臨海学校で姉の千冬と同室になった一夏。山田先生の気遣いで姉弟ふたり水入らずにさせてもらって、
いつも家でやっているように、ベッドにごろんと寝転がった姉のうえにまたがって、その身体をマッサージする。
「千冬姉の今日の水着姿、すっげェカッコ良かったぜ」
「…そうか」
「なんかさ〜、週刊誌のグラビアに載ってるAV女優みたいでさあー …あいてててっ!!」
「教師に向かって何てことを言うんだ」
「生徒のチンコつねる教師がどこにいんだよっ!」
「ここにいるさ」
でも正直、一夏の口から身体のことを褒められるのは嬉しかった。
今度の合宿で、学園の女子生徒たちの若さはつらつとした水着姿を見ていると、いやでも自分の年齢をひしひしと感じざるをえなかったし、
その若い娘たちに囲まれている一夏を見ていると、こいつだけは誰にも渡したくないという、嫉妬のような自分でもよくわからない
感情に胸をぐいっと締めつけられるような気がした。
「そうか… よかった、そうやってお前のような若い男子からオンナとして見てもらえるのなら、私もまだまだかな」
「な〜に言ってんだよ千冬姉、めちゃめちゃイケテるって」
訓練で鍛えているせいか、引き締まってスタイル抜群の身体。筋肉質でありながらすらっとした長い脚。
うつ伏せになっているせいで、大きなおっぱいが少し横に広がって、身体が揺さぶられるごとにぼよんぼよんと揺れまくっている。
弾力のあるその丸い隆起を見るとはなしに見ながら、一夏は訊いた。
「千冬姉って… 彼氏とかいないの?」
「いきなり何を言ってる」
「だってさ、こんなにイイ女なのにもったいない」
「まあわたしも女だし、男を抱きたいと思うときだってある」
「男に抱かれたい、じゃなくって、男を抱きたい、なんだ…」
「あまり大声で言えることではないがな。ISのせいで女尊男卑になったとはいえ、まだまだ社会はそこまで許容してはくれん」
女だって欲情する、と千冬は思った。そう、時として10歳近くも若い年下の男の子に欲情してしまったりするのだ。
「寂しくないの?」
「お前がいるだろ、一夏」
「お、俺でよかったら、その、いつでも… つうか毎晩でも」
さっきから自分の背中に押しつけられている、弟のブリーフのしたですっかり熱く硬くなった勢いに千冬は気付いていた。
十六歳になったばかり弟の、まだ女を知らないであろう若い盛りのそのみなぎりが、彼女は愛おしくてたまらなかった。
「悪い弟だな、姉に乗っかってこんなになるなんて」
「そっちこそ乳丸だしにしてんだしさ、こうなるのも仕方ないよ」
「篠ノ之やオルコットのような若いおっぱい娘に囲まれてるくせに、こんなオバサンのが見たいのか? …ならば見せてやろう」
そう言って千冬はくるりと身体を回し、その神々しいまでの裸身を惜しげもなく弟の前に晒した。
大きなおっぱいは、あお向けになって少しひしゃげるようになりながらも、だらしなく横に垂れたりせずに、その丸くきれいな
かたちを保っている。
悩ましくくびれた腰。その下で腹筋がくいっくいっとすべるように動くのが見える。
まるで敏捷な肉食動物のようにひとかけらのぜい肉もない、しなやかで官能的なその肢体は、美しさの中にもおそるべき獰猛さを秘めていた。
実の姉の素性をくわしく知らない一夏であったが、目の前にしたその裸体はさながら、幾多の実戦をくぐり抜けてきた誇り高い戦士のようだった。
この人はいったい何者なんだろう、と一夏は思う。
「なんか… 戦いの女神って感じだ、千冬姉」一夏はつぶやくように言った。
「そうかもしれんな」千冬は独り言のように言った。
日頃からいろいろとオープン過ぎる姉弟関係にあっても、千冬には弟にずっと秘密にしていることがいくつかあった。
あの運命の日 …日本上空を鬼神のように駆け抜けた、たったひとりのエアランドバトルの記憶がふとよみがえる。
千冬はまばたきをして、その鮮烈なイメージを脳裏から追い払った。
そのようすを、一夏は探るようにじっと見ていた。その目はまるで、姉の背負っているものを自分でも分かち合いたいと言っているかのようだった。