「……この辺りでしょうか」
成都から一時間ほどかかる、ある山中。そこに趙雲子龍は居た。
戦友である関羽雲長が、許昌に連れ攫われてから十日ほど経ったある日、当の関羽から
手紙が届いた。誰にも知らせず、今日この場へ来てくれと。
(本当に誰にも言わず来たのは軽率だったかしら)
もとより真偽のはっきりしない話を、関羽を失い動揺している君主劉備に知らせるつもりは
なかったが、孔明には言付けていった方が良かったかもしれない。
だが手紙の送り主が本当に関羽だった場合、誰にも知らせていけないと指定した意図が
読めないうちはそれに逆らうのも危険である。
結局、趙雲は自分の武力を信じて手紙に身を任せた。どんな罠であろうと自分一人の身なら
なんとかする自信はあったし、事実それだけの実力を彼女は持ち合わせていた。
辺りには木々が茂り、草と土の匂いに包まれている。
その中で、趙雲は背後に人の気配が現れるのを感じた。殺気ではない。だが力強く、
慣れ親しんだ気配。
「関羽さん」
手紙は本物だったか――そう思いながら、背後を振り向いた趙雲は、そこに居る人間の姿を
認め、微笑みかけようとして、そのまま絶句した。
「――な」
そこに居たのは確かに関羽だった。
だが違う。趙雲の知る関羽とは、間違いなく違う。
元々薄着で、戦いのたびに際どい姿を晒す女性だった。だがそれは単に動きやすさを気にした
だけのはずだったし、自分の魅力に無頓着なだけのはずだった。
彼女はそのような、あからさまに胸元を強調するよう切り開かれた制服は着なかった。
男に見せる以外に価値のない、紐のような下着は身につけなかった。
何よりも、全身に漂わせる妖艶な雰囲気は、以前の彼女からは一度も感じたことがなかった。
その関羽の姿に目を奪われた趙雲が、冷静さを取り戻し動き出すまで一秒。
だがその一秒は、致命的な隙だった。
「!」
くらり、と身体が揺れる。
(痺れる……毒? 香?)
自問するが、わかるわけもない。わかるのは、自分がまんまと罠にはまったということだけだ。
「迂闊だったな。風下に立つとは」
すぐ近くから関羽の声が聞こえる。
彼女に殴打された――趙雲はそれをゆっくりと理解しながら、闇の中に落ちた。
気分が悪い。
目が覚めた趙雲の、まず思ったことはそれだった。
まだ香の効果が残っているのかは知らないが、とにかく冷静に現状を把握せねばならない。
(ここはどこかの部屋のベッドの上。両手と両足は……縛られてますね)
目の前に、電灯がある。後ろには、やわらかいベッドの感触。そして手足に感じる金属の冷たさ。
趙雲は、ベッドの四方に鎖で縛られ、ちょうどXの字のような体勢で寝かされていた。
捕らえられた。
そう自覚した瞬間、頭が冷え、周りの様子がはっきり見える。
視覚の隅でうごめいていた何か。肌色のかたまり。男と女。
(っ!)
