サアアア...
頭から湯、いや水に近いものを浴びながら、箒は唇を噛む。
「どうしてっ。私は……」
他人を傷つけるようなことを言ってしまうのか。
握り拳を作って、壁に力なくあてる。
思い出すのは、つい先ほどのこと。
『どうしてここまで弱くなった!!』
セシリアとの決闘を控えて、ISについて教えを請うてきた一夏。
しかし、専用機を持っているわけでもなく、ISをうまく乗りこなせるわけでもない箒には、闘いの感覚を身体で覚えてもらうしか無かった。
本当に自分でいいのか。
迷いながら、剣をとって一夏と対峙して。
昔の、自らが知っている一夏ならば、箒は勝てなかっただろう。
それほど、幼少の頃の一夏の腕は凄かった。
それが、今では。
『うわぁ!?』
いとも簡単に尻餅をつき、箒に竹刀を突きつけられる。
箒には信じられなかった。
『幻滅だ!そこまで落ちぶれたのか!』
悲しかった。唯一のつながりであった剣道を、辞めていたとは。
『誰も期待してくれなんて言ってねぇよ!』
その言葉を聞いて、箒の顔が怒りで真っ赤になる。
一夏も、しまったと青ざめた。
『なら、私に教えられる事は何もない。勝手にしろ!』
そう言って、箒は竹刀を床に叩きつけ、剣道場を後にした。
一夏が拳を握って、俯いていることには気づかず。
一夏に会えて、うれしかった。
不器用な性格から友達にも恵まれず、男子には男女とはやし立てられ。
そんな中で唯一そばにいてくれた男の子。
転校してからここで会うまで、一日も忘れることなど無かった。
「謝らなければ」
―――どうやって?
思いっきり怒りをぶつけてしまった。
会わす顔が無い。
しかし同室ゆえ、嫌でも顔を合わせてしまう。
箒は生乾きだった髪を、タオルでぐしゃぐしゃにして、そのままベッドに寝転がった。
一夏が帰ってきて、顔を合わせるのが怖くて、枕に顔を埋める。
「どうすれば・・・・」
考えているうちに、瞼は下がっていき。
すぅ...すぅ...
部屋に戻ってきた一夏が聞こえたのが、気持ちの良さそうな寝息。
先ほどまで剣道場にで、頭を冷やしていた一夏は、後悔の渦に飲み込まれていた。
(教えを請うている側が言う言葉じゃない……)
謝ろうと思うのだが、どう言葉にすればいいか、分からない。
意を決して部屋に戻った一夏を迎えたのが、先ほどの寝息。
一夏は気が抜けて、ははと笑った。
(明日、謝ろう)
布団を掛けずに眠っている箒に、優しくかけてやり、一夏はシャワーを浴びに向かった。
目が覚めると、かけた覚えのない布団が肩までかかっていた。
少しぼうっとする頭で横のベッドを見ると、気持ちよさそうに一夏が眠っている。
(そうか、一夏が……)
少し、うれしくなり顔を綻ばせるが、未だ謝っていない事に気づき、顔を曇らせる。
時計を見ると、朝稽古の時間。
少し寝坊したので、もう1度部屋に戻ってくる時間はなさそうだ。
制服、練習着、教科書などを持ち、箒は部屋を出て行った。
それを一夏が見ていたら、言っただろう。
『顔、赤くないか?』と
朝起きたら、同居人はもういなくなっていた。
普段の朝ご飯は一緒に食べているので、一人で食べるのは少し寂しい。
一夏は、もそもそと朝ご飯を食べていた。
(ちゃんと、謝らないと)
寮監である姉の怒鳴り声と共に、一夏は味噌汁を飲み干した。
「箒、あのさ...」
「あ?」
その声に、窓の外を見ていた箒の意識が、一夏に移った。
何かを考えるのが億劫で、返事がいらだったようなものになる。
「その、昨日はごめん。いいすぎたっ。」
頭を下げる一夏を、ぼうっと見下ろす。
「その事ならもういい。私も言い過ぎた。すまない」
自らも頭を下げる、箒の視界が少し歪む。
「っ!」
必死に歪みを抑えて、頭を上げて一夏を見る。
周囲がゆらりと揺らいだ。
箒はとっさにきつく目を閉じて、こめかみを揉んだ。
「どうしたんだ?疲れているのか?」
「そう...かもしれないな」
「保健室に行って、今日は休ませてもらったらどうだ?」
「いや、大丈夫だ。今日は実習もあるのだから。ISに乗れる貴重な時間を潰すわけにはいかないさ」
