「よし、そこまで。各班、使用した装備の点検後、ピットに収容しておくように」  
「よ、ようやく終わった…」  
「さすがにコレは堪え…る…」  
千冬姉の鬼補習も終わり、俺含め、専用機持ち組はその場にへたり込んでいた  
「海で予定の新型の実験ができなかったからとは言え、ちょっと詰め込みすぎだろコレ」  
色々あった臨海学校も修了し、IS学園生徒は元の校舎にて通常授業に戻っていた  
しかし、その色々があったおかげで本来予定されていた実験はマルマル残ってしまい、俺達専用機持ちは以降の放課後は全て新装備のデータ収集に使われているのだった  
 
「お疲れ、一夏」  
「おお、シャル。お前は元気だな」  
もちろん肩で息をするくらいには疲れているようだが、他のメンバーは  
「「「………」」」  
うん、息すらしていない  
ちなみに箒は新型も新型なので別アリーナにて機体の性能実験  
俺自身も本当ならば箒の方に加わる予定だったのだが、白式から雪羅への登録変更、新装備の整備体系の確立などが紅椿と被ってしまった。  
そのため、第二形態に移行した雪羅は倉持技研に預けられ一度オーバーホールを行い、紅椿のデータ収集が終わり次第こちらに届けられる予定である  
「うん、僕のISは第二世代だからね。装備の試し撃ちくらいで済むんだ」  
「そっか、セシリア達のは取り付けるだけでも重労働だもんな」  
第三世代機は『操縦者のイメージ・インターフェースを利用した特殊兵装の実装』を目標とした機体である  
使い慣れたものならまだしも、新しい一つのパーツを使うだけでもそれなりの精神力を要するのだ。それを毎日、一ダースほどを付け回されてはたまったものではない  
いくら代表候補生とはいえ倒れるのも仕方がない  
「いや、それでもすげぇよ。ほとんどの実験装備を手足みたいに使っててすっげえカッコよかったぞ。俺なんて未だに弾の特性すら曖昧なのに」  
今日、機体が無い俺がここに呼び出されて雑用をさせられているのも、そういった武器ごとの特徴を体で理解させてやろうという心遣いなのだろう  
…決して男だからという訳ではないと信じたい  
「そ、そうか…な?」  
エヘヘと顔を緩める姿は、いつもの王子様のような雰囲気とは打って変わって、汗でしっとりと濡れた髪とピチっとしたスーツで健康的でとてもとても眩しい  
(やっぱ女の子だよなーシャルは)  
考えてみれば初めて(千冬姉のをちょろっと…あくまで事故で見た時を除いて)女の子、それも同年代の裸を見たのはあのシャ  
「チェストー!!」  
ビクッ…!!ビクッ…!!  
「い、一夏!?急に自分で…その……なところ殴るなんてどうしたのさ!?」  
「い、いいんだ…気にしないでくれ…ォゥ」  
このスーツで臨戦態勢に入ったりすれば即死。社会的にも精神的にも  
ならば身体的苦痛など些細なものよ  
 
「にしても、こうISに乗れない日が続くと腕が鈍りそうだな」  
実験装備の片づけも終え、ようやく夕食にありつけた俺達はいつもの通りに学食で席を囲む  
「え?一夏に鈍るような腕なんてあったっけ?」  
ザパー  
「にゃー!?私のラーメンンンンンン!!」  
「おっと悪い、胡椒のフタがとれてしまっていたよ、ハハハ」  
「何すんのよ馬鹿一夏ッ!!」  
男のささやかなプライドを踏みにじられれば、あとは命のやり取りしか残っちゃいない  
「一夏!!食べ物を粗末にするのは感心しないぞ」  
「そのとおりだぞ嫁。食糧とはすなわち生きる糧だ」  
ぬ、食べ物に手を出したのはまずかったか。やり過ぎた  
「悪かったよ鈴。ほら、コレやるからそっちよこせ」  
「えっ…」  
まだ手を付けてないカレーを渡し、鈴の食べかけたラーメンをすする  
「うん、ゲホッゲホ!!辛いけど食べられる…ってアレ?」  
「「「「…」」」」「/////」  
なんか空気が痛い!!  
「な、なんだ?ほんとに食べられなくはないんだぞ!?」  
「「「「ハァ…」」」」「/////」  
味覚がおかしいと思われたかな?たしかにこの真っ黒なラーメン自体おいしいもんじゃないが、そこまで…って  
「どうした鈴?」  
さっきからスプーンのせたカレーを口に運ぼうとしない  
せっかく交換したんだからお礼…はこっちが悪いからいらないにしても、せめておいしく食べてほしいんだけどな  
「ほら、早く食べないと冷めちまうぞ」  
「う、うん…」  
それでもスプーンが進まない鈴  
「えっとね、一夏」  
「ん?やっぱラーメンがいいか?」  
「違う!コレ、食べたい?」  
もとは俺が頼んだものだし、夕食は美味しく取りたいのも事実  
「おう、分けてくれるのか?」  
「えっと、わ、私にも悪いとこあったし、た、頼めば食べさせてあげなくもないわよ!!」  
「ホントか!?じゃあ少し貰う…って鈴?」  
「じゃあ…あ、あ〜ん、しなさいよ」  
最後の方は俯きながら消え入りそうな声だ  
「ちょ!?鈴さん!!」  
「そこまでは許さんぞ!」  
「い、一夏が悪いんだからこんなの放っておくべきだと思うな僕は!!」  
「それは夫である私の役目だ」  
シャル…こんなのってのはちょっと傷つくな…  
「あっ、そういう意味じゃなくて。う〜一夏ぁ〜」  
 