それが何なのかを完全に認識した瞬間、またも趙雲は絶句した。
彼女の敵である覇王曹操。そしてその股間にむしゃぶりつく、関羽の姿だった。
「お。起きたか」
曹操が言う。関羽は奉仕をやめず、目だけでこちらを見てくる。
紅潮した顔。涎のすじが垂れる唇。とろんと欲情した目。
それは趙雲にとって、見知らぬ誰かにしか見えなかった。
「……曹操。これはどういうことですか」
動揺を見せずに、趙雲が凄む。
わざわざ曹操に聞かずとも、現状の想像はできた。自分は恐らく許昌に攫われ、そしてこれからこの
ベッドの上で、女として後悔するような目に遭うのだろう。
それはいい。下手をすれば命を失う戦いの中に身を置いた時点で、あらゆる覚悟は済ませた。
だが解せないのは、関羽の様子だった。
趙雲は性行為の経験がない。独りで慰めたことはあるが、男と女の情事については噂を聞くのみだ。
それ故に自信がなかったが、関羽の態度はどう見ても、男に溺れた女のそれであった。
関羽が玄徳への気持ちを忘れ、曹操に降るはずがない。ならば関羽をあそこまで貶めた「何か」があるのだ。
それが薬なのか催眠術なのか趙雲には想像もつかなかったが、その正体を見極め、関羽を連れ戻すまで
自分が諦めてはならないと肝に銘じた。
「……曹操、もう一度聞きます。関羽さんをどうしました」
繰り返し問う。
だが曹操は答えず、関羽に話しかけた。
「関羽。そろそろ出るぞ」
心得た、とばかりに関羽は頷き、曹操の逸物を舐め吸っていた唇を離す。そして身体をやや右にずらし、
今までしゃぶっていたそれを手でしごき始めた。
曹操と関羽は、趙雲の目から見てちょうど左側にいた。曹操との間にいた関羽が身体をずらしたということは、
曹操の逸物が真っ直ぐ趙雲を向いているということで、曹操はもうすぐ何かが出ると言って――
(なに、を)
そこまで考えて、一瞬の空白の後に趙雲は思い至った。
男性器から出るモノが何なのかくらいは趙雲も知っている。その男性器は自分の顔をまっすぐ指していた。
「や、やめなさ――」
遅かった。
身体を震わせた曹操の先端から、すさまじい量の白濁が飛び出し、趙雲に向かって飛び散る。
とっさに目を固く閉じた趙雲の顔に、粘ついた液体が容赦なく降り注いだ。
「ふぐっ、げふっ、はっ、っ!」
人間の出す量とは思えないその精液は、趙雲の髪を、口を、喉を、胸元を、すべて塗り尽くすかのごとく
汚していく。口に入った得体の知れないそれを、必死ではき出す。
(や、熱い……臭い……っ!)
顔面を燃やし尽くされるかのような感覚に、意識が朦朧とする。
ようやく長い射精が終わった頃には、趙雲の胸から上は余すところ無く精液まみれになっていた。
何をされたのか理解できず、荒い息をつくしかない趙雲に、曹操は笑いかける。
「どうだ、美味いか? そのうち癖になるぞ」
「噛みちぎります」
静寂。
呆気に取られたような顔の男と、視線で人を殺せそうな顔の女。
「私にその汚いモノを咥えさせようものなら、噛みちぎると言ったんです。噂に聞こえた曹操孟徳が、このような
下衆だとは思いませんでした。私の身体を求めるのなら結構、その時はご自分の命と引き換えと知りなさい」
普段は静かに閉じられたその目で、目の前の男を射殺さんばかりに睨み付ける。
趙雲は淑やかで冷静な女ではあるが、内に秘めた激情も持ち合わせている。
戦士として、女性としての誇りにかけて、この男に屈するわけにはいかなかった。
にい、と曹操が凄惨な笑みを浮かべる。
この一筋縄ではいかない獲物に興味をそそられたらしい。いかにしてこいつを美味しくいただいてやるか……
そのためにまず、下ごしらえを任せることにした。
「関羽。こいつをほぐしておけ。全身余すところなくだ」
後ろに従う、かつての獲物に向かって言う。
「ただし俺が帰ってくるまで絶対に満足させるな。それと、下には手を出すなよ」
「……わかった。その、孟徳……」
了解しつつも、口ごもる関羽。その顔を一瞬見て、曹操は笑う。
「なんだ、それでさっきから口数が少なかったのか? 心配しなくても、何人奴隷が増えたところで俺の奴隷一号は
お前だよ、関羽」
言いながら、肩を抱き寄せ頬に口づける。
その瞬間、押し黙っていた関羽が花のように顔を綻ばせた。それを確認して、曹操は部屋を出て行った。
(今の、顔……)
今日は関羽の知らない顔ばかり見てきた趙雲だが、今の表情には見覚えがあった。
普段はクールな表情を保ちつつも、主君玄徳と触れ合うときだけ、関羽はその表情になるときがある。
恋する乙女の顔だった。
(どうして曹操にそんな顔を……?)
