「本当にいいのか、箒?」  
息をしながら、彼は私を気遣うように言う。  
その気遣いに今の私はむっとなる。  
「やめたければ、そうすればいい。お前の自由だぞ。だが、それで収まりがつくというのか?」  
つい意地悪なことを口にしてしまう。  
「いや、お前の気持ちも大事じゃないかな、と思って」  
一夏は困惑気味に言う。  
私は彼を軽くにらみながら言った。  
「私がいいと言っているのだからいいのだ。……それに」  
言葉から強い語気がそこでなくなってしまう。  
「わ、私以外にお前を受け止められる者がいると言うのか……?」  
「何?今、何て言ったんだ?」  
「な、なんでもないわ!」  
げふん、げふんと咳をする。  
「とにかく、私は構わんのだ。お前がやりたいのなら、好きにするがいい」  
「じゃ、早速」  
言って、一夏は私のスーツを脱がしにかかる。  
「ま、待て!」  
私は慌てた声を出してしまう。  
「何だよ」  
一夏は非難の目を向けてきた。  
好きにしていいって言っただろ、と訴えているようだった。  
「その、だな……。私にも心の準備というものがある……」  
「そうか。じゃあ、さとさと済ませてくれ」  
「なっ……」  
あっさり言われて私はうろたえる。  
なんだかもう、すっかり彼のペースだ。  
今更ながら、大胆にも彼に迫ったことを冒険だった、と頭で反省する。  
だが、後悔はない。  
私が心を落ち着けている間に、一夏は自分のスーツを脱いだ。  
いきなり全裸になったのではなく、まず上半身の部分をだ。  
男は気軽に自分の体を晒せて便利なものだな、と思いつつ、彼の体を眺める。  
中学は帰宅部で、鍛練を怠っていたと言うが、あらわれたのは、たくましく思える筋肉質な体だ。  
成長とともに、男はがっしりした体つきになるという。  
反対に女は丸みを帯びた体に。  
訓練の後なので、その体には汗がまとわりつき、濡れ光っていた。  
ISスーツの吸着力がいいからといって全ての汗を吸収できるわけではないのだ。  
さらに、地肌から直接漂う汗のにおいは、先程とは比べものにならない濃密さだった。  
男の、におい。  
彼の体を眺めつづけていると、ぼわっと、気恥ずかしさがこみあげてきた。  
 
これから彼とことに及ぶ、ということが急に思い起こされてきたのだ。  
本当に大丈夫なのだろうか?  
「箒」  
急に影に包まれたと思ったら、一夏の顔が目の前にあった。  
彼が私に覆いかぶさってきたのだ。  
「な、何だ」  
あわてていた私の返事はどもってしまう。  
「もう準備できたか?」  
私をのぞきこむその目は情欲の炎に燃えているように見えた。  
私のことを気遣いつつも、しっかりと欲情しているのだ。  
そのことを普段なら嬉しく思うが、今の心境と相まって、私は複雑な気持ちだった。  
不意に、彼の体から汗がしたたり落ちてきた。  
ベッドに仰向けけになっている私に、覆いかぶさるように彼が私の顔をのぞきこんできたのだから、起り得る物理現象だった。  
彼の汗は、私の剥き出しの腕の部分にあたって、滴を弾けさせる。私はそれを強烈に意識していた。  
「箒?」  
返事をしない私を不審に思ったのだろう、彼が再度声をかけてきた。  
「ま、まだ駄目だっ!」  
私は顔を反らして答えた。  
彼の汗に気をとられてぼーっとしてしまったようだ。  
一夏は私の返事を聞くと、そうか、と残念そうに言って私から離れる。  
彼に対して申し訳なく思いながら、私は彼が離れた隙に、腕に落ちた彼の汗を指ですくい取ると、それを口に持っていった。  
彼の味が、口の中に広がる。  
それは決していい匂いのするものでも、美味なものでもなかった。  
どちらかと言えば、臭くて苦いものだ。  
だが、彼の体から出たもの、ということを意識すると、私は行為を止められなかった。  
ちゅぷ、ちゅぷと指に何度も舌を這わす。  
彼の、臭くて苦い味をするものが私の口を犯す。  
ふと、淫らな想像をしている自分に気付く。  
 
私は、彼の欲望の全てを受け止めるつもりだ。  
だが、彼ははしたない私を受け止めてくれるだろうか?  
行為を続けながらそんなことを考えていると、ベッドが弾んで一人ぶんの重力が消えたのに気付いた。  
彼が座っていたベッドから立ち上がったのだ。  
「一夏?どうした?」  
私は口から指を引き抜いて声をかけた。  
彼は私に背を向けて座っていたために、私の行為は見えなかったようだ。  
「俺、シャワーに入ってこようかな」  
「何?どうしてだ?」  
自分で思っているより動揺した声が出た。  
「いや、やっぱ汗かいてて汚いし、お前も決心が固まらないようだし……」  
言いながら風呂場に向かおうとする一夏を私は追い掛け、後ろから抱き止めていた。  
「箒?」  
「こ、このままでいい。汚くなんてないから」  
「でも、お前まだ……」  
「いや、大丈夫だ。しよう」  
そう、決心ならできていた。  
ローソクに火が灯るように、彼の汗の滴が私の内側を潤わせていた。  
「そうか、なら」と言いながら私と対面しようとする彼を、ベッドへと押し倒した。  
「ちょ、箒?」  
困惑している彼に私は告げる。  
「今度は私の番だぞ。私にもお前を味あわせろ」  
私は彼に覆いかぶさった。  
 