そこからは5人の女子がワーワーキャーキャーの大騒ぎであった  
 
「…てことでISに乗ったのは雪羅のアレが最後、でそれからは授業で使う打鉄くらいしか乗ってないということですわね」  
「ああ、雪羅にも射撃武器が出来たし一刻も早く訓練に入りたいんだが」  
「機体が届かんことにはな」  
本当に機体が届くのが待ち遠しい  
第二形態移行時に左腕についた荷電粒子砲は白式には無かった中〜遠距離用の装備だ  
戦いの幅も広げていけるし、燃費の悪い零落白夜を活かしていく戦術も組める  
ようやく手に入れた新しい戦術に夢が広がるってものだ  
「だが今の嫁では間違いなく当たらんぞ」  
「ぬ…だから一刻も早く練習したいんだ」  
打鉄には射撃武器がない。練習用の武器としてアサルトライフルくらいなら用意はあるものの、荷電粒子砲の特性は銃というよりも大砲に近い側面を持つため大して訓練にならないというのが現状だった。さすがに学園にも練習用の荷電粒子砲は存在しない  
「…!ちょ、ちょっと待っててね一夏!」  
「私も用事が出来た、少し失礼する」  
と消えるシャルとラウラ  
「…嫌な予感がしますわね」  
「えへへ…一夏にあーん…えへへ…」  
「お、おい一夏!!私の魚もよい焼き加減だぞ!!」  
 
 
次の日  
「喜べお前ら。今日はパーツ稼働実験はお休みだ」  
みんなの顔が明るくなる。いくらなんでも一週間ぶっ続けで放課後を潰しての実験は鬼の目にも涙…ならぬ千冬姉の目にも涙  
バキッ!!  
「ぉぅふ…」  
「失礼なことを考えるな馬鹿者が」  
昨日までの実験データから、第二世代用の武装はまだしも第三世代機が使う武装の実験を最良で行うためにも休息が必要である。と判断した結果らしい  
「ということだ。私は甘すぎると思うが仕方あるまい。今日一日は好きに動き、明日からの実験には最良の状態で臨むこと。いいな」  
はい!  
「よろしい、では解散」  
 
「今日は部屋で休ませてもらう」  
「わたくしも…正直なところ限界をいくつか通り越しておりますので…」  
「二組だけレポートって…せっかく一夏に昨日のお返しで…ブツブツ…」  
みんなそれぞれ大変なんだな。俺も雪羅があれば手伝えたのかもしれないんだが  
「おう、飯の時はまた一緒に食べようぜ」  
さて、俺も訓練のしようがないし、千冬姉にどやされる前に部屋でISの勉強でも…  
「一夏!」「嫁」  
と部屋に戻ろうとした時、シャルとラウラに呼び止められた  
「どうしたんだ?二人とも。スーツ着てるってことはこれから二人で演習でもするのか?」  
「ハハッ、さすがにその元気はないかな」  
「私もやれないことはないが、それは遠慮させてもらおう」  
ん?じゃあなんでスーツなんか着てるんだ?  
「一夏がよかったらなんだけど、これからISの特訓しない?」  
 
「どう?設定はある程度は合わせてあるけど」  
「おう、戦闘機動までは無理だけど射撃特訓ってことならいけそうだ」  
今俺はラファール・リヴァイヴ・カスタムUに乗り込み簡易的な最適化を行っている  
 