専用機持ちと違って、一般の生徒は実習もしくは放課後の自己練習でしかISに触れることは出来ない。
次のトーナメント試合に向けて、訓練機は上級生の予約でいっぱいなため、一年生がISに触れるとなったら実習でしかなかった。
「無理はするなよ」
一夏は労うように言った。
箒も頷いて、チャイムが鳴る中を自分の席へと戻っていく。
(今日は早めに寝よう)
一夏の心遣いに感謝しながら、箒は授業の用意を始めるのだった。
「この格好、何とかならないかなぁ」
ISスーツを着た自らの格好を見て、一夏はため息をつく。
搭乗者を守るためのISスーツは、動きを制限しないように、ぴっちりと作られていた。
唯一ISに乗れる男子は一夏だけなので、特別製である。
しかし、それはなぜか臍だしのデザインだった。
(あいつ、無理してなきゃいいけど)
この学園で只一人、気楽に話せる幼馴染みを見て一夏は思う。
なんだか、心ここにあらずという風だった。
なんかおかしいと思いながらも、実習は進む。
まだ自分のISが届いていないため、一夏は訓練機である打鉄を装着していた。
歩き、走り、少し浮く。
やはり男子としては、そういうものに憧れるわけで。
(やべぇ、すごい楽しい)
目をキラキラさせながら、一夏は打鉄を操っていた。
(楽しそうだな)
一夏を見て、箒は微笑んだ。
おもちゃを見つけた子供のような笑顔だった。
見ているものも、自然と笑みが浮かぶ。
そして、自分の番。
一夏が目の前にやってきて、打鉄を降りた。
「次、箒だぞ」
「あぁ」
打鉄に向かって、足を出した瞬間、世界が揺らいだ。
疑問に思いながらも、反対の足を出そうとするが、ひどく億劫で。
そのまま視界は黒くなり、意識が遠のいた。
「箒!!!」
どこかで叫ぶ声を聞きながら。
目の前のベッドで眠る同居人を見つめる。
保健医の見立てでは、只の風邪だった。
ただし、熱は高いので本日は部屋で療養すると。
授業も実習で終わりだったので、一夏は箒を部屋まで運び、ベッドに寝かせていた。
(どこが大丈夫だよ。全然大丈夫じゃないだろうが)
赤い顔をして眠っている箒の頬をつつく。
起きていたなら絶対にしないであろう行為をしていた。
「ん...」
身じろぎする箒に、一夏はハッとなって赤くなる。
(何やってんだ、俺)
頭をなでつつ箒のことを見る。
(かわいくなったよな...)
熱で苦しいのか、眉間にしわを寄せている箒。
そんな姿も、かわいいと思ってしまった。
「...だ...」
「?」
不意に箒が何かを呟く。
起きたのかと思って、慌てて頭を撫でる手をよけた。
「...いや..だ...転校などしたくない...」
そこでやっと、一夏は箒がうなされていることに気づいた。
「一夏と、離れたくない...」
6年前に別れた時のことを、夢で見ているのか。
箒の目の端には、涙が浮かんでいた。
一夏は、再び頭を撫でて箒の耳に口を近づけ、呟く。
「俺はここにいる。離れることもないさ」
「ほん...と?」
普段の凛とした雰囲気の欠片もない物言いに、一夏は微笑みを深くする。
「あぁ。安心して寝てろ」
反対の手で、箒の手を握る。
一夏は、ずっと箒の頭をなで続けた―――
「一夏...好きだ...」
―――その手が止まる。
「え?」
さすがに、いくら鈍いと言っても、うれしそうに呟く箒の顔を見れば、一夏も理解する。
「嘘...だろ!?」
真っ赤になって、撫でていた手で顔を覆う。
箒が自分を想っているだなんて、考えたこともなかった。
「んん...」
少し身じろぎして、箒の瞼が開く。
「い...ちか?」
「お、おう。気分はどうだ?」
「私はどうして...」
「実習の時に倒れたんだよ。風邪だってさ」
身に覚えがあった。
昨日シャワーを浴びて、そのまま髪を乾かさず寝てしまったのだ。
「...すまない」
「いや、いいよ」
一夏の頭の中は、先ほどの箒の寝言でいっぱいだった。
真っ赤になったままの一夏を見て、箒は慌てた。
「も、もしかして、風邪を移してしまったのか!?」
