「や〜っほ〜、おりむーいる〜? 布仏本音ただいま到着〜♪」  
 放課後。IS学園体育館の一角。体育倉庫とは名ばかりのガラクタ置き場に、布仏本音  
(のほとけほんね。通称・のほほんさん)は足を踏み入れた。織斑一夏と待ち合わせをし  
ていたからだ。  
 扉を閉めると、そこはほぼ真っ暗闇。ほぼ、というのは窓から差し込む光が、室内のご  
く一部を照らしているからである。室内の照明は、誰かがスイッチを壊してしまって点灯  
しない。業者に修理依頼しようとしたが、スイッチひとつ交換するためだけに出張費用や  
工賃といった余計な金を払う必要はなかろう、ということで沙汰止みとなり現在に至って  
いる。  
 本音……もとい、のほほんさんと呼ぶことにしよう。そのほうが通りが良いことだし。  
 のほほんさんの呼びかけに応じるものはない。とにかく静かである。  
「う〜ん。まだ来てないのか〜……んしょ」  
 僅かな外界の光を頼りに、無造作に転がされたロールマットに腰掛けると、のほほんさ  
んはひとりニヤけた。  
「ここでおりむーと会うの何週間ぶりだろ……今日は何をしてくれるのかな〜、楽しみ楽  
しみ♪」  
 クラスメイトの箒やセシリア、2組の鈴といった並み居るライバルを押し退け、一夏の  
彼女の座を射止めたのは、全くもってダークホースののほほんさんだった。あまりに意外  
過ぎる結果だったため、逆にあっさり公認カップル誕生となってしまったのである。  
 閑話休題。一夏との密会の際、のほほんさんは必ず腕時計を外し、ポケットにしまう。  
どうせ最終下校時刻を知らせる校内放送が流れるのだから、それまでは時間を気にするこ  
となく心ゆくまで逢瀬を楽しみたい、というのがその理由だ。  
 そして、のほほんさんは今日も時計を外した。外しながら思った。  
(……いつもしてもらってばかりじゃ申し訳ないし、今日はあたしのおっぱいでおりむー  
を気持ち良くしてあげようかな〜)  
 この体育倉庫で一夏と繰り広げた痴態の数々が、のほほんさんの脳裏に蘇った。  
 いつ誰が来るか分からない場所ということもあり、基本的には声を殺しながらのセック  
スなのだが、これが得も言われぬ興奮と快感を呼び起こす。それが高じて、備品の姿見や  
倉庫の入口の前でもいたしていたりするわけだが、とりわけ窓際でのいわゆる立ちバック  
はお互いに「クセになりそうなので程々にしようね」と取り決めをしたほどだ。  
(おりむーって変なところでイジメっ子なんだもん。「どこがいいのかちゃんと言わない  
と窓開けちゃうよ?」とか……それで感じちゃうあたしもあたしだけどね〜、てひひ)  
 知らず知らず頬が熱くなる。のほほんさんは小さく舌を出し、軽く自分の頭を叩いた。  
 
 不意に扉が開き、聞き覚えのある声がのほほんさんを呼んだ。  
 のほほんさんは満面の笑みで、いつもどおりののんびり口調で呼びかけに応えた。  
 
「うわ〜い。おりむー、いらっしゃ〜い♪」  
 
〜おわり〜  
 
 
 

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