「父にね、頼んで一夏に機体を貸し出していいか聞いてみたんだ」  
シャルの機体にはオールレンジに対応するため様々な武装が搭載できる  
実は今回の実験パーツの中にはデュノア社製の第二世代機用荷電粒子砲もあった。  
コレを打鉄にインストールすれば使用は可能なのだが、デュノア社からの許可が下りず実現は出来なかった  
「変わりに搭乗時の一夏のデータを渡すならいいって」  
「そっか…ありがとな」  
自分のために、少なくとも進んで関係を持ちたいとは思わない相手に頼みこんでくれた  
「ゴメンね、一夏をダシに使うみたいでこんな条件飲みたくなかったんだけど」  
「シャル」  
「ホントに一夏を研究対象としか見ていないんだよ、あの人は」  
それでも十分、この善意に応えるためなら俺の身体についてのデータくらい喜んで差し出すってもんだ  
「ありがとな」  
「…うん…」  
無骨なISの腕で頭をポンポンと軽く叩く  
この女尊男卑の世界で男に頭をなでられるなど言語道断と言われるかもしれないが、手を握れない以上、頭をなでるしか感謝の意も伝えられないから仕方ない  
でも確認くらいはしておかないとな  
「嫌か?」  
「う、ううん、嬉しいな///」  
しかし顔が真っ赤だ。やはり心の中では怒り心頭なのだろうか  
と心配したところで横から声が  
 
「おい嫁、私もなでろ」  
 
「ら、ラウラ!?」  
「おう、ラウラもありがとな」  
 
ラウラもシャルと同じように射撃訓練に機体の貸出を申し出てくれた  
ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンには荷電粒子砲こそ搭載されていないものの、肩口に付いた大型のレールガンは反動の少ない荷電粒子砲と同じような用法であり、自国ドイツに掛け合ってくれた  
今回はシャルの機体にインストールされている武装の方が雪羅のそれに近いということでラファール・リヴァイヴ・カスタムUを使用する。なので動体物への射撃訓練、要するに的を買って出てくれている  
 
「それじゃあ始めようか」  
 
まずは静止状態からの静止物への射撃訓練  
「アサルトライフルと違って反動はないからロックオンサイトを的の中央に持っていって。BT兵器だから反動制御よりも敵機へのAIMとBTの環境距離歪曲を打ちながら計算して精度を高めていくんだ」  
「ロックサイトを当ててるだけじゃダメなのか?」  
「ダメ、実弾兵器と違って空気中の湿度でも真っ直ぐ飛ばなくなるんだ。基本的には撃つほどISが修正していってくれるんだけど、無駄弾は少ない方がいいしね」  
何度か照準の修正をしつつ撃ち続けるがどうにも上手くあたらない  
「一夏、もう少し後ろ脚を広く、脇を閉めて」  
「お、おう」  
しかし自分でも、わかるほど、治せば治すほど不格好になってしまう  
「シャル、出来れば手直ししてくれないか?」  
「え?」  
「いや、前にアサルトライフルの練習をした時みたいに」  
「えぇ!?」  
分かり切っていたことだが、俺は説明されるよりも体に覚えさせた方が能率がいいらしい  
「前にシャルが手直ししてくれた時にはすぐに使えるようになったし同じように頼む」  
「う、うん…じゃ、じゃあ失礼します」  
おずおずと、手を伸ばして腫れものを触るようにシャルが俺の身体に触れる  
「えっと、こっちの脚をもっとこっちに」  
「っと、悪いISの上からだと分かりにくいな…ISの無いところを頼む」  
「え、ええぇー!?」  
何を驚いてるんだ?前はもっと密着してきたってのに  
「ああ、汗かいてるから嫌だったか」  
「そ、そんなことないよ!!むしろそれがというか…」  
と言ったまましばらくもじもじしていたが、やがて意を決したように  
「それじゃあ失礼して」  
俺の内モモに手を伸ばした  
 
 
 
(うわっ!うわわ!!一夏の太もも一夏の太もも!!)  
恋する乙女の脳内は爆発寸前であった  
実は自分のIS貸し出すというだけでもかなり勇気のいることだ  
普段は自分しか乗らない、乗せたことの無い機体  
それに自分の思い人が乗るとあれば恥ずかしくって嬉しくって  
あの人に頭を下げたことなど頭から吹き飛んでしまっている  
それに加えてその体に触りたい放題ときた  
(あっ、硬い…それに太いんだ)  
少し鼻をつく汗の臭い、初めて触る男の体  
(うわっ、腕もごつごつしてて…海でも見たけどやっぱり)  
たくましい  
女性と男性の体の違いがよくわかる  
(一緒にお風呂入ったときとか、着替えの時とか)  
脳内は一夏でいっぱい  
違う、一夏の裸でいっぱいだ  
恥ずかしい、恥ずかしいがこれはもう止められな  
 
「しゃ、シャルロットさん?」  
「えっ!?なにかな一夏?」  
「その、当たってるって!!」  
「へ?」  
と我に返ってみるとなんと大胆な  
 
「い、一夏のえっち…」  
 
 
 

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