関羽は曹操に洗脳か何かをされ、心ならずも彼に付き従っているはずではなかったのか。
これではまるで――心から彼に服従しているようではないか。
「関羽さん……! 一体何があったのですか。どうして曹操と――」
恋人のようにじゃれあっているんですか。
終わりまで言うのをためらい、口ごもる。
関羽はベッドに横たわる趙雲に上からのしかかりながら、答えた。
「見ての通りだ。今の私は許昌に仕える戦士で、彼に仕える雌奴隷。昔の私は、もういないんだ」
信じられない、信じたくないことをさらりと言われ、感情的に言い返す。
「貴方は……っ、何を言ってるんです! 玄徳への忠誠を忘れたとでも言うのですか!」
「忘れてなどいない!」
思いの外、強い反応だった。
趙雲は安堵する。玄徳の名に反応するのなら、彼女を説得して連れ戻すことも――
「でも……孟徳も愛してる。もう、離れられないんだ」
だが、続く言葉に唖然とする。これが武神と呼ばれた、関羽雲長の言葉か。
「だからお願いした。玄徳も、お前も、みんなも……私と同じにしてくれること。そうしたらすべて丸く収まる。
愛する玄徳と一緒に、愛する孟徳に奉仕して生きていける」
陶酔するような顔で囁かれる。
だが関羽の目は真剣で、趙雲の最後の希望であった、関羽が嫌々曹操に従っているという線が消えてしまった。
彼女は本当に、自分の意志で、曹操の物になったのだ。
「その一人目がお前だ。今は彼に従うなんて想像もできないだろう――けどじきにそうなる。彼に抱かれることに
逆らえなくなる。私が、そうだったように」
胸に、不安がよぎった。
関羽は強い女性だった。身体も、心も。
その彼女をこうまで貶める行為を自分が受けたら、最後まで平気な顔をしていられるのか? 彼女のように服従
してしまうのではないか?
その思いを否定する。大丈夫、自分は強い。強姦などで心を折られるような弱い女ではない。
――――なら、何故関羽は堕ちたのだ。
そんな逡巡に捕らわれている趙雲の顔に、関羽は唇を寄せる。
「っ! な、なにを――!?」
「はあっ……孟徳の、精液――」
そのままぺろり、と曹操の吐き出した精液を舐め取る。
顔についたものから、乱れていない服の胸元に染みこんだものまですべて吸い取る勢いで、趙雲に舌を這わせる。
「や、やめ――」
抵抗する間もなく。
関羽は精液をたっぷり含んだ口を、趙雲の口と重ね合わせた。
「んぶっ!?」
ファーストキスだった。
趙雲は心から玄徳を敬愛し、忠誠を誓っているが、関羽のようにレズとして愛しているわけではない。
いつか心にときめく男性が現れたのなら、その男に純潔を捧げよう――そんなことも夢見る、普通の女子高生でもあった。
その夢は、鎖で拘束され、精液の匂いにまみれた同性とのキスで儚く散った。
口内を憎い男の匂いで満たされ、掻き回される
一緒に脳みそまで舐め尽くされている気分で、意識が遠くなった。
たっぷり一分は続いた口づけをやめた関羽は、朦朧とする趙雲をよそに、彼女の上着のボタンを外す。
趙雲が気づいた時には、一糸乱れぬ姿から胸だけを露出した姿になっていた。
「乳首が硬くなってるな。期待しているのか?」
「っ!」
自覚していたことを指摘され、趙雲の頬が赤く染まる。
けして感じたわけではない。ないが、雄の匂いに包まれ、身体の隅々まで汚された未来の自分を想像した瞬間、
この胸の先のつぼみは主人の意志に反して自己を主張したのだ。
(これでは……私が、犯されることを期待する痴女のようではないですか――!)
意志で制御できぬ自分の未熟な身体に憤る。
「どうやら、痺れ薬に混ぜた媚薬が効いてるようだな……たいした効き目だ」
「なっ」
捕らえられたあの時に嗅がされた薬。その中にそんな卑劣な物が混ざられていたと聞き、愕然とする。
同時に不安もよぎった。薬で強制的に発情させられては、どこまで耐えきることができるのか――?
「孟徳の言いつけだからな、下は触らない。けど他はすべて、私の指と唇で溶かしてやる。孟徳のものを受け入れ
られるよう、ゆっくりと柔らかくしてやるぞ」
言いながら、趙雲の両胸をもみ上げ、先端で震える乳首を口に含む。
「ッ――――!」
胸に走る電気に、おとがいをそらす趙雲。
(耐えなさい、耐えなさい私の身体……!)
彼女への真綿で締めるような拷問は、実に二時間続いた。