「あ、いや、そうじゃないんだけど」
手で顔を覆った一夏を、箒は不思議そうに見つめる。
「なんていうか、さっき寝言で……」
「っ!?何を言ったんだ!?」
「あー、うー……箒ってさ、俺のこと好きなのか?」
「!!も……もしかして…」
「さっき、一夏、好きだって……」
ぼんっと音がしそうな勢いで、箒が真っ赤になる。
それを見て、一夏は確信した。
「な、な……」
「あー……」
二人とも顔を赤くして、黙り込んでしまった。
「その……うれしいよ。俺、今まで告白されたこと無かったから。箒の事、大切に想ってる」
あり得ない。あの朴念仁の一夏が。
というか、告白されたことが無いなんてのは嘘だろう。
箒の頭の中は、絶賛混乱中だった。
熱が出ている上に、頭に血が上る。
そしてどうなるのかというと。
「にゅう」
猫のような声を出して、身体が揺らいだ。
「ちょ、とりあえず横になれ。」
寝かされた箒はそのまま手を顔に当てる。
「信じられない。本当に、私でもいいのか?」
「箒が、いいんだ」
限界だった。うれしさに涙が止まらない。
「箒」
名前を呼んで、顔を隠している手をつかむ。
そのまま、横によけて顔を近づけて。
―――キス
「っ!風邪が移るぞ!」
「かまわない。そうなったら、もう一回箒に移すさ」
一夏は微笑んで言う。
そして、その後、二人の影は再び一つになった。
気持ちのよい暖かさを感じながら、目が覚めた。
と、目の前には一夏の顔がアップであったわけで。
「!?!?」
慌てて起き上がろうとして、抱きしめられているのに気づく。
「あ...」
昨日のことを思い出した。
一夏と心がつながった日。子供の頃からの願いが叶った日。
自然と笑みがこぼれた。
「ん……」
「おはよう、一夏」
「ん…?あぁ、おはよう箒」
目の前で微笑みを受けた箒は、顔を赤くして黙り込む。
「もう、熱は無いみたいだな。」
そう言って、寝転んだまま箒のおでこに手をやる。
幸いにも、今日は休日でゆっくり休むことが出来る。
「汗、かいたろ?シャワー浴びてこいよ」
「あ、あぁ。ありがとう」
ようやく起き上がって、箒は着替えを持って浴室へと向かう。
ふと、気づいた。
「も、もしかして着替えさせてくれたのか?」
「あ…うん。ごめん」
真っ赤になった一夏。それで全てが読めた。
しかし、晴れて恋人同士になったのだ。何を恥ずかしがることがある。
と自分に言い聞かせて、箒は追求せずにシャワーを浴びに行った。
「まずいなぁ」
着替えをさせたときのことを思い出す。
見るまいとはしていたものの、一夏も男子ではある。
ちらちらと、その身体を見てしまっていた。
(大きかったな…)
そしてそれに呼応するように自己主張をしはじめた、己の半身。
一夏は慌てた。これはシャレにならない。
いくら思いを通わせあったからといって、すぐにこれでは単なる節操なしではないか、と。
かすかに、箒がシャワーを浴びている音が聞こえる。
その姿を想像してしまい、まだまだと主張する。
すこし冷やしに出かけようかと、立ち上がった時。
「出たぞ」
箒が出てしまった。
しかも、初日にあったようにバスタオル一枚の状態で。
「ほ、箒!?」
箒の方も、一夏の膨らんだ箇所に気がついてしまい、固まっている。
「い、いや、これは。着るものを持って入るのを忘れたからで……」
箒への好意を自覚して、同じベッドで寝てから。
一夏の理性は、破られつつあった。
そして今のこの格好である。
体は勝手に動いていた。
「一夏っ!?」
バスタオルの上から、箒を抱きしめる。
もう、我慢ができなかった。
この照れ屋で不器用な、それでいて魅力的な少女を自分の物にしたいと、思ってしまった。
「だめ…か?」
今にも消えそうな理性を、なんとかつなぎ止める。
拒否されたら、何が何でも離れるつもりだった。
傷つけてまで一つになりたくはない。
「その、一夏がいいなら……」
だんだんと尻すぼみになり、顔も真っ赤になって俯いていく、その様子がかわいくて、一夏は箒を抱き上げてベッドへと運ぶ。