私は戸惑っている一夏にキスをして黙らせる。  
舌を差し込んで唾液を送り込む。  
一連の動作を目をつむって行ったため、目を開けた時に出くわしたのは一夏の驚愕の表情だった。  
私がただされるがままになると思っていたのだろう。(マグロと言うらしい)  
その方が女としては慎ましくていいのかもしれない。  
だが、もう自分の気持ちを止めることなどできない。  
彼に犯されるだけでなく、彼を犯したい。  
彼にディープキスを続けながら、彼の汗にまみれた胸へと手を這わせる。  
彼の乳首を、中指と人差し指で挟んで、両方ともに刺激を送る。  
彼がうっと、うめいた気がした。  
私の口での奉仕に、その声はかき消される。  
そのまま、乳首をいじめ続けると、次第にかたくなってくるのがわかった。  
同時に呼吸が困難になってきたのか、彼は私から顔を離す。  
その際に、私の口から唾液が漏れて、彼の反らした顔の、頬のあたりに垂れた。  
「箒……、意外に積極的なんだな……」  
彼は息をしながら私を見つめ、その表情は若干引いているように見えた。  
「当然だ」  
言いながら私は体の位置をずらし、狙いを彼の首に定めると、汗に濡れた部位を舌で味わった。  
彼が今度こそうめき声をあげる。  
「お、お前を受け止められるのは、私だけなのだからな」  
「?」  
彼の首筋に浮いた汗を舐めながらしゃべったので、まともな言葉にならなかった。  
「ま、まだまだこんなものではないぞ?」  
私は顔を、彼の腕の付け根の辺りに持っていくと、彼に脇を開くように命じた。  
 
彼は、臭いはずの脇に鼻先を突っ込んで、においをかいだり、そこから生えた毛をためらいなく口に含んで味わう私に、やはり引きつつも、感じているようだった。  
その証拠に覆いかぶさっている私の下半身に押し付けられている彼の昂ぶりが、びくびくと隆起したからだ。  
その反応を私は微笑ましく思う。  
次は乳首をじかに味わおうと、体を移動させると、彼の乳首と私のものが触れ合って擦れた。  
彼の体に押し付けていた私の胸に、体をずらした時、彼の尖った乳首がめりこんだのだった。  
「はひゃっ!?」  
つい変な声を出してしまう。  
彼もうめいたのがわかった。  
だが、それよりも口元を震わせて何かに耐えている様子が気にくわなかった。  
「わ、笑ったな?そんなに今の私の声がおかしかったか?」  
私が指摘すると、彼は開き直ったのか、声を上げて笑いだす。  
私は真っ赤になる。  
元々顔は上気しているが。  
「いや、箒可愛い声出すなあ、と思って」  
「え?私の声、可愛かったのか?」  
「可愛いよ。箒がまさかこんなに綺麗になってるなんて」  
意外な言葉に、私の思考が停止していると、彼の腕が私の胸へと伸びてきて、わしづかんだ。  
さらに、揉みしだく。  
「胸もこんなに育ってるし」  
「うあっ!?」  
またも変な声が出てしまう。  
彼の強い力で持ち上げるように胸をつかまれた私は、体がのけぞって、覆いかぶさっていた状態から、上半身を起こして彼にまたがっているような姿勢になる。  
彼も体を起こしてきて、私の胸をこねくり回しながら、顔を寄せ、スーツ越しに浮いた乳首を見つけると、口に含んだ。  
「あああぁぁんっ!?」  
自分でもびっくりするような声が出た。  
彼はそれでも許してくれない。  
私の両方の乳首を、スーツ越しではあるがまんべんなく攻めて、わざとらしく音を立てる。  
 
スーツは極薄い素材でで出来ているので、直に舐められているのと、恐らく変わらない。  
快感が背筋を走って、私はじっとしていられない。  
「胸が敏感なんだな、箒は」  
「……一夏、駄目だ。今は私の番なんだぞ……」  
私の胸に吸い付いている彼の顔を手で抱えてやりながら、私はそんなことを言う。  
一夏は「わかってる」と言いながら、行為をやめようとはしなかかった。  
だが、大きく乳首を吸い上げて、私をあえがせると、ようやく胸を解放してくれた。  
「だ、駄目だと言っているのに……」  
私は上気した顔で言う。  
一夏は私の胸を名残惜しそうに見つめている。  
「箒の胸、美味しいからいつまでもしゃぶっていたいのに」  
「……な!?」  
今日の彼はどこかおかしい。  
素直というのか、やけに私を持ち上げるようなことばかり言う。  
私は調子が狂ってしまう。  
「それなら、後で好きにすればいい。だが今は私がお前に奉仕するのだ」  
「わかったよ」  
彼は肩をすくめる。  
「……箒、気持ち良かったか?」  
「……すごく」  
彼の不意の質問についつい答えてしまう私。ハッとして彼の顔を見るが、彼は笑ったりはしていなかった。  
「なら良かった」とただ優しく笑っている。  
「一夏、……お前は気持ち良かったのか?」  
自分に自信の持てない私の質問。  
声は弱々しくて、彼に届くのかさえ、確信が持てない。  
彼は笑って頷いた。  
「ああ、気持ちいいよ、箒。もっとしてほしい」  
彼の言葉に、私は顔ををほころばせる。  
彼へ顔を近付けると、私はその頬に口付けをした。  
 
 

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