解できなかった。  
「何だ。クラリッサからは、日本の健全な男ならばこの水着を着ればイチコロと聞いたのだがな。違うのか?」  
「その間違った知識をお前に植えつけた奴を、俺は思い切り殴ってやりたいよ……」  
「そうか。残念だ、一夏に喜んでもらえると思ったのだが――似合っていないのか?」  
 どこか沈んだ声で言ったラウラは、静かにその場で目を伏せた。  
 学園では頬を赤らめこそしたものの、悲しげな表情を見せるのは初めてだ。  
 ラウラは沈んだ表情のまま、その場でくるりと静かに一回転してみせる。  
 思わず一夏は罪悪感を覚え、ラウラの水着姿を改めて見直す。  
 やましい気持ちがあったわけではない。  
 ただ、自分に喜んでもらいたいと思ってくれたラウラの好意を無駄には出来ない。  
 ところがそれは一夏にとって大きな誤算となり、状況を悪い方へと加速させていく。  
「……? どうした一夏、顔が赤いぞ。具合でも優れないのか?」  
「いや、そうじゃないけど。そうじゃないけど!」  
 一夏は膝に手を置き、中腰になったラウラから目を逸らす。  
 それでも一瞬で網膜に焼き付いてしまったラウラの水着姿は、破壊力抜群だった。  
 セシリアや箒とは違い、ラウラの身体は豊満とはとても言い難い。  
 
 それこそ鈴に近い、どちらかというと胸の方もだいぶ小さいほうだ。  
 しかしその肌はしっとりと水気を保ち、元より白い肌は水着の紺色とのコントラストがなおのこと白く見せている。  
 普段は制服に隠され続けている太ももや二の腕が露になっているのは、ただ単に胸が大きい、身体にメリハリがあるのとは違う魅力が滲み出ている。  
 加えて先程一回転したときに見えた、小さくきゅっと締まったお尻。  
 水着のサイズがあっていないのか、正直少しだけ隠しきれていなかった気もした。  
 さらにサイズも手伝い、肌に食い込んだ水着は男の劣情をこれでもかとくすぐっていた。  
 ある意味ISの操縦のように、ラウラの水着姿には手加減がない。  
「そうか。まぁ体調に異常がないのならいい。いくら怒っているとはいえ、病人を相手にするのはフェアじゃない。だがそうでないのなら、加減はしないぞ」  
「だから! 何に怒っているんだと聞いているだろ!?」  
「自覚がないのか。いいか、一夏。お前は私の嫁だ、教室でも公言した。なのにお前は、他の女に鼻の下を伸ばしてどういうつもりだ?」  
「鼻の下を伸ばしてって、別にそんなことはない。箒と鈴は幼馴染だし、シャルロットとはルームメイトだ。セシリアも仲間だし、鼻の下なんて……」  
「伸ばしていなければ、私もこんなことをせずに済んだのだぞ」  
 一夏の言葉を遮り、ラウラは続けて目の前に仁王立ちして見せる。  
 ラウラの股間あたりが一夏の眼前に迫り、つぅっと水着特有のゴムの匂いが漂う。  
 
 それに混ざる、どこか甘味を含んだラウラ自身の女性の香り。  
 一夏は自分の中の理性が揺らいだのを、確かに感じてしまっていた。  
 今すぐに舌先を伸ばしたい。  
 今すぐにラウラの肢体を、思う存分身体で味わいたい。  
 それはただの劣情とは違う、男性としての抗えぬ女性への欲望。  
 しかしそんな欲望はすぐに満たされることになる。  
「一夏。もう一度言おう、これは――お前への罰だ」  
「だから、意味がむぐっ!?」  
 幾度となくラウラが繰り返す、罰という単語。  
 到底納得のいかない一夏の反論の自由を、ラウラは腰を突き出して口ごと塞いだ。  
「ふ、フフフ、どうだ一夏? 苦しいだろう?」  
「うー、んんぅ! んん、う〜!」  
 ラウラは笑っていた。  
 自身の秘部で口を封じられながら、悶える一夏の表情が得も言えぬ嗜虐心を駆り立てる。  
 酸素を求めてもがく一夏の動きに沿い、壁の鎖が擦れる音が響く。  
 そんな一つ一つの流れが、ラウラへの確かな快感となって秘部を濡らす。  
 そこで、ラウラは一度腰を引いた。  
 愛液に濡れる一夏の顔が、なおもラウラを駆り立てる。  
 しかしラウラはあえてそこで自身を押しとどめた。  
 まだ一夏への罰は始まったばかり、ラウラの中の嗜虐心はなおも膨張していた。  
 
 

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