「い……一夏…」
普段には無い箒の、甘えを含み濡れた目を見て、一夏は理性を自ら切った。
その勢いで口づけをする。
「んむ……はっ…ん……」
舌を差し込み、相手の舌を見つけて吸う。
それだけで、箒の目はふやけていた。
「いち…か……」
その言葉に応えるように、一夏はバスタオルを剥いだ。
見事な体だった。
本人にとってはコンプレックスであった、自己主張の激しい胸も、一夏の興奮をそそる原因にしかならず。
その視線を感じ取ってか、箒は腕で胸を隠そうとした。
「こんな胸……恥ずかしいから見ないでくれ」
「俺は好きだ。きれいだよ」
泣きそうになりながら言う箒に、一夏は優しく声をかける。
腕をのけて、先っぽに軽くキスをする。
「んあっ!」
電気が走ったかのようにのけぞる箒を見て、もっと喘がせたくなった。
おとなしくなった腕から手を放し、柔らかく弾力のある胸を優しく愛撫する。
よほど敏感なのか、箒の口からは絶えず喘ぎ声が漏れていた。
「ひぅっ!……ふぁあっ……いち…か……んっ…おかしくなる!」
絶え間なく与えられる快感に、箒はもはや自分をコントロール出来なくなった。
「箒ってさ、敏感だよな」
そう耳元でささやき、そのまま一夏は耳をついばむ。
「んんんっっ!!」
一際大きく身体をのけぞらせ、箒は達した。
そのままベッドの上で軽く痙攣を続ける。
そして、落ち着きを取り戻した頃。
「箒……その、いいか?」
意を決して訪ねる一夏に、濡れた瞳で箒は頷く。
それを受けて、一夏は箒の入り口に己の分身を当てた。
そしてゆっくりと進めていく。
「くぅっ…!」
痛みを見せまいとするが、やはり苦しいのだろう。
箒は眉間にしわを寄せてシーツをつかむ。
力が入りすぎていて、手が白くなっていた。
そして、何かに詰まったように進入が止まる。
「箒……」
「一夏、お願いだ。私の……その、初めてをもらってくれ」
恥ずかしさのあまりに、尻すぼみになる言葉。
それでも一夏にはしっかりと伝わった。
「分かった。」
「一気に、その……頼む」
箒の言葉が終わると同時に、衝撃が箒に伝わった。
「くうぅ!!」
痛い、なんて物じゃない。
今まで剣道で受けてきたどの攻撃よりも重く、苦しかった。
それでも、愛する人とつながる事が出来た喜びでいっぱいで。
「大丈夫か?」
動きを止めて、頭を撫でてくる手にくすぐったさを感じ。
「大丈夫だ。動いてくれてかまわない」
「でも、痛いだろ?無理するなよ」
そういって抜こうとする一夏に慌てる。
自分だけではなくて、一夏に気持ちよくなって欲しかった。
「お前は、1度も達して無いだろう」
「そう……だけど。でも……始めたら、それこそやめられないぞ」
「いい。私は、お……お前に気持ちよくなって欲しい」
そっぽを向きながら話す箒に、一夏はいとおしさを感じた。
「分かった。やめてくれって言われても、とめられないからな」
「あぁ」
そして、動きが再開する。
箒にとっては、苦痛でしかなかった。
それを一夏も感じ取ってか、早めに終わらせようと奥までつく。
箒の膣からは、血液混じりの愛液がしたたっていた。
「くぅっ……はっ……んんっ……一夏っ…」
「ほ……うき…!」
痛みがようやく薄れてきた頃。
「な……んか……んあっ…変な気分…だ」
「俺も、気持ちいいっ」
指を絡め合って、お互いを感じ合う。
「そろそろ、出るっ」
一夏の額からは汗が流れていた。
「こいっ…あぁっ……」
「くぅっっっ」
一番奥まで突いた後、腹の奥で何かが爆ぜるのを箒は感じた。
「あ…あついっ……」
しばらく奥で感じた後、一夏は自分の物を箒から抜いた。
「箒……」
額にキスをする。
箒はくすぐったそうに身をよじった。
「激しくして悪かった」
「私が頼んだのだから、気にしなくていい」
そういって微笑む箒を抱きしめる。
身体のだるさが、心地よかった。
「大丈夫か?」
「少し痛みはあるが、大丈夫だ。激しくしすぎだろう」
そういって軽くデコピンをする。
そして視線を合わせ、見つめ合った。
二人の時間は、始まったばかり。